第二十七話 協力者確保
第二十七話です。
よろしくお願いします!
俺はメルカを伴って、ハイマンとの合流場所である食堂へとやってきた。
約束の昼よりも早くついてしまったため、さすがにまだハイマンはやってきてはいなかったので、俺はメルカに対して、認識疎外と偽装の魔法を頼みたいということを伝える。すると当然ながらその目的について聞かれる。
「目的については、あまり知られるわけにはいかないんだが……」
「それが話せないというのなら、さすがに手を貸すわけにはいかないわ」
「まあ、そうなるよな……」
果たしてメルカに話してしまってもいいものなのか。とはいえ、話さなければ協力を得られないのならば仕方がないか。他言無用であることをあらかじめ言い含めて、俺はこれからやろうとしていることについてメルカに話した。
「……無謀だわ」
「それは重々承知だ」
「言っておくけど、あなたがやろうとしていることはいずれも失敗したら即処刑されるようなことよ」
「それもわかってる」
奴隷が主人の持つ魔導契約書に手を加えようというのだ。見つかれば当然始末されるだろう。そもそも屋敷に侵入した時点で見つかれば即処分は免れない。そして、なりすましだって、バレればそこで俺の人生は終了するに違いない。
改めて考えると俺は、相当危険な橋を渡ろうとしているな。
「……それに手を貸す私も、見つかればただでは済まないという事をわかっていて、助力を求めているのかしら?」
「あ……」
魔法使いの協力を取り付けることばかり考えていて、そこまでは考えてなかった。そうか、俺たちに手を貸すということは、失敗したときのリスクも一緒に負うという事で……。
「そこまでして私があなたに手を貸すメリットはあるのかしら?」
「……ないな」
メルカに言う通り、相手に対してそのリスクに見合う対価を、俺たちには用意することができない。メルカにとっては手を貸すメリットなど何もなく、引き受ける意味がまるでない話だった。
「すまない。この話は忘れてくれ」
「残念ながらもう聞いてしまったわ。この話を私がグリンドル伯爵に話したら、どうなると思う?」
「な……」
メルカが意地の悪いような表情を浮かべた。
この話をグリンドル伯爵に告げ口されるのはマズい。どうする……。
「……話す、つもりなのか?」
「いいえ。言ってみただけよ」
「……驚かさないでくれ」
俺はそっと胸をなで下ろした。いざとなったときにメルカと敵対することにならなくてよかった。
「ただ、忠告しておくわ。あなた、迂闊すぎるわよ。もう少し慎重に、考えて行動した方がいいわ」
「そうだな。これからは気を付ける。……じゃあな」
「ちょっと待ちなさい」
俺が席を立とうとするとメルカが引き止める。
「……呆れた。あなた、私をそのままにして行こうとしているの?」
「そうだが……」
「言ったそばから迂闊すぎるんじゃない? 私が、本当に喋らないという保証はないわよ?」
「いや、だって、話すつもりはないって言っただろう」
「そんなの表面上だけの言葉かもしれないじゃない」
「そうなのか?」
「う……」
俺が見つめるとメルカは言葉に詰まった。
「俺はメルカを信じる」
「はぁ……もういいわよ。で、認識疎外と偽装だったかしら」
「そうだが……まさか、やってくれるのか?」
「そうよ」
「なんの見返りもなしにか?」
「そんなわけないでしょ」
メルカは呆れたような顔をして言葉をつづける。
「もちろん見返りはもらうわよ」
「そうはいっても俺の持ち金はもう銀貨一枚しかないんだが……」
「お金はいらない。そのかわり、成功した暁には私のいう事をなんでも一つ聞いてもらう。この条件でいいなら引き受けてあげるわよ」
「わかった。よろしく頼む」
「……ずいぶんあっさり条件をのむのね」
「他に俺に差し出せるものはないからな」
「そう……では、契約は成立ね」
メルカの協力を取り付けたので、最低限計画を実行に移すことは可能になった。あとは三日後までにすべての計画を実行して、うまく護衛団に紛れ込めるようにするだけだ。もっともこれが一番の難関だが……。
しばらくするとハイマンがやってきた。少し疲れたような表情を浮かべ、俺を見つけると軽く手を挙げてきた。
