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名刀

 あれよあれよという内に放り出された桃太郎。勘当された桃太郎。目的地は鬼ヶ島。何処にあるのか鬼ヶ島。


 桃から出てきたばかりの桃太郎には、鬼ヶ島が何処にあるのかどころか、今、自分が何処に居るのかすらもわかっていなかった。取り敢えず、ひたすら道を歩く。民家、酒屋、雑貨屋、八百屋、魚屋、肉屋といろんな店が建ち並ぶが、武器屋らしき物が見当たらない。自分の腰には一振りの刀。刀があるという事は、刀を売っている店があってもおかしくないのだが。幾ら歩けど刀どころか槍も斧も薙刀すらも売っていない。


 おかしい……。そう怪訝な表情を浮かべて歩く桃太郎に一人の親父が声を掛けてきた。


「おや? 刀……持ってんのかい」

「お? やっと刀の事を話せる人が――」

「誰かぁ!! 犯罪者だぁ!! 武装禁止令の違反犯罪者だぁ!!」


 刀の事を聞ける可能性が出てきたことで緊張を緩めた桃太郎だったが、親父の次の言葉に凍りつき、その場から一目散に逃げ出した。


『武装禁止令って何だ? てか、武装禁止令なんてあるのに、あのジジイはこんな刀を持ってやがったんだ?』


 それを今考えても詮無き事である。もう自分は刀を持っており、それを携えて鬼ヶ島へと向かっているのだ。何処にあるのかは知らないが。


 【武装禁止令】それは、読んで字の如く武具を着用する事を禁止した法令である。民衆のクーデターを恐れた国が、民衆が武力を持たないように発令したのだ。刑罰は、軽い重いにかかわらず無期懲役。そう終身刑である。


『意味がわからない。意味がわからない。意味がわからない。意味がわからない』


 桃太郎にしては、本当にそうであろう。意味がわからない。それで正しいと思われる。生まれてきて、育児放棄され、拾ってくれた老夫婦から半日も経たずに勘当され、求めてもいない刀を渡されて、武装禁止令違反犯罪者と言われたのだ。意味がわからない。まさにそれが一番妥当な思考であると言えるだろう。


 無我無心で必死に走る桃太郎。目的地は鬼ヶ島……だった筈。然し、今はそれどころではない。先ずは逃げる事だ。何処へ? そんな事がわかる訳もない。桃太郎がここへ来て、まだ一日足らず。地理も地形も何もわからないまま。取り敢えず走る。息も絶え絶えになりながら。鬼ヶ島の事も気にはなったが、先ずは逃げる事が先決だった。人気の無い所へ。誰にも見つからない所へ。刀を携えている自分を犯罪者だと言われない所へ。ひたすらに。ただひたすらに。走って。走って。走って。気が付けば、森の中だった。そこで桃太郎は、更に驚愕する事になる。そう、桃太郎に武装禁止令違反を言い放った親父が真後ろにいたからだ。


「おいおい、逃げるなよ。鬼より強い桃太郎君。ん? でも、その格好からすると桃太郎ちゃんかな?」

「……!!」

「驚くなよ……。と言うか、お前幾つ? 大人の俺から走って逃げれると思ってたの?」

「……!」


 当然と言えば当然である。桃から生まれた桃太郎。桃から出てきて一日弱。普通なら走るどころか歩く事すら出来ない筈の年齢。話す事も出来る筈がないのだ。そんな桃太郎がいくら走って逃げたと言っても。全速力で走って逃げたと言っても。所詮は赤子と大人。逃げて逃げきれるものではない。それを痛感し、諦めた桃太郎だったが、本当の驚愕はここからだった。


「なあ、お前のそれ、月光じゃないのか?」


 月光? 桃太郎は小首を傾げた。そもそも、この刀の事を聞きたかったのだ。そこへ武装禁止令違反だと何だと言われて逃げたのだ。それを、その武装禁止令違反を言い放った親父が月光じゃないのか? と聞いてくるのだ。


「月光?」

「お前、月光を知らないで月光それを持ってんのか!?」


 黙って桃太郎が頷くと、


「それはな……、昔、月から来た姫さんがこの世に残した世界最強の刀なんだよ!」


 そう興奮して、ほんのりと頬を紅潮させて叫んだのだった。


『な、なんだってー』


 とか、そんなノリは必要ない。



 一難去ってまた一難。桃太郎に幸せはあるのか……。

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