第三十二話 ハイマンの秘策
第三十二話です!
よろしくお願いします^^
グリンドル伯爵の屋敷で魔導誓約書に工作を施した翌日、俺は要人の護衛について詳しい話を聞くために、初めてビスカの部屋へと尋ねていった。内装は俺の部屋と変わらない、ベッドと机があるのみの簡素な部屋だった。そういえばビスカの手錠が外されていた。どうやら個室に入ったときに外してもらえたらしい。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「ちょっと護衛の件で聞きたいことがあってな」
屋敷への集合時間を知らないことには移動中に成り代わるという事ができないからな。それと改めてビスカに言っておかなければならないこともある。
「俺もその護衛団に参加する」
「え、でも先輩は呼ばれてないですよね?」
「ああ、だから紛れ込む。ハイマンも一緒だ」
「そんなこと、可能なんですか?」
ビスカは首をかしげる。俺はハイマンと考えた紛れ込む方法についてビスカに話した。魔導誓約書を偽装して、あとはフラドとオイタスに成り代わるだけで紛れ込むことができると説明した。
「だから俺たちが紛れ込んだときは、目的地に着くまでは誰にも気取られないように他人の振りをしてくれないか?」
「それは別に構いませんけど……あんまり無茶なことしないでくださいよ?」
「わかっている。大丈夫だ」
そして、ビスカに聞いたところ、護衛団に加わるものは明日の夕暮れ時に各自で屋敷まで赴くことになっているらしい。
あとはハイマンやメルカと話し合って、うまく待ち伏せしてこのタイミングで成り代わることができれば何とかなりそうだ。
そして三度目となる中央区食堂での作戦会議。
ちなみに金のない俺は食堂での食費をハイマンに借りている。返せる日が来るのかは不明だが。
食事を済ませると、俺はハイマンとメルカに屋敷へ集合する大体の時間を告げて、さっそく手はずを打ち合わせることとなった。
「道すがら、人気のないところに誘い込み、そこで成り代わるというのが一番手っ取り早い方法だと思うが」
「そうね。対象となる二人にはそこで眠ってもらって、クロンとハイマンさんに認識疎外の魔法をかけるという感じでいいかしら」
「ああ、それで大丈夫だ」
やるべきことはすぐに決まった。問題はどうやって対象の二人を人気のない場所まで誘い込むかだ。
「何かいい方法はないか?」
「それなら僕に考えがある」
「聞こう」
「ズバリ、色仕掛けだよ」
ハイマンは自信満々にそう言った。
「男が人気のないところに行くなんて、それはもう女性と愛を語らう以外にないだろうからね」
「いや、そうとは限らないと思うが」
別に用を足すときだって人気のないところには行くだろう。とはいえ、人気のないところに連れ込む手段としては悪くないかもしれない。女性に誘われれば、男ならついていってしまうことも十分に考えられる。俺の知っている限りのフラドなら……間違いなくついていくだろうな。
「まあ、案外いい考えかもしれない」
「そうだろうよ。ちなみにオイタスは少し話した限りかなりの女好きだった。僕とも話が合ったし、もし女性に誘われるような場面に出くわしたら間違いなくついていくと思う」
同じ女好きのハイマンが言うのなら間違いないな。
「じゃあ、人気のない場所に誘い出す方法についてはこれで行くか」
「……ちょっと待って」
決まりかけたところで、メルカが口を挟む。
「勝手に決めないで。そもそも二人を誘惑する役はいったい誰がやるのよ?」
「それは、メルカしかいないだろう」
「私は嫌よ。絶対やらない」
メルカは対象者を誘惑する役を拒否する。しかし、この作戦は女性でなければ実行することができない。男の俺たちが二人を誘惑したところで逆に気持ち悪がられて人の多いところに逃げてしまうだけだ。というかそんな気色悪いこと、俺はしたくない。
「頼む」
「嫌よ」
メルカは断固として拒否する姿勢だ。
ここまでかたくなに拒否されると、別の方法を考えなくてはいけなくなるが、他にどんな方法があるだろうか。そもそも人の多い通りで襲うわけにもいかないし、金で釣るにも俺の全財産はもう銀貨一枚しかない。やはり誘惑するのが一番確実で、現実的な方法なんだが。
「これが一番確実な方法だと思ったんだけどな」
「そんなのわからないわよ。その二人が誘惑に乗るとも限らないし」
「いや、乗るだろう」
「なんで言い切れるのよ?」
「そんなのメルカが魅力的な女性だからに決まっているだろう」
「え……ちょ、何言ってるのよ!?」
「正直メルカに誘惑されて靡かない男がいるとは思えない」
「な……ッ」
「だから、メルカに任せた方が一番確実だと思ったんだが……」
俺がじっと見つめるとメルカは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。これまでのやり取りから、どうもメルカは直接的な好感を示す言葉に弱いらしい気がする。あと、すぐ顔を赤くして照れるところがちょっと可愛い。
「やっぱり駄目か?」
「……仕方がないわね。やってもいいわ」
「本当か。助かる」
「でも、私、男の人を誘惑なんてしたことないから、どうすればいいかわからないのだけれど」
「そこは僕に任せてくれたまえ」
メルカが引き受けたとたん、俄然やる気を見せるハイマン。まあ、俺も誘惑なんてどうすればいいかわからないから、ハイマンに任せるしかないわけだが。
「まずは見た目からかな。僕がオススメのお店に案内するよ」
「え、服とか買う必要があるのか?」
「当たり前だろう。軍用の服で誘惑なんて……まあ、それもそれでアリだろうけど……相手に警戒されるだろう。もっとラフな感じで行かないと」
「そういうものなのか」
「そういうものなのさ」
ハイマンがさも当然というように力強く頷くものだから、納得しないわけにもいかないか。間違いなくこの手のことに関してはハイマンの方が知っているだろうし。
「というわけで、衣装屋に行くみたいなんだが」
「構わないわ。あなたたちに任せる」
「そうか」
メルカもここはハイマンの言う事に従うと決めたようだった。
俺たちはフラドとオイタスを誘惑するために、ハイマンのオススメの店とやらへ向かった。
次回の投稿は明後日の予定です。




