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第十話 闘技場に紛れ込んだ怪物

第十話です。よろしくお願いします。

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 と同時に上がる雄叫びや悲鳴。

 闘技場中央では早くも鮮血が舞い、何人かが地面に倒れ伏す。

 いずれも、いきなりの開始に心づもりの整っていなかった奴が、開始と同時に斬りかかられて、やられていた。

 俺はヘンリクの忠告通り、壁際に身を寄せていたため難を逃れたが、すでに五、六人が地面を這っている。攻撃を仕掛けたやつが、そのまま地面にのたうち回る奴隷に止めを刺していく。

 その光景を目の当たりにした、戦いの素人らしい奴隷が半狂乱になり近くの奴隷に斬りかかって、次第に乱戦の様相を呈していく。瞬く間に闘技場中央では無秩序な殺し合いが、広がっていった。


 そんな中、乱戦から距離を置くものも数人いた。いずれも最初にいたときに強いだろうと思っていた奴らだ。そのうちの一人、一番近くにいたやつがこちらに向かって歩いてきた。その手には剣が握られている。


「あえて渦中に飛び込まない状況判断とその落ち着き。私と同じく戦場に身を置いてきたものと判断するが?」

「残念だがこれはとある先輩から忠告をもらっただけさ。俺の考えじゃない」

「なるほど。それはつまり、君自身は戦場に身を置いていたわけではないということかな」

「さあな」


 男が剣を構える。どうやら俺を相手に見定めたらしい。堂に入った構えからかなりの腕だと判断できる。

 周囲を一瞥して、この男以外に俺に向かってくるものがいないことを確認すると、こちらも槍を構える。正直槍での戦い方なんてわからないが、とにかくリーチを生かして剣の間合いに入られないように気を付ければ、そうそうやられたりはしないだろう。

 こちらから突きにかからず、守勢に入っていると、相手も無理に攻めては来ず硬直状態になる。


「どうした? 槍の方が有利なのに攻めて来ぬのか?」

「こうしていれば負けはしないからな」

「確かに槍は正面の敵に対しては強い。だが、後ろを気にしなくてもよいのか?」


 その言葉に一瞬気を取られ、俺は背後を確認してしまう。

 後ろから攻めてくるものは、やはりいない。

 すぐに正面に視線を戻すが、相手はこちらの一瞬のスキをついて槍先を躱しつつ、距離を詰めてきた。瞬く間に間合いに入られてしまう。

 男の振り下ろす剣に対して、慌てて槍を引き戻して防ぐ。

 金属のぶつかる音が響き、顔の少し手前で刃が止まる。あと少し防ぐのが遅れていたら真っ二つに切り裂かれていたかもしれない。


「間合いはとった。これでそちらに勝ち目はないぞ」


 武器同士で競り合いをしながら男が言う。

 男のブラフに嵌まり、俺は槍の間合いを失った。

 ここまで接近されてしまうと、槍では小回りの利く剣に対応することができない。もはや槍の優位性は失われた。

 ――なので、俺は槍を手放した。


「なに!?」


 俺が体を逸らし、いきなり力を抜いて槍を手放したため、男は一瞬バランスを崩す。そこですかさず俺は男の下あごに拳を叩き込んだ。

 男は地面に倒れたまま痙攣している。


 勝てた。

 それも意外とあっさり。


 敵の簡単なブラフに嵌められはしたものの、体の動き自体は相当戦い慣れしているような感じだった。ほとんど考えることなく、反射的に武器を手放したり、拳で反撃をしていた。そのことから、記憶を失う前はどうやら自分は戦いの中に身を置いていた人間だったのではないかと考える。


「うれしい誤算だ。これなら生き残れるかもしれない」


 それなりの手練れに思えた敵を難なく倒せたことでやや安堵する。加えて当初の予定通り剣を手に入れることもできた。これであとは中央で戦っている奴らが目減りして来たら参戦して、奇襲しつつ、数を減らしていこう。


 そう思っていた矢先、闘技場中央で異変が起こる。いや、気づいた時にはすでに起こっていたというべきか。

 俺と同じく壁側に寄り、乱戦を避けていた奴以外、中央で戦っていた奴が一人を除き全滅していたのだ。

 中央に立つただ一人の男はがっしりとした体躯で、いたって普通の体つきである俺と比べると二回りくらいでかい。丸太のように太い両手に剣を持ち、返り血に染まった体はどう猛さを一層引き立てていた。


 あんな奴いたか。というか、俺が男とやり取りしていた数分の間に何が起こったんだ?

 

 何が起こったかについては、中央の惨状を見る限りあの大男が乱戦を制したという一言に尽きるだろう。ただ、あまりにも早すぎる。そして、あの大男が醸し出している雰囲気はどう見てもただの奴隷ではない。


 俺以外にも壁際にいた男たちはそろって驚愕の表情を浮かべ、呆然と立ち尽くしていた。


 試合が一つの区切りを迎えたと思われた。

 すると大男が剣を掲げて声を張り上げる。


「儂は、今は亡きミスリク王国の将軍、ヴァルナクである。このような場で力を振るうのは不本意なれど、仕方あるまい。遠慮はいらん。其方ら全員でかかってこい」


 ヴァルナクは自分以外の者にまとめてかかってこいと挑発した。もっとも壁際で様子を見ていた全員でかかっても勝てるのか疑問に思える。それだけヴァルナクは他の奴らとは別格の雰囲気を漂わせていた。

 

 俺以外の生き残っていた四人は目くばせし合うとお互いに頷き、同時に徐々に距離を詰めていく。

 実際には近くの者が俺にも視線を送っていたが、普通に無視した。直感だが、今一斉にかかっていっても勝てる気がしなかった。それなら、他の奴が戦っているときに少しでもヴァルナクの強さを計った方がよいと判断していた。


 四人が距離を詰めると一斉に斬りかかる。

 ほぼ同時の斬り込みに思えたが、ヴァルナクは一瞬で各人の剣速の違いを見抜き、早く到達する順に二つたたき落とし、残り二撃は紙一重で躱して見せた。巨体に見合わぬ回避力の高さに驚く。だが、実際に斬りかかった者たちの驚愕は俺のそれとは比較にならない。誰一人、剣をかすらせることができなかった事態に、一瞬戸惑ってしまった者が、ヴァルナクに容赦なく斬り捨てられ、残る三人は思い思いに反撃をするが、一撃目とは違ってタイミングもバラバラだった。ヴァルナクは一撃躱す事に一人ずつ斬り伏せていき、わずか四太刀の間に全員が殺されてしまった。

 

「やはり手ごたえがないのお。三十年、戦場に身を置いてきた儂に勝てる者がこんなところにおるとは、はなから期待などしておらんが」


 ヴァルナクは手にした剣を空振りし、付着した血を払うと俺の方へと向き直る。


「貴様は多少はやりそうだが……果たして何合持つか」


 つまらなそうな目をした怪物が、呆然と立ち尽くす俺の方へと歩み寄ってきた。

 俺は剣を腰に備え、冷静に槍を構える。


 闘技場の勝者を決める最後の戦いが今、始まる。



次話の掲載予定は2016年12月11日(日)の22時です。

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