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第二十六話 魔法使いを探せ

第二十六話です。

久々にファーストヒロインの登場です。

「それは何というか、無理難題だな」

「やっぱりそうか」


 ハイマンの個室へと行き、ビスカから聞いた情報と、ヘンリクと話してまとめた俺がやるべきことについて話し終えると、ハイマンは険しい顔をして首を振った。


「何かいい方法がないかと思って聞きに来たんだが、やっぱり方法はないか」

「いや、方法自体はなくはないんだが、相当に実現可能性が低い」


 予想外の返答だった。

 方法があるのか?


「可能性は低くてもいい。教えてくれ」

「そうだね。まあ、魔法を使うのさ」


 ハイマンが言うには、成り代わりの方は認識疎外の魔法をかければ何とかなるらしい。そして魔導誓約書についても内容に変化を与えることは不可能だが、表面に偽装の魔法をかけて少しの間ごまかすくらいであれば、何とかなるそうだ。ただそれは理論上のことで、実現するには様々な問題がある。


「まず、そんな高度な魔法が使える人間はそうはいないということだね。あとはグリンドル伯爵の私室に侵入して奴隷の魔導誓約書を見つけて、そこに魔法をかけるという手順をどう行うかだ。……ほら、実現可能性はほぼないだろ?」

「なるほど。では強力な魔法使いを見つけて協力を取り付けて、あとはグリンドル伯爵の屋敷に忍び込めれば何とかなるんだな?」

「いや、まあそうなんだがね。君にはそんな高度な魔法を使える知り合いなんているのかい?」

「いや、いない。これから探すさ」


 ハイマンはため息をつく。


「まったく君と来たら、あきらめるという言葉を知らないのだからね」

「仲間が危険な目に遭うかもしれないんだ。それを回避するために全力を尽くすのは当たり前だ」

「まあ、僕もそんな君を気に入っているから手は貸すけどね」

「そうか。助かる」


 ハイマンは立ち上がると、まずは中央区にでも行ってみるかな、と言い部屋を出ていく。俺も頷き、その後に続いた。


 二度目の中央区はやはりにぎわっていた。これだけ人がいれば中には凄腕の魔法使いがいたって不思議ではないだろう。


「では、手分けして探すとするかい?」

「そうだな」

「なら、昼になったらいったん、この前の食堂で落ち合おう」

「ああ」


 俺とハイマンは二手に分かれて中央区の街中を探すことにした。

 ハイマンによると認識疎外や偽装が施せる魔法使いともなると、それなりの実力者でないといけないらしい。最低でも帝国の魔導士部隊に所属しているくらいでなければならないといっていた。しかし、それほどの魔法使いを在野で見つけられることは、ほとんどあり得ないとも……。


 というかそれ以前に、魔法使いかどうかはどう見分ければいいんだ?


 俺としたことが、重要なことを聞き忘れていた。慌ててハイマンの姿を探すが、すでに人ごみの中に消えてしまっていた。マズイ……これでは何もできない。


 これからすることを考えればあまり目立つような行動をとることはできないので、片っ端から聞いて回るという方法はとれない。


 弱ったな……。


 いきなり手詰まりになり、俺は人の波に視線を向ける。一目で魔法使いだとわかるような恰好な奴が通ればいいんだが……ん?


 人ごみの中、視界の端に見覚えのあるような姿が映る。長い黒髪にやや切れ長の瞳。もしかして……メルカ、なのか?

 俺は見覚えのある背中を追ってみることにした。

 彼女は通りを進んでいくと、とある店先で立ち止まった。何の店なのかと思って視線を向けるとそこは小動物などを売っている店だった。メルカは店頭に展示されて入るリスのような小動物の入ったケージに見入っていた。

 かなり夢中になって見入っているようですぐそばまで近寄って行っても全くこちらに気付く様子ない。つぶらな瞳で見つめてくる小動物に頬を緩めながら、可愛い……などと呟いていた。


「なあ」

「この子、連れて帰ろうかしら……」


 まさかの声を掛けても気づかれないという事態に軽く驚く。これは、完全に自分の世界に入ってしまっているようだ。

 仕方がないので、一段落するまで傍でメルカの様子を眺めていることにした。


 メルカはケージの中に指を突っ込んだりして、一通り小動物と戯れた後、懐から革袋を取り出した。その中には硬貨が入っていたのでおそらく財布だろうと思う。ケージのそばの値札を見た後、自身の財布の中を見やり、そしてメルカは愕然とした表情を浮かべた。


 ああ、足りなかったのか……。


 悲し気な瞳でケージの中の小動物を見つめるメルカの姿に何となく物寂しさを感じたところで俺はもう一度、声を掛けてみる。


「足りないなら、いくらか貸そうか?」

「きゃあ!? ……え? あなたは、クロン? どうしてこんなところにいるの?」


 メルカが思い切り驚いて俺のことをまじまじと見つめる。そして首のあたりで視線を止めると口を開く。


「お義父様たちが言っていたことは本当だったの……。でも、外に出られているということは、正規の剣闘奴隷になれたのね?」

「まあ、な」

「そう。無事なようで何よりよ」


 メルカは安心したように口元に微かな笑みを浮かべていた。そういえば何故、屋敷にいたときにメルカは俺のことを助けてくれたんだろう。その理由について聞いてみたい気もしたがそれよりもまずは……。


