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第十三話 手錠をされた少女

第十三話です。

ついにセカンドヒロインの登場です!

よろしくお願いします!

「本日からこの檻の中の皆さんと暮らすことになりましたビスカと申します。よろしくお願いします」


 剣闘奴隷にしては妙に礼儀正しく少女はお辞儀をして見せた。栗色の髪のポニーテイルに丸っこい子犬のような鳶色の瞳が人懐っこさを感じさせる少女だった。

 一つ、気になることがあるとすれば、檻の中に入れられたにもかかわらず、何故か手に錠がはめられたままだということだ。俺やほかの奴隷はここに入れられると同時に錠は外されたというのに。


 この檻の剣闘奴隷たちは総じて寡黙な奴が多い。なので、丁寧なビスカの挨拶にも対して反応は示さず、ただ値踏みするような視線を向けるだけだった。

 

 ビスカもどう反応していいのかわからず苦笑にも似た表情を浮かべたまま佇んでいた。

 仕方がないので壁際に寄りかかっていた俺が声をかけてみる。


「なあ、あんた……」

「うわぁ! び、びっくりしました。そこにもいらっしゃったんですね」

「あ、いや、まあ……」

「すっごく影が薄いですね。わたし、気づきませんでした。すみません!」


 勢いよくしゃべりだすビスカに、俺は少々面食らう。


「別にそれはいいんだが……。手の錠は外さないのか?」

「ああこれは……なんか試合の時しか外してくれないらしいです」

「俺はそんなことはなかったが……?」

「まあ、わたしは訳アリなんで」


 ふーん、何か理由があるのか。


「あっそう」

「あれ、わけについては聞いてくれないんですか?」

「興味ない」

「えぇ……」


 とても残念そうな顔をされたが、別に興味はない。それにかわいそうだが、こいつはたぶんすぐにいなくなるだろうと思った。こんなひ弱そうな少女があのバトルロワイヤルを勝ち残れるとは思えない。それに俺に有益な情報を齎してくれるようにも思えなかった。


 その日の夜、ビスカは檻の隅で一人、丸くなって寝ていた。結局誰もビスカと話すことはなかったしあれ以来、俺も一人で思索にふけっていた。もっとも、結局のところ早く試合で勝ちを重ねて解放奴隷になるしかないという結論に達したが。


「おい、クロン」


 小声で俺を呼ぶ声がしたので振り返ると、そこにはフラドとその子分二人がいた。


「言っておくが、いただくのはリーダーであるオレからだからな」

「は……? 何が」

「とぼけんじゃねえよ。監視兵からの差し入れだよ」


 そういってフラドは眠っているビスカを指さす。


「……?」

「なんだ、わかんねえのか。あの小娘は俺たち慰みモノとしてここに放り込まれたんだよ」

「なに……!?」


 ということはビスカが言っていた訳アリとはこのことだったのか。

 手が手錠で拘束されたままだったのは、こいつらに襲われているときに抵抗できないようにとかそういうことだったのか。

 でも、そのことを知りながらここに放りこまれたとしたら、ビスカのあの様子は不自然な気もする。

 そんな絶望的なことが待ち受けていると知っていたら、普通絶望感に満ちたような表情をしていたり、俺たちにも恐怖や侮蔑交じりの視線を向けたりするものだろう。だが、そんな様子は一切なかった。

 となると、ビスカ本人にはそんな事情は知らされていないということになる。でもビスカは自分が手錠をされたままという状況について訳を知っているようだったが……。そうなるとビスカの手錠のわけとはいったい……。


 もやもやした疑問を解消できずにいる俺はとりあえず静観を決め、加わらないという意思をフラドに示した。

 

