第十七話 三対三
第十七話です。
ついに戦いが始まっちゃいます!
よろしくお願いします^^
ぐるりと闘技場を囲む観客席に所狭しと集まっている群衆が大歓声を上げる。
俺たちが入場してきたのと反対側には、同じくこの試合で、俺たちの相手となる剣闘奴隷が三人、入場してきていた。
一人は俺よりも二回りも大きな体躯を誇る大男で、獲物は大きな戦斧。続くもう一人は俺と同程度の体格で、槍と盾を装備した闘技場の剣闘奴隷としては標準的な装備をした男だった。そして残る一人は……。
「おう、久しぶりだな。もう一人前の剣闘奴隷になったわけだし、ここはクロンと呼んでおこうかね」
「あんたは、ヘンリクか。半月ぶりくらいだな」
最後の一人は俺が剣闘奴隷になりたての頃にいろいろ教えてもらっていたヘンリクだった。彼は双剣を獲物としているらしい。あのヴァルナクと同じ武器だが、ヴァルナクほど強いということはさすがにないだろう……と思う。
「しかし、予想通り早いもんだな。もう個室への挑戦とは」
「初めにあんたに面倒を見てもらったおかげかもな」
「おや、お世辞まで言えるようになっているとは大した進歩じゃあないかい。半月前よりも人間ぽさが増してきている気がするね」
ヘンリクが楽しげに笑う。
お世辞と言われてしまったが、実際に闘技場についてのあれこれをしっかりと把握できたのはでかいと思う。そういった意味では、ヘンリクはここでの恩人だ。まあ、だからといって手を抜くつもりは一切ないが。
それからすぐに、恒例の貴賓席から闘技場を治めている貴族様が観客たちに短い挨拶を述べて、開始の合図が響き渡る。
「変態君、君はあの中の一人と知り合いのようだね。あの双剣使いの戦い方の特徴を教えてくれないかい?」
ハイマンが訪ねてくるが俺は無視する。
すると、ハイマンの影からビスカが顔を出し、問いかけてくる。
「先輩はあの双剣の方と知り合いなんですか?」
「……おまえが来る前に同じ檻の中にいた」
「そうだったんですか」
「だが、戦い方については一切知らない」
俺が受けていたのは闘技場におけるルールや戦い方に関する助言だ。その中でヘンリク自身が使っている武器についてや、戦術などについては一切聞いたことがない。抜け目のなさそうなヘンリクのことだ。もしかしたら俺と戦うことになったときのことを考えて、自分に関する情報はあえて何も話さないようにしていたのではないかと思う。
「使えない変態君だな。まあいいさ。相手がどんな戦い方をしようと僕は負けないからね。ビスカ、君のこともしっかりと守って見せるよ」
「それは、ありがとうございます」
ハイマンが自信に満ちた顔を向けるとビスタは笑って流した。先ほどよりも対応が自然になっていた。
「ところで誰が誰を相手しますか?」
ビスカが誰とはなく問いかけると、ハイマンがすぐさま答える。
「僕が一番厄介そうなやつの相手をしよう。そうだな、戦斧の男は僕が引き受けよう。すぐに片づけて援護に向かうから君はあの槍盾装備の男を牽制していてくれるかな。変態君は旧友との仲を深めていたまえ。もし手があくまで持ちこたえていたら僕が助けに行ってあげるよ」
一人で勝手に対戦相手の振り分けをおこなうハイマン。そんな思い通りに行くのかと相手を見やると、どうやらこちらが誰を相手するか決めるのを待っているかのような様子で、誰も切りかかってはこない。
「そうですね。強さについての見切りはさておき、妥当な組み合わせだと思います」
ビスカが了承の意を示す。
ハイマンは頷くと自らが相手と定めた大男に向かっていった。
なんか勝手に俺の相手はヘンリクに決まってしまっていた。まあ、どのみちヘンリクとは俺が戦おうと思っていたから別に構わないが、どうせなら一番強そうな戦斧の大男はビスカにあたらせて、大したことのなさそうなイケメン君には、同じくパッとしない槍と盾の標準装備をしている男と戦ってもらいたかった。その方が勝率も上がっただろうに、格好つけて無謀な戦いを挑んでしまうとは……。
「よう、クロン。俺さんの相手はおまえさんみたいだな」
向き合うなり、切り結びながらヘンリクが話しかけてくる。予想通りその太刀筋はヴァルナクほどのものではなく、何とか受けきることもできそうなものだった。
「ああ、俺が決めたわけではないが」
「そうかい。でも悪くない組み合わせだと思うぜ。強さ順に合わせて並べたわけだからねえ。もっとも、全部勝てる可能性もあれば全部負ける可能性もある組み合わせだがね」
ヘンリクの言葉に首をかしげる。強さの順番的にあっている?
