意地の張り合いがこんな風に
帰り道も、途中途中で植物や鉱物を採取した。
一日で行って戻ってこられるとはいえ、
「この山に何度も登るのは嫌なんだよね。魔物も出るし」
「……陽斗のためにもここで採取を止めさせるべきか?」
「! もうあまりここに来なくて済むように採取を……」
「それに、陽斗の杖の妖精リリスが物欲しそうに陽斗を見ているぞ?」
そこで僕は、僕の杖の石の上に乗っているリリスを見る。
じっと僕を見ている。
その意味が分かっているから、僕は先ほどからずっと目を会わせないようにしていたのだ。だって、
「頂上まで登るのは大変だし」
「……とっても気持ちが良かったのに」
「そんな事を言われても、もう下山しないと周りが真っ暗になっちゃうよ」
「……それは分かっているけれど、すっごく気持ちが良かったんだ」
リリスが不貞腐れる様に、僕に言う。
どうやらリリスにとってのあの泉は、僕達にとっての温泉の様な物らしい。
でもあまり長くつかるとのぼせてしまったりしないのかな、と僕は思う。それに、
「だったらこんな高い所で無くとも、今度は皆で、家からは少し離れた場所だけれど温泉があるから、そこに連れて行ってあげるよ?」
「温泉……」
リリスは真剣に悩みだした。
やっぱりタマとの事で疲れているのかもしれない。
それに僕も温泉には一回いっておきたいと思う。
丁度、家にはフィオレ達もいるので皆でそこに向かうのも楽しいだろう。
なので、温泉に心惹かれているらしいリリスは、落ちるのは時間の問題だと思って放置し、代わりにクロヴィスに、
「クロヴィス、近いうちに温泉行こうよ!」
「温泉か……確かに気持ちが良いかもしれないが、確かまだ戦闘の依頼が」
「あ、後いくつあるのかな?」
「依頼の期限はまだ先だから、温泉に行く時間くらいはあるだろうな」
「い、意味深に言わなくたっていいじゃないか! でも、だったら明日とか行けないかな、皆と」
「……そうだな、それもいいかもしれない。確か“タケノコ温泉”だったか」
「うん、混浴もあるらしいし楽しみだな~」
少年向け漫画にありそうなハプニングでもあると良いなとふと僕は思ったが、今まで温泉に入ってそんな事はなかったと気付いて僕はがっかりした。
でも、クロヴィスもこうやってokを出してくれたので、行く事はできそうだ、あとは、
「フィオレとライだね。どうせ“星語りの花”の影響で僕の大勝利が確定しているけれど、疲れていそうだから丁度いいかも」
あの二人はかたくなに認めていないが、僕の左右であれだけ喘いでいたのだ。
きっと今頃は、その事実にうちしがれている事だろう。
そう僕は計算して、明日は皆で温泉に行けるかなと、楽しみになりながら山を下りていく。
そこで先ほどの水の噴き出す場所にやってきたので、再び水を汲む。
その見にくい場所にはやはり洞窟がある。
ここのイベントは何時ごろになるんだろうなと思っているとそこでクロヴィスが、
「どうしたんだ? 陽斗」
「ん? 何でもないよ」
「……陽斗」
「何?」
その時クロヴィスは、珍しく不安そうに僕を見ていた。
どうしたのだろうと僕が思っているとそこで、その不安そうな何かは消えうせて代わりに僕に微笑み、
「逃げられると思うなよ?」
「! ……ぼ、僕は戦闘なんてせずに家の中に閉じこもっていたいんだ!」
「……そうだな。だがもう一度言う。俺・か・ら・逃げられると思うなよ?」
その言葉に僕は、その内絶対に出し抜いて逃げてやると決めたのだった。
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家に帰ってきた僕は、必死にフィオレを後ろから羽交い絞めにして止めるライを真っ先に見た。
「は、放すんだライ! 僕は僕はもう、ストレスが酷過ぎてお菓子を作るしかないんだ!」
「き、気持ちは分かるけれど駄目だってフィオレ! 僕だって絶望したけれど、そんな形でストレスを発散しようとは思わない!」
「い、今なら素晴らしいお菓子が出来そうな気がするんだ! 否、きっとできる!」
「それは絶対に気のせい……陽斗、帰ってきたんだ」
そこでフィオレとライは僕達の存在に気付いたようだ。
そして僕も、ぎりぎりの所で帰ってこれて良かったと思う。
涙目で顔を真っ赤にしている二人を見て大体状況が分かった僕は二人に、
