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第三十三話 色物衣装専門店

第三十三話です。

よろしくお願いします!

 ハイマンに案内されてやってきた店は、中央区の大通りからは外れて、脇道を歩いていった先にあった。小ぶりな店舗で、外からは一見何の変哲もないような雑貨屋という感じだったが、中に入るともはやそこには別世界が広がっていた。何というか、女性ものの、完全に色物じみた衣装が所狭しと並んでいるのだ。


「ここはいったい何なんだ……?」


 見たことのない衣装の数々に圧倒されて、何と言っていいかわからないが、とにかくここはいったい何なんだ。隣を見るとメルカも唖然とした様子で固まってしまっている。


「ここは言うなれば色物衣装の専門店さ。初めて闘技場の外に出た日に偶然見つけたんだ」

「そう、なのか」


 また俺は知らない世界へと一歩足を踏み入れてしまったらしい。


「でもなんでこんな店が存在するんだ? 衣装を楽しむなら普通に服飾店に行けばいいだろう」

「ダメだね。クロン、君は全然わかっていない。普通の服飾店では扱えないようなものがここにはあるんだよ。例えばこれなんか見てみるといい」


 そう言ってハイマンが手渡してきたのは給士服だった。


「これのどこが普通じゃないんだ?」

「広げてみたまえ」


 俺はハイマンに言われた通り、給士服を広げてみる。な、これは……!


「スカート丈が短い……だと」


 少しかがんだだけで下着が丸見えじゃないか。これでは給士どころではないぞ。以前クライフ伯爵の屋敷で見かけた使用人が着ていたものはスカート丈が膝下まであったが、これは極端に短かった。


「それだけではない。後ろをよく見てみたまえ」

「うしろ……?」


 給士服を反対にしてみると背中のあたりに蝶結びのリボンがついていた。


「これがどうかしたのか」

「引っ張ると衣装がはだける」

「は……?」

「ストン、と落ちるんだよ」

「それ、不良品じゃないのか?」

「……君にはこの素晴らしさがわからないらしいね」


 ハイマンは少々がっかりした様子だ。いったいどういう事だ。


「まあいいさ。とにかく、この中から誘惑に適したものを選ぼうじゃないか」

「そうだな。……メルカ、どれか着てみたいのとかあるか?」


 一応着ることになる本人の希望を聞いておかないとな。……って、あれ、メルカ?


「どうしたんだ?」

「……無理よ」

「え……?」

「一つもまともなものがないじゃない!」


 まあ確かに先ほどの給士服然り、動物を模した衣装や、果ては目の前にある局部を綿のようなモノで隠しただけのような露出度マックスな衣装など、とにかくまともなものが一つもない。


「私、この中から選ばないといけないの……?」

「いや、どうなんだろうな」


 ハイマンはここで何かを選ぶつもりらしいが、別にこんな色物に頼らなくても、メルカなら十分大丈夫だと思うんだが。


「さあ、メルカさん。これなんかどうだい? 僕的にはかなりおすすめなんだけど」


 そう言ってハイマンが持ってきたのは薄手の黒いキャミソールのようなものだった。それと羽織るようなものもついでに持っている。あれ、案外普通なのが出てきたな。


「……まあ、これならマシな方かしら」


 あまり気乗りしない様子だったが、メルカはハイマンから衣装を受け取る。そしてハイマンに促されて試着室へと入っていた。


「案外普通なものも置いてあるんだな」

「普通? 馬鹿を言っちゃあいけないよ。あれはねえ……まあ口で説明するのもあれだから実際に見た方がいいかな。いいかいクロン、メルカさんが出てきたら、彼女の身体の中で、気になる部分をじっと見つめてみるといい」


 ハイマンは何やら意味深なことを言ったきり、腕組みをしてメルカが試着室から出てくるのを待つ姿勢だ。

 すると、少ししてメルカが試着室から出てきた。丈が短かったため、白っぽい艶やかな太ももがほとんど丸出しで、少し目のやり場に困る装いだった。だが、上半身は上着で完全に隠れてしまっていて特にこれといった感想はない。それで、ハイマンが言っていたのはメルカの身体のうちで気になる部分を見ろってことだったか……?

 そんなことを思っているとハイマンがため息とともにメルカに注意した。


「メルカさん、上着は前を閉めちゃ駄目だよ?」

「え、でも下に着ているものが薄すぎるのだけれど……」

「それが狙いだよ。そのガードの薄さがそそるのさ」

「でも、これはさすがに……」

「何のために着替えたんだい? それじゃ意味ないよね?」

「う……そうね」


 ハイマンの強引な押しに屈して、メルカはためらいがちに上着のボタンを外し始めた。そして、すべて外されると上着の中に黒い薄手のキャミソールが見えた。割と小さめなのか、そういうデザインなのか胸の谷間が完全に見えてしまっている。これは完全に部屋着だろう。目のやり場に困る……。見ればハイマンもメルカの胸のあたりに視線がくぎ付けになっていた。


 そんな俺らの視線に気づいたメルカは恥ずかしそうに顔を紅潮させ、胸元を腕で隠す。


「メルカさん、前を隠したら駄目だよ?」

「だって、これ、胸のあたりが見えちゃう……」

「それが狙いだよ。そのいやらしさがそそるのさ」

「イヤよ。……は、恥ずかしい」

「ねぇ、何のために着替えたんだい? これ、何度言わせるのかな?」

「う……わかったから、あまり見ないで……クロンも、駄目よ」


 ハイマンの鬼気迫る勢いに抗えず、メルカはゆっくりと手を外していく。再び開帳されるメルカの胸の谷間。見るなと言われてもこればっかりは本能的に目が吸い寄せられてしまうのだ。スマン、メルカ。


 そして、メルカの胸のあたりを見ていると薄っすらと透けてくる。……ん、透けてくる?

 徐々に黒いキャミソールは薄くなっていき、次第にメルカの下着の輪郭が露わになってくる。キャミソールに合わせるような黒くてレースのついた下着が、徐々にはっきりと視界に映りこんできた。


「これは、どうなっているんだ?」

「フッ、どうだいクロン。驚いたかい? このキャミソール……いや、キャミソウルという商品はそういう仕様なんだ」


 そういう仕様って、まさか、凝視していると透けてくるとか、そういう事なのか。

 俺の考えを肯定するようにハイマンが力強く頷いてくる。

 いや、これはマズいだろう。バレたらメルカに殺されるんじゃ……。


 俺の懸念に対してハイマンは小声でささやく。


「バレる心配はない。大丈夫さ。だって、自分の姿をまじまじと見つめる機会なんて普通はないだろう?」

「まあ、そうかもしれないが……」


 ここって衣装屋だろ? だったら当然――。


「本当にこんなのでうまくいくのかしら」


 ――姿見のための鏡があるわけで。


「あ、しまった」


 ハイマンもそのことに気付いたが少しばかり遅かったようだ。メルカは店の衣装棚のそばに置いてあった鏡に自分の姿を映し出して、まじまじと観察していた。そして、数秒もしないうちに……。


「え、あれ、服が透けて……って、な、なによこれ――ッ!?」


 メルカが驚きと共に上着でバッと前を隠した。そして、おもむろにこちらへと向き直る。


「……ねえ。あなたたち、見たの?」

「えーと、それはだな」

「見たの?」

「僕としては何というか出来心だったわけだよ。あとは店の雰囲気というか」

「見たの?」

「「すみません、見ましたっ!!」」


 そして俺たちは、そろってメルカにぶん殴られて店を後にした。


次話は明日投稿予定です。

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