こうして一緒に住む事になりました
面倒臭そうに出てきた彼は、僕達を目にすると動かなくなる。
そしてこの黒く長い髪に青色の瞳とこの顔はどこかで見たことがあるなと思って……思い出した。
「ローレライに、似ている……」
「そういえば昔この洞窟にはローレライという人を魅了する女の魔物が住んでいた、という伝説があったな」
クロヴィスが思いだしたかのように呟く。
それに伝説があるだけで出会った人はいたかな、ゲームでは? と僕は疑問符を浮かべるがそこで、その突然現れた美少年が、
「何でこんな所に人間がいるんだよ……海蛇はどうしたんだ? 今日は人が出入りできないようにしておけって命じておいたのに」
「えっと、“青と白の海蛇”なら僕が倒しましたけれど……」
「ええ! こんな小さくて可愛いのに強いんだ。でも倒したのか……なのに僕のは持っていないみたい……じゃああの“ローレライの涙”は別のやつに持って行かれたか、気配がないし」
深々と嘆息する彼だがそこで、ポケットからゴソゴソと何かを取り出す。
それは薄い水色の宝石で、“ローレライの涙”そのもので、
「“目覚めよ”」
少年が告げるとその宝石が輝きだして、再び“青と白の海蛇”を創りだした。
そして彼は、
「この子は大事な番犬代わりだから、もう倒さないでくれると嬉しいな。代わりに“ローレライの涙”を5つあげるから」
「いえ、別にもらわなくても……」
「受け取ってもらえないと、君達を殺さないといけなくなるからそれは避けたいんだよね。契約で縛って僕の秘密を他の人に話さないようにしないといけないからさ」
表情は笑っているのに目は笑っていない。
その静かな敵意に僕はまっすぐに見つめ返して、
「分かった、もらうよ」
「そうしてもらえると助かるよ。そちらの黒い人もそれでいいね? 良かった―。僕も人間との混血が進んでいるから、街に出ないと退屈で生きていけなくてさ―」
そう言い出した彼、ローレライの末裔は、ライと言うらしい。
ちなみに彼は普段酒場で女装して歌ってアイドルになっているらしい。
理由は、魔物として戦うより安全で金になるからだそうだ。
ちなみにローレライである彼の涙で、“ローレライの涙”という宝石は出来、たまに作って売っていたりする。
「もし欲しかったら依頼してね。これも何かの縁だし、君は可愛いし」
「ぼ、僕は男です! なのに可愛いって……うう、女の子にもてたいよぅ」
「え、それは無理じゃね?」
「……」
「無理無理。だって君には男を惑わす魅力があるし。僕の魅了も相当強いけれど、なんとなーく君には勝てない気がするんだよな」
「そんなもの要りません! やっぱり街に戻ったら僕の実力を示して女の子にモテモテのR18なハーレムを作ってやるんだ!」
涙目で僕は叫ぶと、まあ頑張ってねとライに適当に流された。
そして仕事があるからと彼が、僕達に“ローレライの涙”お約束通り渡して契約で縛ってその場から去っていく。それを見送ってから、
「待て、ローレライちゃんは……男の娘?」
「そういえば魔物図鑑のローレライは美しい女として描かれていたな」
クロヴィスのその呟きに、何で男体化するんですか! と僕は涙目になる。
ゲームの時のグラはとても可愛い娘だったのに、男……。
そして僕の杖の妖精もそういえば男だった。
「あ! 陽斗どうして僕を見て溜息を付くの?」
「いや、どこもかしこも男ばかりで、女の子が恋しくて」
「しゃあ、陽斗が女装をすればいいじゃん」
「……どうしてそうなった……ああもう、疲れたし、もう帰ろうよクロヴィス」
そうクロヴィスに話しかけると、
「そうだな、祠まで来たわけだし。ここで戻っても構わないか」
「よし、こういった遺跡から瞬時に元の出入口にまで移動する“出入口の縄梯子”! これを使うと……ああ!」
そこで僕のそのアイテムはクロヴィスによって三分割されてしまった。
これではもうこのアイテムは使用できない。
酷いよと思って見上げると、
「そうやってすぐに楽な方法を取ろうとするな」
