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第十四話 クロン、檻の中の平穏を保つ

第十四話です。

よろしくお願いします^^

 騒動から一夜明けた翌朝。

 檻の中には隅っこの方で身を寄せ合い、震えている三匹の子羊がいた。というか、フラドとその子分たちだった。


「あのぅ、そんなに怯えなくても殺したりしませんよ?」

「ひぃ……!?」


 ビスカの笑顔に対してフラドたちは表情を一層凍らせる。

 朝、意識を取り戻したフラドたちは、ビスカがタスニタ人であると聞いた瞬間から態度を一変させ、ひたすら怯え続けている。


「ちょっと、先輩。檻の中の雰囲気がよくないんですけど」

「俺に言われても知らない」


 ちなみにビスカは俺のことを先輩と呼ぶようになった。

 先に剣闘奴隷になったかららしい。それならそこの三人もそうなんじゃないかと思うのだが、ビスカは自分より弱い奴は先輩とは呼ばないそうだ。

 俺だってビスカよりは弱いかもしれないが、そこは戦ってみるまではわからないから、とりあえず先輩と呼ぶつもりらしい。


「そういえばおまえはいつ、試合なんだ?」

「たぶん今日だと思いますよ? そんなことを話していたのを聞きましたから」


 ビスカがそういうとタイミングよく警備兵が檻の前に立った。


「706番、試合だ。出ろ」


 呼ばれてビスカは立ち上がる。その表情に緊張の色はなく、むしろ楽しそうに笑みを浮かべていた。


「では先輩、行ってきますよ」

「ああ、戻ってこれるといいな」


 あの常人離れした力を見せ付けられた後となっては、まあ、普通に帰ってきそうだなと思うが。

 そして、檻からビスカが出て行ってしばらく経つと、フラドがか細い声で声をかけてきた。


「おい、クロン」

「ん、なんだ?」

「おまえ、よくあんな化け物と平気で会話できるな?」

「化け物? まあ、確かに強いらしいが……それ以外はただのお子様じゃないか」

「何? おまえはタスニタ人の恐ろしさを知らないのか?」


 フラドは恐る恐るといった面持ちで、いかにタスニタ人が恐ろしい生き物なのかを話し始めた。


 曰く、タスニタ人は戦った相手のことは何があろうと必ず殺すらしい。

 曰く、タスニタ人の多くは傭兵や盗賊になり、女子供だろうと容赦なく殺戮を行うらしい。

 曰く、タスニタ人は人を喰うらしい。

 曰く、タスニタ人の女性と同衾した男は翌日にはばらばらの死体になっているらしい。


 そしてその強さは並みのタスニタ人であっても普通の兵士数十人と同じくらいらしい。中には帝国の精鋭千人を一人で葬った者もいたようだ。また、すぐに戦いに走る野蛮な民族として大陸中で畏怖されている。過去にはタスニタ人の傭兵の一部隊によって国を滅ぼされたこともあるらしい。


「このままじゃ、今夜あたり、俺たちはあいつに喰われっちまう。助けてくれ」

「助けてと言われてもな」


 別にこいつらを助けてやる義理はないし、そのためにビスカとやり合うなんてのはまっぴらごめんだ。こんな狭い中であんな馬鹿力と戦ったらただでは済まない。


「わかった。じゃあこうしよう。今日からこの檻のリーダーはおまえだ。リーダーとなったおまえにはこの檻の中のもめ事を仲裁する義務が生じる」

「は……俺はリーダーなんてやらないぞ」

「そうはいかない。檻の中のリーダーは多数決で決まるものだ。オレたちは全員おまえをリーダーに推す!」


 子分二人もフラドに同意するように頷く。姑息な数の暴力だった。


「面倒な……じゃあ、俺の言うことには従ってもらうぞ」

「ああ、それは仕方ない。リーダーのいうことには従おう」


 ビスカがやってきた所為で何故か俺が檻の中の権力者になってしまった。面倒なことこの上ない。まあ、いざビスカとの対立が現実のものとなったら俺はこいつらを差し出してリーダーの役割は放棄するつもりだが。


