第一章 Kaguya.T
2016年6月12日 宵月
朝から忍さんと未来の俺は車で東京へ出かけて行った。
母と2人でブランチを食した後、4階の月読写真研究所に降りた。
これまで、商売上、守秘義務のある大事な写真もあるからとあまり立ち寄らせてもらえなかったフロアだ。
今思えば、万一にも時間跳躍しないための刷り込みだったと解る。
「部屋の奥には、時間跳躍用の写真もかなり保管してるのよ。」
そう言って母は厳重なセキュリティーが施されている扉を解除した。
部屋には母の代表作である「birth」と名付けられた満月の写真が大きなパネルにして飾ってあった。
「それ、1998年6月10日の満月よ♪」
紛れもない、俺の生まれた日の月だ。
「貴方を生んだ日、とても素敵な満月だったから思わず病院の窓から撮ったの。確かに綺麗よね、自分でも惚れ惚れするわ。繋時さんがね、『こんな素晴らしい写真を世に出さないなんて、ダメだ!』って言ってくれたの。そして、その写真がきっかけとなり『Kaguya.T』というフォトグラファーが誕生した。Tは時司でもなく、月詠でもない…TravelerのT。ストレンジャーとトラベラーを意味しているの。旅人のTね♪だから『Kaguya.T』は、わたくしと貴方のことなのよ。」
「なんで、顔出しNGにしてんの?母さん、美人やからもっと売れるんちゃうん?」
「あら、ありがとう♪でも、わたくしの過去って詮索されたら困るでしょ。この時代の人間じゃないし、幼少の頃が存在しないじゃない。マスコミはそういう余計な詮索が好きでしょ。でも一番の理由は未来にわたくしの存在が知れるのが怖いのよ。残った2体がどうなったかも判らないし、追手が来ないとは断言出来ないから…。それに、もうわかるでしょうけど、繋時さんが収集していた写真って能力者と思われる存在が撮った写真なの。もちろん、わたくしが撮った写真もここに含まれているわ。30歳まで多くの写真を撮ってきたの。備えあれば憂いなしってやつよ♪わたくしにとって、貴方の為に費やした時間は決して苦じゃ無かったわ。ただ……ごめんなさいね。幼い頃からほったらかしにしてしまって。」
「もうええよ。全部わかる時が来たんやから。爺ちゃんに日向、ほんで幸之助もおったし。それよりも、母さんと父さんの出会いを教えてくれへん?」
「ホントに普通なのよ♪」
そして、母は父と初めて会った日のことを俺に語り始めた。
この作品はフィクションです。実在の人物や団体、事件などとは関係ありません。