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時にはダイブ-photraveler-  作者: 沢岸ユイト
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第一章 7年目の真実 

これより本編始まります。宜しくお願い致します。

2016年6月10日 夕月



 あれから7年。今日、俺は18歳になった。父の予言の日が近づいていることなどすっかり忘れていた…


 「旅人たびと、今日の進路相談どうやった?」


学校帰り、永観堂から天王町に至る通学路で親友の佐山幸之助が聞いてきた。


「高橋には勿体無いって言われたけど、卒業後には旅に出ますって言うといた。」


「マジで!ホンマに言うたんや。笑ける。高橋、怒っとったやろ?」


 いや、学年主任の高橋は逆に俺の将来を心配していた。俺の成績はそこそこ悪くない。いや寧ろ、かなり良い。母の母国語である英語はネイティブなみだ。数学、や物理、化学の理系分野は学年ほぼトップ、古文、漢文含めて国語、歴史も平均よりもずば抜けて出来るのだが…。


「祖父が文系の大学行って遊ぶくらいやったら、旅に出ろ。それが修行やって言うてますって言うたら、呆れてたわ。幸之助はええよな。進路も何も考えんでええし。」


俺は親友を恨めしく見つめた。代々続く歌舞伎界の跡継ぎである幸之助も最近は二代目市村清衛門いちむらせいえもんとして舞台で活躍し始めている。


「しかし、旅人の家も変わってるよな。大学行かんでええし、旅に出ろって…。確かに学者目指すわけでもないけどな。キャシーさんは何か言うたはるん?」



 俺、月読旅人つくよみたびとは高校3年生になり、京都唯一の男子校となった私立清流学園高校に通っている。私立清流学園は中高一貫教育の京都ではそれなりに裕福な子息が通うことで有名なボンボン学校だ。

 実家は祇園にある古美術商「月詠堂つくよみどう」を営んでいる。父、繋時けいじ亡き後も祖父の時守ときもりは創業者としての手腕を発揮し、今では煩い京都古美術商界でも確固たる地位を築き上げた77歳の重鎮としてその名を馳せている。


中学入学以来、祖父より家業の手伝いと称し美術と歴史だけは徹底的に教え込まれてきたので、古美術に関してもこの若さでそれなりの目利きができると自負している。


 母、キャサリン.T.月読(39歳)は自称ストレンジャーとして全国をさすらう写真家だが、『Kaguya.T』というその活動名は業界では知らぬ者はいない覆面フォトグラファーである。

2001年に発表した満月の写真は『Kaguya.T』というミステリアスなネーミングと相まり、大ブレイクを果たした。以降、月をモチーフにした作品はCMにも頻繁に起用され、その謎の正体も含めて今や世界的な売れっ子写真家だ。


 幼馴染の幸之助とはお互いクラブに属することもなく、今だに何でも話し合える親友だ。芸能一家とは言え、厳格な佐山家では武道の立ち居振る舞いは芸にも通じるということで、同じく幼馴染である日向の実家、時司神道流ときつかさしんどうりゅう居合術道場に通う同門でもある。

尤も芸事に重きを置く佐山家では道場に通うのは週に1度であり、月曜から金曜までの毎日2時間みっちり稽古通いして来た旅人の腕前とは既に歴然の差がついている。


 「まあ、別に大学行ってやりたいことがある訳でも無いし、勉強せえってうるさく言われる家庭でなくて助かるんやけど。お袋からは、アナタの人生なんだから自分で決めるべきことよ♪ってメールが来た。」


「さすが、自称ストレンジャー!」


「そこ!茶化すとかやないし…そやけど、我ながらよう思うわ。こんな放任主義の片親で、しかも母親はストレンジャーで、俺よう根性ひねくれへんかったなぁと。」


「そやな、旅人は真っ直ぐやから。お爺ちゃんも変わってるけど、ええ人やしな。俺、羨ましいもん。なかなか、あんなお爺ちゃんいいひんで。」


 確かに祖父はあの年齢で友人のように気さくな人物だ。美術や歴史に飽きなかったのも祖父が興味深く教えてくれたからに他ならない。


 そんな、想いに更けてる途中、ポケットの中で携帯が震える。画面には時司日向(ときつかさひなた)の名前が表示される。


「もしもし、日向?どうした。」


「旅人、今どの辺?」


「今、鹿ヶ谷通り、泉屋博古館(せんおくはくこかん)がもうすぐ見えるくらいやけど…」


「あたしも今、鹿ヶ谷通り!直ぐに行くし、待っとって!」


「電話、ひなちゃん?」


うんと、頷き、暫くすると前方からグレーの制服を着た日向が走って来る。


「旅人、(こう)ちゃ~ん!」

 

 