「で、でも……」
「少しでも戦闘慣れするためだ。陽斗には必要だろう?」
僕のためだというのはわかるが、もう少しクロヴィスは甘やかしてくれてもいいのではなかろうかと僕は思ったのだった。
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頑張って敵を倒しつつ帰還した僕だけれど、
「やったー、ようやく出口まで来れたようぅ。夕暮れまでには少し時間があるみたい」
ほんの少し傾いた太陽が僕を照らす。
ようやく出口までこれたと喜んでいるとそこで、
「……それでこの砂を採取するのか?」
「! そうそう。これも原料になるんだ……爆弾の。敵に投げて、魔法で火を付けるタイプや、投げると敵に当たった衝撃で爆発するものとか、時限式とか……敵が密集していると、使いやすくて良いんだよね」
「……ふと思ったが、それは魔法でも出来るだろう?」
「魔力を消費しなければ、普通の仲間にだって使えるじゃないか」
「つまり俺に持たせるのか?」
クロヴィスにそう言われて僕は考えてしまう。
そういえばこのクロヴィス、ラスボスなだけあって実は魔法攻撃も結構強力なものが使えたりするので、正直爆弾はいらない。
そうなってくると新しい仲間を増やすのが良さそうなのだが、
「クロヴィス、僕達以外に仲間は……」
「必要ない」
「いえ、でももしもの事を考えるのも……」
「そもそもどうして仲間が必要なんだ? さっきは爆弾の話をしていただろう?」
「クロヴィスは強いから必要ないんじゃないかと思って。だから爆弾はどうしようかなって」
「……その分別の調合に時間を使ったらどうだ? 他にも……杖は最強といえる物があるし防具も良さそうだしお金もあるし……なるほど。戦闘にのみ時間を割いても何ら問題はないな」
クロヴィスがにやりと笑って僕の方を見た。
どうやら僕は墓穴を掘ってしまったらしいと焦るが、そこで僕は気づいた。
そもそもゲームの主人公があの町に来た理由は、もっと上級の魔法使いの資格を取るためで、だから、
「い、依頼をこなさないと、減点されちゃうんだよ!」
「……そういえばそうだったな。適当に高ポイントの依頼を受けさせて、それで後は戦闘に……」
「で、でもそんな高いポイントの依頼なんて……」
「別に調合だけが依頼とは限らないだろう?」
とても詳しいクロヴィスのその笑顔に僕は、絶対にドラゴンやら魔王やら未知の遺跡の奥に住まう恐ろしい怪物やらそんな危険なものに僕を連れて行く気だと気付いた。
やっぱりクロヴィス自身がラスボスだという余裕があるから、そんな風に進めるのだろうか。
どちらにせよ僕の旗色はかなり悪い。
どうしようどうしようと考えて僕は、ようやく諦めて、
「……戦闘はもう少し軽い物でお願いします。そして調合の依頼もやらせて下さい」
「それは素直に連れだされるという事だな?」
「うう、はい。……は! まさかそれが狙いで過剰な要求を!」
「今更気付いたか。もうなしには出来ないぞ? それに毎日、陽斗の家に俺は行くし」
「……毎日少しずつ僕の家を直してくれるんでしょう? はあ、いい加減諦めるか」
「そうだ、諦めが肝心だ」
楽しそうに笑うクロヴィスに、やっぱり絶対あらゆる手を使って逃げてやると僕は考えたのだった。
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浜辺の砂を集めて、ついでに浜辺周辺にある植物を採取する事にした。
この海辺にはヤシの木のようなものがあり、一年中、ヤシの実のようなものが採れるのだ。
しかも自然に生えているので誰でも自由に取り放題だったりする。
そんなわけで僕達は、この地域に生えている“棘ココナッツの実”を取りに来たのだ。
ただ木が高いので、登らないといけないので僕は木の傍まで来て、そして登ろうとしたその時だった。
熟しすぎたその棘ココナッツが僕の頭上で真っ二つになり、
「うわぁあああ、何でぇ」
