第二十四話 亡国の灯とグリンドル伯爵の思惑
第二十四話です。
今回は主人公は出てきません。おまけに少し設定説明くさい内容ですが、ご容赦くださいm(__)m
これが第一章の最終話です。
闘技場を経営しているグリンドル伯爵の邸宅に、お忍びで急な来訪があった。そのものは身なりこそ貧相な衣装に身を包んでいたが、漂う雰囲気には高貴さが入り混じっていた。
「これは、姫君。このようなところまでお越しとは、いったいどのような御用ですかな」
「今日は其方に聞きたいことと、頼みたいことがあってきた」
「さようですか。軟禁中の御身がお忍びでここまでくるというのですから、それなりの要件なのでしょうな」
グリンドル伯爵は姫君と呼んだ人物に対して椅子に座るように勧めた。そして、相手が腰を下ろしたのを見てから自身も椅子に座りこむ。
「それではまず、聞きたいことというのは?」
「じい……ヴァルナクが死んだというのはまことか?」
「ええ、それは事実です。初戦のバトルロワイヤルで、命を落とされましたな」
「なっ……バトルロワイヤルだと。……そんなもので、ヴァルナクを戦わせたのか!?」
「いかに強かろうとはじめはバトルロワイヤルで名を売っていただくのが決まりでしたので。まさか負けるとは私も思っておりませんでしたが……」
「相手は……そんなに強かったのか?」
「そうですね。見た目はそこまでやりそうには見えませんでしたが、攻撃を躱すのがうまい奴隷だったようで、攻撃を躱し続けては隙をつく戦法で勝利を重ねていますね。ですが私としては観客を盛り上げるためにも、もっと派手な戦いをしてほしいところですが……」
「貴殿の事情は聞いていない」
「これは失礼いたしました」
グリンドル伯爵が口をつぐむと、訪問者の次なる言葉を待った。
「では、本題の方に移らせてもらう。まずは要件だが……腕利きの剣闘奴隷を貸していただきたい」
「それは……金さえいただければ構いませんが、何に使うおつもりで?」
「……塔を攻略する」
「な……!?」
グリンドル伯爵は慌てて周囲を見渡す。しかし、室内には自身の護衛と姫君の付き添いのもののみで、応接室には他に誰もいない。防音魔法もかけられているため外に声が漏れているということもない。
「塔に侵入することは帝国法や三大国家条約に反します。おまけに精霊教をも敵に回しますよ」
「それでも――ッ。祖国を復興するためには力がいるのだ! 塔にいる精霊に会い、契約者とならねば、強大な帝国には太刀打ちできない」
「……私は反対です。昔の義理から姫君にはある程度の力は貸すとは申しましたが、塔の攻略はやりすぎです」
グリンドル伯爵は静かに首を振り拒絶の意思を示す。
塔を攻略するということは今や大陸中で禁忌とされている。
このアルカトラス大陸は人の生存圏が大きな結界に覆われていて、それ以外の外界と隔絶されている。そして結界の外側、外界には強力な魔物や魔人族がおり、人が足を踏み入れることは決してない。逆にその強力な魔物や魔人族も結界に閉ざされているうちは大陸内に入ってくることができなくなっている。
この強力な結界は大陸に点在する七つの塔によって維持されていて、それぞれの塔には力を持った精霊がいる。そして、結界の維持を行っている精霊は頂上にたどり着いたものと契約して、その者に人の枠を超えた大きな力を授けてくれるという。但し、七つの塔すべてが攻略された瞬間、大陸を覆っている結界は消滅する。そうなると外界から強力な魔物や魔人族が侵入してくるため、現在、塔を攻略することは各国の法によって禁止されているのだ。それだけではない。結界を張り、人の領域を守護している精霊を崇め、大陸中に信徒がいる精霊教にも異端者として命を狙われることになる。
グリンドル伯爵が反対したのは、以上のように塔を攻略するものは、この大陸の大半の勢力を敵に回すことになるからである。
「……私は別に其方の意見は聞いていない。其方は盟約に従い、私に力を貸せばそれでよいのだ」
訪問者は懐から一枚の紙きれを取り出す。そこにはグリンドル家はその家系が続く限り、ミスリク王家への援助を行うと記されていた。
それを突き付けられたグリンドル伯爵はあきらめたように首を振る。
「……わかりました。仰せのとおりにいたしましょう」
一歩も引く気配のない訪問者に対して、グリンドル伯爵は渋々了承の意を示した。
「では数日後、また来る。それまでに使える奴隷を見繕っておいてくれ」
訪問者はそれだけ言うと席を立ち、部屋から出て行った。
それから数分のち、グリンドル伯爵は苛立たしげにため息をつく。
「まったく厄介な寄生虫だ。誓約書さえなければ、あんな小娘などすぐに追い払ってやるものを……」
グリンドル伯爵は先ほど立ち去って行った訪問者、元ミスリク王国第一王女、エドナ・ミスリクの要求に対して憤りを覚えていた。ミスリクが亡国となったのち、エドナは帝国によって軟禁されることになったが、どうやっているのかは知らないがたびたび軟禁場所から抜け出して、グリンドル伯爵の屋敷にやってくるようになった。そして、祖父の代で交した盟約をたてにいろいろと要求を突き付けてくるのだ。もっともその盟約がただの口約束であればグリンドル伯爵は間違いなく反故にしていたところだが……。
「まったく無能が祖先だと子孫が困る」
その盟約はあろうことか魔導誓約書にしたためられていたのだ。魔導誓約書に誓った事柄は魔法によって特別な拘束力を持つ。グリンドル伯爵の祖父は五十年前の戦争でミスリク王家に命を救われたことから、王家が危急の際は助力するという盟約を魔導誓約書にて交していたのだ。当時は帝国とミスリク王国は同盟関係にあったため、その盟約も帝国に対する造反にはならなかったが、今ではミスリク王国は敵として滅ぼしたわけだから、手助けしようものなら明らかに帝国に対する造反行為になる。しかし、魔導誓約書によって盟約を結んだため、エドナに対しては支援をしなければならない。
「早いうちに何とかしないと、エドナを支援しているなどと知れたら私は爵位のはく奪だけでは済まぬ罰を受けるだろう」
しかし、現状ではどうしようもないのは確かだ。できることはといえばせいぜいエドナと密にあっていることを誰にも知られないように注意するくらいだ。
しかし、エドナがミスリク王国の復権を求めて行動する限り、いずれはことが露見するだろう。今回の件からも、エドナはもはやなりふり構わずといった状況だ。このままではいつばれてもおかしくない。
「挙句あの小娘は塔に行くなど抜かす始末……待てよ。塔に行く、か。それならば、塔にあの小娘を消してもらおうではないか」
塔はただ登るだけで精霊に会えるわけではない。塔の中には多くの魔物が住み着いており、かなり危険な場所となっている。そのため、並みのものでは頂上までたどり着くことはできない。
「私自身は制約によって直接手を下すことはできないが、塔に入って勝手に命を落としてくれる分には問題ないはずだ」
グリンドル伯爵は自らの足枷を解くための策を思いつき、笑みを浮かべた。
次話投稿は明日の予定です。
明日からは第二章に突入します!
よろしくお願いします!




