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出発

「っっとに訳がわからんわ!」


 当たり前である。産まれて直ぐ、産みの親からは育てられないと捨てられ、何故だか桃の中に幽閉されたかと思えば、この中に居れば心の豊かな人に出会え、そこで立派に育つ事が出来ると断言されていたのに、自分を拾い上げてくれたのは、生い先の短い老夫婦。しかもその老夫婦からは、化け物だの物の怪だのと暴言を吐かれ、桃の中から移動出来なかったのだから、排泄は其処で行わなければ仕方なかったのに、それを告げた途端、一度は和んだ空気も一気に悪化し、このうっすらと蒼く光る刀と、布の袋に詰め込まれた何やら判らない団子だけを持たされて家から追い出されたのだから。しかも、そう、しかもである。その行き先は、既に決まっていて、鬼ヶ島。鬼ヶ島と言うのであるから、きっと鬼の住まう島なのであろうが、産まれて未だ間もない、こんな赤子に鬼ヶ島へ行けと言うのだ。桃太郎にとっては、既に、今まさに鬼ヶ島、否、鬼の家から叩き出された気分であった。しかもどうよこの格好。全裸に刀と腰巾着。不審者ではないと言い張っても、全力で不審者だと言われるであろう。そう桃太郎には確信するだけの自信があった。


「で、どうしよ……」


 声を口に出してみたが何も変わらないのが現状である。そのままトボトボするという手もあったのだが、如何せん全裸である。いくら赤子の姿と言えども、直立歩行していれば問題だ。もし、保護などされてしまっては何処に連れて行かれるやもわからない。されども、時間は刻一刻と過ぎ、桃太郎はどうする事も出来ずに老夫婦の家の前から動けずにいた。


「ぁあもう!! 世話の焼ける! ほら、コレをやるからサッサと行くのじゃ! この厄介者が!」


 優しいのか、ただ面倒なのか、どうなのかは知らないが、ババアが窓から顔を出すと一枚の布を放り出した。ほんの少しだけ放心していた桃太郎だったが、直ぐにその布を拾い上げ、それが何かを確認する。それは、背中に【鬼より強い桃太郎】と書かれたワンピースであった。


 男にワンピースって……。てか、鬼より強いって……。これ着て鬼ヶ島になんて行ったら……。確実に殺されるよな……。とか思いながら、もう本当に途方に暮れ歩き出した。それが桃太郎にとって、本当の冒険への旅立ちであった。何はともあれ、目指すは鬼ヶ島。何故鬼ヶ島に行かねばならぬのかは、桃太郎にもわからない。けれども目指すは鬼ヶ島。勘当先の鬼ヶ島。【鬼より強い桃太郎】そのとんでもない文句を背に背負しょって、刀と不気味な団子とワンピース姿の桃太郎の冒険が始まる。



 やっと重い腰が上がりました。赤子なのに……。腰が重いって……。

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