「チーズケーキを一人一つづつ、それで良いかな?」
僕がフィオレとライに問いかけると、二人は一瞬黙ってから頷く。
そこで先ほどまでやけに静かだなと思っていたら、タマは窓辺で日向ぼっこをしていて今起きたばかりらしく、
「僕もチーズケーキが食べたいにゃ~」
そう鳴いたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
チーズケーキの材料をセットして、オーブンを起動させた。
後は明らかにこのオーブンの容量には入らない様なケーキが、五つほど出来るはずである。
この素敵な魔法しようはいつも不思議に思うけれど、このい世界ではそういう物なのだろう。
フィオレとライ、そしてタマにはケーキをホールで一つづつ。
残った二つのうち一つは冷蔵庫で味をなじませようかと思ったり。
そういった効果がこの世界にもあるかは分からないけれど、僕とクロヴィスとリリスでケーキ一つだ。
そんなこんなで夕食代わりに、ライとフィオレとタマはケーキを一つ。
僕達といえば、トマトとひき肉の旨みが詰まったミートソースを使って、
「ミートスパゲティ、それと“星コーン”と“羽衣レタス”と豆のサラダ、後は……今日、汲んできたばかりの水で作ったコーヒーっと」
そうやって料理を作っている間に、オーブンの中でチーズケーキが焼けたようだ。
ベイクドチーズケーキ。
スフレチーズケーキやニューヨークチーズケーキも美味しいのだけれど、今回はこれにした。
次に生クリームに砂糖を加えて泡立てる。
砂糖控え目な甘さにすると、泡立てるのが大変だけれど、それくらいが美味しいと僕は思う。
そして“角バナナ”――ちなみにこのバナナは僕達の世界のコーンの様に一本一本生える野菜である――それをナイフでカットして、ホールケーキの上にたっぷりと白いふわふわのクリームを乗せ、バナナを飾る。
その上にかけるの、もちろんチョコレートソース。
南の方で作られる、高級品で美味しい“フレイアチョコレート”という商品を湯煎で溶かして、生クリームでソース状に伸ばしたものだ。
これをギザギザと斜めに線を描くように垂らして、最後に彩りとして、“メンテー”というミントのような緑色の葉っぱをのせる。
これは魔法の薬品を使うのにも使える植物で、繁殖力もお旺盛なので、窓際のプランタナーに植えて育てている。
まさか一日でわさわさ生えてくるとは思わなかったな―、さすが異世界と僕は思いながらそれを飾り付けて、
「はい、完成です。夕食にしよう!」
そう僕は皆に声をかけたのだった。
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夢中でやけ食いする二人と、嬉しそうにパクパク食べるタマ。
リリスもクロヴィスも美味しいと言ってくれて、作りがいがある夕食は穏やかに過ぎていく。
そんな夕食の時間に僕は皆に聞いてみた。
「僕は温泉に行きたいのだけれど、どうかな?」
「温泉? ……女湯を覗きに行ったら駄目だぞ」
「の、覗かないよ。そういうフィオレはどうなんだ」
「……冒険には危険がつきものだからな」
「え?」
「まあいいと思う。温泉は気持ちがいいから」
けれど何処か遠くを見るように笑うフィオレに僕はそれ以上聞けなくなる。
次にライを見ると、
「女湯を覗きに行かないほうがいいよ。特に陽斗は」
「……覗きに行かないけれど一応、理由を聞いておいてやる。話すが良い」
「ここは魔法使いも結構多くて、そんな女性達が温泉に行くわけ。つまり」
「つまり?」
「若い男が覗きに行くと捕まって、餌食にされる」
「……」
「彼女達の格好の玩具になることうけ合いだね」
僕の脳裏にこの前ギルドに並んでいる時に、女の子たちに合わされた酷い出来事がよぎる。
そうですか、あんな感じですか……脳内で妄想して幸せになっておいたほうが良さそうだとすぐに僕は諦めた。
他にもタマやリリスと約束を取り付けて、次にクロヴィスも含めて日程を話しあった結果、
「というわけで、明日になりました」
そんなこんなでゆっくり休むために温泉に向かうことになった。
そしてその夜のこと。
「……フィオレ、眠れないの?」
「……まあね」
「……相談に乗ってあげようか?」
それにフィオレは僕の目の前で瞳を開いて、小さく頷く。
