表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/81

第二十九話 いざ、屋敷に潜入

第二十九話です。

ブクマ、評価してくださった方、ありがとうございます!(^^)!

とても励みになります!


「確かに定期的に搬入される荷車に忍び込んで屋敷に侵入するという案はよかったと思うわ。けれど、賛成したことをこれ以上ないくらいに後悔してる」

「スマン。まさかこんなことになるとは思わなかった」


 俺とハイマン、そしてメルカはグリンドル伯爵の屋敷へと搬入される食糧を積んだ荷車の中に忍び込んでいた。……たくさんの生肉と共に。


「臭い……」

「クロン、メルカさんが苦しそうな顔をしているぞ。何とかしたまえ」

「何とかしろったって、鼻をつまんでくれとしか言いようがない」


 俺たちは狭い荷車の中で生肉と身を寄せ合いながら、運ばれていた。


「仕方がない。気を紛らわせるためにも、今後の計画を確認しておこう」

「……そうね。賛成よ」


 俺はあらかじめハイマンと練っておいた作戦をメルカにも伝えた。といっても至極単純な作戦である。到着したら隙を見て荷車から抜け出して、陽が落ちるまで庭、あるいは屋敷内に潜伏。夜になってから闇に乗じて屋敷に侵入し、魔導契約書を見つけて偽装を施す。以上だ。


「ちなみに見つかってしまった場合はどうするんだね? 逃げるのかい?」

「それはまあ、そうなるだろうな」


 戦おうにも剣闘奴隷は当然のことながら武器の持ち出しは禁止なので、俺もハイマンも丸腰だ。戦いようがない。


「短剣くらいならあるけれど、使う?」


 メルカは懐から短剣を取り出して渡してきた。刃渡りは15センチほど。頼りないが、ないよりはましだろう。俺とハイマンは頷き、それぞれメルカから短剣を受け取った。


「もし捕縛されそうになったら、それで自害してちょうだい」

「え……?」

「だって、あなたたちが私のことをしゃべったら、私が厳罰を受けることはもとより、クライフ家に迷惑がかかるじゃない」

「まあ、それはそうだが……」


 てっきり戦うために渡してくれたのかと思いきや、自害用だったとは。というかメルカってこんなやつだったっけ。


「……真に受けないで、冗談よ」

「え、ああ、そうか。冗談か」


 真顔で言うもんだから、本気なのかと思ってしまった。というか冗談とか言うやつだったんだな。知らなかった。


「私があなたたちのことは責任をもって守るわ」

「いやいや、レディを守るのは騎士の務め。騎士たる僕の務めさ。いざというときは僕がメルカさんの盾になってみせるさ」

「結構よ。その時は逃げることに専念して。あなたたちは捕まったらその場でおそらく首を落とされるから」


 俺たちは奴隷で、これから主人の屋敷に忍び込もうとしている。見つかれば処刑されるのは当然だ。

 もちろんただで殺されるつもりはない、そう簡単に捕まってしまうつもりもないが。


「そういえばクロン。闘技場での君の剣技、あれは見事だったね。君はランス王国出身なのかい?」

「いや、そんな国、聞いたことすらないな」

「いやいや、聞いたことないのはさすがにおかしいと思うんだけどね……」

「ランス王国はアルカトラス三大国家の一つで西の大国。ちなみに三大国家の残り一つは南のエール連合国よ。常識だから覚えておいた方がいいわ」

「そうか」


 エール連合国っていうのは、そういえばビスカが行ってみたいといっていたタスニタ人の定住する国があるところだな。しかし、ランス王国なんていうのは今まで一切聞いたことがない。


「なんで俺がランス王国の出身だと思ったんだ?」

「それは君が使っていた剣術が、大陸でも名高いランス王国の黒星騎士団が使っている剣術に似ていたからさ」

「あの剣を逆手に持つやつがか?」

「そうそう。もっとも僕もあまり詳しくはないから、実際のところはわからないんだけどね。まあ君がランス王国の人間でないのなら、違うのかもしれないね」


 ハイマンは勘違いだったとしてそれ以上俺のことは聞かなかったが、俺にとってこれは考慮するに値する内容だ。あの逆手持ちの剣技は、記憶の一端を垣間見た後、自然と体が動いて使ったにすぎない。つまり、記憶を失う前の自分が使っていたであろう剣技なのだ。それがランス王国のものだというのなら、俺が記憶を取り戻すカギは、ランス王国にもあるという事になる。また行くべき場所が増えた。


 適当な話をしているとついに荷車はグリンドル伯爵の屋敷に到着した。外から聞こえてきた声によると、いったん食糧庫へと運び、そこで荷卸しをするらしい。


「どうするんだい? このままここにいては荷卸しの際に見つかってしまうよ?」

「食糧庫に着いたら、隙を見て抜け出そう」

「隙なんてあるのかしら……?」

「なければそこで詰むな」

「……あることを祈りましょう」


 そんな俺たちの祈りが通じたのかは不明だが、食糧庫に着いてすぐ、抜け出すチャンスは巡ってきた。人夫は少し離れたところで休憩に入り、荷車を率いてきた男は屋敷の人間を呼ぶためにこの場を離れていった。


「今なら人夫も片側によっているから、反対側に出れば見つからずに何とか抜け出せそうだ」

「よし、なら今すぐ脱出してしまおうじゃないか」


 俺たちは休憩中の人夫に見つからないようにこっそりと荷車から外に出た。あたりにはたくさんの食料などが積まれていたので、その陰に隠れながら荷車から距離を取る。


「どうやら無事潜入することができたみたいね。これからどうするの?」

「予定通りこのまま夜まで潜伏しておきたいところだが……屋敷の人間を呼びに行ったってことはこの食糧庫の中にはさらに人が増えるという事になる」

「そうなれば見つかってしまう可能性も高いわね。それに今はこんなに食料があるから見つかり辛いかもしれないけれど、もしかしたらここの食料、今日使うものかもしれないわ」

「ん、どういうことだ?」

「ここにあるものはどれも鮮度が長く持たないものばかり。しかも今日運び込まれた生肉はかなり高級な肉だったわ。それをこのままこの食糧庫で放置しておくとは考えられない。となれば……今日この屋敷で、晩餐会か何かが開かれる可能性が高いわね」

「じゃあ、ここの食材は……?」

「ほとんど今日消費されてしまうでしょうね」

「となるとここに隠れているのはマズいな」


 今身を隠している食料の山も無くなってしまうことになる。そうなったら確実に見つかってしまうだろう。


「よし、今のうちに食糧庫から脱出しよう」


 俺たちは男が屋敷の人間を連れてくる前に、食糧庫を抜け出した。すると、すぐそばには屋敷の中へと続く裏口があった。


「屋敷の中に入って隠れておくか?」

「そうね。どこかの部屋に隠れていたほうが食糧庫にいるよりは安全だと思うけれど」

「僕も賛成だ。どうせ屋敷に入ることになるんだ。なら入れそうなときに入っておいた方がいい」


 三人の意見は一致し、昼間の内から屋敷の中へと潜入することになった。

 




次話は明日投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