第十八話 ビスカ対ウィレム
第十八話です。
今日はせっかくのクリスマス・イブなので(?)二話投稿する予定です。
戦闘描写はなかなか難しいですね……日々試行錯誤です。
誤字脱字の指摘やアドバイス等ありましたら、ぜひともお願いします<m(__)m>
三対三の戦いとは言っても、結局のところ一対一の戦いを三か所で行っているに過ぎない。
ビスカは己の対戦相手と向き合いながら、手にした剣を握りしめる。目の前に立つのは槍と盾を手に自然体で立ち尽くす細身の男だ。見た感じ標準的な装備からはあまり強そうな印象を受けないが、体内に宿している充実した闘気の量は圧倒的だ。この闘技場で戦った中でおそらく一番強い。そして、その強さの理由は――。
「このようなところで、同胞と相見えるとは」
「やはり、あなたもタスニタ人なのですね」
「ああ、我はタスニタの戦士ウィレム」
「わたしはタスニタの戦士ビスカです。よろしくお願いします」
お互いに戦士として名乗りを上げる。
タスニタ人が戦士として名乗りを上げることには大きな意味がある。タスニタ人は相手を好敵手と認めたときにのみ、戦士として名乗りを上げる。そして、戦士として戦う以上は己の戦士としての誇りと全身全霊をかけて戦うのである。文字通り命を懸けて。
「まだ、若いな。だが、戦士として名乗りを上げた以上、我は全身全霊をかけてお前と戦う」
「もちろんです。わたしも本気で戦いますよ。よい死合いをしましょう」
ウィレムは手にしていた槍と盾を無造作に放り投げた。そして拳一つとなった身で構える。ウィレムにとっての武器とは闘技場から支給された槍や盾などではない。戦士としての誇りを宿した己の拳のみである。
そして、構えると同時にウィレムの体内をめぐっていた充実した闘気が徐々に高まっていくのをビスカは感じとる。
ビスカも手にしていた剣を構え、迎撃の態勢をとった。
「では、ゆくぞ」
闘技場の地面がへこむほどの踏み込みから、爆発的な加速を伴ってウィレムは一気に距離を詰める。ビスカはその速さに驚愕の表情を浮かべながらも、繰り出される拳にかろうじて剣を合わせて初撃を防ぐ。しかし、加速によるエネルギーが加算された拳の一撃は闘技場で支給された剣をあっさりと打ち砕いた。
剣による防御でわずかに減速した拳をぎりぎりでビスカは躱す。わずかにかすった衣服の肩口が吹き飛んだ。
続く二撃目の拳は躱し切ることができないと判断し、ビスカは左腕で受け止める。激突と同時に大きな衝撃音が響き、同時に左腕に激痛が走る。ダメージがあっさりと骨にまで達したようだった。
ビスカが痛みに顔をしかめ、わずかに怯んだ隙にウィレムが蹴りを放った。これは完全に防御が間に合わず、腹部に直撃を喰らってしまう。そのままビスカは闘技場の壁まで吹き飛ばされた。
壁を破壊するほどの衝撃を受けたビスカはボロボロになりながらもかろうじて立ち上がる。
……この人、やっぱりわたしよりも、強い。
わずか数秒の戦いで、ビスカは左腕を骨折し、壁に叩き付けられた衝撃で全身にそれなりのダメージ負ってしまっていた。それに引き換え、相手にはただの一撃すら入れることができなかった。ウィレムは闘技場で何度も勝利を重ねている戦士。ゆえにタスニタ人の中でもかなりの実力者である。ビスカも同じタスニタ人ではあるが、その実力には大きな差があった。
ウィレムがゆっくりと近づいてきてビスカに問いかける。
「もう、終わりか?」
「いえ……まだ、です」
ビスカは全身に力を籠め、再び構えを取る。もう剣は使い物にならないので、今度は拳で戦うしかない。
「まだ戦うか。しかし、その年ではこれ以上の力は出せぬだろう」
ウィレムは容赦なく拳を振り下ろす。ビスカはギリギリのところで、それを躱してわずかにできた隙を見逃さず、右拳を思いっきりウィレムの腹に叩き込む。大きな衝撃音が闘技場に響き渡り、同時にビスカは岩を殴ったような衝撃を受けた。
「おまえの攻撃は我には効かぬ。ゆえにおまえに勝ち目はない」
「そ、そんな……」
渾身の一撃を全くものともしないウィレムに対して驚愕の表情を浮かべるビスカ。その隙を今度はウィレムがビスカの頭をつかむ。続けて拳による一撃をビスカがやったように腹に打ち返した。
再び闘技場に響く衝撃音。そして――
「が……。う、ぐ」
ビスカは血を吐きながら膝をつく。
今の一撃は間違いなく内臓にまでダメージが届いていた。
激痛に顔を歪めながらも、ビスカはわずかに残った、戦う意思を乗せた視線をウィレムにぶつける。
それに対してウィレムは笑みを浮かべる。
「力は未熟なれど、その精神は戦士として敬意を表すに値するな。だが――」
ウィレムが軽くはなった蹴りを躱すこともできず、ビスカは数メートル飛ばされて地面に転がる。もう、立ち上がることすらできない。
ウィレムは戦う際に放り捨てていた槍を拾い上げ、ビスカの下へと近づいていく。
浅い呼吸を繰り返すビスカはすでに虫の息だった。かすんだ視界が辛うじてウィレムの姿を捉える。槍を手に、今まさにビスカに向けて振り下ろそうとしているところだった。
「おまえの戦士としての誇りは我が引き継ごう。安心して空に帰るがいい、若き戦士よ」
ビスカは自分の最期を悟り、目を瞑る。
タスニタ人は、戦いに生き、戦いに死ぬ。
ビスカもタスニタ人として生まれ、大陸をめぐる中で戦い続け、奴隷に落ちてもなお全力で戦い続けた。最後の戦いも全く歯が立たなかったが、自分の力は出し切れた。悔しいけど悔いはない。ただ……。
「すみ……ません、せん……ぱい」
試合が終わったら話をするという約束、守れそうにないです。
他人に全く興味を持たない先輩とようやく話ができると思ったのに、それだけが残念です。
ああ、先輩と、こころゆくまで話してみたかったなぁ。
――そして暗い闇の中で、槍が肉をえぐる、鈍い音が聴こえた。
今日はもう一話投稿する予定ですので、引き続きよろしくお願いします。
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