眠っているライを起こさないようにそっとベッドから起き上がる。
窓の近くにあるクッションの上で、タマとリリスは仲良く眠っているのを見て僕は微笑ましい物を見て楽しくなりながら、台所に向かう。
「フィオレ、ホットミルクとビスコッティでいいかな?」
「うん」
大人しく頷くフィオレ。
僕は台所で、蜂蜜漬けにしておいたナッツとドライフルーツを混ぜたビスコッティを一つカップに添えて、鍋で温めたホットミルクをカップに注ぐ。
体が温まれば気分が落ち着くかなと思って、“水根ショウガ”をコトコトと砂糖と水で煮込んで作った生姜シロップを入れておく。
炭酸水でわれば美味しいジンジャーエールのようなものが出来るけれど、今は気分が落ち着くようなものがいいだろうと僕は思ったのでそれにする。
自分とフィオレの分のカップを持ってテーブルに向かう。
カップを受け取ったフィオレはありがとうと言って、すぐに少し口をつける。
「美味しい」
「良かった。何だか不安そうだから」
「……悩んでしまったから。本当は自分で決断しないといけなかったのに」
「……でも誰かに話を聞いてもらうと、いい案が浮かんだりもするから、僕で良ければ聞くけれど?」
そう僕が言うと、フィオレは、相変わらず陽斗はお人好しだなと苦笑して、話しだしたのだった。
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「僕の家は、貴族なんだ。海の向こうの……フェンリル王子の国よりはもっと南のほうなのだけれどね」
そう言って、フィオレは牛乳を一口飲む。
話したいけれど、感情が高ぶるままに話してしまいそうそうで、気分を落ち着かせるために飲もうとしているようだった。
そんなフィオレを急かすこともなく、僕は大人しくしていると、そこでフィオレは深々と嘆息した。
「その前に、これははっきりさせておこう。僕は……アンジェロが好きだ。愛している」
「それはまあ、見ていれば分かるかな」
「……僕はそんな素振りを、陽斗の前で見せたか?」
そこでフィオレは、眉を寄せる。
それを見て僕はちょっと焦る。
このゲームは攻略本を購入したので、裏設定まで全部を僕は理解している。
とはいえ、そんなあるいみ個人情報を口にしたら、どうして知っているんだという話になる。
それがクロヴィスに知られたなら、俺の正体に気づいてしまったようだな……みたいな、ラスボス戦に発展する可能性がある。
それだけは絶対に避けねば、そう僕は必死になって考えて、思い出した。
「この前石切り場で危険なアレに攫われた後、様子が……」
「……それで、僕とアンジェロは恋人なわけだが……」
フィオレが一瞬遠くを見るような目をしてから、何事もなかったように話しだした。
「そもそもアンジェロは僕の従者としてずっと一緒にいたんだ。そう、従者だから僕のものなんだ。……性格が悪いし僕に料理は作らせてくれないし頭の回転は早いしああ見えて魔法も使えたり剣も使えるという見かけもいい腹黒だが、気付いた時には好きになっていた」
「そ、そうなんだ……」
「でも僕から告白するのも悔しいというか、僕だけが好きなのも悔しいし、時々、他の男が告白しに来ていたけれど、アンジェロはいつも『私はフィオレの従者ですから』と断るのにちょっと優越感を感じたり僕だけのものだって……いや、話がそれているな。色々と僕にも複雑な思いがあったのと、その距離感が心地よくてそのままでいたら、アンジェロに押し倒された」
「え?」
そこで、喉が渇いたらしく、牛乳を再び一口。
次にフィオレは短い間だけれど沈黙して、
「引き抜きの話が来ていたらしい。確かに僕の従者にしてはもったいないくらいに優秀だった。そしてそんなアプローチがあったのも気づかなかった僕が間抜けだったと言ってもいいかもしれない。もしそんなものが僕が知る範囲で来たなら確実に邪魔してやっただろうから」
「う、うん。そうなんだ……」
「その時は自分の不甲斐なさに心が締め付けられるようだった。でも、その時、アンジェロが何を言ったと思う? 僕を、僕の家を脅してもらっていくって言ったんだ。僕は嬉しくてたまらなかった」
「え? えっと、はい」
「しかも僕が恋人になるなら、ずっと僕の従者で恋人でいてくれるっていうんだ。これ程嬉しいことはなかったな。そうおもうだろう!」