「おまえ、もしかして女に興味がないのか?」

「そんなことはないが……」

「まさか男の方に興味があるとかではないよな……?」

「それはない!」


 引いたような顔をするフラドに対して全力で否定する。そういえばエルドは今頃何をしているだろうか。このネタから連想するというのもあんまりな気もするが、ふと気になった。今日も豚伯爵に突かれているのだろうか。それと、メルカは無事だったろうか。結局メルカの安否については何も情報を得られないまま屋敷を追放されたので、多少気になってはいるのだ。それと……リスタに対する恨みはまだ、心の奥底に静かに燻っている。いつかきっと復讐してやる。そのためにもまずはここ抜け出して、記憶を取り戻さなくては……。


 そんなことを思っているとフラドとその子分は静かにビスカのもとへと歩み寄っていた。ビスカは規則正しく肩を上下させて寝息を立てている。


「お前ら、こいつの手足を押さえておけ」


 フラドが子分に命令すると、子分その一はビスカの錠がはめられた手を押さえ、子分その二はビスカの細い足をがっしりと押さえ付けた。仰向けに転がされてもビスカは暢気に寝息を立てている。どうやら、とんでもなく寝つきはいいらしい。

 

 フラドは馬乗りになると、すーすー寝息をこぼしているビスカに顔を近づけていき、柔らかそうな頬に舌を這わせる。と同時に小ぶりなビスカの胸のあたりへとその手を伸ばしていった。そして力任せに揉みしだく。


「……ん、……なに?」


 これには、さすがのビスカも目を覚ます。

 始めは寝ぼけたような反応を見せたビスカだが、徐々に現状を理解できた来たのか、驚きと羞恥の表情を浮かべる。


「ちょ、なにしてるんですか! やめてくだ――んぅ!」

「ちょっと黙ってろ」


 抗議の叫びをあげようとしたビスカの口をフラドが片手でふさぐ。そして耳元に顔を寄せてささやきかける。「静かにしてねえと殺すぞ」

 ビスタはこくりと頷いた。

 それを見て、もう押さえておく必要はないと判断したフラドはビスカの口元から手を放し、今度はその引き結ばれた唇へと顔を近づけていく。

 しかし、次の瞬間フラドは思い切り後方へと吹き飛ばされた。


 壁に吹き飛ばされたフラドは、ビスカの手を拘束していた子分その一と共に地面に転がり、伸びてしまっていた。


 今まで傍観していた俺がビスカを助けた、というわけではない。俺も突然の出来事に目を白黒させていた。信じられない光景が目の前で起きたのだ。


 ビスカは手を押さえつけられたまま強引に引き戻して、フラドを殴った。そのまま子分その一ごとフラドを壁まで吹き飛ばしたのだ。そして上体を起こしたビスタは足を拘束したまま呆然としていた子分その二をつかみ、放り投げた。こちらも別の壁に激突して力なく地面に倒れ伏す。……って、なんだそれは。


「ふぅ……まったく。で、あなたもわたしに手を出すつもりでしたか?」


 ビスカは壁にもたれかかってことの成り行きを静観していた俺の方へと視線を向ける。


「いや、興味ない」

「え……ということはもしかして、男に興味が」

「そのやり取りはもう飽きた。普通に女性に興味はあるが、おまえには興味がない」

「それって、何気にひどい言いぐさですよね」


 ビスカが頬を膨らませる。


「というか、襲うつもりがなかったなら、わたしが襲われてるのに何で助けてくれなかったんです?」

「必要があったようには感じなかったが?」

「それは結果論ですよね?」


 それはそうだが、結果はすべてだ。下手に手を出していたら、寝起きのこいつに勘違いされて俺も殴り飛ばされていたかもしれないし、やはり離れたところで静観していたのは正解だったと思う。


「それにしても、こんなところなのになかなか寝つきがイイらしいな」


 話を逸らそうと俺は適当な方向へと話を振った。


「そうなんです。実はわたし、一度寝たらなかなか起きないんですよね。だから聞きたいんですけど、起きるまでの間、わたしはこいつらに何されてました? だいたいの予想はつきますけど……」

