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新しい仲間をげっと




 そして会計を済ませた僕は、全力でその場から逃走した。

 その後をタマとリリス、クロヴィスが追いかけてくる。

 だが僕は、絶対に捕まるつもりはない。


 と思って家駆け込もうとすると、僕はクロヴィスに後ろから抱きしめられた。

 とうとう追いつかれてしまったらしい。なので、


「放せぇええ、僕はこの家の中で家庭的な調合をして依頼をクリアするんだぁああ」

「さて、準備をさせると引きこもりそうだからこのまま行こうか」

「な、なん、だと」

「お前達もいいな」


 それにタマとリリスはお散歩だ―、と喜んでいる。

 味方が僕の周りに一人もいない。

 そうしてそのままズルズルとクロヴィスに引っ張られて、家が遠ざかっていく。

 それを涙目になりながら僕は何処かに連れて行かれたのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 草原にて魔物の攻撃を受ける僕だが、


「ひぃいいっ、何でこんな所に触手がぁあぁぁ! ああぁんっ」


 クロヴィスから少しずつ離れるようにして逃げ帰ろうと思った僕は、草むらから突如現れた触手に捕まっていた。

 腰のあたりにぐるりと触手が絡みつき宙吊りにされて、服の中に細い触手が入り込んでくる。

 触手なら触手らしく女の子を襲えよ! と僕は思うので、


「何で、男の僕をっ、襲うんだぁああっ!」


 そこですっとその触手生物が紙を取り出した。そして、


「『エロい意味でやっているわけではなく、こうすると魔力が美味しくなるのでこうしているだけです。オスとかメスとか特に区別していません』何だそれは! だったら女の子でいいじゃん、ぁああんんっ」


 そこでニュルニュルと体を這われて、感じてあえいでしまうのだが、触手には全くエロい意味は無いんだなと悲しく思った。

 そこで僕はクロヴィスに目が合う。


「た、助けて……」

「大人しく冒険に向かうならいぞ?」

「い、嫌だっ、絶対逃げてやるぅう」

「じゃあ暫く放置だな。俺が楽しく見ていてやるから、がんばれよ」

「ぁああっ、薄情者、ぁあっ、タマぁ、リリスぅ、ぁああっ、助けてっ」


 けれどタマはいつの間にか猫に戻りにゃ~と鳴くだけで、杖の妖精のリリスは楽しそうに飛び回っているだけだ。

 なんて仲間だと思いながら僕はさんざん喘がさせられてしまう。

 それでも更にもぞもぞされて、再び喘がされて……。


 そんな僕は満足しましたというかのように放される。

 そんなぐったりして逃げられなくなった僕を、クロヴィスに背負う。

 そのままぼんやりしている内に目的地に着いてしまった。


 途中、敵に遭遇すること無くここまで来てしまったようだ。

 僕は狡いとクロヴィスのことを思う。

 僕は触手にあんな目に合わされたのに。と、


「それでここは昔鉱石の採掘が行われていた場所だが、今は魔物の住処だ」

「……ここに何の要があるの?」

「“新緑の宝石”が希に採れたらしい。そして今も探すとたまに採れるそうだ」

「“新緑の宝石”……僕持っているからそれで依頼終了に出来ないかなって」

「さあ、探しに行こうか。陽斗明かりの魔法を使え」

「い、行きたくない……」

「まあ、中には未だに明かりがともあれているから薄暗い程度に中は見えるからいいか、行くぞ」


 そうして嫌がる僕を無理やりクロヴィスは採掘所に連れて行く。

 どこか外とは違いひんやりしている。

 何かがいかにも出てきそうだが、そういえばここって、と僕が思い出していると、


「レールに、トロッコがあるな」


 古びたレールと今にも壊れてしまいそうなトロッコが、そこには2つあったのだった。






。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 僕は嫌な予感しかしなかったので、そろりと一歩後ずさるが、


「逃げようとしても無駄だぞ」

「い、いやだ、あれ何処からどう見ても壊れそうじゃん!」

「大丈夫だ、皆使っているし。いざとなったら……」

「いざとなったら?」

「乗り捨ててレールの上を歩いていけばいいか」

「……ちなみにこのレールの整備は一体何方が?」

「さあ、やっていないんじゃないか?」


 クロヴィスのその答えを聞き僕は決心した。

 これはもうお家に帰るしかないと!

 冗談じゃない、こんな危険な場所に居られるかと僕は思った所で、僕はクロヴィスに腕を掴まれた。


「全く、陽斗はすぐに逃げようとしやがって」

「う、で、でもこんな危険な……え?」


 そこで僕はクロヴィスに抱き上げられた。

 お姫様抱っこの形で抱き上げられて、一瞬僕はどきりとしてしまうが、そのクロヴィスといえばトロッコにそのまま飛び乗る。

 その後ろにタマがにゃ~と鳴きながら乗り込んで、同時にトロッコが動き出す。


「ひ、ひぁあああああ」


 僕は悲鳴を上げた。どんどん加速していくトロッコ。

 途中ジェットコースターのように宙返りはしなかったが、一気に坂を下ったかと思えば少し登って、その後は螺旋状にグルグルと回り更に速度が加速して……。


「いやぁあああっ、もう帰るぅうううう」

「少し速度が速すぎだな。落とすか。あ……ブレーキが壊れたな」

「ク、クロヴィス、何でそんなに冷静なんだぁああ」

「別に、いざとなれば飛び降りればいいだけだからな」

「そ、そんなの無理、無理だよ……」


 風をきる音を聞きながら僕は呟く。

 そんな僕をクロヴィスが抱きしめて、


「大丈夫、俺が守るって言っただろう? 安心していろ」

「……うん」


 抱きしめられてそばにクロヴィスがいると思うとなんだか安心してしまう。

 そこでクロヴィスが呟いた。


「ああ、行き止まりだ」

「いやぁあああああっ」


 そのトロッコの先には、切り立ったがけがそびえ立っている。

 途中いくつも横穴があったのでそこに入り込むのが普通なのだろうが、ブレーキが壊れてこのザマだ。

 なので僕が悲鳴を上げると同時に、僕はクロヴィスに抱き上げられてそのトロッコから飛び上がり、タマもちゃっかり猫になってクロヴィスの背に張り付いていたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 僕達がいるのは、採掘場の最深部らしい。

 どうにか地面に降りたものの暫く僕は足が震えてしまい自力で立てず、クロヴィスの服に捕まっていた。

 そんな僕にクロヴィスは、仕方がないといったように笑って僕の頭を撫ぜる。 

 それだけで僕の震えが段々と治まってくる。と、


「もう大丈夫だろう?」

「う、うん」


 もう少しひっついていたかったが、クロヴィスが僕から顔を背けている。

 どうしたのだろうかと思うが、周りは暗くてよく見えない。

 明かりのようなものがポツポツとあるが、その内の半数以上が壊れていて使いものにならないのだ。

 これから探検するにしても、こんなに暗いと危険なので僕は魔法を使う。


 選択画面を呼び出して、ポチッとして。

 ふわりと杖から光が溢れて魔法陣が浮かぶと同時に明かりの球が浮かび上がる。

 それを周囲に配置した僕はそこで気づいた。


「リリスがいない?」

「いやぁ~、怖かったので杖に隠れてしまいました、てへっ」


 そこで杖から妖精のリリスが顔を出す。

 そんなリリスを恨めしく思う僕だけれどそこで、


「なんだかこっちから良い匂いがする!」

「あ、タマ! 待て!」


 そこでタマが、勝手にすぐそばの横穴に入り込んでしまったのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 タマは猫の姿ではなく人型になって走っていく。

