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旅立ちの日

 して、赤子が桃から出てきて、ジジイとババアが化け物じゃ! 物の怪じゃ! と騒ぎまわり、ヤケクソ気味にオギャアオギャアと赤子が泣き喚いていると、近隣の住民から煩いと苦情を言われてしまい凹んだ三人は、意気消沈し、暫く黙り込んでいたのだが、何故だか、何時の間にか意気投合し、切り分けた桃を囲んで食べていた。


「で……桃太郎よ。鬼ヶ島へ行くのは何時じゃ?」

「へ? 桃太郎って……、え! 俺かよ! てか、何時名前付けられたの? まあ、それはいいや……。いやいや、良くない良くない……。って、鬼ヶ島って何? いきなり? それってさ、俺が逞しく成長して、俺が二人に言う言葉なんじゃないの? え……違うの? 決定事項なのそれ? 命令なの?」


 呆気にとられた桃太郎が、驚いて口を出した途端。


「ところで桃太郎……。この桃、お前の胎盤のようなものだったようだが、まさかオシッコなどしてはおらんよな?」

「ん? オシッコ? しとるに決まって――」

「なんて汚い物を食わせるんじゃぁ!!」

「ばっちい! ばっちい物を食ってもぉた!」


 ジジイとババアが顔をあからさまに歪め、口の中から吐き出された元桃だった筈の物が桃太郎に投げ付けられる。


「何すんだ貴様ら!! 汚ねぇだろ! てか、桃太郎は決定なのか!? 何時決めた!? いや、それよりも、鬼ヶ島って!?」


 逆ギレ? ではないと思うが、桃太郎がキレてジジイとババアに怒鳴る。然しジジイとババアはそれどころではない。口腔内にへばりついた桃を吐き出し、更には胃の中の桃をも吐き出そうと喉へ指を入れていた。


「き、汚ねぇ!!」

「う、うおぇぇぇ!」

「あ゛、あ゛ぐ……」


 床一面に吐き出された吐物の酸っぱい臭いと、そのグロテスクな惨状に桃太郎は顔を歪め、ジジイとババアを睨み付けた。


「汚ねぇよ! マジで汚ねぇわ!!」

「だ、誰の、所為で……。はぁ、はぁ……うぇぇ……」

「もう、お前は勘当じゃ! 今すぐ鬼ヶ島へ出ていけ!!」

「え!? 勘当先既に決まってんの? てか、え? 勘当? 俺、まだ、赤子だよ……。こんな小さな子供、勘当だとか頭おかしいんじゃ――」


 もう何が何やら解らないと言う感じで桃太郎が叫ぶも、既にジジイとババアの目は据わっており、突然二人が手にとった物を投げ付けられた。


「おかしいのは桃から赤子が出てきた時点で、既におかしいわ!!」

「しかも、お前は私らの子でもないじゃろうが!!」


 有無を言う隙もなく、桃太郎は一本の刀と、何やら袋に入った団子のような物だけを持たされ、二人の家から放り出された。


「化け物が!」

「物の怪が!」


 そんな言葉を最後に浴びせ掛けられながら。


「ちょ、ちょっと待っ――」


 反意を唱える隙もなく、玄関を閉められると、中から鍵をかける音が聞こえたのだった。


 可哀想な桃太郎……

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