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第三話 いきなりの無理難題

第三話です。今回は予約掲載設定というやつで、投稿してみました(^^)/



 俺を買った肥満男の名は、カルタス・フォン・クライフと言った。この帝国の伯爵、ようは貴族様だったというわけだ。

 そして肥満男は男色家だった。

 俺と同じ時に連れてこられた、俺よりもイケメンな元ミスリク王国の兵士くんは初日、屋敷につくなり伯爵の私室へ連れられ、体中を味わいつくされ、掘られつくされて、悲惨なことになっていた。

 解放された後のイケメンくんは、魂の抜け落ちたような顔をして呆然自失状態だった。明日は我が身かと思うと尋常じゃない寒気が……。

 しかし、次の日になっても俺が呼ばれることはなかった。俺の前にやってきたのは男色伯爵ではなく、美人のお姉さんだった。


「初めまして奴隷さん。私はカルタス・フォン・クライフの娘、リスタ・フォン・クライフと申します」


 色っぽい香りを漂わせながら優雅に挨拶をしてきた。あの豚のような伯爵の娘とは思えないほどに美しい女性だった。ただ、俺を見る目が一瞬歪んだように見えたのだが、気のせいだろうか。

 

「あなたには今日から私の庭のお手入れをしていただきたいのだけれど、よろしいかしら?」

「ええ、かまいませんが……」

「ああ、お父様にはもうあなたの使用許可はいただいておりますの。お父様はあなたと一緒に連れてきていた玩具……いえ、少年がいれば満足だとおっしゃっていましたわ」

「ああ、そうですか」


 どうやら、貧乏くじを引かされたのはイケメン君の方だったらしい。まあ、イケメンだからそのくらい仕方ないよな。イケメンだし。

 イケメンが酷い目に遭っていても同情心が沸いてこないのは何故だろう。俺はイケメンに恨みでもあるのだろうか。記憶喪失のせいで、自分のことですらよくわからない。


「それではここの雑草を今日中に片づけてしまってくださいます?」


 連れてこられた先には、庭というには広すぎる土地が広がっていた。冗談抜きに東京ドームくらいはあるだろう。


「これを今日中にというのはちょっと……」

「できなければ、あなたには明日の朝、ここに咲き乱れる花たちの肥料になってもらいますわ」

「な……」

 

 明らかに無理難題である。

 どうやら貧乏くじを引かされたのは俺の方だったようだ。

 リスタはそれだけ言うと部屋に戻ってしまった。


 どうする?


 まだ昼前だが、今から全力でやっても半分も終わりそうにない。

 このままでは確実に明日の朝には、ここに咲き乱れる花々の肥やしにされてしまうだろう。

 

 いっそ逃げてしまうか?


 よく見ると出入り口には誰もいない。というか見張りもいない。むしろ逃げてくださいと言わんばかりの状況だった。逆に怪しい。逃げたら逃げたで、それを口実に何かされるのではないかという不安がよぎる。どう考えても脱走した奴隷はただでは済まないだろうし。


 となると助かる道は、有能なところを見せることで殺すのは惜しいと思わせることくらいか。

 そうと決まればやることは一つ。全力で雑草を抜く。ただひたすらに。


 今度は途中で記憶がとぶこともなく、夢中になって雑草を抜いていく。抜いて抜いて抜きまくって……気が付けば、陽が落ち始め、あたり一面真っ赤に染まっていた。

 腰が固まってしまったかと錯覚するくらい硬直しているのをゆっくりとほぐしながら立ち上がり、周囲を見渡す。

 全体の半分と少し。それが今日の限界だった。


「半分は超えたが、これだとインパクトが微妙だな。せめて三分の二は終わらせたかった」

「さすがにそれは無謀というものではないかしら」

「誰だ」


 不意に届いた声に反応して俺は振り返る。声の主はリスタとは違う、別の女だった。こちらも美人に違いないがリスタと比べると幼さを感じる。妹だろうか。


「私はメルカよ。私のこと、覚えて……ないわよね」

「知らないな。屋敷に連れてこられた直後に顔を合わせたりしてたか?」

「いいえ。私の気のせい。……あなたはお義父様が新しく連れてきた奴隷の一人よね。……名前は?」

「俺の名前……」

 

 そういえばなんだったか。

 自分の名前すら記憶にない。これは思っていた以上に重症かもしれない。


「わからない。戦場にいたあたりから記憶に障害が出ていてな」

「そうなの? ショックによる記憶障害の一種かしら。……まあそんなことはどうでもいいわ」


 俺にとってはどうでもよくないんだがな。


「あなたのことは何と呼べば?」

「必要ないだろう。どうせ明日の朝には庭の肥料になってるかもしれないしな」

「そう。じゃあ、また会えたら改めて尋ねるわ。その時までに考えておいて」


 その時が来ればいいけどな。

 話し終わった後も、メルカはじっとこちらを見つめてくる。その視線には何か意図があるのか。


「あなた、やっぱり全体的に薄いのね」

「何かと思えばただの悪口か」

「いえ、そんなつもりはないのだけど」


 薄いって何がだ。存在感とか印象とかそんな感じのことか。まあ、記憶喪失のせいでアイデンティティを失ってるから、他の人よりかは人間的に何となく薄っぺらになっているのかもしれないが。


「まあいいわ。そんなことより、なんで無駄だとわかっていてこんなことをしたの?」

「こんなことってのは、草むしりのことか?」

「そう」

「無駄だとはわかっていても他にやることがなかったからな。それにちょっとでも有能なところを見せれば、生かしてくれるかもしれないし」

「残念だけど義姉さんに限ってそれはないわ。今頃あなたをどういたぶって殺してやろうか考えながら、包丁でも研いでいるんじゃないかしら」

「なるほど、端から殺すのが目的か」


 どうやらすでに詰んでいたらしい。今回も失敗か。

 ……ん、今回も?

 俺は何を言っているんだ。


「どうするつもりなの?」

「ん、どうするって、何が?」

「何がって、殺されることが分かっていながら、その余裕は何か考えがあるんでしょう」

「別に」

「嘘よ」

「嘘じゃないって」

「信じられないわ」

「別に信じてもらわなくてもいいんだが」


 メルカはしばらく疑念に満ちた視線をぶつけてきていたが、不意に緊張を解くと俺に背を向ける。


「いいわ。話したくないというのなら、私がこの目で直に見届けてあげるわ」


 それだけ言い残すとメルカは庭の外へと歩いて行った。


 さて、これからどうするか。

 自分でも不思議に思うくらい、命の危機に対する焦燥感のようなものがない。いたって冷静だ。俺はこんなクールな性格だったのか。それとも記憶が無い所為でこんな精神状態になっていしまっているのだろうか。


 気づけば辺りは暗くなり始めていた。 

 その後も作業を進めてみたものの、結局夜中は暗すぎて、作業はたいして進めることができずに、いつしか眠ってしまっていた。



次話の投稿予定は2016年12月1日(木)です。

そういえば隔日投稿ということは決めていたけど、時間は決めていませんでした。最初のうちは0時投稿にしてみます。場合によっては、いずれ変更するかもしれません(/ω\)

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