 時司日向(ときつかさひなた)は高校2年生になり、近くにある私立セント・ミッシェル女学院というお嬢様学校に通っている。

何でも、男の子のようながさつさを案じた、日向の母親、(かえで)さんがお淑やかにさせるため勝手に入学を決めたらしい。中学入学より5年目になるが、あの走りを見れば楓さんの考えが無駄であったのは一目瞭然である。黙っていれば、可愛いお嬢様に見えるけれど…。


「ひなちゃん、お疲れ。」


「旅人、18才の誕生日おめでとう!」


「え、旅人の誕生日って今日やったっけ?」


「幸ちゃん、何言うてんの。今日は6月10日、時の記念日やで!」


「日向、ありがとう。時の記念日はどうでもええねんけどな。幸之助も別に気にせんでええよ。」


「幸ちゃん、最近忙しいみたいやけど、たまには道場にも来なアカンよ!」


「わかってるんやけど、仕事が忙しいねん~。先生に宜しゅう言うといて。ほな稽古頑張って。旅人、誕生日おめでとうさん。」


「幸之助、おおきに。また月曜な。」


 北白川通りをバスで北に帰る幸之助と別れて、俺達は丸太町通りを東に徒歩で聖護院にある時司道場に向かう。月曜から金曜日まで毎日稽古に通う時司家は第二の実家であり、毎日夕飯をよばれている。楓さんの食事がお袋の味と言っても過言では無い。

時司 楓さんは何故か、母と雰囲気が似ている。もちろん、見た目は純和風なので全く母とは違うのだが、話し方や振る舞いがとても似ていて、俺には居心地が良かった。



「ただいま~。」


 勝手知ったる時司家である。


 月、水、金は19時から21時まで門下生さん達が来られる。俺は師範代として指導するため、それまでに時司一家と夕飯を済ませてしまうのが日課である。

火、木は先生との実践組手稽古の日となる。この日は先に稽古を済ませてから夕飯を摂る。元警察官の先生のお陰で門下生には現役警察官も多い。

道着はいつも楓さんが先生の分と一緒に洗濯してくれている。


「旅人。今日、稽古が終わったら話がある。一緒に行ってもらいたい所があるんやけどかまへんか?」


「もちろん、大丈夫です。明日は学校も休みですし。」


 時司一家と夕飯を済ませ、12名の生徒さんの指導を終えて道場を閉めたのは21時半だった。

「ほな行こか。」

そう言った先生の後をついて東大路を南に下がり到着した先は祇園の我が家、月読堂ビルだった。



 月読堂ビルは1階が古美術ギャラリー、2階が商談スペースとVIPルーム、3階が事務所兼倉庫、4階は母の京都オフィスを兼ねた月読写真研究所、5階が住宅スペースである。


22時、灯の点る閉店後の月読堂に入ると、祖父、市村鶴之丞つるのじょう師匠、月読堂の番頭である黒井 誠さん、月読写真研究所の綾瀬 忍さん、そして自称ストレンジャーがギャラリーのソファで待っていた。


「何、みんな、どうしたん?」


「旅人、元気そうね♪18歳の誕生日おめでとう!」


母の明らかに場違いな言葉で拍子抜けしそうになった俺に祖父が言う。


繋時けいじが死んだ日のこと覚えとるか?オマエらが二人きりで話した内容や。」


「ああ、ヒーローの話やろ。力がどうのとか…もしかして7年後って、今年のことか!」


「その話や!ちゃんと覚えとったらそれでええわ。ほな皆揃ったしとりあえず、下に降りましょか。」


下?このビルに地下はない。地下に続く階段もエレベーターも無い。


「爺ちゃん、呆けたんか?ここ1階や、ウチに地下はあらへんで。」


「アホ、誰が呆けとんねん。黙ってついて来い!」


そう言って皆がギャラリーの奥へ移動する。


 1階ギャラリーの奥部屋、月読堂には珍しい現代アートを展示した部屋がある。その端に中国新鋭作家の作品でモノリスと皆が揶揄する幅1メートル高さ2メートル、厚さ20センチほど深い緑色した物体が壁に掛かっている。アーサー.C.クラークの「2001年宇宙の旅」をモチーフに製作されたと聞いているが、俺に言わせれば色が違うだけの完全なパクリ作品だ。


「モノリスに触れてみぃ。」


俺は自分の右手でそっとモノリスに触れた。俺の右手を感知したように突如蒼い光が走り、プシュッという空気音と共にモノリスが壁から数センチ迫り出して右にスライドしていく。そして階下へ続く階段が現れた。

なんか秘密基地みたいでかっこいいと感心してしまう。まさかウチにこんな仕掛け部屋が、しかもかなり金が掛かってそうな…。

階段を降りると地下1階には10人ほどが座れるハイテク会議室スペースと通路を挟んだ部屋には映像室のような壁一面液晶モニターに向かい、6台の端末がそれぞれの席に並ぶ小さな作戦指揮室のような部屋があった。


