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褒美

「さてと……。と、ん? お前ら!! 何時まで寝てるんだ!! さっさと起きろ! そして金を稼げ! 俺を鬼ヶ島へと連れて行け!」


 もう無茶苦茶である。喧嘩をしていた犬と猿を尻目に眠った分際で、それよりも後に疲れ果てて眠った犬と猿を足蹴にして叩き起こしたのだ。しかも、その第一声が「おはよう」や労いの言葉ではなく、家畜、下僕に対するただひたすらの暴言的命令だったのだ。


 犬はまだマシである。桃太郎を鬼ヶ島へと道案内すれば良いのだから。大変なのは猿である。桃太郎達から少し離れた所を歩き、まだ朝早いからとウトウトしている旅人の懐から財布を抜き取ったり、道行く猿だと銃を持った人や子供に追いかけ回されたり、留守中の家にこっそり忍び込んで金目の物を持ち出してきたりと、犯罪スレスレ……。違った。犯罪を犯しているのだから。しかも猿も桃太郎達と同様に鬼ヶ島迄行かなくてはならない。それなのに、猿の稼いだ金は桃太郎の一声で湯水の如く消え、金が無くなれば、また、猿が犯罪を犯さなければならないのだ。理不尽だ。そう猿は思った。だが、そんな事を桃太郎に言える筈もない。もし、自分の境遇が理不尽だなどと言おうものなら、また、昨夜の繰り返しになってしまうからだ。鬼の手先だ、鬼の刺客だと怪しまれ、反論しようものなら犬猿の仲なのに、犬と仲違いをさせられ、公平なレフリーである筈の桃太郎は、犬側に立ち、二人? 否、二匹の話に面白おかしく油を注ぐのだ。無駄に疲れるだけで、ただ腹が減るだけで、ただ虚しくなるだけで、自分の存在を否定してしまいたくなるからこそ、理不尽だなどと言わずに、ただ自分に与えられた役割を果たしていくのだった。あたかもそれが、適材適所であるかと言うかのように。


 そんな猿に好機が舞い降りた。偶々スリを行った相手が、異常なまでの大金持ちだったのだ。懐に舞い込んだ額は、今までとは桁違い。多分だが、これまで稼いだ額の全てと比べても、その何倍もある金額である。しかもその中から個人を特定出来るような金品を捨てても、手元に残る金はとんでもない額だった。猿は喜んだ。これで暫くは犯罪を犯さなくて良くなると。桃太郎に、入手した全ての金を渡さなければ良いだけなのだから。小分けにして、少しずつ、少しずつ渡せば、猿が犯す犯罪のリスクも遠ざかるのだ。そして猿は少しずつ、少しずつ桃太郎に金を献上するようにし、遠くから桃太郎達に付いて行くようにしたのだった。


「ところでさぁお前。最近どうやって稼いでんの?」


 そんな猿に平穏の日々が長く続く筈もなかった。え? いや、あの……。と、口を濁しているうちに、鼻の良い犬に金がある事を探り当てられてしまったのだ。これからどうなるのか? 自分はどうなってしまうのか? と、冷や汗が背中を滝のように流れていく中、桃太郎にその全財産を奪われ、そして言い渡されたのだ。


「よくやった猿よ!」


 と。


 猿としては、心臓に悪い。そう思ったのだったが、桃太郎がそんな簡単に事を終わらせる筈もないと考えることも出来なかった。


 八月になりました。

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