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時にはダイブ-photraveler-  作者: 沢岸ユイト
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第一章 母の正体

今より科学技術が更に発達した少し先の未来、これまで倫理的に禁止されていた遺伝子操作したデザイナーベビーの生産が出生率の低下を理由に始まっているらしい。元々は受精卵の遺伝子操作で遺伝的疾病を回避することを目的に研究されてきたが、「より優れた子供を」「思いどおりの子供を」という欲求に従い、外見的特長や知力・体力に関する遺伝子操作も行われるようになった。例えば、それはルックス、知能、運動神経、髪の色から目の色まで、ある程度までなら好みの子供をデザイン可能な未来技術が完成していた。

そんな中、ある遺伝子解析グループがどうやら時空を超える能力を持つ遺伝子の発見に成功したらしい。しかし政府はこの発見が歴史を覆すほど危険な存在となるかも知れないことを危惧して研究を即時に中止し、その解析データの廃棄命令を通達した。そりゃそうだ。そんな能力を持った人間が歴史を改竄すれば、大変なことになる。


「それでもね。科学者はその欲望を止められなかったの。そう、タイムトラベラーの製造という誘惑に負けてしまったのね。政府に黙ってその遺伝子をプログラムしたデザイナーベビーを3体造ってしまったの。TーA、TーB、そしてTーCと名付けられた存在がわたくしよ。もちろん、直ぐにその存在は政府にバレてわたくし達はその監視下に置かれたわ。毎日が実験扱いされるモルモットとしてね。」


母が、美人で優秀なのは遺伝子操作の影響だったわけだ。しかし、淡々と自分の単位を体で表わし、造られたと冷静に話す母が痛々しく見えてしまう。


「ただね。その能力の発動要因が長い間わからなかったの。どうすれば時空跳躍が可能なのか。そして10年も過ぎると実験は失敗だったと誰もが認識し始めたわ。すると、わたくしたちへの監視も比較的緩くなっていったのね。2年ほどはそれなりに人間らしい生活を過ごせたわ。」


冷たく話す母のあまりの内容に聞き入ってしまっていた。


「そんなある日、研究の一環としてヒストリーミュージアムに連れて行かれたの。昔の写真と呼ばれる物を見て時空跳躍のイメージを深めるためだったらしいんだけど、3人の中の1人の少女がある写真に惹きつけられた。惹きつけられた理由は、その写真に写っていた人物が自分に瓜二つだったの。恐る恐るその写真に触れた少女、つまりわたくしは突然の閃光が襲い、眩い光に包まれたわ。そして光が消えるとわたくしは知らない場所にいた。」


その時を思い出すのか、母は遠くをみるような目でゆっくり話を進めた。


「もちろん、いきなり知らない場所に飛ばされたわたくしも驚いたわ。幸い語学力は遺伝子操作のおかげで堪能だったから日本語も既に習得していたの。11歳と言っても、知能も優秀だったからある程度の状況把握も出来たわ。時空跳躍してしまったと予想出来た。でも帰る術もわからない。どういう方法で時空を超えたのかも未だ理解してない。それに身寄りなんていないでしょ。困惑しておろおろしていた…そんな時に助けてくれたのが、旅人(トラベラー)と名乗る男だった。彼は右も左も分からない異邦人だったわたくしに優しく声をかけてくれたのよ。」


衝撃の展開だが…次のセリフは予想出来た。


「そうよ、今よりもう少し大人になった貴方。もちろん当時、まさか彼が自分の息子だなんて想像もしなかったわ。そして、貴方はわたくしにこう言ったの。『お嬢さん、ようこそ過去の世界へ。驚いただろうけど、もう大丈夫。君がこの時代に来れたことは僥倖なんだ。きっと神様が素敵な人生を君に与えたかったんだよ♪』って。ずっと実験体として扱われて来たわたくしにそんな優しい言葉をかけてもらったこと無かったから、初めて号泣してしまったわ。

『僕も少し先の未来から来たから知っていたんだ。今日1989年7月12日、ここ東京ディズニーランドのスター・ツアーズに君が現れることを。君が遠い未来で古い写真を見てここに来ることを未来の君に聞いていたからね。僕はトラベラー、君はストレンジャーなんだ。では、二人の出逢いを記念して、写真を撮っておこう!』