中から棘ココナッツのミルクという名の白い液体を、僕は頭からかぶってしまう。
ついてないと僕が涙目になっていると、クロヴィスが近づいてきて、僕の頬をぺろりと飲めた。
その温かい舌でなめられる感覚が、味見をされたような気がしてどきりとしてしまうが、
「……甘いな」
「そ、そうだね、このココナッツミルクは凄く甘くて香りが良くて……」
「それに何だか、陽斗がエロく見える」
「な、何を連想しているんだ! やめてー!」
卑猥な妄想をされているような気がして僕は、ぽかぽかとクロヴィスを殴るが、そこで僕の顎をくいっと持ち上げて、
「……このまま連れ去ってやろうか」
「……え?」
そのクロヴィスの瞳が熱っぽくて、僕は一瞬逃げ出したい気持ちになるのだが、そこで杖の妖精のリリスがやってきて、
「ねえねえ、僕、これ舐めていい? これ大好物なんだ1」
「! そ、そうなんだ。良いよ」
「わーい」
そこでリリスがぺろぺろ僕の頬を舐めたりし始めるが、クロヴィスは何だかむすっとしていて、そこで僕の手を引いて、
「今日はこの港町に泊るぞ。こんな格好では帰るのもきついだろう。宿で体を綺麗にしろ」
「う、うん」
こうして僕は港町の宿に泊まる事になったのだった。
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ゲーム内では使用できなかった宿に僕達は泊っていた。
正確にはゲームの中で見覚えのある宿はあったのだが、
「その宿よりも良い場所がある」
そう言われてクロヴィスに連れてこられた宿は、シャワーが部屋についている物さった。
傍には備え付けの薄水色のタオルとバスローブがある。
そこで僕はクロヴィスに、
「早くシャワーを浴びてこい」
「う、うん。……宿の主人にも笑われちゃったしね」
そう言って僕がシャワー室に入ろうとすると、杖の妖精のリリスが一緒に水浴び~と飛んできたが、その羽をクロヴィスが捕まえて、
「……駄目だ」
「良いじゃないですかぁ、潮風に吹かれて羽がガサガサするんですよ」
「後で一緒に入れてやる」
「……分かりました」
頬を膨らます妖精リリスに、代わりに花の蜜で作った飴玉を上げてクロヴィスはリリスの機嫌をとっていた。
でも一緒に入ったら、僕のこの白い液体がリリスにかかってしまいそうだなと思いながら服を脱ぎシャワー室に入る。
蛇口をひねると温かいお湯が噴き出す。
「気持ちいい。久しぶりにお湯を浴びたような……いや、それほどでもないか。色々あって疲れただけで」
僕はそう思いながら、備え付けの石鹸とシャンプーで体と頭を洗う。
そのすぐ横に緑色に色づいた油のような液体があって、これがリンスかな―と思いはするものの使う勇気が僕にはなくて、そのままシャワー室から出てバスタオルで体をふく。
そしてバスローブに着替えながら僕は、確か他の装備でどんな服があったか後で調べようと思う。
「こんな白くなった服は着て帰るのが嫌だし。確か材料の普通な感じの服もあったはず……は!」
そこで僕はある事実に気付く。
そう、僕の本来のポジションは女の子だ。
つまり服も主人公の女の子の服しか装備出来ないとか恐ろしい事に……。
「ひ、ひらひらのスカートとか冗談じゃない、僕は男だ! ……でも確か初期のころの装備が残っていてそれなら、他のキャラと兼用できたはずで……」
「何をごちゃごちゃ言っているんだ」
「わぁ! び、びっくりした……クロヴィスか」
「……きちんと前をそろえろ」
そう言ってクロヴィスは、はだけかけたバスローブを正す。
確かにもう少しきちんと着れば良かったなと僕は思いながら、
「ありがとうクロヴィス」
「ああ。あまり肌を出すな。誘惑されたと、襲われるぞ?」
「僕は男だよ、襲いたいなんて思う……のは少数派だと思うんだ」
短く答えながらも、僕のバスローブを整える間、クロヴィスは視線をずっと僕からそらしている。
何でだろうなと思っていると、そこでクロヴィスもシャワーを浴びると服を脱ぎ始めた。