 僕はそれを慌てたように追いかける。

 その横穴は特に小さく、僕の背丈でもどうにか天井に当たらないかといった高さだ。


 なので僕よりも背の高いクロヴィスは腰をかがめながら進むので動きが遅い。

 もしやこの状態ならば僕は逃げ帰れる!? と思ってしまったが、後ろにクロヴィスがいて、タマがその先にいるのだからここでは逃げかえれない。

 そもそも突然タマはどうしたというのだ。


 先ほどこっちからいい匂いがするとタマがこっちに走ってきてしまったのだ。

 いい匂いって僕には分からないよ、というかちゃんと食事は与えておいたはずなのにな……という意味で飼い主として悲しくなる。

 けれど奥に進むにつれて僕は、タマの言っていた言葉に気付く。


 じゅうじゅうと何かを焼く匂い。

 正確には肉を焼く香ばしい匂いがする。

 思わずよだれが出てしまいそうないい匂いなのだが、こんな洞窟の奥深くで何でこんな匂いがするんだろうと思っていると、やがて奥の方が開けているのに気づく。

 そこで声が聞こえた。


「この駄目猫! 僕のソーセージを返せ!」

「にゃーん、うまうま」

「うまうまじゃない! この……一体飼い主は何をしているんだ!」

「まあまあ、フィオレ、落ち着いて」

「アンジェロ、落ち着けるか! 絶対に飼い主が来たら……」


 そこで僕は怒っているその人物と目があった。

 さらっとした白銀の短い髪に青い瞳のちょっと生意気そうな美少年だ。

 剣を持つ剣士であるが魔法の杖を持っているので、魔法剣士なのだろう。

 だが、今の名前とこの顔というかキャラデザには覚えがある。


 そしてその彼のすぐ傍にいるおっとりとした感じの魔法使いっぽい賢者な人にも見おぼえがある。

 だがその二人について、僕は幾つか突っ込みを入れたかった。

 正確には何故!? という気持ちが強かった。

 そんな僕に気付いたタマが嬉しそうに抱きついてくる。


「陽斗、美味しかった!」

「タマ、人様の物を勝手に食べちゃだめだよ! ……すみません、あの、弁償します。おいくらですか?」


 僕はタマの食べた分の品物の代金を支払おうとした。

 そこで目の前の彼がじっと僕を見て、一回頷いてからふっと微笑み、


「その体で支払え」

「いきなり体を要求された!?」

「違う! ……でも確かに顔も好みだし僕よりも背が小さいし、いけるか?」

「真面目に検討しないでください! それでその、体でというのは?」


 そこで今度は目の前の彼は、フィオレは僕の後ろにいるクロヴィスに気付いたらしい。

 そして彼は笑みを更に深くし、


「久しぶりだねクロヴィス。以前僕がパーティに誘ったのを覚えているかな?」

「誰だ?」


 フィオレがそのクロヴィスの答えにむっとしたようだ。


「以前散々パーティに誘っただろう! 能力が高いから、この僕が直々に誘ってやったというのに……まさか忘れたのか!? この僕が誘ったのに!?」

「記憶にない」


 クロヴィスはまるでどうでもいいといった表情で答えている。

 それがこのフィオレのプライドを傷つけているのだろう。

 というか僕はある点が気になっていたのだが、そこで彼は僕の方を見て、


「僕が幾ら誘っても落ちなかったクロヴィスを落とすなって、どんな色仕掛けを使ったんだ?」

「え、いえ、たまたま助けてもらったといいますか、出会ったといいますか……」

「ふーん、つまりこれがクロヴィスの好みなのか。でもこんな風に、助けるだけじゃなくてパーティまで組むなんて……名前は?」

「えっと、陽斗です」


 僕は普通に答えたはずだった。

 けれどそれを聞いたフィオレが、


「その名前は僕よりも高得点を取った魔法使いじゃないか! へぇ、まさかこんな所で会うなんてね」


 フィオレの目に闘争心が見える。

 でも僕は全く身に覚えがなく、むしろ何だその設定は状態である。

 そして彼は次にクロヴィスを見て、


「なるほど、これだけ実力がある魔法使いだから仲間になったと」

「いや、陽斗は家に引きこもれる依頼で資格を取ろうとしていたから、連れ出そうと思ったからだ」


 そんな押し売りみたいな目に僕はあっているんですと思いながら僕はフィオレを見たが、そくでフィオレが冷たく僕を見た。


「魔法使いが、そんな情けない事を言っているのか! しかも実力があるのに!」

「え、ええっと……」

「いいだろう、今日はソーセージ代分、使ってやる」


 どうしてそうなったと僕は思った。

 けれどそれはも決まってしまった事らしい。

 何でこんな……それに僕は思うのだ。

 そもそも、どうしてフィオレは、そう、彼は…… ()の(・)()じゃないんだ!





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 フィオレというのは、ゲーム内では主人公のライバルキャラだったツンデレ美少女である。

 銀髪の長い髪に青い瞳の、男装のツンデレ魔法剣士だった。

 初めの方で出てきて主人公にライバル宣言をするが、後に協力しあったり、時に百合っぽいシーンが……というのがあり非常に御馳走様な感じだった。


 なのに、あの素直じゃないけれど主人公を気遣ったりする、気丈な美少女が……男になっていました。

 何故、TSさせたし!

 そんな心の底から涙しそうな過酷な現実に気付いた僕だがそこで、


「……不服そうだな」

「え、いえ……何かお手伝いするのではなく別の物で解決したいな―、と」

「……ふーん、じゃあ、別の意味で体で支払ってもらおうか」


 ニヤッと凄みのある笑顔でフィオレが僕を見て笑う。

 僕は嫌な予感がしたが、そこで、


「まあまあ、フィオレ。自分好みの可愛い子だからって苛めちゃだめですよ」

「アンジェロ!な、何を言っているんだ! べ、別に僕は……確かに陽斗は可愛いけれど、これは僕のソーセージを食べた罰なんだ!」


 そう言って、タマを指さすフィオレ。

 その指の先には、タマが新たなソーセージにかぶりついた所だった。

 怒られたり飼い主の僕がこんな目になっているのに! と思っていると、そこでフィオレは気づいたようだ。


「この駄目猫! また焼けたばかりの美味しそうなソーセージを……しかも焼け過ぎた感じのは避けているし!」

「にゃー、僕は美食家なのです!」

「……やはりこの怒りは、飼い主の陽斗に……体で支払ってもらうしかないな。両方の意味で」


 何やらまた一つ過酷な条件がつかされて、そしてフィオレが僕の前に近づいてきて腰に手を回そうとする。

 けれど僕はその前に、後ろに引っ張られるようにして抱きしめられた。

 その相手はクロヴィスのようだが、


「陽斗に手を出したなら許さない」


 その声は僕が聞いた事がないくらいに冷たく聞こえる。

 不思議に思って僕が見上げると、クロヴィスと目があった。

 先ほどの背筋が凍るような声とは裏腹に、いつものクロヴィスにしか僕には見えない。

 そこで目の前のフィオレが舌打ちした。


「ふーん、そこまで変わるのか。随分とお気に入りのようだな」

「……俺は陽斗にしか興味がない」

「別に良いけれど……ふう。それで僕達と一緒に、“新緑の宝石”を探しに行く、それでソーセージの件は終わりにして、ついでに御馳走してやる」

「本当!」


 僕はつい言ってしまった。

 だって先ほどから美味しそうな匂いがするし。

 そんな僕にフィオレは唖然としたような顔をして、次にくすくすと破顔し、


「食い意地が張っているな。あの猫と同じだな」

「べ、別に……」

「御馳走してやる。丁度大量に採れた所なんだ」


 そうフィオレが僕に言ったのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 結局僕はごちそうになる事に。

