第二十八話 屋敷への侵入方法
第二十八話です。
よろしくお願いします!
グリンドル伯爵の屋敷は案の定、厳重な警備と高い塀に囲まれていた。そう簡単には侵入することはできそうにない。外でこれなのだから中はもっと厳重な警備がなされているだろう。
門には常時警備のものが三人いる。
出入りは身分証のようなものをチェックされていて、奴隷である俺たちでは門をくぐることすらできそうにない。
「どうする?」
「まあ、正面からは無理だろうから、塀を越えるしかないだろうねぇ」
ちなみに塀の高さは三メートルほど。道具を使えば越えられないこともない。ただ……。
「中の様子がわからないから、安全に越えられる場所がわからないぞ」
「問題はそこなんだよ。どうにか中の様子が見えないものだろうか……」
俺とハイマンは頭を悩ませながら、門の方を見ていると、荷車の一団が門の前へとやってきた。彼らは番兵と二三言話すと、そのまま屋敷の中へと入りこんでいく。荷車も、特にチェックされている様子もなかった。
「今の見たか?」
「ああ、ほとんど確認されている様子もなかったし、顔見知りか、あるいは定期的に何かを運び入れているのかもしれないね」
「塀を越えるより、あの荷車に紛れて忍び込んだ方がいいんじゃないか?」
「確かに、その方が楽に忍び込める気はするね」
俺とハイマンがじっと待っていると、小一時間したところで、荷車を運んでいた男が門の中から出てきた。その後ろからは空になった荷車とそれを押す人夫も続く。
番兵に軽く会釈をして男はそのまま中央区へと続く道を歩いて行った。
「追ってみるかい?」
「そうだな。追いかけて、何を運び込んでいたのかを確認しよう」
例の男は、中央区のとある大きめの建物に入っていった。荷車を押していた人夫たちは併設されている倉庫の方へと向かう。
「ここは……なんだ?」
「おそらくギルドだろうね。ここは……食料品を扱う商業ギルドの本部みたいだ」
「ギルドってなんだ?」
「まあ簡単に言ってしまえば、同じ職業の者たちの集まりのことさ。帝都のように大きな都市では個人で仕事をやり取りするより、同業者の組織がまとめて仕事を引き受けて、それぞれの業者に割り振った方が、効率がいいからね。たいてい大都市には職種に応じたギルドが存在しているのさ」
「詳しいな」
「これは常識だよ? むしろ知らない方が珍しい」
「そういうものなのか」
記憶と共に一般常識も抜け落ちているのはやっぱり痛いな。わからないことが多すぎる。
「あの男がここに入ったという事は、グリンドル伯爵の屋敷へ運んでいたのは食糧で、ここに依頼されていたものだという事になるね」
「そうだな。そして門を顔パスという事は、定期的に依頼していて、かつ、引き受けている業者も同じなのかもな」
「その可能性は高いね」
「とりあえず、入ってみるか?」
ハイマンが頷き、ギルド本部へと向かっていったので、俺もその後に続く。
ギルド本部内は割と静かで、役所のような雰囲気だった。待合の椅子には順番待ちなのだろうか。何人かが腰を掛けている。先ほどの男は……今ちょうど窓口で話しているようだ。
ハイマンは俺についてくるように促し、男が話している窓口の隣に向かった。そして、書類整理をしていた女の人に話しかけた。
「ちょっといいですか?」
「あの、すみませんが順番にお呼びしているので、整理券を取ってお待ちいただけますか」
当然ながら順番を待つように言われる。
「いえ、そんなにお時間はとらせませんので……今夜、僕とお食事でもどうですか?」
「はい……?」
何かあるのかと思えば、ただのナンパか。
呆れた俺が帰ろうとすると、ハイマンは俺の袖口を引っ張る。そしてちらりと視線を隣に向けた。
例の男が話している声が普通に聞こえてきている。
ああ、そういう事か。
俺はハイマンがナンパしている間を利用して、隣の話を盗み聞く。
「ところで今日もいい売り上げだったんだろ? なんたって商売相手がここら一帯で一番の金持ちである貴族様なんだからなぁ」
「まあ、そこら辺の庶民を相手にしていた頃よりは断然儲かってるぜ。何せ高級品ばかりで単価も高く、おまけに支払いもしっかりしてる。もう笑いが止まらんさ」
「うらやましい限りだ。今週は今日で終わりだったか?」
「いいや、明日の昼過ぎにもう一度、大口の搬入があるからな。その時もまた報告にくるぜ」
「おう。そん時はまたいっぱいおごってくれや」
「そうだな。楽しみにしときな」
そして男は窓口を後にした。なるほど、次の搬入日は明日の昼過ぎか。これはいい情報を得ることができた。
「おい、ハイマン。そろそろいいぞ……?」
盗み聞きを終えてハイマンの方へと向き直ると、女性職員の手を握り、普通に口説いていた。
「一目見たときから僕の心は君の虜さ。その琥珀のような深く美しい瞳の先が気になって、僕はもう君から目を離せそうにない」
「ハイマン様……」
しかも見事に女性職員を落としていた。おい、マジで何をやっている。
俺はハイマンの襟首をつかむと強引に引きずっていく。
「おぅ、ごっ、ちょ、首が、しま……」
苦しそうにハイマンが呻くが知らん。背後からは女性職員のハイマン様ぁ~なんて、甘ったるい声も聞こえてきたが知らん。
とりあえずギルドから出たところで、ハイマンを解放する。
「ハァー、ハァー。君は、僕を殺す気かね!?」
「そんなつもりはなかった。まあ、死んだらしょうがないなくらいの気持ちではあったが」
「おい!?」
「冗談だ」
「真顔で言われても冗談に聞こえないんだけど……まあいいさ。そんなことより、僕が職員の気を引いている間にうまく情報は得られたのかい?」
「ああ、おまえが熱心にナンパしている間に、次の搬入日の情報は得られた」
「何やら棘のある言い方だが、情報が手に入ったようで何よりだよ」
明日の昼過ぎにグリンドル伯爵の屋敷に今日と同じような搬入があることをハイマンに伝える。そのことさえ分かれば、次にやるべきことは明白だった。
「では、うまく荷車に乗り込めば、屋敷内に忍び込めるな。時間もちょうどいい。彼女と合流してから、一緒に荷車に乗り込んでしまおう」
「そうだな」
こうして俺たちの、グリンドル伯爵屋敷への侵入作戦の内容は固まった。
行き当たりばったり感は否めないが、これ以外に方法がない。何とかするしかないだろう。
次話は明日投稿予定です。