脱ぎ出したクロヴィスを見て、意外に筋肉があるとか、骨格がしっかりしているとか僕がなりたい体そのものをしているようだ。
それを見ながら、道理であの剣を僕が持てないわけだよなとも思う。
「……でももしもそれを言ったなら、筋肉を付けるために冒険コースに突入しそうな気がする」
筋肉ムキムキマッチョは少し憧れるが、好きなように調合やら何やらしつつ女の子をナンパする気楽な時間を過ごしながら、元の世界に戻る方法を探したいなと僕は思う。
そのためには絶対に言っては駄目だと僕は思って、そこで体を洗ったクロヴィスが出てくる。
同じバスローブなはずなのに何処となく様になっているような気がする。
それに何だか妙に男の色気というか、ドキドキするような……。
「いやいや、ないから」
「陽斗~、気持ち良かったよぅ」
リリスが抱きついてきたので、良かったねと僕は告げる。
そんな僕をクロヴィスが熱っぽい眼差しでじっと見つめている事に、僕はついぞ気付く事はなかったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
その後着替えて酒場で遅いご飯を食べに行くと、あの男の娘なローレライが歌っていた。
確かに澄んだきれいな歌声で、眠ってしまいそうだなと思いながら食事をとっていると、彼は僕達を見てぶすっと頬を膨らませた。
後で聞くと、僕の歌声に魅了されないなんて許せない、との事らしい。
それにクロヴィスは、
「俺のレベルが高すぎるんだろう。陽斗もこう見えて強い魔法使いだし」
「納得できない……。まあいいや、魅了出来なかった相手にはデザートを奢ることにしているんだ。ほら“棘ココナッツのアイスクリーム”」
クロヴィスが吹き出して、僕は変な顔になる。
でも折角だし、断るのも悪いのでそのアイスクリームを頂く。
独特の深いコクの有るアイス。
口の中でとろりと溶けて、南国を思わせるような香りが口いっぱいに広がる。
美味しいと僕が言うとローレライであるライが自慢気にここの特産の棘ココナッツが、一番質が良いのだということを自慢気に説明してくれた。
僕もそれを聞きながらもこのアイスが美味しくて、やっぱりもう一度取りに行くのを挑戦しようかなと思う。
「今度、陽斗達の街にも歌いに行くからその時はよろしくね」
さり気なく宣伝までされた僕達だが、クロヴィスは何だか機嫌が悪い。
ライが僕の腰に手を回したり手に抱きついたりしているのを引き剥がしていたが、僕は女の子に抱きつかれているような錯覚が味わえたのでそれもいいかな―と思いかけてしまったので、その手助けは有りがたかった。
そして夜、宿にて。
月のよく見える綺麗な夜だったのだが、現在窓が開かれ、眠っていた僕の上に馬乗りになるように一人の少年が乗っかっていた。
ぴょこぴょこと、ふさふさな猫耳が可愛らしいあどけない少年だったのだが、何故彼は僕の上にいるんだろうと、重みで目の覚めたものの完全には覚醒していない僕がぼんやりと思っていると、彼は僕ににぱっと笑って、
「君には、僕の世話をする権利をあげるのです!」
そう僕に宣言したのだった。
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現れたネコミミ少年は茶色い毛並みの耳をしている。
何処かでこの色を見た事がある気がした僕は、何処だったけと思い……思い出した。
「確か昼間、しっぽが二本生えた茶色い猫が」
「それが僕です! あれから探していたのですがようやく見つけました。君には、僕の世話をする権利をあげるのです!」
「……一つ聞いても良い?」
「なんですか?」
「男? 女?」
「……男です。人間で言うと」
それを聞いて僕は、こんなに可愛い猫耳っこが、やっぱり男なのかと確信を得て絶望する。
けれどいつまで上に乗っかられたままなのも辛いので、
「そろそろどいて頂けませんでしょうか」
「僕を養ってくれるなら良いよ?」
「……ちなみに猫の姿になれる?」