「で、まずはどうすればいい?」


フラドが期待を込めた目で俺を見つめる。いい年したおっさんに熱い視線を向けられても微塵も嬉しくない。


「そうだな……それじゃあ――」


○○○


「先輩、彼らはいったいどうしてしまったんですか?」

「どうやらおまえに誠心誠意謝罪して、子分にしてほしいらしいぞ」

「えぇ……いらない……」


 ビスカは全く変わらぬ様子で檻の中へと戻ってきた。ということはバトルロワイヤルでは勝利したのだろう。まあ、あの強さがあれば普通に勝ってしまうだろうなとは思っていたが。そのおかげで俺はリーダーとしてこの檻の中の平穏を保たなければいけなくなった。そこで俺はフラドたちにビスカが帰ってきた場合はこうしろとあらかじめ指示を出しておいた。


 まず、ビスカが檻の中に帰ってきたと同時に全員で土下座をしてお迎えする。

 もしかしたらそのまま頭を踏みつぶされて死ぬかもしれんが、そうなったらそうなっただ。俺は知らん。

 そして、誠心誠意謝罪の言葉を述べた後、その強さに惚れたとか何とか言って子分にしてもらえるように全力で頼み込む。

 もしかしたら子分にした直後に死ねと命令されるかもしれんが、そうなったらそうなっただ。俺は知らん。

 あるいは拒否されて殺されるかもしれんが、それは俺にもどうしようもない。


 だが、正直なところビスカはこいつらのことはたぶん殺さないだろう。というか殺すならそもそも襲われた時に迎撃した段階で殺せるはずだ。それをしなかったということは、たぶん殺すつもりは本当にないのだろう。


「ビスカの姉御、どうか俺たちを子分にしてください!」


 フラドが土下座をしたまま額を地面にこすりつける。

 本人としては命がけの交渉なので、これでもかというくらいに懇願していく。対するビスカはどこかうっとうしげだ。


 ビスカは助けを求めるように俺に視線を向けてくる。


「いいじゃないか。子分にしてやれば」

「……完全に他人事ですね」

「便利に使ってやればいいじゃないか。なんでも言うことを聞くそうだぞ」


 俺がフラドたちに視線を向けると、彼らは大きく頷く。


「はい、もちろんです! 足の裏だって舐めて見せます!」

「それは絶対にやめてください。気持ち悪いです」


 ビスカは昨日のことを思い出したのか、軽く身震いをする。

 そして、じっと平伏したままのフラドたちを見て、ビスカはあきらめたようにため息をつく。


「……わかりましたよ。あなたたちを子分にします。そうですね……では今日から食事のたびに三分の一をわたしに上納してください。これがわたしの子分となった者の義務です」

「わかりました!」


 三人は再び額を地面にこすりつけて、ビスカの要求を快諾する。

 そういえば支給された朝飯を見てその量の少なさに驚愕していたからな。見かけによらずこいつは大飯ぐらいらしく、パン一切れと小ぶりの骨付き鶏肉と水だけのメニューでは全然足りないようだった。


 こうして、檻の中では奇妙な形で平穏が訪れることとなった。

 年端もいかぬ少女にへこへこしているおっさんの姿は滑稽だが、実力がものをいう剣闘奴隷の世界からしたら、特に不思議なことでもないのかもしれない。これが今の俺がいる世界なのだ。俺だって弱ければこうやって強者の機嫌をうかがわなければいけない日が来るだろうし、もし、闘技場で自分よりも強者と相見えてしまったら、へつらおうが命乞いしようがどうしようもない。そこに待つのは敗北と死だけだ。

 

 上納させた飯を上機嫌でほおばるビスカを眺めながら、俺は次の試合に思いを走らせる。次も問題なく勝つことができればいいが……。



次話の掲載予定は2016年12月18日(日)です。

そろそろ第一章の奴隷編は終盤に向かっていきます。


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