 ハーブやら何やらの入ったこのソーセージは、植物らしい。

 つまり、このソーセージは“野菜”だ。


 この焼いている場所は、採掘の時に地上から穴を掘った時の物らしい。

 そこそこ広くところどころに横穴があるこの場所は、壁の一角から地下水が流れ込み、中央に島のような場所を作って何処かへと流れい出ている。

 そんな外と繋がった場所なので、フィオレはここで食事も兼ねて焼いていたらしい。


「わー、これ美味しい。そういえばこんな調味料が」

「! それはトマトケチャップにマスタード! 素晴らしい!」


 といったように僕達は気づけば意気投合していた。

 そんな僕達から少し離れた場所で、クロヴィスとアンジェロが何かを話している。

 時々ちらちらと僕達の方を見ているが、ここからは会話は聞こえない。

 でもそろそろ何本か焼けるので、


「クロヴィス、えっと、アンジェロさん、もう少しで焼けます!」


 今行くとクロヴィスが答え、アンジェロはさんは付けなくていいよと答え、こちらに来たのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"


 陽斗から離れてクロヴィス達が何を話していたのかというと。

 先に話しかけたのは、アンジェロだった。


「あの時、本当にあなたには断って頂いて助かりましたよ。裏で手を回さなくて済みましたからね」

「……お前達の事は記憶にない」

「それだけ相手にしていなかったと。そこそこ強い気がしていたのですが……お眼鏡にかなわなかった、という事ですか?」

「俺は陽斗以外に興味がない。俺が欲しいのは……陽斗だけだ」


 その淡々としたもの言いに、柔和そうな表情を崩したアンジェロは、探るようにクロヴィスを見て、


「貴方は一体何者ですか? その力も、普通の人間とは思えな……!」


 そこでアンジェロは言葉を切った。

 なぜならクロヴィスが、冷たい瞳のまま唇だけが笑みの形になり、笑っていたからだ。

 まるで深淵を覗きこんだような無意識の恐怖を感じたアンジェロは即座に言葉を止める。

 そんなアンジェロにクロヴィスは、


「知りたいのか?」

「……いえ、結構です」

「そうか、随分と賢く強い魔法使いだから、お前は俺が何なのかが分かるのかもしれないな」

「……おっしゃっている意味が分かりかねます」

「お前がそう思うのなら、これ以上俺は何も言わない」


 その言葉にどっと冷や汗があふれるアンジェロだが、そこで二人は陽斗に呼ばれたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 ソーセージをかぶり付いて楽しんでいた僕とフィオレがもぐもぐしていると、やけにクロヴィスとアンジェロがじっと観察するように見ていたのは良いとして。

 火の始末をした僕達は、傍の穴にもぐりこんで行く。

 人一人がどうにか通れる穴を歩いていくと再び広い空間に出る。


「ここは……石切り場みたいだね」


 四角く切りだされた後らしい階段状の突起がそこら中に見える。

 魔法の明かりが灯されて、中はそれほど暗くはない。

 ただ気になる点が一つ。


 何処からともなく聞こえる水の流れ込む音。

 反響がそこら中で起こって、何処から音が聞こえてくるのかが分からない。

 けれどすぐ傍に“水”があるのは確かなようだ。


 何処だろうと僕は周りを見回すと、少し先の明かりに照らされた床に当たる部分が小さく波打っているようだ。

 この石切り場は外と繋がっているらしく、時折冷たく湿った風が吹いているので、その風に吹かれて水面が揺れているのだろう。

 でも水のある場所まで行ったら行き止まりだろうなと僕が思っている内に、その水際までやってきた。

 そこでフィオレが、


「“妖精の灯り(フェアリー・ランプ)”」


 呪文を唱え、そう呟くとともに白い球の灯りが手の平から湧きたつようにあふれ出て、周りに広がっていく。

 その灯りは水の上に等間隔に止まり、その水溜りの広さを思い知らせた。

 それを見ながら僕は、


「凄く広いんだね。でも水溜りの中に潜るのはどうかと思うので別の道を探そう!」


 と、僕は提案してみた。

 けれどそこで僕はフィオレに半眼で見られて、


「……本気か?」

「えっと……はい」

「水に潜る為の魔法など色々あったはずだろう?」

「えっと……はい」


 段々険しい表情になっていくフィオレに、僕はどうしようかと周りを見渡して、そこで僕はタマに気付いた。


「タマは猫なので水の中に潜るのはあまり良くないかと……」

「にゃ? 陽斗、僕は猫かきで水は泳げるよ? むしろ得意!」


 ここに来て、飼い猫は僕を裏切りました。

 なので他にと思って先ほどから杖に入ったままの杖の妖精のリリスに、


「リリスは水に入りたくないよね?」

「いえ、実は僕防水加工もされているような優れた杖なので大丈夫ですよ」


 手持ちの杖にも裏切られました。

 そこでフィオレははっとしたように僕の杖を見て、


「そういえばそれは伝説の“天球儀の導”。そんな杖をなぜ持っている!」

「え、えっと……僕が作りました」

「作った!? なんていう才能だ……なのにこんなにやる気がないなんて。許せない」


 状況が更に悪化したような気がした僕だが、そこでそんなフィオレをアンジェロが後ろから抱きしめて、


「まあまあ、フィオレ。自分にも他人にも厳しいのはほどほどに」

「だってあれだけの才能があるのに、やる気がないってそんなの許せるわけないだろう!」

「人それぞれ色々な考えがあるものです。あまり硬く考えないようにした方が良いですよ?」


 そうたしなめられて黙るフィオレ。

 それに僕は安堵しながらも、未だにこの水の中にもぐってどうこうするのも嫌だったので、魔法道具を取り出した。


「ちゃんちゃちゃーん、“ろ獲球状ボール”。名前があれだけれど、これを水の中に放り込むとかってに貴重なものを集めて戻ってくるという便利な……ぁあああああ」


 そこでその球状の水色のボールアイテムが、クロヴィスの剣で真っ二つにされた。

 一応代わりはあるのだが、これを作るのって材料集めが意外に大変だったんだ……と涙目になる僕だが。


「陽斗が全くやる気が無いのがわかった。行くぞ」

「え? ええ! うわぁあああ」


 そこで僕はクロヴィスの脇に抱えられるようにして、水の中に飛び込んだのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"






 こう見えても、クロヴィスは魔法が使えるらしい。

 というか、ラスボス戦の時に散々魔法攻撃を喰らって涙目になった素敵な思い出があるが、それも含めてクロヴィスの正体を言うと何かが起こりそうなので僕は言えなかった。

 さて、それは良いとして空気の膜を作り水の中に飛び込んだ。


 水の底にはごつごつとした岩がところどころに見られたが、そのほかは基本的には平らな階段が幾つも連なったような形をしている。

 そこに綺麗な地下水が貯まって湖の様な地底湖の様になってしまったようだった。

 しかも先ほどフィオレがはなった明かりが上から水の中を照らしていて、それが何本もの筋を描いて固定を照らしているのもまたとても幻想的な光景だった。


 そこで僕はふと、そういえば鉱石を採掘していたのに、何で石切り場なんだろうと思っていると、クロヴィスが、


「この辺りは石切り場だから、目的の石はないだろうがな」

「! だ、だったら何でここに……」

「ここは随分と人が入っているから、こういった妙なルートを取らないと目的の物がある場所に辿り着けないだろう?」

「そ、それは……でもそんな未知の場所なんて……」

「俺がついているから大丈夫だ」


 その一言でクロヴィスはすましてしまう。

 そんな無茶なと僕は言いたかったが、このクロヴィスの自身のある態度とラスボスな事も相まって、きっとそうなのだろうと思う。

 ならば信じて進んで行ってもいいのかなと僕が思っているとそこで、


「おい! 陽斗! この駄目猫の面倒もきちんと見ろ!」

「にゃーん、僕の猫かきの実力が見せられない~」

「ずっと泳いでおくわけにもいかないだろう! はあ、何か疲れる」


 そこで僕は怒ったフィオレと、タマを見る。

 タマは僕の方に走ってきて抱きつく。


「やっぱり陽斗が一番いい匂いがする!」

「そうなんだ……。フィオレ、ごめん、ありがとう」

「ふん、先にクロヴィスと一緒に潜ってしまうから、仕方がない。放っておくわけにもいかないし」


 ぷいっとそっぽを向きながらも頬が赤いフィオレ。

 ツンデレっぷりは相変わらずで、これで女の子だとごちそうさま、なんだけれどなと僕は心の中で思った。

 そんなフィオレは後から来たアンジェロに、相変わらず素直じゃないですねとからかわれていた。


 そして僕達は底を歩きだす。

 奥の方に向かう中、途中、色々な魔石やらアイテムが転がっているのに気づく。

 地上の水源と繋がっていたり、地中のアイテムや魔石を掘り起こすように水が流れて、ここに流れ込んでいるのかもしれない……というか、そんな設定があったなと僕は思い出す。