「なれますよ? ほら」
そう言って茶色い毛並みの良い猫に変身する。
その猫でなら、家で飼っても良いかな、猫も好きだしと僕は思って、
「じゃあいいよ。君を飼うよ。それで名前は?」
「僕は猫です。名前はまだありません」
「そっかー。じゃあ、タマでいいかな」
「……まあ良いですけれど、よろしくご主人様」
「陽斗だよ」
「陽斗、これからよろしくね」
そう言って僕の布団にもぐりこんでくる猫のタマ。
ちなみに僕は半分夢うつつだったので、これがこの猫との契約だとは知らずにいた。
そしてそんな僕達の様子を黙って見ていたクロヴィスが、静かになってしばらくして、剣から手を放したのも、何も気づかずに僕は無防備に寝ていたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
朝起きると茶色いにゃんこが家猫になるのが決まっていた。
しかも名前がタマで、人型の美少年になれるらしい。
「ぼ、僕は一体何をやっているんだ。うう……」
「まあまあご主人様。所で僕のご飯!」
「……猫にたかられて……うう、僕は猫の下僕にされてしまうのだろうか」
「ご飯頂戴」
せかされてタマに焼き魚を買い与えて、猫ばかりずるいと憤る杖の妖精リリスには、タブレット状になった花の蜜を渡す。
花の蜜を集めて作ったキャンディだが、やはり生のとれたての花の蜜の方が風味も豊かな気がする。
そこで黙っているクロヴィスに僕は、
「どうしたの? 今日は全然話しかけてこない」
「いや、そんな猫を使い魔にして、というかそういったものに陽斗は好かれやすいんだなと思っただけだ」
「そうなのかな? よく分からないけれど。でも猫が飼えるなら一匹欲しかったし」
「……寝る時は、部屋に鍵をかけてその猫は追い出せよ?」
「ええ! 一緒に寝ようと思ったのに!」
「添い寝して欲しいなら俺がしてやるぞ?」
笑うクロヴィスに、僕は冗談じゃないと憤る。
自分のすぐとなりにクロヴィスの顔があるなんて、そんなの想像しただけでも……でも?
「嫌悪感がない、だと?」
「どうした? 陽斗」
「……いえいえ、なんでもありません。それでまたあの“棘ココナッツ”を取りに行きたいんだ。昨日のアイスクリーム、美味しかったし」
「陽斗は食い意地が張っているな。そういえば昨日宿屋の主人に聞いたら、陽斗みたいに汁だくになるので、傘をさして様子を見てから取りに行くらしいぞ?」
「も、もっと早く言ってよぅ!」
そうすれば、あんな風に白い液体まみれにもなることがなかったのだと僕は思う。
そしてその前に朝食だと、朝早くに食事をとりに僕たちは向かい、その後は上手く“棘ココナッツ”やその他の果実を手に入れて、ようやく住んでいる町に帰ることにしたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
帰ってくる途中で、僕は様々な果物を手に入れられてご満悦だった。
この世界のイチゴは蔓上の植物で、木の周りを這っている。
そしてブドウの様な房状にイチゴがなるのだ。
ちなみにこのイチゴの花の蜜も、蜜蜂達の好物だったりする。
たまたま魔物が突然現れたので僕は逃げ出したのだけれど、逃げる僕を楽しそうに魔物は追いかけてきたのだ。
クロヴィスにどうにか倒してもらったのだけれど、その時この“房イチゴ”の群生を見つけたのだ。
良く見ると“房アンズ”という、杏の様な果実も実っていてそれも全て蔓上で完熟した物を採取してきたのだ。
そのいい香りに誘われながら僕は、
「とれたてのイチゴが一杯手に入って嬉しいな、全部完熟したものだし。杏も手に入ったし」
「それよりももう少し自分の身を守れるようにしろ」
クロヴィスが僕に言うが、僕にだって思うと所がある。だって、
「タマ、ご主人様の危機に、蝶を追い掛け回しているのはどうかと思うんだ」
「だって僕、陽斗に僕を飼う権利を上げただけだし」
「……もしやタマって弱いの?」
