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第二十五話 疑惑の機会

第二十五話です。

ここから第二章となります。

よろしくお願いします<m(__)m>

 このままではいつまでたっても剣闘奴隷から抜け出せない。そう思っていた矢先のことだった。ビスカが部屋に尋ねてきて奇妙な話を持ってきた。


「なんか、わたし、外に出られるかもしれないです」

「いきなり、どうした。剣闘奴隷から抜け出せるいい方法でも見つけたのか?」

「いえ、わたしが何か思いついたというわけではないんですが……」


 ビスカは先日、他数名の剣闘奴隷と共に経営者であるグリンドル伯爵に呼び出されて、ある命令を受けた。


「なんかとある人の護衛をしろとかなんとか。それで、無事任務を果たせたら自由にしてやるとか言ってました」

「なんだそれ。俺のところにはそんな話きてないぞ」


 ビスカのところにきて、俺のところには来ていない。どういうことだ?


「で、参加するのか?」

「なんか、強制みたいなので……はい」


 強制……? なんか怪しいな。


「その話、もうちょっと詳しく聞かせてくれ」

「はい……あ、一応他言無用と言われているので、内密にお願いしますね」

「あ、ああ……」


 他言無用といいながら、ビスカはことの詳細をあっさりと俺に漏らした。

 三日後、中央区外れにあるグリンドル伯爵の別邸へと行き、そこである人物の指揮下に入り、目的地までの護衛をするという内容だ。そして招集された奴隷は十五人。残りのメンバーはビスカよりも弱く、いずれも個室を得ていない者たちだったそうだ。そして先ほど言った通り、目標を達成した後は剣闘奴隷から解放するというものだった。


「あ、そういえばフラドさんもいました」

「あいつも呼ばれていたのかよ……」


 ますます基準がわからない。

 話を聞く限り、多少怪しいが、かなりうまい話であることは確かだ。コツコツ試合をして銀貨を稼ぐよりよっぽど現実味がある。しかし……。


「俺は呼ばれてないからな……」

「ハイマンさんもいませんでした」

「そうか」


 どうにかして、そのメンバーに入り込む手立てはないものか。こんな機会を逃す手はない。

 俺はビスカと別れた後、ヘンリクの下を訪ねた。


「よう、久しぶりだな」

「ん、おまえさんはクロンか。全く俺さんをこんなところに追いやっておきながらよく顔をさせたもんだぜ」

「試合の結果だ。それは仕方ないだろう」

「まあ、それもそうだな。で、何の用だい?」


 クロンは先ほどビスカから聞いた話をかいつまんでヘンリクにも話す。そういえばこの話は他言無用だったか。まあヘンリクなら大丈夫だろう。こうやって隠し事っていうのは広まっていくんだろうな。


「……なるほど。そいつはやめといたほうがいいな」

「ん、なんでだ?」

「たぶん死ぬぞ」


 ヘンリクは声の調子を落とし、神妙な顔をして話を続ける。


「剣闘奴隷は基本的にそう簡単には自由になれない仕組みになっている。それはもう気付いているだろ?」

「ああ。単純計算すれば二年でここから出るだけの金はもらえるが、それは一切金に手を付けない場合だ。しかし、怪我をすれば薬は買うし、配給される飯だけでは足りないから食費もかかる。とてもじゃないが奴隷解放を望めるだけの金を貯めるなんて無理だ」

「その通り。必要経費だけで報酬はほとんど消えてしまう」


 ヘンリクは闘技場の経営者は剣闘奴隷を簡単に手放す気はないのだと断言した。


「だからこそ、目的を達したら自由になれるということは、そもそも戻ってくる見込みがないからそう言ったのだろう」

「ということは……」

「おそらくその護衛対象とやらは死ぬだろうし、剣闘奴隷も道連れだな。暗殺を命じられたわけでもなく護衛でつくってことは途中で何者かに襲撃とかされて全滅とか、そんな感じなんじゃないかい?」


 この話の裏にはそんなことが……これは確かにうまい話ではないな。


「ということだから、悪いことは言わねえ。やめときな。そんな死地に飛び込まなくても、また機会は来る。今は待つ時だ」

「……いや、そうはいかない」

「おいおいおまえさん。俺さんの話をちゃんと聞いて、理解したのか? 行けば死ぬといっているだろう」

「それは理解した。だが、俺はそこに潜り込まなければならない。……ビスカがそのメンバーに選ばれてしまっているからな」

「ビスカ……ああ、試合の時、おまえさんが守りたがっていた嬢ちゃんか」


 俺が首肯するとヘンリクは納得したような表情をした。そういえば試合の後で必死になって叫んでたっけとか呟いていたが、それは無視する。


「なるほど。おまえさんはその嬢ちゃんを守るために参加したいと」

「そうだ。無論自由になれるという報酬も欲しいが……」

「自由というのはまあ、確かに手に入るだろう。おそらく俺さんたち奴隷を縛っている魔導誓約書の権限は護衛対象の人物に移されるだろうからな。護衛対象が目的を達することができればその場で魔導誓約書を破棄してくれるだろう」

「そうか」


 どうやら、奴隷から解放されるということは望めるらしい。あとは護衛対象もろとも葬ろうとしてくる陰謀からどう逃れて、ビスカや護衛対象と共に生き残るかだな。

 いや、その前に……。


「選ばれた奴隷の中に紛れ込むいい方法はないか?」

「まあ、実際のところそこが一番の難関だろうねえ」


 ヘンリクはこめかみに手をやりながら考え込む。

 現状での最も厄介な問題はどうやってその中に紛れ込むかということ。当然ながら奴隷の引き渡しや魔導契約書の権利移譲はグリンドル伯爵自身が行うだろうから、原則、伯爵が選んだ奴隷しか護衛に加わることはできない。顔を隠して成り代わろうとも魔導誓約書をどうにかしないと、意味がない。


「魔導誓約書ってやつは厄介だからなあ。ことさら奴隷用のはえげつない」


 ヘンリクによると奴隷用の魔導誓約書はそれ自体が滅失してしまうと、そこに名前の記載されていた奴隷も死ぬらしい。そのためきちんと手順を踏んで廃しなければならない。また盗難防止のため更新期間というものが定められていて、その期間内に権利者が奴隷契約を更新しなければ、その場合も奴隷は死ぬ。

 つまり、奴隷は自身の契約書を燃やしても死ぬし、盗み出したとしても期間内に権利者によって契約を更新してもらわなければ死ぬ。この世界における奴隷は何重にも縛られていて、決して逃げることができない。


「となると俺がやるべきは、どうやって成り代わるかを考えるのはもちろんのこと、俺自身の魔導契約書を護衛対象へと移譲させる方法を考えることだな」

「後者は相当難しいだろうね。俺さんにもそんな方法はさっぱり思いつかない」


 ヘンリクは早々に匙を投げたようで、考えるそぶりすら見せなかった。


「まあ、そこらへんはおまえさん自身で考えるこったな。俺さんは目下、目先の試合で忙しいんでね」

「そうだな。邪魔をした。……助かった」

「なに、大したことじゃあないさ。また、お互い生きていたら会おう。クロン」


 ヘンリクと別れ、クロンは思考を巡らせる。ヘンリクと話せて、考えるべきことが明確になったのはありがたい。あとは三日のうちにこの問題をいかに解決するかだな。


 俺は、次にハイマンの下へと相談しに向かった。



次話は明日投稿予定です。

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