 なのでこまめにフィオレと分け合いながらアイテムを拾う。

 また、水の攻撃をする、涙の雫の様な形をした魔物との戦闘――強制的に僕がクロヴィスに戦わさせられた――や、魚の魔物――ちなみに倒したら食べられる魚が手に入り、タマが大喜びで倒して、口にくわえて僕に自慢しに来た。タマ……それをどうするの? と僕が聞くと、帰って料理をするらしい。僕が――と戦いつつ奥に進んで行く。

 そんな中フィオレは、


「確かに実力はあるみたいだな」

「う、そう言って頂けると嬉しいです」

「……何でそんな風に謙遜する。もっと偉そうに、当然だという風な態度を取るべきだ。本来、力の強い魔法使いとはそういうものだ」

「で、でも慣れないし……」

「だがその力を持って、人々の生活に貢献するのだ。それがそんな風に低姿勢では示しがつかない」

「うう……善処します」

「……やはりこの僕が直々に体に教え込ませてやった方が良いか? 魔法使いの心得を」

「! クロヴィスで間に合っています!」


 そう答えて僕はクロヴィスに隠れてしまう。

 そんな僕にフィオレは不機嫌そうになる。

 面倒見が良いのは好感が持てるけれど、こんなクロヴィスみたいのが二人になったら、僕は嫌だよと思ったのだ。


 そしてそんなクロヴィスにひっつく僕に、クロヴィスは何故か機嫌が良さそうだ。

 そこで機嫌の悪そうなフィオレにアンジェロが、


「フィオレ、振られちゃいましたね」

「べ、別に……というか振られたって何だ、振られたって」

「いえいえ、ただ、フィオレを一番分かっているのは私なんですよ、と思っただけです」

「ふん、僕を一番分かっているのは僕自身だ」

「では私は何番番目ですか?」

「……二番目だ」

「それは光栄です」


 耳まで真っ赤にしてフィオレが答えている。

 何となく、にまにまな光景だなと思っているとそこで僕は気づいた。

 目の前に緑色に輝く石がある。


 これは間違いなく目的の……“新緑の宝石”。

 そう思って僕は走り出して、


「陽斗! 勝手に動くな!」


 そんなクロヴィスの声を後ろで聞いたけれど、僕は無視してその石に手を伸ばす。

 そこで、にゅるりとした何かに腕を掴まれて、


「え?」


 疑問符を浮かべると同時に、何故かフィオレも一緒に何処かへと引っ張られてしまったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




「うぎゃああああああ」

「のにゃああああああ」


 僕とフィオレは、何かに引っ張られて何処かに連れて行かれる。

 その時にうっかり魔法の杖を置いてきてしまったのも僕の痛恨のミスだと思う。

 僕とフィオレの名前がクロヴィスとアンジェロの声で聞こえたが、その声も今は遠い。


 しかもフィオレが呼び出した明かりの魔法は既に届いていない場所だ。

 一体どれくらい遠くまで僕は引きずられてしまったのだろうと思って、そこで光が見える。

 揺れる水面から注ぎこむ地上の光。


 そこで僕達は水面から引きずり出された。

 水しぶきを上げながら地上に引きずり出された僕達。

 そこは円柱状に掘られた場所で、地上との距離も近いようで、僕の二倍くらいの身長の場所から、雑草が顔を覗かせている。


 けれどそれを見たのは束の間。

 すぐ傍の僕達の身長よりも少し高い、半円状の天井の穴がある。

 そこは昔は道であったらしく、レンガが積み上げられている。


 ただ古いものではあるらしく、所々にひびが入っているが。

 そこまでは良かった。

 その古い道の様な場所、そこからもぞリと半透明なゼリー状の様なものがはい出してくる。


 よく見ると僕達の足に絡まっている物はそれの一部の様だった。

 その透明な生物を見ながら、僕は戦闘しないとという思いに駆られていると、


「華麗なる炎の矢 (グレイス・ファイアーアロー)」


 フィオレが魔法を使う。

 フィオレの手に持つ杖から、三本ほどの炎の矢が現れて、その透明なゼリー状の物に当たった。

 けれど当たると同時に霧散してしまう。


「やはりこの程度の魔法では無理か。まさかこんな強力な魔物がいたなんて」

「! この魔物、そんなに危険なの!?」

「いや、危険はあまりない。だが……というか、魔法使いの天敵みたいな魔物じゃないか! 何で陽斗は知らないんだ!」

「だ、だってゲームには出てこなかったし」

「げーむ? まあいい。それよりも攻撃を手伝え」


 そうフィオレに言われて僕も、手ごろな杖を呼びだして魔法を使う。

 先ほどのフィオレが使った魔法の上位魔法。


「華麗なる炎の乱舞 ( グレイス・ファイアーダンス)」


 炎の矢が躍る様に数十本現れて、一斉に攻撃する。

 けれどそれでも傷一つつかない。


「ぼ、防御力高すぎるんじゃ……」


 僕が呟くとフィオレが舌打ちして、


「だが陽斗、攻撃して勝たないと酷い目に会うのは僕達だ」

「で、でもさっき危険はあんまりないって……」

「ああ、ない。だってこの魔物の一番のごちそうは僕達魔法使いの魔力だからな」

「まさか……」


 そこでフィオレが暗く笑った。


「ここで負けると、あの透明な奴に捕まって死なない程度に魔力を吸われる。しかもどうして生かしておくかというと魔力は回復するからだ。そこまでいえば意味が分かるな?」


 そう、フィオレは僕に無理ゲーに近い何かを告げたのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 いなくなる陽斗にクロヴィスはとっさに“力”を使おうとした。

 けれどそれは人ではない、人の持ちえない力だ。

 きっとまだ陽斗は気づいていない。


 もしかしたなら気付かないふりをしているのかもしれないが、それでもまだこの関係をクロヴィスは維持したかった。

 だからクロヴィスは、陽斗を連れ攫われてしまったのだが、そこでアンジェロは、


「まさかこんな事になるなんて。フィオレにこっそり発信機を付けておいてよかった」

「そうか」

「貴方は陽斗に付けないのですか?」


 さらっとアレな好意を薦めてくるアンジェロにクロヴィスは、


「俺が陽斗を見失うはずがない」

「ですよね。貴方の力は規格外ですから」


 そう笑っていると、猫のタマと杖の妖精が自分の杖を重そうに持ち上げて、早く探しに行こうと騒ぎだす。

 そんな杖の妖精の杖を猫のタマが持ち上げた程度に中の良いこの二人を見ながらクロヴィスは、この妖精と猫も陽斗を狙っているんだよなと思う。

 そう思うと邪魔に見えるが、それをすると陽斗が悲しみそうなのでクロヴィスはやらない。


 陽斗はクロヴィスの物なのだ。

 一目見て欲しいと思った。

 だから怠惰に世界を見ていた自分がこんな……。

 そこまででクロヴィスは考えるのを止めて、


「行くぞ」


 短くそう、告げたのだった




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 そんなこんなで、僕はあの透明な触手ぽい魔物と戦ったのですが……見事に負けてしまいました。