「は、はい……」
「でもアンジェロは、僕を他の貴族に嫁がせようとしたんだ」
僕は沈黙する。
確か、そんなイベントが有った。
但し、主人公が相談に乗って結局はアンジェロとの元鞘に戻ることになるのだが。
でもその時の会話にはない裏設定があって。
このフィオレは元々は、神を崇める司祭の血統であって、あの料理を作ると改正物ができるのもその能力の副作用のようなものなのだ。
特にこのフィオレは古い力を、強く発現させる事が出来て、それ故に別の貴族と結婚させられそうになっていたはずなのだ。
そしてクロヴィスを誘ったりしたのもその古い力で、クロヴィスに何かを感じ取っていたらしい……そんな裏設定があったはずなのだ。
それが僕の頭にざっとよぎって、そして今現在のフィオレから、
「フィオレはどうしたいの?」
「……アンジェロと一緒にいたい」
「だったらそれでいいんじゃないかな」
「でもアンジェロが裏切ろうとするんだ。僕の実家と連絡をとろうとしているし……」
「フィオレが、アンジェロにお願いしてみればいいよ。フィオレは、フィオレがどれだけアンジェロと一緒にいたいのか、好きなのか口に出して伝えた?」
「……連絡しようとしているのを知って僕は怒って家出をしてきたんだ」
「……伝えてみればいいよ。それだけアンジェロも執着しているんだから、フィオレがお願いすればイチコロだよ」
「そう、かな?」
「そうそう」
フィオレは黙って、牛乳に口をつける。
何かを考えこんでいるようだった。
僕も牛乳に口をつける。
温かい牛乳に、ほんのりと生姜の優しい香りと砂糖、はちみつの甘味が口いっぱいに広がる。
体の芯がぽかぽかと暖かくなってくるのを感じながら、添えておいたビスコッティを口にする。
甘さとナッツの香ばしさが心地よくて、眠くなってくる。と、
「そうだな。……でもまだ勇気が出ない。僕も随分臆病だったみたいだ」
「皆そうだよ。でもきっとフィオレが望むなら、その願いは叶うと思う。僕も応援するよ」
「……ありがとう、陽斗」
フィオレがそう微笑み、それから少し談笑してから、僕達はその日はぐっすりと眠ったのだった。
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僕は、色々準備をして、お風呂に浮かべる黄色いあひるさんまで用意をして、リュックにタオルやら着替えやらを大量に詰め込んで、僕はワクワクと家の扉を開いた。
そんな僕にクロヴィスが、
「そんなにはしゃいでいると、転ぶぞ」
「むかっ、僕は子供じゃな……うわぁああああ」
むっとして振り返ろうとした僕は、そのままバランスを崩して後ろに倒れ込みそうになる。
けれどそこでクロヴィスに僕は手首を掴まれて引き戻される。
リュックに色々詰め込みすぎてしまったようだ。
でもこれらは全て必要な物なのだ!
「今からでも遅くないから、この中身を半分にしろ」
「……いやだ。そして、こんな時用のアイテム……どうしてクロヴィスは、剣に手をかけているのかな?」
「ああ、荷物を運ぶだけのアイテムなら構わないか。ついまた、陽斗が戦闘の依頼を怠けようとしているような気がしてしまった」
危なく手持ちのアイテムがまた破壊されてしまう所だった。
そう思いながらも僕は取っ手のついていない“荷車カート”のようなものを取り出す。
このアイテムの名前は“小人の荷車ピグミー・カート”。
この上に荷物を乗せると、勝手にこの荷物を運んできてくれるのである。
旅の途中で、より多くのものを持ち運べるようになるのに必要なアイテムだけれど、僕には無限に放り込める……という謎の袋がある。
ここから道具も含めて全部、ぽんっ、と出てくるのだ。
非常に便利なアイテムだ。
ちなみにあるイベントアイテムで、これ一つしか無い。
確か温泉に関わるイベントで、元々はこの謎の袋が原因で温泉が枯れてしまったのである。
後から判明するのだが、これは魔族の作った宝物の一つであるらしいのだけれど、それがちょっとした手違いで温泉の源泉にぽとんと落ちて……というオチだった気がする。
ちなみにその時、確かあの古城の地下で出会った“深淵の魔族”と接触があって……そこまで思い出した僕の方を誰かが叩くので振り返ると、指が立てられていて、頬の肉がむにっといく。