「ダメだクロン……さすがにそんな都合よく魔法使いなんているものではないみたいだ」
「ああ、それなんだが……」
俺は向かいに座るメルカに視線を向ける。ハイマンと目の合ったメルカは軽く会釈した。その瞬間ハイマンは疲れ切っていた表情を一瞬で吹き飛ばすと、にっこりと笑みを浮かべて話しかける。
「何と美しい女性なんだ! 僕は元ミスリク軍第二中隊第六小隊隊長のハイマン・フォン……おっと、もう貴族ではないのでした、失礼。剣闘奴隷をやっているハイマンと申します。貴女の名をお伺いしても?」
「私は……メルカです」
「メルカさんとおっしゃるのですか。いや、素敵なお名前ですね」
「どうもありがとう」
そういえばハイマンは女性を見るとテンションの上がるやつだったか。ビスカと初めて顔を合わせたときもこんなだったっけ。というかハイマンって元貴族だったんだな。知らなかった。まあ、それっぽいといえばそれっぽいが。いい意味でも悪い意味でも。
「この人がさっきの話で出てきた、あなたと一緒に護衛団に潜り込むっていう?」
「ああ。性格はともかく、腕はそれなりだ。一応仲間という事になっている」
「そう」
メルカが値踏みするような視線を向けると、ハイマンはさわやかな笑顔でメルカのことを見返した。メルカが若干いごこちの悪そうな顔をする。ビスカと違ってメルカは普通に相手に対して面倒くさそうな態度を出していた。しかし、それでもハイマンはめげる様子がない。
「で、メルカさんはどうしてここに? もしお時間が許すのであれば僕とランチでも」
「ごめんなさい。食事はクロンと済ませてしまったから」
「そうですか。それは残念……」
そこでようやくハイマンは、俺の方へと視線を向けた。
「なあクロン。君は何やっていたんだい?」
「何って、そんなの見てのとおりだろ」
「美女をナンパして食事してたってのか! 全く、僕は必死になって魔法使いを探していたというのに……」
「いや、だから、メルカがその魔法使いなんだって」
「……は? 何を言っているんだ。メルカさんが魔法使いだって。そんな馬鹿な……」
俺が視線を向けるとメルカは頷いた。
「魔法なら使えるわよ」
メルカの言葉にハイマンは驚いたように目を見開く。しかし、次の瞬間には疑念に満ちた視線に変わる。
「でもねクロン。魔法使いって言ってもちょっと火が出せたりとか、そんな程度じゃ話にならんのだよ? 偽装も認識疎外も、とても高度な魔法で、それこそ軍に所属する魔導士の中でも上級の者でなければできないんだからね」
そんなに厳しい条件だったのか? でもメルカはできるって言っていたような。
「ハイマンさん、といったかしら。私の実力を気にしているなら無用の心配よ。私はこう見えても帝国軍魔導戦技研の所属なの」
「ま、魔導戦技研だって……」
ハイマンの顔が一気に青ざめた。
「魔導戦技研ってなんだ?」
「クロン、君は魔導戦技研を知らないのかい? 魔導戦技研って言うのは――」
ハイマンの説明によると魔導戦技研――正式には帝国軍魔導戦闘技術研究大隊というらしい――は帝国内のえりすぐりの魔法使いが集められ、戦闘における魔法の活用について日々研究している部隊らしい。そこに所属する者たちは優れた研究者であると同時に魔導を極めた恐るべき兵士でもある。先のミスリク戦争でも、たったの一個小隊で堅牢な砦を落として見せたという。
「という事は、メルカはすごい魔法使いってことか」
「現状得られる協力者としては最高峰の人材さ」
という事らしい。
「でもいいのかい? 今回の件は下手すれば内乱罪にも問われかねない試みなんだよ?」
「成功させれば問題ないでしょう。それに見合うだけの報酬も約束してくれたし」
そう言ってメルカは俺の方へと視線を向ける。
俺に対する命令権ってそんなに価値あるものなのか。いや、ないよな……。
「私はもう用事があるから帰るわ。明日の同じ時間にまたここに来るから。その時にでも作戦の詳細を教えてちょうだい」
それだけ言い残すとメルカは足早に店から出て行った。
あとは、どうやってグリンドル伯爵の屋敷に侵入して、魔導誓約書を偽装するかだ。
俺はハイマンと共に、次はグリンドル伯爵の屋敷へと下見に向かった。
次話の投稿は明後日です。