「取り合えず胸のあたりをもみしだかれていたな。それから顔とか首のあたりも舐められてた」

「うげ……」


 ビスカは嫌悪感をあらわにし、衣服の乱れを直した後、首のあたりや頬のあたりに手をやる。ますます険しい表情になる。


「濡れてる……」

「それはそこで伸びている男の唾液だな」

「わざわざ言わなくていいです!」


 ビスカは手についたフラドの唾液に恐る恐る顔を近づけると、やめればいいのに何故か匂いを嗅いでいた。案の定顔をしかめるビスタ。


「あの、水くれませんか」

「悪いがそんなものはない」

「えぇ……」


 ビスカが泣きそうな顔になる。


「朝飯の時に水が配られるからそれまで待つしかないな」

「そんなぁ……最悪です」


 確かにフラドの唾液まみれの顔で朝まで待たなければいけないというのは地獄だろう。気持ち悪すぎる。しかし、それだけで済んだと考えればまだましかもしれない。そうだ、こいつはあの時いったい何をしたんだ。どう見ても少女の力じゃなかったぞ、あれは。


「そういえばおまえ、こいつらに何をしたんだ?」


 ただ殴られたとは思えないくらいに吹っ飛んでいたし、子分その二についてもビスカの細腕からは考えたれないくらい勢いよく投げ飛ばされていた。もしかして魔法とか使っていたのか。俺はまだ実際に魔法というものを見たことはないが、メルカは草刈りに使っていたと言っていたし、実在していることは確かだ。


「ただ殴って、放り投げただけですよ?」

「魔法で強化とか、してたのか?」

「いいえ、わたし、魔法は使えないですよ」

「いや、おまえのその細腕で、あいつらの巨体を吹き飛ばせるような力が出せるわけないだろう」

「出せますよ。だってわたし、タスニタ人ですから」

「は……?」


 タスニタ人?


「だから、手錠も試合の時以外は外してもらえないんです。もっとも、手錠されていてもそんなに不便はないですけどね。あ、背中がかゆい時は結構困りますが」

「……すまんが、タスニタ人ってなんだ? 普通の人間とは違うのか?」

「えぇ……。大陸の人間でタスニタ人を知らないんですか?」


 どうやらタスニタ人というのは誰でも知っている一般教養レベル知識らしいが、残念ながら俺は記憶喪失中の身だ。常識には疎い。

 記憶喪失であることなどを軽く話すと、ビスカはタスニタ人というものがどういうものなのか簡単に説明してくれた。


 曰く、大陸最強の戦闘民族であること。

 曰く、大陸中に散らばっていて定住地を持たず、その数はあまり多くないとのこと。

 曰く、タスニタ人は野蛮であると大陸中から嫌われているとのこと。

 曰く、タスニタ人の女性の胸が小さいのはそういう仕様であるとのこと。


 最後の情報は正直いらなかったが、ビスカは自分の胸を気にしながら、民族的な特徴だからしょうがないんです、と悲し気に自己弁護していた。


「ちなみにタスニタ人は強いですけど、集団行動を好まないため、よく単独で行動しているときに奴隷狩りの罠に嵌まって奴隷にされます」

「お前もその一人ってわけか」

「……恥ずかしながら。でも別にわたしは集団行動が苦手というわけではないんですよ?」

 

 確かに人との関わり合いが苦手という印象はない。

 強いというのもさっきのフラドたちのやられようを見ると納得だが、それでも奴隷狩りに捕まるということは、まあ、いくら強いといっても一人では限界があるというか。

 それでも一対一で戦ったら、あるいはこの前戦った将軍よりも厄介なのではないかという危惧がある。


 どうか闘技場にいる間はこいつと戦うことがないようにと祈るばかりだった。

 




次話の掲載予定は2016年12月17日(土)の22時です。


よろしければ、ブクマ登録、感想等、よろしくお願いします^^

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