「うーん、あの辺の猫の縄張りで、ボスを務める程度の実力です」
どう考えてもこの猫は、使い魔という名の普通のにゃんこだ。
きっと敵が出てきても猫パンチしか出来ないだろうと、僕はそうそうに戦力からタマを除外した。
タマには後であの肉球と毛並みで僕を癒してもらおうと決めてからそこで、
「ねえねえ陽斗、何で僕というものがありながらあんな猫なんかと契約しちゃったの?」
杖の妖精のリリスが怒ったように僕に言ってくるがそこで、タマにリリスは掴まれた。
「な、何をするんだ!」
「空を飛んでいる虫みたいだから、叩きたくなったんだ」
「この、泥棒猫が……いい気になって、絶対にゆるさないんだから!」
リリスがそう言うと、ぼんと煙を出して、僕と同じくらいの大きさになる。
キラキラとした美少年だがすぐにニヤリと悪い笑みを浮かべて、タマを抱き上げて、
「この猫風情が勝手に僕の陽斗と契約しおって」
「むっ、このぼくのご主人様になれる権利をあげたのに、お前みたいな弱そうな奴なんて、にゃあにゃあ」
「ふ、こうやって顎の下あたりをなぜられるのがお前は好きなんだろう? ふふん」
「にゃ、にゃぁ~、そこはらめぇ~」
実は猫の扱いが上手いということが発覚した杖の妖精のリリス。
そこでクロヴィスが深く嘆息した。
「……また邪魔が増えた」
「クロヴィス、今何か言った?」
僕はよく聞いていなかったので問いかけるとクロヴィスはそこでにやっと笑い、
「街に戻ったら、すぐに近場に戦闘を……」
「駄目だよ、折角とれたての果物があるから料理しないと。途中で肉も手に入ったし、スーパー……じゃなくて、エルフィ総合店に行って、調味料なんかも少し購入して、パンも買ってこよう。……クロヴィスにもごちそうするから、今日の戦闘は無しじゃ駄目かな」
これでどうにか逃げられないかという気持ちも半分僕にはあったのだが、それにクロヴィスはしかたがないと少し楽しみなように答えたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
焼いたお肉とレタス、玉ねぎに、甘辛いソースを書けて作ったサンドイッチ。
そしてイチゴを綺麗に洗い、砂糖を事前に振っておいて果物から水分を出して、ことこと煮詰めて作ったジャム。
砂糖が少なめなので保存性があまり良くない……と思った所で、魔法の冷蔵設備を思い出した。
このゲームではそこに入れておくと、それ以上は腐ったりしないのである。
ただ日数を経過させた場合、熟成させて美味しくなるものもあるので、それように別の冷蔵庫もあるのだが。
どちらも魔法で動くすぐれものだ。
とりあえず二人分のサンドイッチと、タマには干した魚、リリスには先ほど出来たばかりのジャムを小さな器に乗せて、玩具のようなスプーンを添えてやる。
店にちいさな妖精用の食器一式が打っていたのでついでに買ってきたのだ。
そして出来上がったばかりのサンドイッチと紅茶を持って行くと、クロヴィスがぼんやりと窓から空を見ていた。
どこか憂いを帯びたように見上げていて、僕はどきりとしてしまうが、すぐにクロヴィスは僕に気づいたらしく、
「どうした? ……美味しそうだな」
微笑む彼に僕はそれを渡す。
どうだろうと思ってみていると、口に含み咀嚼し飲み込む彼は、
「美味しいな。陽斗は料理の才能があるのか?」
「!そうです! なのでここに引きこもりで……」
「だが明日もまた連れて行くからな」
「うう、そろそろ依頼を受けたいし魔法調合もしたいかも?」
「仕方がない、譲歩して明後日だ。だが明日も様子見に来るからな」
「う、うぐ、分かりました」
そう答えながら僕は、小さく戻った杖の妖精リリスにジャムを、タマには干した魚をあげたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
それから食事を終えた僕はようやく、魔法使いとしての依頼を見に行って、引き受けてくるようになったわけですが、何故かクロヴィスがついてきて、猫のタマは温かい場所にゴロゴロするのと、杖の妖精リリスと一緒に遊ぶと家に残りました。