これって、単純だけれどイラッと来るんだよなと思っているとそこにいたのは楽しそうに笑うクロヴィスで、
「陽斗、行くぞ」
「……なんだか妙にクロヴィスが乗り気な気がするな、まあいいや。タマ、リリスもいるし……フィオレもライも準備万端だね」
「「もちろん」」
僕よりも小さいけれど、リュックを持っている。
クロヴィスは、それよりも更に荷物が少ないが。
そんなこんなで、途中魔物が現れても適当に倒しつつ、というかタマとリリスが乗り気で倒していたりした。
そして温泉に辿り着いたまでは良かったのだけれど……温泉街のほとんどが、閉まっている。
何でだろう、そう僕が思っていると、
「クロヴィス、陽斗、二人共来ていたんだ」
そう、僕達は、ここに来ていたらしいウィルワードに声をかけられたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
これは初めてなのではないだろうか。
クロヴィスの顔がどことなく青い気がする。
そう思っていると僕の方にウィルワードが笑顔で近づいてきて、
「家に尋ねる前に会ってしまったね。それで今日は温泉に?」
「……いや、散歩だ。そういうわけで帰るぞ、陽斗」
ウィルワードにそう告げて、クロヴィスは帰ろうとするがそこでフィオレが、
「あの、もしや貴方が伝説の魔法使いの?」
「? 君は?」
「フィオレと申します。陽斗の友人で、魔法使いの一ランク上の資格をとるために頑張っています」
「そうなのかい? 僕はウィルワード。クロヴィスの友人です。よろしく」
「はい! 所でウィルワード様は今何を?」
「僕? 僕は……温泉偽装で営業停止をしている温泉宿に、新たな入浴剤を開発して売り込もうとしているところかな?」
ウィルワードがそう告げた途端、クロヴィスが、
「さて、帰ろう。出来るだけ早く」
「嫌だなクロヴィス。まだここに来たばかりなのだから、もう少し、それこそ一緒に入浴剤を売りに行かないか?」
「いや、違うな。空いている温泉宿で温泉を楽しみに来たから、その手伝いはできない」
「そうなのかい? でも予約をしていなければもう温泉は満杯だと思うよ? もともとここの温泉が枯れ始めたのが原因で温泉偽装が起こったのだし」
「さて、陽斗、日を改めようか」
必死になってウィルワードから逃げようとしている珍しいクロヴィスを見ながら、僕は思った。
これ、もしかしてクリアしないといけないイベントなんじゃ、と。
そもそもその場所に確か……そう僕が思案をしていると、
「フィオレ、どうしたのですか?」
「ライ、どうしてこんな所に?」
何故か、アンジェロとフェンリルが現れたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
現れたアンジェロとフェンリルを見て、僕の後ろにライとフィオレが隠れた。
しかも僕の左右から顔を出し、僕の服を掴みながら、うー、と唸り声を上げながらアンジェロとフェンリルを威嚇する。
そんな僕の様子を見てタマが猫な感じののまま僕の頭の上に乗り、そしてその上にリリスがちょこんと座る。
だがそんな風にされている僕はといえば、
「あ、頭が重い」
「良かったな、陽斗、頭がよくなったかもしれないぞ」
「クロヴィス、笑っていないで助けてよ! それにフィオレもライも僕を盾にしないでよ!」
「「うー」」
「うー、じゃなくてですね……この際二人共このまま仲直りを」
「「嫌だ、僕は悪くない!」」
そう言って更に僕の服を強く引っ張るライとフィオレ。
だめだ、もう僕一人の力ではどうにもならない……そう、僕は諦めてされるがままになっていた。
そこでウィルワードの存在に、アンジェロは気づいたようだ。
「おや、もしや貴方は伝説の? ウィルワード様ですか?」
「……いえいえ、そんなたいそうな物ではありませんが、ウィルワードです」
「やはりそうですか。ですがそんな優秀な魔法使いの方が、どうしてこちらに?」
「温泉関係で少し。折角ですので入浴剤も売ろうかと」
「なるほど……ですが温泉があるのに入浴剤ですか?」
「おや、ご存じないのですか?」
どうやらアンジェロとフェンリルは、この温泉で起こっている事を知らないようだ。
