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時にはダイブ-photraveler-  作者: 沢岸ユイト
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第一章 既定事象ーDefault Eventー

2016年6月11日 弓張月



 急に生き別れた双子の兄弟ができたような…そう、朝から目前に俺がいる。

既に1階店舗へ出かけた祖父を除いて、母と俺、そして双子の兄貴、もとい10日後の俺の3人で遅い朝食を摂っている。


「オマエ、今日どうすんの?」

俺は未来の自分に尋ねる。


「あ~、どうしよかな…と言いたいとこなんやけど、11時から黒井さん、忍さんと4Fでミーティングやねん。オマエは今日そのムシャクシャした気持ちを抑えるために、日向とバイクでデートや。これはデフォ・イベや。既定事象、Default Eventの意味な!」


 俺と日向の関係は微妙だ。もちろん、日向のことは大好きだ。可愛いいし、性格いいし、気心も知れている。ただ、一緒にいるのが当たり前で、改めて付き合おうとかの告白はお互いしたことは無い。自然と公認の2人、それが俺と日向だ。


 既定事象デフォルトイベントやと、コイツ偉そうに余裕かましやがって〜なんかムカつく!


「ほら日向から、電話やで~。」


すると、本当に俺の携帯が鳴った。もちろん、相手は日向からである。


「もしもし、日向。おはよう。どうしたん?」


「お父さんが、ええ天気やから旅人にどっか連れてってもらえって言うから…。今日、なんか予定あった?」


恥ずかしそうに聞いてくる日向。


「いや、俺も日向に電話しようと思ってたんや。ええ天気やし、琵琶湖でも行こ。11時にバイクで迎えに行くわ。ほな、後で!」


ニタニタと笑顔でこちらを見る、未来の俺に尋ねる。


「なぁ、それで今日の俺の予定はどうなるん?」


「そんなん、自分で考えろ!オマエの好きにしたらええやんか。悪いけど、暫く服貸してな…って俺の服でもあるんやけど。」


「あ~、どうぞ。母さんは、いつまでいんの?」


「月曜に東京に戻るつもりよ♪」


「そうか、ほな日向と出かけてくる。夕方には戻る。」


俺はそう言って、部屋の革ジャンを取り、1階裏口を出て自慢の愛車ハーレーダビットソン・ソフテイルブレイクアウトに跨る。高校生にはもったいないほど高価なバイクだ。しかし、祖父はどうせ買うなら下取りの高価なハーレーにしろと、16歳になりすぐに免許を取りに行かされた。これも古美術商の性なのか…⁉


 まずは日向を迎えに行く。

エンジン音でわかったのだろう。道場に着くと、すぐに日向は出てきた。

「琵琶湖行く前に本能寺に寄ってええ?」


「うん。お墓参り行こう!」


 頷いて日向が後ろに跨ったのを確認し、出発した。道場のある聖護院から菩提寺である本能寺までは10分もかからない。15分後には父の墓前にいた。花が添えられている。きっと母が来ていたのだろう。昨日あった出来事を想いながら父に懐中時計を無事に母に届けたことを報告した。隣で日向も何か報告しているようだ。


「ありがとう。行こうか。」


 その後、大原を抜け琵琶湖大橋を渡り、長浜まで湖岸道路を走った。梅雨時の晴れ間ということで、それなりに観光客も多い。まずは昼飯をということで名店、鳥喜多へ。相変わらずの人気店で列が出来ていたが、幸い15分ほど並んで入店。日向と二人で親子丼2つとかしわ鍋を1つ注文する。卵の味が濃厚で、4時間かけて採られただしの味は絶品だ。とても旨い!


 昼食を堪能した後は黒壁スクエアと呼ばれる江戸時代から明治時代の黒漆喰の和風建築を活用した美術館、ギャラリー、ガラス工房等の文化施設、レストラン、カフェ等が並ぶエリアを散策した。


「旅人、これ誕生日プレゼント。昨日渡しそびれてん。前、欲しいって言うてたやろ。」


照れながら日向がくれたのはVICTORINOXのマルチツールだった。昔で言う十得ナイフと呼ばれる多機能ナイフだ。

とても17歳の女の子が誕生日に渡すプレゼントとは思えないセンスに笑ってしまいそうになる。でも日向らしい。きっと色々悩んで買ってくれたんだろう。


「ありがとう、日向。大事にするわ。」


長浜で過ごしたデートはただ普通に楽しくて、オーバーヒート寸前の心を癒してくれるようだった。



 日向を送り届け、家に戻ったのは18時を過ぎていた。


「楽しかったやろ?俺もそうやったし。今日は日向に感謝せなアカンな。プレゼント、何かと便利やぞ。」


頷きながら未来の俺が言った。


「うん、久しぶりに長浜まで行ってきた…って既定事象デフォイベやから全部知ってんにゃろ。なんか不思議な気分や。」


「ホンマは俺も自分自身ともっと話がしてみたいんやで。こんな機会も無いしな…。けど、これから暫くの記憶があるやんか。既定事象デフォイベを伝えても、伝えなくても、たぶん何も変わることはない。でも嫌やろ?自分の行動を自分で決められてないみたいで。俺は明日から忍さんと東京に行くことになった。19日にはちゃんと帰ってくるから。心配すんな。これもデフォ・イベになる。」


 俺よりも10日大人な俺が笑ってそう言った。気を使ってくれたコイツが少し好きになった、でもコイツは俺だ。




この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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