「では皆さん、お座りになってください。ここから先は私から説明させて頂きます。」


 黒井さんが仕切り始めた。黒井誠さんは父が生きていれば同い年の45歳。俺が生まれた年に月読堂に入社し、今では月読堂に欠かせない番頭さんとして店を切り盛りしてくれている。父が死んでからは祖父の片腕として東京出張を中心に商談をこなしてくれる、見てくれは体格のいいエリートサラーリマンである…。


「先ずは、旅人君。お誕生日おめでとう。よく真っ直ぐに育ってくれた。僕も本当に嬉しいよ。」


「ちょっと黒井さん、なんだかその言い方、少し失礼しちゃうわ。旅人は私と繋時けいじさんの息子なのよ。それにちゃんとお義父様が育ててくれましたわ♪素直に育つに決まってるじゃないの。」


「し、失礼しました、キャシーさん。他意はありません…。旅人くんが18歳になって嬉しいんですよ。僕だって、ずっとその成長を見続けて来た。それに皆さんも今日という日を楽しみにしていたはずでしょう。さて、旅人君。突然だけれど君はタイムトラベルって可能だと思うかい?」


「えっ、SFの世界やけど、遠い未来にそんなタイムマシンが出来たらええなと思ったことはあるけど、特別深く考えたことは無いかな。」


唐突な質問に慌ててしまう。


「でもさ、たまにテレビ番組とかで携帯電話やデシタルカメラを持った人物が写ってる昔の写真とかが紹介されたりすることあるよね。そういうのについてはどう考える?」


「偶然、そんな風に見えたんか。または合成とか。まあ、ホンマにタイムマシンで未来から来たん…とか?」


「そうだよね。でも実はタイムマシンなんか必要なかったとしたら。ただ時空跳躍出来る能力者がいて、そういう能力が遺伝されるかもしれないとしたら…どう思う。」


返す言葉を失う。余りに突飛過ぎて、思考が追いつかない。


「単刀直入に言おう、タイムトラベラーは実在する。そして君にはその能力が遺伝している。私と綾瀬はそのタイムトラベル遺伝子、略してT.T遺伝子またはウラシマ遺伝子と呼ばれる因子を持った能力者を管理サポートする文部科学省 国立情報調査研究所(National Institute of Information and Investigation) 特別戦略室 時空対策課に所属するエージェントなんだ。通称NIII時対課、私は課長の黒井誠だ。」


「今まで黙っていてすまない。同じくNIII時対課 作戦班の綾瀬忍だ。」


隣に座っていた忍さんと2人が同時に起立して、自衛官ばりに敬礼をする。


 美人秘書かモデルさんかという面持ちだが、寡黙な綾瀬忍さん、確か28歳だ。


 生前、写真が趣味だった父は仕事そっちのけで貴重な写真を収集するために世界中を飛び回っていたらしい。しかし、俺が生まれ、母の写真が世間で注目されるようになる2001年には母が仕事で留守がちになり、父が代わりに俺の世話をするようになった。そして、父の死後も継続して貴重な写真を取集し、その管理を目的に創設されたのが月読写真研究所で、忍さんはその創設時メンバーで主任研究員のはずだった。

研究所では母の撮った写真の管理も行っている。その写真素材は東京にある「オフィス・Kaguya」が窓口となり権利交渉を行っているが、月読写真研究所が「オフィス・Kaguya」にその権利含め貸し出しているのが実態である。つまり研究所は何もしなくても、その権利収益だけで潤沢な運営資金を得ている棚ぼた事業所だ。


 いきなり何言ってんの?そんな力、俺にはございませんよ。とまわりを見渡すが、さも当たり前のように皆んなが頷いている。


「みんななんで、そんな話信じてるん?俺にそんな力があるわけないやん。誕生日やからって、そんな担いだらアカンよ。」


「誰も担いだりせえへん。皆、オマエの力を知ってるだけや。」


祖父は落ち着いた声で俺を諭す。知ってるってどういうことやねん。心の声が漏れそうになる。


旅人(たびと)君、ここに居てる皆が一度は君に助けられたことがあるんや。」


今度は鶴之丞(つるのじょう)師匠までが言う。助けた?俺が?いつ?誰を?疑問符が消えない。


「ねぇ、旅人。わたくしの生い立ちを話したことあるわよね。」


「生まれてすぐに両親に捨てられて施設で過ごした後、養女として育てられたって話やろ。」


「そう。ごめんなさい。アレね、わたくし貴方に少し嘘を吐いてるのよ。わたくしを捨てた両親は存在しないの。もちろん生物学的な両親はいるはずよ、何処の何方かは存じ上げないのだけれど……わたくしね、人工的に造られたデザイナーベビーなのよ。」


母はそうして自分の本当の生い立ちを語りだした。



この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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