 攻撃しながら逃げ出そうとした僕達は、一番初めに掴まれた触手はどうにか吹き飛ばしたもののすぐに別の触手に捕まって、トンネルのような場所に連れ込まれてしまう。

 そのまま何かに覆いかぶされる。

 窒息はしないので良く分からないけれど水の球な物に閉じ込められている。


 そこでにゅっとなのかが自分の中から減っていくのを僕は感じた。

 このまま魔力が減っていくとどうなるんだろうと怖さを覚える。

 こっそりフィオレの様子を見ると真っ蒼い顔でぐったりしている。


 本当に僕は大丈夫なのだろうか。

 だから魔法を使おうとするけれど、手がピクリとも動かない。

 出せるのは声ぐらいのものだ。


 怖い、怖い、怖い。

 僕はどうなってしまうのだろう。

 こんな見知らぬゲームの様な世界で……。

 

 恐ろしい想像がよぎって、けれど、真っ先に頭に浮かんだ相手といえば、


「助けて、クロヴィス、こんなのやだぁあああ!」


 無我夢中で僕は助けを求めた。

 その相手は無意識のうちにクロヴィスを選んでいたけれど、そこで、


「……ぎりぎりだったな」


 クロヴィスが怒りを込めた声で呟くのが聞こえて、すぐに目の前に黒い線の様な輝きが走り、轟音と共にその触手が真っ二つに切られて、消滅したのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 その後僕達は助け出された。

 フィオレはぐったりしていたので、ちょっとする事があるからとアンジェロが隠れる様な場所に抱きあげて連れて行ったのは置いておくとして。


「まったく、駆けつけて助けを求める陽斗の声が聞こえて……つい頭に血が上ってやりすぎたかもしれない」


 そういったクロヴィスの視線の先には、僕が黒い閃光を見た場所だった。

 触手が切られていたが、それどころかその地底部までもえぐり取るように爪痕が残っている。

 一応ゲーム内でこの技を見た事があった僕だが、実際に見るとそれはそれで恐怖感が湧いてくる。


 ちなみにこの技は、このクロヴィスがラスボスとして出てきた時に一番初めにしてくる攻撃だった。

 けれどその力は僕を助けるために振るわれたので、怖がるのは失礼だなと思う。

 そこでクロヴィスがそっと僕を抱きしめて、


「無事で良かった」


 その一言に僕は、酷く安堵して力が抜けてしまう。

 そして甘えるように僕はクロヴィスに抱きつくと、僕を落ちつかせるように頭を撫ぜる。

 それに僕はようやく落ち着いてきて、そこで、


「陽斗大丈夫だった?」

「みたいだね」


 猫のタマと杖の妖精のリリスがやってきた。

 何でも陽斗がさらわれたのに気づいて、クロヴィスが恐ろしい速さで追いかけてきたらしい。

 でもそれが嬉しくて僕は、 


「皆、心配かけてごめん。クロヴィス、助けてくれてありがとう」

「……守るのが約束だからな」


 微笑んだクロヴィスに僕は、相変わらず面倒見が良いんだなと思うと同時に、もう少し傍にいたいなと無意識のうちに思ってしまったのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 正気に戻ったフィオレは顔が真っ赤だったが、アンジェロに話を聞いて顔を曇らせる。


「黒く輝く剣、そして一瞬であの魔物を焼失か」

「ええ、只者ではないと思いましたが、これは予想外でした」

「……野放しにするには危険か」

「手を出す方が危険かと」


 案に関わるなと言うアンジェロにフィオレは鼻で笑う。


「それだけの力を持つなら仲よくしておくに越した事はないだろう。それに、あいつのお気に入りの陽斗は僕のと、友達だからな……」

「……そういえば“普通”の友達に飢えていましたね、フィオレは」

「な、何で嘆息するんだ! 気に入った相手がいないからだ」

「はいはい。……でも、あの陽斗という彼も、何か違和感を感じるのですよね」

「? 何か言ったか?」

「いえ、皆さんが待っていますから、もう行きましょうか」


 そうアンジェロは話を切り上げてフィオレを促し、何も気づいていないような瞳で陽斗を遠くから見たのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 フィオレと合流した僕だけれど、そこでタマが、


「所で陽斗。陽斗を追いかけていく時にこんなものを見つけた!」


 そう言ってタマが僕に手を差し出す。

 その手には緑色の宝石が幾つものっていて、それは、


「“新緑の宝石”! タマ、お手柄じゃん!」

「うーにゃにゃ。褒めて褒めて。頭を撫ぜさせてやるのですにゃー」

「うん、ほーら、撫ぜ撫ぜ~」

「うにゃーん」


 タマが頭を撫ぜると、嬉しそうに鳴いた。

 こういうのを見ると猫だよなと僕は思い、その石を受け取って、


「そういえば、フィオレ達はこれを探しているの? 魔物退治だけ?」

「両方かな。でも魔物は十分に依頼分だけ狩ったし、後はそれだけかな」

「どれくらいかな。僕達も依頼があるから、全部は無理だけれど……」

「その小さいの1つ分かな」

「? そんなに少なくていいの?」

「……“新緑の宝石”の、そんな大きい物がいくつも見つかった事自体奇跡だよ。そこのタマという猫は、招き猫なんじゃないのか? 幸運が近寄ってきているとしか思えない」


 フィオレが告げるのでタマを僕は見ると、タマはにゃ~んと鳴いた。

 でもこのおかげでこのまま帰れそうだ。

 あの触手のような強い魔物がもういないとは限らないし、そう思って僕たちはその場を後にしようとして、そのすぐ近くの穴……その水の中で何かが光るのを目にしたのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 キラキラと金色に水面が光っている。

 そういえば、ゲーム内のイベントでそんなような場所があったなと思って、でもそれは“主人公”の為のイベントだ。

 僕の立ち位置がそうだからといって、“主人公”と同じ道をたどるとは限らない。


 そもそも海の向こうの博物館に石板が飾られている時点で全部違うのだ。

 ここはきっとゲームの世界に似た異世界に違いない……そう思うのに、違和感が僕の中に残る。

 それは幾つかすでにその石板を集めてしまったからかもしれない。


 僕があたかもあの“主人公”にされてしまったような不安。

 そして僕の傍にはクロヴィスがいて、僕を守っていてくれているからつい忘れてしまう。

 僕はまだこの世界からだ出する糸口すらつかめていないのに。


 そう思うと怖くなるのに、気がつけば僕はこの世界に馴染んでいる。

 もしも最終的にクロヴィスと戦うならば仲間を集めないといけないけれど、そのイベントは多分……もう終わっている。

 本来ゲームの序盤の方で出会うはずの彼ら、彼女らはまだ接触すらしていない。


 クロヴィスに連れ回されていたから当然なのだが、このフィオレと出会うのは仲間がそこそこ集まってからのはずだった。

 やっぱりもっと女の子の仲間を増やしておこうと決意する。

 そもそもここにいる全員が男ばかりって、どう考えてもおかしくないか?