なのでウィルワードが説明して、それに二人が頷いて次に小声で二人で放してから、アンジェロが、
「では、我々もその温泉が枯れた原因を調べてみましょう」
と、微笑みながら告げた。
そんなに温泉に入りたかったのかなと僕が思っていると、僕の服をさらに引っ張って、首の辺りが苦しくて、ぐえっと悲鳴を上げた僕などお構いなしにフィオレが、
「アンジェロ、何が目的だ」
「嫌ですね、フィオレ。私の事がそんなに信用できないのですか?」
「お前が打算なしにそんな事をするはずがない」
「フィオレ、酷いですね~……ですが、そうかもしれません。私は打算的ですから」
「……何が目的だ」
「フィオレの生肌ですかね」
アンジェロが微笑みながらフィオレにそう告げて、フィオレが変態を見るような冷たい眼差しでアンジェロを見た。
そこで今度は、ぎゅっと僕の服をライが引っ張る。
服がのびちゃうと僕が涙目になっていると、ライが警戒するようにフェンリルを見て、
「フェンリル、何が目的だ。僕はもうお前とは関わらない、関わりたくない」
「貴方がそう思っていても、逃がすつもりはないと以前の話したでしょう? そして、枯れた温泉をどうにかしようと思ったのは、アンジェロと同じ理由です」
そうにこやかにほほ笑んだフェンリルを、ライもまたフィオレと同じように、変態を見るかのような冷たい眼差しで見つめた。
二つに分かれて一方的に火花を散らすその構図に、僕はどうしようかと思っていると、ウィルワードがポンと手を打って、
「では、二つに分かれてどちらが先に温泉が枯れた原因を修復できるか、競争をしませんか? それで、負けた方は勝った方に背中を流してもらう等の入浴のお手伝いをしてもらうという事で」
「「乗った(にゃーん)」」
アンジェロとフェンリル、タマがそれに答えた。
何で、と思っているとそこでライとフィオレが俯いたかと思うと、小さく笑いはじめて、
「いいだろう、負かせて、あのアンジェロを散々こき使ってやる」
「……確かに、あの傲慢で身勝手な王子様をいい様に出来るのはいいな」
悪い顔で二人して笑っている。
二人とも乗り気で、しかもタマまでと僕が思っていると今度はライとフィオレが僕の両腕をそれぞれ掴み、
「「陽斗は僕達と来るんだ」」
「何で!」
「陽斗は強い力を持っていたり道具を持っているからそれを使って、あいつらを出し抜く」
フィオレがそう言い切り、ライが頷く。
そんなと思ってクロヴィスを僕は見上げて、
「クロヴィスはどうする?」
「そうだな、俺はウィルワードがいない方に行く」
クロヴィスが、いい笑顔で告げるが、そこでウィルワードがクロヴィスの腕を掴んだ。
「クロヴィス、君は我々と来たまえ。こんな機会はあまりないからゆっくりお話しし様じゃないか」
「俺は話す事など無い」
「……陽斗がいない場所で色々聞きたい事もあってね」
それにクロヴィスは一瞬無表情になり、次に深々と嘆息して、
「分かった。陽斗がいない場所で、譲歩してやる」
何か昔馴染み同士で話す事があるらしい。
それも僕には知られたくない話しのようだ。
なので僕は、それ以上追及せず、
「よし、先手必勝だ!」
「行くよ! 陽斗!」
「うわぁあああああ」
両腕を掴まれて走り出す二人に僕は連れて行かれてしまう。
そんな僕達は、僕達がいなくなった後に呟いたウィルワードの言葉に気付く事は出来ずにいた。
それは、ウィルワードが何気なく呟いた一言。
「そういえば、もう新しい入浴剤は試しちゃったんだよね」
それがなにを意味するのか知るのに僕達は、それほど時間はかからなかったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
温泉がわき出ているのだけれど、その温泉を分配する水路の様な物があったりする。
ただそこには地下水も流れ込んでいるのだそうだ。
そしてその地下水を温めて入浴剤を入れて、温泉偽装がされていたらしい。
だがその地下水に、温泉偽装的な意味ではなく、ちょっとした温泉気分を味わってもらおうとの事で地下水を沸かし入浴剤がお風呂に入れられていたらしい。
ただその入浴剤に問題があって、
「ひいいっ、陽斗、そっちに行ったぞ!」
「や、やだっ、足に絡みついてきてっ、うわぁああああ」