そんなわけで、依頼を探しに来た僕ですが、張り出されたその依頼を見て唖然とする。
「シチューにゼリーにパイにケーキに野菜サラダにキッシュに……見事に食べ物しかない」
「良いじゃないか、それらを作って余った物は食べれば」
「それはそうだけれどもっと、こう……爆弾とか特殊なアイテムとかポイントの高い物はないのかな」
料理は、資格を得るのに必要なポイントが低いのだ。
だからもっと効率の良いアイテムの調合をと思ったが何処にもない。
あるのは食べ物関係だけだ。
僕は明らかに偏ったそれのうち、幾つか食べ物を選んで受付に持っていく。
受付のおじさんは、魔法使いの証明書を見せてくれというのでそれを見せて、そこで僕は聞いてみた。
「あの、依頼が食べ物関係しかないのですが」
「ああ、食べ物以外の依頼は、朝早く来ないと。皆それを狙って争奪戦を繰り広げているからね」
「そ、そうなのですか?」
「ポイントだけではなく依頼料も良い物が多いからね。皆狙っているんだよ。はい、依頼を受け付けました。作ったらこちらに持ってきて下さい。開いている時間は……」
その時間を聞きながら僕は、面白そうに依頼一覧を見ているクロヴィスを呼びに行く。
少し離れた所で女の子達が、クロヴィスを見てきゃあきゃあ言っているのを見て、僕だって女の子にあんな風にきゃあきゃあ言われたいと僕は思いながら近づいて、
「クロヴィス、依頼を受けてきたよ」
「そうか、それで戦闘関係の依頼もないな」
「……多分ポイントと依頼料がいいから、朝早くに取りに来ないと」
「じゃあその依頼を受けに朝早くに来ような」
「……はい」
と素直に答えた僕だが、戦闘する気など全くなかった。
クロヴィスのすきを見て簡単に作れて依頼料の高いアイテムを狙い撃ちしてやると心の中で僕が笑っていると、
「今、簡単に作れて依頼料の高いアイテムを狙い撃ちしてやる、と思っただろう」
「ぎくっ! べ、ベツニソンナコトハ」
「声が裏がっているぞ? 安心しろ、俺が良い戦闘の依頼を見つけてきてやるから。そちらの方は俺でも依頼が受けられるからな」
「そ、そんな……うぐ、絶対引きこもって逃げてやる」
「そうか、陽斗がそんな風に言うなら仕方がないな」
珍しくクロヴィスが諦めてくれたらしい。
そんな馬鹿なと僕は思いながらクロヴィスを見上げると、クロヴィスは優しげに微笑んで、
「今度からお前の家に一緒に住んで、逃げられなくしてやるよ」
僕は更に自分の墓穴を掘った事に気付く。
けれどそもそもあの家は、
「あ、あそこの主人は僕なんだから! 僕の許可を得ないと駄目なんだから! そもそもクロヴィスは僕の家を壊したんだし」
「……陽斗はそんなに俺が嫌いなのか?」
「いや、そうじゃなくて戦闘するのが嫌なんです!」
「そうかそうか……それで俺が一緒に住むのは嫌なのか?」
それに僕は嫌とはすぐに言えない。
いや、嫌といえば嫌なのだけれど、でも……。
自分の気持ちが良く分からなくてとまだっていると、そこでクロヴィスが僕を裏路地に引きずり込んだ。
薄暗く狭い路地で、僕はクロヴィスに壁に押し付けられて、密着するようにされて、
「別にいだろう? 陽斗」
耳元で、低い声で囁かれる。
その声に体がぞくっとするけれど、どうしてか分からなくて僕は、
「は、放して」
「でも放したら、陽斗は逃げて、答えてくれないだろう?」
そう言って耳をぺろりとクロヴィスに舐め上げられて、それに体の芯から僕はぞくりと何かが広がる。
その道の感覚に焦る僕だが、更にクロヴィスが耳に軽くキスを落として、
「それで、どうなんだ? 陽斗」
熱く湿った声で囁かれて、服越しにクロヴィスの体温を感じて、僕は今すぐここから逃げ出したくて堪らなくて、
「わ、分かった、それで良いから!」
そう答える僕。
こうして僕は、クロヴィスとも一緒に住む事になってしまいました。