そう少し困惑した笑顔で貴方は写真を撮ってくれたわ。翌日、トラベラーが現像してくれたその写真は紛れもなく、わたくしがミュージアムで触れた写真と同じものだった。帰り方を知らない私がStranger、そしてその時代に立ち寄っただけの貴方はTraveler、今思い出してもかなり巧いこと言ってる。なかなかセンスあるわよ♪だから私は今も自称ストレンジャーなのよ、うふ。」


涙交じりにウインクをする母。



突然のダイブで脅えていた幼い母をホテルに宿泊させた未来の俺は翌朝、京都まで新幹線に乗り、時司家へ連れ帰ったそうだ。全ては事前に話がついていたのであろう、日向の祖父母、つまりは先生のご両親に母を養子として迎えてもらったのだそうだ。既に戸籍すら特別に用意されていたのだから…。


戸籍上の名前は香久夜・キャサリン・時司、以降は先生の妹として育てられた。



「昔、僕が警視庁警備部に勤務していた頃にトラベラーにはある事件で少し関わったことがあってな。もちろん、その人物が旅人やとわかるのはずっと後の話なんやけど…今思うと、それも偶然じゃないんやろうけど。そやから未来から来たって話も何故か信じることが出来たんや。ストレンジャーとはその時に養女の件を頼まれた。香久夜、あ、キャシーの戸籍に関しても上層部は既に用意していたし、簡単に申請が下りたんや。翌年には僕も時対課設立のためにNIIIへ出向させられたしな。両親にはある事件で亡くなった方の娘さんを預かって欲しいと頼んだら、何も聞かず喜んで養子縁組してくれた。ホンマは娘が欲しかったらしいんやて。」


先生の昔話は初めて聞いた。


「TーCという呼称をTokitsukasa・Cathrineにしてくれたのよ。ただ時司のお父様、お母様は娘にはどうしても『かぐや』と名付けたかったんですって、だからわたくしの名前は香久夜・Catherine・時司となったの。ちなみに剣太郎さんの由来も童話の桃太郎、浦島太郎、金太郎みたいに太郎をつけたかったからなんですって。道場主の長男なんだから剣太郎っていい名前だろうって生前、時司のお父様はよく自慢してらっしゃったわ。」


「爺ちゃんはもちろん、その話知ってたんだよね。」


どこまでが未来から計算されているのかが、少し怖くなった。自分の歩む道が誰かのレール、まあ、この場合そのレールを敷いているのは俺なんだが…。なんだか自分が支配されているようで、怖かった。


「時司のご両親は何も知らなかったはずよ。但し、こちらのお義父様はずっとよくご存知のようよ。もちろん繋時けいじさんもね。そして私達の中で真相を一番把握しているのは、繋時(けいじ)さんだったと思っているわ。」


「キャシー、意地悪いこと言うな。オマエ達は恋愛じゃねぇか。オマエをウチに連れて来たのは繋時けいじやろ。」


「だから余計に気になってるの。わたくしは確かに繋時けいじさんを愛していたわ。でも、彼は未来を紡ぐためにわたくしを選んだんじゃないかと疑心に囚われることがあるのよ。」


これは恐らくは母の本音だ。きっと母もその敷かれたレールという考えにずっと苛まされて来ているのだろう。

しかし俺は思い出していた。7年前のあの日、父が遺したセリフを。

そして貰ったその日に亡くなったため、終には打ち明けられなかったペンダントを外し、蓋を開けた。時計は今も正確に時を刻んでいる。彫られた文字を見る。当時は意味を持たなかった下段の文字列……Date、Month、Year、やはり間違いない。


「母さん、大丈夫や。父さんはホンマに母さんのこと愛してたよ。これ、7年前に病院で父さんに貰った最期のプレゼント。でも、これ母さんのやわ。只の製造番号やと思ってたけど、今解った…その番号、今日の日付や。」


俺はそのペンダントを母の首に優しくかけた。

裏に彫られた文字、そこにはこう書かれている。


Remember! I really love you beyond the time.

No.D10M06Y16


刻み込まれた文字を見て号泣する母の背中を抱きしめながら、改めて父の偉大さを知った。

7年前に父が語った、時を超えても守りたいもの…この懐中時計に込められたメッセージ…これは母への愛だ。父さん、カッコエエやん!


なんともセンチメンタルで気まずい空気に誰もが沈黙する中、新たに階段を下りてくる音がした。


この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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