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第二十三話 試合後のあれこれ③

第二十三話です。

第一章の本筋の内容は今日で終了です。

よろしくお願いします!

 食堂を後にすると、ハイマンは少し寄りたいところがあるといって、どこかへ行ってしまった。


「さて、俺たちはどうするか」

「少し街を見て回りませんか? わたし、ここら辺のことはあまり知らないので、歩いてみたいです」

「そうだな。じゃあ、ちょっと歩いてみるか」

「はい」


 俺とビスカは特に目的もなく街を歩いていく。帝都中央区は闘技場以外にもさまざまな商品を売っている雑貨屋や、食事処などが立ち並び、普段からかなりのにぎわいだった。ただ、ビスカによると物価は軒並み標準よりも高めらしい。それはやはり帝都の中心地だからなのだろう。中央から外れた商業区などに行けば庶民価格で買い物ができるかもしれないとビスカは言うが……。


「俺たちはこの中央区からは出られないんだよな」

「剣闘奴隷でいるうちは、そうみたいですね」


 剣闘奴隷は所詮闘技場が所有する奴隷だ。外出許可が出ようが、首に探知魔法付きの首輪を着けられてその行動は監視・制限される。


「いつか、外の世界に出ていきたいですね」

「そうだな。そういえばビスカも解放奴隷を目指しているとか言ってたよな」

「はい。いずれは解放奴隷になって、行きたい国があるんです」

「そうか。どんな国なんだ?」

「エール連合国の一角で、ケツァルコアという国です。この大陸で唯一のタスニタ人が定住する国なんです」

「タスニタ人が定住……」


 話に聞くところのタスニタ人というのは確か群れることを好まないような感じだったが……。しかもすぐに戦いをおっぱじめるような戦闘民族だよな。


「何というか、そこは殺伐とした国なんじゃないのか?」

「それが、そうでもないんですよ。すごく強い人がいて、荒っぽいタスニタ人を完全に抑えているらしいんです」

「そいつは、すごいな」


 ビスカやウィレムみたいな圧倒的に強い戦闘民族を完全に抑えるって、どれほど圧倒的な力を持っているっていうんだ。もはや化け物とかいうレベルですらない気がする。


「先輩も解放奴隷を目指しているんですよね? どうしてなのか聞いてもいいですか」

「ああ、俺が解放奴隷を目指しているのは、失くした記憶を取り戻すために世界を巡ろうと考えているからだ」

「そういえば先輩は記憶が……」

「この間のミスリク戦争に傭兵として参加したときより以前の記憶がないんだ」

「それって、今までの記憶のほとんどがないってことじゃ……」

「そうなるな。だから俺は記憶を失くす前の自分がどんな人物だったのかを知りたい。自分自身を取り戻したい。そのためにも解放奴隷になって、記憶を取り戻すための旅をしたいと思っている」

「そうだったんですか……」


 ビスカが少し気遣うような視線を向けてくる。以前話した時は軽い記憶障害的な感じで話していたから、実際はほとんど記憶がないといって、驚いたのだろう。もしかしたら、あまり聞くべきことではなかったのかもしれないと気にしているのかもしれない。


「別に変な気づかいはいらない。記憶がなくなってしまったことは、もうどうしようもないからな。これからどうするかだ」

「先輩って、見た目から受ける印象からは想像できないくらい前向きですよね」

「そうか? 見た目通り、冷静に現状を分析して結論を出したに過ぎないと思うが」

「まあ、確かにそういう見方もできますけど」


 ビスカが安心したように微笑む。つられて俺も表情を崩す。前向きというなら、ビスカは見た目通りに明るくて前向きな考えをしていると思う。ここに来る前にタスニタ人として生きていた自分の考えが変わったといっていたが、その時の経験、記憶が今のビスカを作っているのだろう。いつかその経験についても聞くことができる日が来ればいいなと俺は思う。


「あ、ちょっと買い物してきてもいいですか?」


 ビスカはとある雑貨屋に目を向ける。見れば女性ものの装飾品が売られている店だった。


「別に構わないが」

「すぐに終わらせるので、ちょっと待っていてください」


 そういうとビスカはポニーテイルを揺らしながら、雑貨屋へと駆けていった。そして、ものの数分で戻ってきたビスカの手には何やらひものようなものが握られていた。


「何を買ったんだ?」

「髪留め用の紐です。結構すぐに駄目になっちゃうので……」


 そう言いながらビスカはくくった髪の根元に手をやる。そこに結び付けられていた髪留めの紐もよく見ると少し痛んでいた。


「本当はもっと丈夫なものが欲しいんですが、ここでは高くて買えないので、ちょっと困ってます」


 ビスカが手に持っていた紐は赤い単色で、いかにも安そうなものだった。それでも銀貨一枚もしたらしく、ちょっとしょんぼりしていた。

 剣闘奴隷は一試合につき、勝利すれば銀貨五枚が支給される。個室持ちになった次回からは倍くらいはもらえるから支給額は銀貨十枚となるが、現状では五枚計算で三試合分の支給だから、手持ちは銀貨十五枚ほどである。ちなみに先ほどの食堂で銀貨一枚支払ったので、もうすでに十五枚もない。解放奴隷を目指すには銀貨換算で千枚必要だから、あまり無駄遣いはできない。


「この調子じゃ、解放奴隷になれるのはまだまだ先になりそうですね」

「そうだな。何とかしないと、このままでは二年近くかかる」


 だが、現実問題として二年間勝ち続けるなんてことは相当厳しい。そう考えるともっと掛かってしまうことも十分にあり得る。しかもけがをすれば治療費は報酬から引かれるのだ。そうなると銀貨は一向にたまらない。これでは剣闘奴隷を漫然と続けるだけではいつまで経っても剣闘奴隷から抜け出すことができないのではないかとさえ思う。


「何か、別の方法を考える必要があるか」

「……? どうかしましたか?」

「いや、なんでもない」


 俺はどうすれば早く剣闘奴隷から解放されるのか、まずはその方法について考えないことには記憶探しの旅に出るどころではない。


次話の投稿は明日の予定です。

明日は第二章へとつながる部分の話になります。

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