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僕と野良猫の家族

作者: サボタル
掲載日:2016/05/21

小さな魔法の話

君は魔法を信じるかい?

人を浮かせることや火の玉を出すなんてことではない。

ただほんの少しの魔法。俗にそれは奇跡とも言われるが奇跡と魔法は別のものだ。

難しくないたった少しのこと。


✽✽✽


「はぁ、僕を癒せるのはやっぱりお前しかいないよ」

誰に聴かせるのでもなく、僕は猫の腹をなでていた。いや、この場合は猫に聴かせているのか。ニャーと喉を鳴らしながらこっちにじゃれてくる。実に自由で羨ましい。

「今日もこれから仕事だよ。上司に怒られるだけのつらーいつらーいお仕事だよ」

朝のこの少しの時間が今ではとても安らぐいいものだ。つい先日あまりのさみしさから会社近くの野良猫を拾って飼い始めたのだが、なるほどこれはいいものだ。アニマルセラピーというらしいのだが、確かに気持ちが幾分か楽になった気もしてくる。

「そんじゃぼちぼち行きますかね」

 猫を床に寝かし会社に行くため玄関に向かった。

「ん?」

 珍しく猫が見送りに玄関まで付いてきた。

「見送りかい?ありがとう。それじゃ行ってくるよ」

 猫に人の言葉が理解できとは思わないが、言っておかないといけないような気がしたので言ってみた。猫は「ニャー」といつもの返事をするだけ。ま、返事するだけマシか。


✽✽✽


「ふぅ、今日も疲れたな」

 どうにも歳なのか身体が疲れやすくなってきている。

「おつかれさん。どう?今夜一杯やってかないか?」

 上司からのあまりありがたくないお誘いだ。この人は酔うと本当にタチが悪いから一緒に飲みに行きたくない。

「いや、ちょっと給料日前でお金がきついんですよ」

だからこそ、うまい口実を作り逃げるようにするのは至極当然のことといえよう。

「いいよいいよ。俺が払うから!」

「そんないいですよ。それにちょっとまだ明日の資料とか気になるのが少しあるので」

「そうかい。でも少しは外にもでないと出会いもないんだよ。とはいえ、そこまで言うなら無理には誘わないよ。でも、給料日後には付き合ってもらおうかね」

「わかりました」

全く気が進まないがとりあえず今日行かないためにもここは約束を取り付けて終わろう。

「それじゃ、お先するよ」

「お疲れ様でした」

 はぁ、なんであの人と飲みに行かないといけないんだよ。そんなことより猫と戯れていたほうが何十倍もマシだよ。今日の仕事もある程度片付いたら猫が待っていると思えば、少しは頑張れる気がしてくるってものだ。

「さて、もうひと頑張りしますか」

 猫の他にも誰か家にいてくれたら、それはそれで幸せではないかと思ったのは内緒だ。


✽✽✽


 さて家に帰ろうかと思った頃には、もう8時を過ぎてしまっていた。

「ま、こんくらいやっとけば明日の会議はなんとかなるだろ」

 正直さっさと帰りたいので、仕事もボチボチで帰宅準備を始めた。パソコンの電源を切って帰ろうとしたときふと猫の鳴き声が聞こえた。

「気のせいか?野良猫かなにかだろう」

 そうは言っても気になってしまうものだ。とりあえず声の主を探そうと思い会社を後にした。

「つっても、野良猫なんてどこにでもいそうだからな。もう一回鳴いてくれれば少しはわかるんだけどな」

 正直このまま帰っていいのだが、なぜか今このまま帰るのは胸が引っかかるような気がしてならなかった。たかだか猫の鳴き声の主を探すという意味のわからないことを小学生でもない大人がやるだなんて、本当にいい歳してなにしているんだが。


”ニャー”


 猫の鳴き声だ。裏路地の方から聞こえてきた。なんだすぐそばにいるじゃないか。

「どれどれ一体この鳴き声はどんな猫なのだろうかね」

 一体何をしてるんだが。

「ははぁ、こうきたか」

 そこには一つの箱と中には子猫が数匹入っていた。捨て猫だ。どうにもこういうのを見つけてしまったら持って帰るか、保健所にでも引き渡さないといけないようなものだが、ふと何かが引っかかる。

「そっくりだな」

 そう、うちで飼っている猫にソックリなのだ。

「まさかね」

とりあえずこのままにしていく気にもならないので家に持って帰る。なに猫の4匹や5匹増えたところで問題はない。あくまで猫がいるかいないかだけだ。


✽✽✽


「ただいま」

 慣れ親しんだわが家に帰る。いつもの様に猫に出迎えられ部屋に入る。

「さて、どうしたものか」

 我が家の猫は僕の持っている箱の中身が気になるのか、落ち着かない様子だ。僕はゆっくりと箱を床に置き猫がどうするのかを見守ることにした。床に置いたとたん箱の中身を見る猫。途端にいつもと違う鳴き声で猫が鳴いた。そうかこれでよかったのか。やはりこの猫は、親子だったか。ただ、もうひとり親がいると思うが、なに心配することはないだろう。ドアの方からカリカリと爪の研ぐ音が聞こえてきた。


”ニャー”


「ほらな」

 魔法の様にアッという間に猫だらけだ。バラバラになっていた猫の家族がまたひとつのところに戻ってきた。いや、この場合は移住してきたのほうがいいのか。猫も人も最後には収まるところに収まるものとは思うのだが、そうなった場合僕が収まるのは一体どこになるのだろうか。猫に囲まれたままでもいいのだが、家族にも少し触れてみたいとも思った。まぁ今はこの猫の家族に少し居候させてもらおうか。


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