 やっぱりこう、女の子の方が華やかさもあるしキラキラとしていてふわふわでこう、こう……。


「やっぱり女の子が良いな……」

「……陽斗は女装がしたいのか? いいぞ、服は俺が選んでやるぞ?」

「ち、違うよ! だったらクロヴィスがすればいいじゃないか!」


 そう告げて僕は金色の髪に青い瞳の美形なクロヴィスの顔を見つつ、女装した姿を思い浮かべた。

 似合う。

 嫌味な位に似合うに違いない、そう僕は確信したが、


「今、何を考えたんだ? 陽斗」

「う、え……クロヴィス、何で笑っているのかな?」

「……帰ったら着せてやる。俺への報酬の一部だ」

「そ、そんな……せ、ぜったいに着ないから!」


 そう言い返す僕だがそのクロヴィスはタマと杖の妖精リリスに目配せし、こくりとお互い頷く。

 何ですかその暗黙の了解みたいな感じは、とペットにまで見放された僕は思っているとそこで、


「それで陽斗、何で突然立ち止まったりしたんだ?」


 フィオレに問いかけられて僕は、


「あ、あそこが光っていたから」

「? 何処が? 明りで水が反射しているだけみたいだけれど?」


 どうやらフィオレにはそれが見えないらしい。

 ますます僕用のイベントじゃないですか! やだー、と逃げ出したい気持ちに僕はなった。

 けれどもしかしたならこういったイベントを消化していかないと元の世界に帰れないかもしれないので、仕方がないので、


「ちょっと行ってくるね」

「? 行ってくるって……おい!」


 フィオレが僕に手を伸ばすけれど、その時には僕はその光の中に飛び込んでいた。

 魔法を使って飛び込んだので、息は苦しくない。

 そしてそんな余裕からか、僕は周りに浮かびあがる金色の光の粒を見上げる。


 それは水中にある魔法陣から発せられているようだった。

 幻想的な光景の中、その魔法陣が浮かび上がっている水の底にまでやってくる。

 魔法陣は二重の円の内側に歯車の様な物が三つ入っていて、その歯車が動くごとにその魔法陣から光の粒が噴き出している。


 その周りには光る文字が描かれていて、“世界を光で満たす者、かの地より来たりて、この世界に祝福を与えん”と書かれてくる。

 見た事もない文字……というかゲーム内では、ただの魔法陣の模様としか認識していなかったけれど、僕にはそう読めた。

 そう思っていると同時に、その魔法陣の中心部に足が触れるとひときわ大きく魔法陣が輝く。


 白い閃光に視界が満たされて、代わりに幾つかの情景が見える。

 そのどれもがゲーム内で回った事のある場所で、もしやこれからそこを回らないといけないのだろうかという不安を僕が覚えて……同時に、何かに助けを求められているような気がした。

 それはあくまでそういったものを僕は感じ取っただけなのだろうけれど、この物語がどういったものかを僕は知っている。


 ただ、この世界はゲームとは似ているけれど違うのだ。

 だからそうなるとは限らない、けれど……。

 僕の中で不安は募る。


 そこで魔法陣から以前の石板の破片の様な物が出てくる。

 とりあえずそれを回収すると、その魔法陣はふっと光を失う。

 これでイベントは完了らしい。


 そう思って僕は底から離れて自ら顔を出すと、皆が僕の顔を覗きこんだ。

 そしてフィオレが、


「陽斗、一体何をやっていたんだ?」

「魔法陣の様な物があったので見たけれど、近づいたら消えちゃった」

「魔法使いならもっと警戒しろ! どんな危険な魔法があるかも分からないのに!」

「ご、ごめん。心配かけたかも」

「……まあいい。帰るぞ」


 さり気に心配性なフィオレに、良い奴だなと僕は思う。

 けれどこんな人間が作った石切り場に何であんな魔法陣があったのか、僕は気づいていなかった。

 その傍で誰かが僕を見ていたのも。


 そして、タマはそれに気付いていたらしい、というか“仲間”だから気付いていたらしい事も。

 それでもまだ、僕のこの世界の日常に大きな変化はなかったのだった。







。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 こうして僕達は目的の品を手に入れて、依頼をこなした。

 何とか町まで戻ってこれたのは良かったように思う。

 そして別れる時にフィオレに、


「また何かあったら一緒に……その、パーティを組んでもいい」


 と顔を赤くしながら言われた。

 これで女の子だったらもっと良かったなと思いながらも、好意が純粋に嬉しくてありがとうと僕は微笑んで手を握る。

 そしてこれからもよろしくと僕は告げると、フィオレがさらに顔を真っ赤にしている。が、


「でも僕、出来れば家に篭りたいから、多分、あまり戦闘はしないと思う」


 というか今度こそ朝早くに、ポイントが増えそうな依頼を探そうと計画しているとそこで、フィオレが僕の手を握り返した。

 その表情は何処か怒っているようにも見えるが、そこでフィオレが、


「つまり、お菓子などの食べ物や薬の調合を中心にすると?」

「う、うん。危険が少ないし……」

「これだけの力を持っていて?」

「う、え、えっと……でも今日みたいな目にあうのも嫌だし」


 険を帯びたフィオレの目が、一瞬だけ何処か虚ろに虚空を見たが、すぐに、


「確かにあんな目にあったりする事もままあるだろうが、それでも僕達魔法使いは人の役に立つためにある」

「それは家に引きこもっても出来ると思います」

「だがその戦闘能力を腐らせるのはもったいない、そう思わないのか!」

「いえ、僕はこう、平穏な生活が……」


 そこで僕は背後で何者かに襟首を掴まれた。

 びくっとして恐る恐るとその人物を見ると、クロヴィスだった。

 クロヴィスはひきつったように笑い、


「こうやってすぐ陽斗は逃げようとするんだ」

「なるほど、これからはこまめに僕も誘いに来よう。この陽斗を誘えばクロヴィスもついてくるんだろう?」

「……ああ。まだこの陽斗を一人にしておくのは危険だからな」

「あの一人狼なクロヴィスが、これほどまで入れ込むとは……よし、巻き込もう」


 フィオレがそんな事を言いだした。

 どうやらクロヴィスの力が魅力的なのもあって、僕を誘いに来るようだ。

 そんなと僕が思っていると、そこでタマが、


「やっぱりこまめに外に行くのは楽しいよ? 塀の上を歩いたりとか」

「タマ……僕の味方はしてくれないの?」

「陽斗には杖の妖精リリスもいるじゃん。あんな強い妖精の守護だってあるんだから、大丈夫にゃ~」


 リリスもそうだそうだと言う。

 ああ、このまま、また次のイベントに巻き込まれるのかなと僕は涙目になっていると更に話は進んで行く。


「じゃあ、明日も誘いに来るよ、アンジェロもいいよね?」

「そうですね。良いですよ」


 誰も止める人がいませんでした。

 なので僕は、明日は早起きして家を出てこの町がどうなっているのかを見に行ってやる、と決めたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 そしてようやくフィオレ達と別れて家に戻ってくる。

 食事は近くの露店で美味しそうな揚げ物があり、それを買うことにした。

 何でもイカ鳥という、白いイカに茶色の翼が生えた鳥を衣を付けて焼いたものらしい。

 部位によって触感や味が違うとか何とか。


「どう考えても手羽先と、イカの串揚げにしか思えない。美味しいけれど……あ、タマ、ソースは二度漬け厳禁だよ」

「にゃ~」


 タマがもう一回ソースが付けたいなとソースの入れ物を見ているので、僕はタマの手を引きその露天から歩き出す。

 そこでクロヴィスに僕は、


「口の右側にソースがついているぞ」

「え? どこ?」

「ここだ」


 クロヴィスはそう僕に告げて、顔を近づけてソースをぺろりと舐めあげる。

 こうやって近くで見るとクロヴィスは整った顔をしているよなと僕は現実逃避してしまったが、すぐにソースを舌で舐められたのに気づいて、


「し、舌でなめることはないと思う!」

「いや、美味しそうだったから」


 笑うクロヴィスに、僕はどことなく何かを感じた気がしたが、そこでリリスが飛んできて、


「陽斗、僕も」

「リリス用のご飯は、確か、個々の出店で南の方の花の蜜が売っていたはず」


 以前ゲームで見た、夜しか出ない屋台のイベントの記憶を頼りに僕達はそちらに向かい、花の蜜を手に入れる。

 珍しいその花の蜜にリリスも喜ぶ。

 そんなこんなで僕は違和感を忘れて、家へと戻ったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 朝早く僕は目を覚ました。

 今日は朝早く起きるぞ、と思っていたので上手く行ったと小さく笑う。

 寝る前に色々と準備をしておいてよかったと僕は思う。


「さてと、クロヴィスが起きる前に逃げちゃおう」


 こんな連日戦闘ばかりでは、疲れるのだ。

 やはり家に引きこもってゆっくり、ポイントの高い依頼だけを受けたい。

 そして女の子と仲良くなりたいのだ!