「浴槽でのこと……何というかすまない。リスタの陰謀におまえのことも巻き込んでしまった。そのうえ怪我まで……」

「そのことならいいのよ。私の不注意でもあったのだし、そもそも義姉さんのせいなのだから」

「怪我は大丈夫なのか?」

「ええ、もう何ともないわ」

「そうか。よかった」


 俺が安堵するとメルカは何やら優しげな表情で俺のことを見つめていた。なんだか子供の成長を見守る母のような、慈愛を感じさせる視線だった。なんでそんな目で俺を見るんだ?

 何となく居心地が悪くなったので、適当に話題を変える。


「ところで、いくら足りなかったんだ?」

「え?」

「だから、その小動物を買うのに、持ち金が不足していたんだろう?」

「……ちょっと待って。そういえば、あなた、いつから私に気付いていたの?」


 メルカが眉ひそめる。心なしか緊張したような視線を向けられる。


「向こうの通りのところからずっと」

「え……!? ということは、この店で私が――」

「ああ、その小動物と戯れているところもずっと見てた」

「――ッ!! なんで、すぐに声を掛けないのよ!」

「いや、掛けたが小動物に夢中で無視されたんだが……」

「う……」


 メルカは言葉を詰まらせた。そして、顔を真っ赤に染めて俯く。

 これは恥ずかしくて、顔を合わせていられないという反応なのだろうか。そうだとしたらまるでつい先日のビスカに対する自分のようだと思った。記憶を失くして以来、対人スキルもだいぶ悲惨な状態にあると自覚しつつある俺だが、幸いこの状況は身を以て経験したばかりだ。今の俺なら対処できる。要は、俺がメルカの行動を好意的に捉えているということを伝えて、安心させられればいいわけだ。


「別に、俺は恥ずかしがるようなことだとは思わないぞ」

「え……?」

「小動物と戯れるメルカも見ていてとても可愛かった」

「な――っ!! ばか! いきなり、何言ってるのよ!」

「いや別に思ったことをそのまま言っただけだ。だから安心していい。俺はそんなメルカの一面を見ることができて、素直にうれしいと思ったから」

「な、な、な、何なのよっ……もう」


 真っ赤な顔のままそっぽを向かれてしまった。マズイ……何かミスってしまったか。

 それからは状況の悪化を恐れて様子見に徹していたが、しばらくすると、気を取り直したらしきメルカがようやくこちらに向き直る。

 まだ少し顔が赤い気もしたが、幸い恥ずかしさはある程度薄れたらしい。メルカの言葉は、屋敷にいたころのように冷静な口調に戻っていた。


「……あなた、屋敷にいたころとは変ったのね」

「まあ、いろいろあったからな」

「そう。記憶の方は……どうなの?」

「この前一瞬だけ、記憶を失くす前のものらしい記憶を垣間見た」

「そう、なの。で、何か思い出せたの?」

「いや、そこまでの進歩はなかった」

「そう」


 以前俺が仲間を大切にしていたであろうことくらいしか、その記憶の欠片からは読み取れなかった。あれはビスカが、仲間がやられそうになった時にいきなり思い出したことなのだから、きっと今後も何かきっかけがあれば、そこから記憶を取り戻していけるのではないかとは思う。


「じゃあ、私は行くわね」

「いや、ちょっと待ってくれ。おまえ、確か魔法を使えるって言っていたよな?」

「ええそれは……。どうしてそんなことを聞くの?」

「実はちょっと頼みたいことがあってな。少し話せないか?」

「少しなら、構わないけれど」

「決まりだな。じゃあ、とりあえず買い物を済ませてきてくれ」


 そう言って俺は自分の全財産銀貨十四枚が入った袋をメルカに渡す。


「これは?」

「そこの小動物を買うんだろ? 足りない分をそこから使ってくれ」

「別に、いいわよ」

「いや、使ってくれ。屋敷では助けてもらったし、そのお礼ってことで」

「そう。それなら遠慮なく使わせてもらうわね。ありがとう」


 メルカは小動物の入ったケージをもって店内に入っていた。そして数分後、肩に例の小動物を乗せたメルカが店の中から出てきた。


「ありがとう。助かったわ」

「どういたしまして」


 俺はメルカに向かって手を出す。メルカは一瞬ばつの悪そうな顔をして、懐から俺が渡した小袋を渡してきた。……あれ、異様に軽いな。


「ごめんなさい。銀貨十三枚分足りなかったの。それで……」


 14-13=1


 俺の全財産が……銀貨一枚……はは……。


 今さら後で返してというわけにもいかず、俺は銀貨一枚だけとなってしまった小袋の中を見て、ただ、乾いた笑みを浮かべた。


次話は明後日投稿します。

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