切り合いながらクロンは疑念を浮かべる。
「おまえさんたちの中で強さ的にはクロンはまあ、三番目だろう。こっちも単純な強さなら俺さんが三番手だ」
「気に入らないな。ビスカならともかく、俺があの金髪よりも弱いというのか」
「あくまで単純な強さの話さ。俺さんだって、戦えば二番目に強いさ。もちろんおまえさんも場合によっちゃあ二番目か、あるいはあの嬢ちゃんにも勝てるかもしれない。これが実際に試合を見た中での俺さんの評価さ」
ん、ちょっと待て。ヘンリクは俺やビスカの試合を見ていたのか?
「俺さんたち個室持ちは外出の許可も取れるからね。闘技場での試合ももちろん見ることができるさ。君たち三人のことはしっかりと調べてある。その戦い方や強さもね」
ヘンリクはそう言いながら、時折フェイントを混ぜながら攻撃をしてくる。速さがそこまでではないから何とかかわし切れるが、絶妙なタイミングで、かつ俺の苦手なところをついてくるため、かなりやり辛い。単純な力は確かに三番手なのかもしれないが、総合力ではこいつが一番厄介なのではないかと思う。
「戦い方を知られているってのは厄介だな。これは俺が貧乏くじを引かされたのか」
「いやいや、たぶんおまえさんが一番マシな相手だと思うぜ。戦い方を知っていて上手い戦い方はできるが、実力的にはそっちに分があるんだからなあ」
「その言い草だと俺の地力はあんたよりも上ってことになるのか」
「まあ、そうなるねえ。もちろん地力だけじゃないところでは俺さんの方が圧倒的だけど」
確かにヘンリクの剣技にはヴァルナクのような怖さはない。正確な剣捌きではあるが、スピードとパワーともにそこまで脅威を感じるほどではなく正直受け手さえ間違えなければやられはしないと思う。だが、勝てる気もしない。反撃に移り辛い攻め手が続き、終始相手のペースで切り結んでいる感じがする。どうにかして打開策を見つけなければならないが、焦ると相手の思うつぼになりそうだ。
「一つ忠告しておくとクロン、おまえさんたちが勝つにはまずおまえさんが俺さんを手早く倒して他の二人に加勢するしかない。他の二人は一対一で勝つのはきびしいだろうからねえ。特に嬢ちゃんの方は」
ヘンリクの言葉に俺は言い返す。
「あっちのイケメンはともかくビスカならそうは思わないけどな。むしろとっとと片づけてこっちの加勢に来てほしいぐらいだ」
「それはちと無理難題だろ」
「そうでもないと思うけどな。あいつはどうやら戦闘民族らしいから、見た目とは裏腹にかなり強い」
「そんなの俺さんだって知ってるさ。試合全部見てるし。でもなぁ――」
ヘンリクはいったん攻め手を止め、距離を取る。
そして、視線を別の戦場へと移した。
「――あの嬢ちゃんの相手もタスニタ人なんだよなぁ」
俺もつられて視線を向けると、そこには壁面にたたきつけられてボロボロになりながらもかろうじて立ち上がるビスカの姿があった。
次話の掲載予定は2016年12月24日(土)のクリスマスイブです。
クリスマスイブなのに手帳の予定欄に「小説投稿」としか書いてないって、なんか虚しいですね(泣)
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