「ゲームで見たけれど、モブの女の子も可愛かったんだよね。そんな可愛い子とお近づきになりたいんだ……男ばかりと接触するのを止めたいよ」


 そう僕は小さく嘆く。

 嘆いてから、そんな自分を変えるために今日は頑張るんだと背伸びをして、服を着替える。

 男ものの服を着替えながらも、その内また男性用の服を買ってこないとなと僕は思う。


「お店の位置も確認しておこう。ゲームでは男性用の服のお店なんて入った事がなかったし」


 そこでそのうち男性用の服を大量購入しておこうと思う。

 だってこの前みたいに服を溶かされて女の子の服しかないなんて状況にはもうなりたくないし。

 そう僕は心の中で思ってからそこで僕は気づいた。


「あれ、杖の妖精のリリスと飼い猫のタマがいない」


 今日は同じ部屋で寝ていたはずだが、今日は二人揃ってクロヴィスに何処かに連れて行かれていた。

 そう思いながら僕はそろりと自分の部屋から抜け出す。

 確かこっちの部屋がクロヴィスだからと思いながら気配を心なしか消して歩いていき、そこで声が聞こえた。


「あ、や、やぁああっ、タマ、止めてっ」

「にゃーん、妖精って可愛いし甘いんだよね。ぺろぺろ」

「やぁあーん、僕の杖、舐めないでぇええ」


 タマがリリスの杖を舐めている。

 どうやら甘くて美味しいらしい。

 そしてリリスがそれで、顔を赤くして、はぁあはぁあ、している。 


 ちょっとやり過ぎというか、止めた方がいいかなという感じで、リリスは顔を上気させ、荒く息を吐いている。

 そんなリリスはそこで、


「ああ、でめ。そこを舐めちゃらめぇ~、僕は、僕は……陽斗にセクハラしたいのにぃいい」


 その言葉を聞いて、僕は放っておく事にした。

 そっと声の聞こえた場所から離れて、ゆっくりと階段を音をたてないように下りていく。

 そしてそのまま家から飛び出して、空を見上げた。


 まだ太陽が昇り始めた空は、微かに星が見える。

 けれど空気は冷たく澄んでいてとても心地が良い。

 だから僕は深呼吸をして大きく背伸びをしてから、走り出したのだった。


。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 当り前だがこの時間では店はほぼ全てしまっている。

 けれど人通りが全くないと言うわけではなく、途中、ジョギングをしている人達にも出会う。

 世界が変わってもやる事はそんなに変わらないなと思っていると、そこで一台の高級そうな馬車が見える。


 それは僕の横をすぐに走り去っていってしまうが、その場所の印は何処かで見た事がある気がする。

 何かのイベントがあった気がするが、何だったっけと思って、その時僕は思い出せなかった。

 そしてしばらく歩いて行くと、商店街に出る。


 全てがしまっていて、明りもついていない。

 ただ看板でどんな店か分かるので、僕はそれで確認していく。


「ここは時計のお店、そしてあっちは八百屋で、ここは雑貨のお店。薬やハーブを扱うお店に、魔道具を売る店、武器のお店、男性の服を売る店……ここは要チェックと」


 そう思いながら見ていくと、ずいぶん色々なお店があると気付く。

 しかも途中でチラシがあって、どんな風にお店が並んでいるのかが書かれていた。

 今度からこれを参考にしようと思いつつ、ここの地図を何処かで手に入れておこうと僕は思う。


 ゲーム上ではマップとしてあらわされていたけれど、それだけではこの町の中が良く分からないからだ。

 そんな事を考えながら歩いていくと、そういえばこの先はギルドだったよな、と思いだして歩き出す。

 今、並んだなら一番乗りだろうなと思っていた僕は、自分の考えが甘かったと痛感する。


 しばらく機嫌よく歩いていった先で僕が見たのは、ギルドの前に並ぶ魔法使いの女性や男性達、10人程の姿だったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 並んでいる魔法使い達。

 最後尾は可愛い女の子達だったので、久しぶりに女の子達と話せるかもと僕は近づいていた。

 女の子達は可愛い服装で、おしゃれな……けれど僕の方が強いタイプの杖を持っている。


 可愛い。

 可愛いよ、女の子。

 そうだ、そう、これを僕は待っていたんだ。


 僕がやっていたゲームはこんな可愛い女の子が頑張るゲームで、キラキラしていて、夢が一杯詰まっていた。

 間違っても男だらけだったり、男がエロい意味で襲われる物ではなかったはずだ。

 僕はそう思って静かに頷き、新たな一歩を踏み出すべくその列に近づいていった。が、


「……」


 僕は無言で女の子達から見られました。

 なんで、どうしてと思っているとそこで彼女の一人が僕に、


「貴方……クロヴィス様とパーティを組んでいる人じゃなかったかしら」

「は、はい、そうですが」

「クロヴィス様を遠くから愛でる会のブラックリストに載っている人物だったわね」

「へ、え? な、何ですかそれ。クロヴィス様を遠くから愛でる会って……」


 そこで彼女達は二人でこそこそと話す。

 次にこくりと二人は頷いてから、先ほど僕に話しかけてきた彼女が、


「クロヴィス様を遠くから愛でる会とは、クロヴィス様のお姿を遠くからじっと見つめ、見守る女性や男性の会です」

「それってス……」

「いえ! 我々はただ見ているだけです。あのお姿、あの実力であるが故なのか、唯我独尊な性格で、何時も一人でいる。そんな孤高の方なのです。過去に一体何があったのか、妄想が止まりません」

「え、えっと、それってただのボッチ……」

「いいえ! あの方はそんな物ではありません。あの方は貴方が来る前は、パーティに誘われても全て断っていたというのに……貴方が来て、あの方は変わられてしまったのです」


 そうなんですか、欲しいならぜひ持って行って下さいという気持ちに僕はなった。

 だってクロヴィスは、僕を戦闘に連れて行くのだ。

 僕はもっと危険のない依頼で、ゆっくりと元の世界へ戻る方法を探したかったのに。


 ほんの少し贅沢を言うなら、可愛い女の子キャラとの素敵な出会いも夢見ていた。

 なのに集まってくるのは男ばかり。

 しかも猫もオスだし、ライバルな女の子キャラもTSして男になって現れた。


 どうしてこうなった。

 切なげに数回呟くけれど、現実は変わらない。

 そこで僕は話している女の子に、


「聞いているのですか!」

「は、はい、ごめんなさい」

「……貴方が来てからというもの、無表情で冷たく、見下すように周りを見ていたクロヴィス様が笑うようになったのです」

「……その笑顔にも種類があるような気がするのですが」

「ええ、おかげで様々なパターンのクロヴィス様の笑顔を写した写真が手に入りました。でもまさかあの方が貴方の家に同棲するなんて」

「あ、あの、目が怖いのですが……」

「しかもこんなに可愛い男の子で、クロヴィス様と一緒にいるのが似合ってしまうなんて……許せない」


 そこで彼女が指をパチンと鳴らすと、何処からともなく女の子達が早朝なのに現れて、僕を取り囲む。

 怯える僕に、先ほどから僕に話しかけてきた彼女が告げた。


「前々から思っていたの……クロヴィス様の傍にいる子は、何であんなに地味な格好なのだろうと。なぜドレスを着ないのだろうと」

「で、でも僕、男で」

「だから一人になった時に、着替えさせてしまおうという話しになったの。でも貴方はクロヴィス様達といつも一緒だから、手出しできなかったのだけれど、ようやく機会が巡ってきたのよね」


 笑う彼女達に僕は恐怖を覚える。

 先ほどまでの可愛くてキャッキャしていたような彼女達は、今は僕にとって恐ろしい怪物の様に見える。

 がたがた震える僕は逃げられずにいるとそこで、


「陽斗じゃないか。珍しいなこんなに朝早くにこんな場所で会うなんて」


 フィオレが珍しく一人で僕の前に現れたのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 現れたフィオレは瞳も赤く、泣きはらしたかのようだ。