その水自体も、ぶよぶよのスライムみたいになっていて、その入浴剤を入れたお宿では背中をその入浴剤の入った水が自分から流しに行ったりと、至れり尽くせりだったそうなのだ。
けれど一歩その温泉宿を出ると、途端に凶暴さを増して、スライムのようににゅるにゅると襲いかかり這いまわって、セクハラをするのである。
但しその温泉宿のお客さんは襲われないらしいが。
そしてその水は、木々を活性化させ、しかも蔓系の触手な魔物と、精霊型の魔物が合体して、
「や、止めて、服がびりびり破かれ、こ、この……“炎の矢 ”」
僕はその触手に向かって、炎の矢で攻撃する。あたった場所から炎が広がり燃え広がるも、すぐに消し止められてしまう。
触手の魔物の量が多いので、この程度の炎では倒しきれないのだ。
けれど、その場所から逃げ去るにはそれで充分だった。
「フィオレ、ライ、こっち!」
「分かった!」
「まさかこの触手の魔物、僕に魅了されないとは思わなかったな」
ライがちょっとだけプライドを傷つけられたかのように呟く。
こういった魔物が生息する場所のぎりぎり手前で、この程度の魔物僕にかかれば平気だと、自信満々に先ほど歌の様な物を歌い、触手の魔物に手を掴まれて上半身右側の服を破られたのである。
因みに危ないからと見張りをしていたここの温泉宿の店主に、どうしてこんな状態なのかを聞いたのである。
同時にこの入浴剤に関して僕達は聞いたのだ。
「なんでも、ウィルワードという魔法使いの新製品だそうで、丁度入浴剤を切らしていたので使ったらこんな事に。温泉の宿の内側なら、とても良いんだが、どんなに頑張っても外にこぼれたりもするからな……」
そして下水を通って行くと、その入浴剤の効果は無くなるらしい。
なので零れた分が、ここの森をこんな風にしているのだ。
ウィルワードさん、この前の森のスライムも含めて、もしかしてクロヴィスが逃げ出そうとするくらい色々な意味でトラブルメーカーなんじゃないかと僕は思う。
それも他の人を巻き込むタイプの。
僕がそんな事を考えていると、そこで走りながら周りにある敵をこまめに倒しているフィオレが、
「本当にこっちで合っているのか?」
「う、うん、確かそう、そうだよねリリス」
僕は目の前に小さなガラス玉に金属製の輪が連なった様なペンダントトップを持たせているリリスに聞くと、
「うん、この透明な石に現れている、青い海に浮かぶピンク色の光の矢印を追っていけばいいんだよね?」
「そうそう」
僕は頷く。
集団で移動するので空が飛べて小回りが利くリリスに道案内をお願いした方が良いと判断したのだ。
そして渡したのは、“水見の宝石 ”である。
これはこの周辺で発動している、特に強い魔道具を見つけてくれる便利アイテムだ。
本来は透明なガラスのそこの方に青とピンク色の光が均一に漂っているだけなのである。
けれど、強力な魔道具があると、発動している人工的な魔力の一定の周波数を感知し、そちらの方向にこのピンク色の光が線状に集まるのである。
何も大きな魔道が発現していなかったり、または人が多くて色々な魔道具が大量に使われている都市では使うのはお勧めできないが、こういった障害の少ない森では綺麗に現れやすい。
ただたまに、凶悪な敵をも示す事もあるが、周りに入浴剤の影響があるとはいえどうにか矢印は見えている状態だ。
そこでライがふと呟いた。
「でも陽斗は準備が良いね。まるでこんな事になるって分かっていたみたいだ」
その問いかけに僕はぎくりとする。
だって僕は、そもそもこの世界の人間ではないのだから。
そしてそのアイテムも、色々な村人に話を聞いてこれが必要だと分かって作りあげて、それを使用してみつけるというストーリーであったはずなのだ。
けれど僕は今、その過程を飛ばしてこうやって探しに行っている。
どういい訳をしよう、僕がそう思っているとフィオレが、
「ふん、魔法使いはいついかなる事態に対処できるように、常に準備をしておくものだ。それが今、役立っているだけだろう」
「ふーん、魔法使いはそういう物なんだ。そして、フィオレは陽斗がやっぱりお気に入りなんだ」
「べ、別に、と、友達だし」
「そうだね、僕も友達だからこれ以上は聞かない」
ライが楽しそうに笑って宣言通りそれ以上聞いてこない。
それに安堵しているとそこで、木々に囲まれたある場所に僕達は辿り着いたのだった。




