第三十六話 強制的に初めての冒険へ
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半日ほど進んだ先、朝の陽ざしがあたりを照らし始めるころに、荷車は進行を止めて、森の中で停車した。
「全員降りろ。ここからは徒歩で移動する」
黒仮面の少女のお付きの者の中で一番偉そうな男が声を張り上げていた。俺たち奴隷は言われたとおりに荷車からぞろぞろと降りていく。
森の中の少し開けた場所らしく、ちょっとした広場のようになっていた。途中から寝てしまったのでよくわからないが、もう帝都からは抜け出せたようだった。
「ここはどこなんだ?」
「さて、時間的には帝都から少し離れた郊外のどこかだろうとは思うけどね」
俺はあたりを見ているうちにビスカを見つけたので、声を掛ける。
「……ビスカ」
「うわ!? って、先輩でしたか。驚かさないでくださいよ」
「別にそんなつもりはなかったんだが」
「なんかいつにも増して気配が薄いですね。……それが認識疎外の魔法の効果なんですか?」
ビスカが小声で尋ねてくる。俺は頷いた。
もう別に正体を隠す必要もないし、どうせもうすぐ認識疎外の魔法も解けるので、ビスカと話しても問題ないだろう。
「いったいどこに行くんでしょうね。護衛というくらいだから、危険な場所なんですかね」
「まあ、安全な道を行くのにわざわざ奴隷を引っ張り出してまで護衛に付けたりはしないだろうからな」
「ですよね……」
ビスカが不安そうな顔をしている。
集団牢に行ってヘンリクに相談した限りだと、どうも危険な感じがするといっていた。それは奴隷を解放するつもりのないグリンドル伯爵が、報酬として奴隷からの解放をにおわせていた点からも、相当危険が伴うことだと考えられる。それこそ、護衛に出した奴隷はどうせ死ぬんだから解放すると約束したところで問題ないという判断を下したように思えてならない。
だとしても。
どんなに危険なことが待ち受けていたとしても、俺はビスカやハイマンと共に生き残って、絶対に奴隷身分から抜け出してやる。
全員が荷車から降りたころを見計らって、屋敷で黒い仮面をしていた少女が現れる。そしてお付きの護衛兵の男が大声で、全体に注意を呼びかけた。
奴隷たちはその声に反応して一斉に大声を出した男へ注目する。
「これより我らが主より、今回の依頼内容について説明がある。傾注せよ」
そして男は隣に立つ黒い仮面の少女へと視線を向けた。
今回の護衛の対象となる少女は、全員の視線が集まったのを確認すると、黒い仮面を外す。露わになった素顔はどことなく高貴さを感じさせ、何より強い意志を感じさせる瞳が印象的だった。
「私はミスリク王国第一王女、エドナ・ミスリクである!」
凛々しい声で堂々と言い放たれた言葉に、奴隷たちは一瞬固まる。一様に驚きと困惑の色を浮かべていた。当然だ。いきなり目の前の少女が、亡国とはいえ、そこの王族であると名乗ったのだ。驚かないわけがない。
「私はこれより、祖国復権の力を得るため、帝国領内にある『塔』を攻略する。其方ら奴隷たちは私が『塔』の頂上へ到達するまでの護衛をいたせ」
続く王女殿下の言葉に、奴隷たちの驚きは一層高まった。
『塔』を攻略するって言ったのか。確か『塔』っていうのはこの世界を支える結界を維持していて、攻略してはいけないんじゃなかったのか? しかも外には精霊騎士団がいて、中には強力な魔物もいる最悪に危険な場所だったはずだ。
「これは……想定外のマズさだね。僕らはそろって死ぬかもしれない」
「……でも確か三人くらい攻略したんじゃなかったか?」
「まあ、攻略した人もいるにはいるさ。四十年前に一人。そして二十年前に現ロムルス帝国皇帝のアルベルト一世、で、十五年前に現ランス王国国王のアサカ王がね。でも挑戦した人数ははっきりした数字は不明だけど一万人以上いるらしい。それでも攻略できたのは、そのうちのたった三人だけなんだ」
三人も攻略しているならと思ったが、どうやら分母がかなりでかいらしい。しかも攻略している奴が一人を除いて大国の王って……これは、相当な難度なのではなかろうか。
どうしたものかと思っていると奴隷の一人が、集団の中から歩み出て、エドナ王女に近づいていく。護衛の者たちが警戒して剣に手をかける。それを見て歩み出た奴隷の男は立ち止まった。そして、王女に向かってしゃべりだす。
「亡国の王女だか何だか知らんが、『塔』に手を出すというのなら、俺は手を貸さない。世界を守っておられる精霊様の御力を己の欲のために欲するなど許されんぞ」
「その言い草は、貴様、精霊教徒だな。そうは言うがな、すでに精霊との契約者は三人もいる。そ奴らはおのれのために精霊の力を使っているが、精霊教徒どもはそれらを放置しているではないか。それでいて私が四人目になってはならぬというのは道理に合わぬぞ」
「すでに契約した者に手を下すのは、精霊様に手を出すも同じだから、手は出さないのだ。しかしこれから精霊様と勝手に契約しよう言う者がいるならば、それは異端者として断罪されるべきだ」
「詭弁だな。素直に契約者には勝てないから手を出したくても出せないといえばいいものを」
「なんだと」
「まあいい。貴様の意見など、どうでもいい。貴様ら奴隷は私が行けと言ったら進み、戦えと言ったら戦えばいいのだ。……ところで貴様の名は何だ? 精霊教の敬虔な信者よ」
「ガレーゲンだ。何度も言うが俺は『塔』攻略などには――」
「黙れ。……ガレーゲンか、これだな」
エドナ王女は奴隷の魔導誓約書の中から一枚取り出すと、躊躇なく破り捨てた。
「な……てめぇ――ごふっ」
魔導誓約書が破り捨てられた次の瞬間、ガレーゲンは血を吐いて倒れた。そして地面に転がって動かなくなる。
「おいハイマン。今のは……」
「おそらく魔導誓約書を破られたせいだろうね。死ぬとは聞いていたけど、あんなにあっさりと死んでしまうものなんだね」
抵抗する間もなくガレーゲンと名乗っていた剣闘奴隷は死んだ。本当にあっさりと。道端でアリを踏みつぶすような気軽さでエドナ王女に処分された。
「貴様ら奴隷は私の命令に従っていればいい。余計なことを言うものはそこの男のようになると知れ」
エドナ王女は手に持った奴隷の魔導誓約書を見せ付けるようにしてから、しまい込んだ。あれがエドナ王女に握られている限り、俺たち奴隷は命令に従わざるを得ない。もし逆らえばエドナ王女は容赦なく俺たちを処分するだろう。
「さあ行くぞ。皆の者、ついてまいれ」
エドナ王女が歩き始めると、護衛に付いていた者たちもそれに続く。そのうち数人は奴隷たちのそばに張り付いて監視しているようだった。
俺たち奴隷もその監視者たちに促されて、歩き出す。
「せっかく闘技場の外に出られたのに、いきなり大変な冒険をする羽目になりそうですね」
ビスカが苦笑交じりにそう言った。
「そうだな。また力を合わせて乗り切るしかないな」
「そうですね。頑張りましょう」
「なに、僕たち三人が力を合わせれば何とかなるさ」
前途に不安を覚えながらも、三人一緒だという微かな安心感に身を委ね、俺は自分探しをするために避けては通れない冒険への第一歩を踏み出した。
次話は明後日投稿予定です!