 更に付け加えると機嫌が悪そうである。

 何時も一緒だったアンジェロが傍にいないのは僕にとって不思議な感じだったが、それはいい。


 今現在のこの僕の状況は、一人で突破するには難しかった。

 だから僕はフィオレに助けを求めたのだ。

 けれど彼はじっと僕を見て、次に彼女達を見て、


「陽斗にドレスを着せようとしているのか?」

「はい、もちろんです。丁度子の様な白くてふわふわなドレスがありまして……」

「へぇ、それは僕もみたいな、手伝おうか?」

「それは助かりますわ。これが、そのドレスですっと」


 何処からともなく取り出したそれに僕は凍りついた。

 ドレスと言っているが、正確には普段着の身に好かのフリルのついたワンピースの様な服である。

 彼女達も着ているので、それほど目立たないはずだ。


 服のみはだが。

 そして着る僕は男なので、違和感ありまくりなのだと思うが、取り囲んだ彼女達の手がにゅっと僕の方に伸びてくる。

 フィオレは僕の様子を笑いながら見ている。


 だから僕は叫んだ。

 だってどう考えても、


「フィオレの方がよっぽど似合いそうじゃないか!」


 そう僕が叫ぶと同時に女の子達は一斉にフィオレの方を向く。

 チャンスだ、そう思って僕は、一番大きく開いている女の子と女の子の隙間を通ってその場から逃げだした。


「逃げたぞ! 追え!」

「ふ、ふぎゃああああ」


 数十人近い女の子が、僕を追いかけてきた。

 その必死の形相に、僕は怯える。

 可愛い女の子、それも多人数に追われているという、文字に起こせば幸せな状況なのに、現実はこれだと嘲笑うかのような状態だ。


 しかも彼女達の目的は、僕の女装なのである。

 生まれてこの方そんな性癖に目覚めた事なんて一度もない。

 なのに、クロヴィスの傍にいるからという理由だけで僕はそんな目に会わせられそうになっているのだ。


 クロヴィス、マジ、許すまじ。

 恨むように僕は呟きながら、涙目な僕はその場から逃走するた目に魔法を起動させたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 ふと気配を感じてクロヴィスは目を覚ました。

 それは陽斗の魔力。

 どうして魔法を使うような状況になっているんだと思いながら、それがこの家の外、そこそこ遠い場所だと気付く。


「こんな朝から何をやっているんだ?」


 陽斗がいなくなったのにぐっすりと眠ってしまっていた。

 正確には、陽斗と一緒にいるからクロヴィスは安定しているのだろうが。

 けれど、どうしてこんな事になったのかとクロヴィスは、頭の中で考える。


 そういえば昨日も、戦闘が嫌だと言っていた気がする。

 つまり陽斗は逃げたのだ。

 クロヴィスからも。


「本当に生きが良くて楽しいが……その程度で俺から逃げられると思っているのか?」


 クロヴィスがそう、陽斗がいる方角を見て嗤う。

 いずれ自分の手に落ちてくる、否、自分の腕の中に捕らえられるしかない獲物のその何も知らない様子に、クロヴィスの笑みは深まる。

 一目見た時から気に入っていたのだ。


 とても退屈で、どうでもいいと思っていたのに……奪いたいと思ってしまったのだ。

 だから、選んだ。


「俺から、逃げられると思うなよ? 陽斗」


 もう一度そう呟いてクロヴィスは、陽斗を捕まえに行こうとベッドから起き上がったのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 ゲームの中には、イベント用の魔法がある。

 その特別な出来事を起こすために、色々な場所に行ったり、戦闘したり、人に会ったりする事で手に入る魔法があるのだ。

 そういったイベント用の魔法はその時だけしか使えないものもそこそこある。


 この魔法も僕がゲームをしていた時に、空に浮かぶ謎の種族(秘密がある)の国に行くために必要だった。

 人間達との交流のある温厚な不思議な国。

 ちなみに一度プレイ済みなので、その秘密に関して僕は全部知っているのだが、それは置いておいて。


 現れたゲームの技の選択画面を探し、


「こ、これだ! “飛翔する白い翼 (フライ・ホワイトウィング)”」


 唱えると同時に、僕の背に白い魔法陣が浮かび上がり、白く透明な光の羽が生える……と思う。

 実際に背後で白い光があふれているのを感じたので、おそらくはそうなのだろう。

 画面ではそういった映像が出ていたのだけれど、自分の背中は見れないので良く分からない。


 なので僕はそれを使い空高く跳びあがる。

 空を飛べば家々の屋根を飛び越えていける、だから彼女達は巻ける、と思っていた僕の考えが甘かった。


「逃がさなくてよ! “飛行部隊”、出動!」

「「「はいっ!」」」


 女の子達の数人が、空飛ぶ羽が杖に生えたもので僕を追ってくる。

 確かこれもイベントアイテムであった気がするけれど、こんなに何人も持てるような良くあるアイテムだったっけ、と僕は思いながら逃走した。

 その杖よりも僕のこの魔法は動きが遅い、僕は自分の選択ミスを呪った。


 そして僕は、彼女達に捕らえられ、よくも逃げたなと恨めしそうに女装されているフィオレと、ギルドの列に並びながら好き勝手にさせられてしまったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



「もう、お婿にいけないようぅ……」


 女の子達にあれよあれよという間に着替えさせられていいようにされてしまった。

 僕はこんな出会いを女の子達に望んでない、そもそも人形遊びみたいじゃないかと涙目になる。

 なので悲しげに僕が呟くが、フィオレは、


「似合っているから良いじゃないか」

「似合っているのはフィオレです! 何で僕がこんな格好なんだ」

「ふん、この僕を生贄にして逃げようとするからこうなるんだ。でも可愛くて似合っててよかったな」

「よくないよ! というかフィオレならまだしも何で僕が……」

「さっきから僕は似合っているけれど自分は似合っていないとか、何を言っているんだ陽斗は。僕が美しいから何を着ても似合うのは分かるが、陽斗の場合は違和感無く似合っているからな?」

「! 僕だって男だ!」

「僕だってそうだ! だが陽斗は男性というよりは女の子の様に可愛いから仕方がないな」

「な、僕が男らしくないって言うのか!」


 そんな僕の言葉に、何故か周りの女子も含めて全員が沈黙した。

 否定するでもなく肯定するでもなく……今更感が漂うような沈黙。

 酷過ぎると僕は更に涙目になった。そこで、


「陽斗、何処に行ったのかと思えばここか。朝からギルドに並びに来たのか?」


 みるとそこにはクロヴィスがいた。

 全ての元凶であるクロヴィスに僕は、


「クロヴィス、クロヴィスのせいで僕はこんな格好をさせられたんだぞ!」

「……似合っていて可愛いじゃないか」

「な! 無理やり僕はあの子達にされたんだ!」


 怒って僕はそうクロヴィスに言うと、クロヴィスは彼女達の方を向いて頬笑み、良くやったというかのような手の動きをした。

 女の子達がキャー、という黄色い声を上げる。

 イケメンなんて大っ嫌いだいだと僕は心の中で切なく呟く。


 そこでクロヴィスは傍で女装させられたフィオレに気付き、


「何でお前までそんな恰好をしているんだ?」

「陽斗に巻き込まれたんだ」


 低い声で答えるフィオレに僕はびくっとしながらも必死で何かいい訳をしようとして、ギルドの依頼も思い出して、


「じゃ、じゃあフィオレに何かお菓子をごちそうするよ!」

「依頼の余りだろう」

「うぐっ!」

「仕方がない、それでいいだろう。そして愚痴も聞いて欲しいし」

「そ、そう、じゃあ今日は戦闘なしでいいよね、クロヴィス!」


 そう僕はクロヴィスに言うと、クロヴィスは頬笑み、


「依頼は数日間有効だろう?」


 と、これからの予定を埋める宣言をされてしまったのだった。




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