そんなかんじです
僕に左右で喘いでいる、フィオレとライを揺さぶって起こす。
二人がものすごく喘ぎまくっていたと僕が告げると、
「はぁ? 陽斗じゃあるまいし、僕が喘いでアンジェロの名前を呼ぶはずがないだろう。寝ぼけて聞き間違えたんじゃないのか?」
「陽斗じゃあるまいしって、酷い……と言うか夢に見るくらいに好きなら仲直りしてきなよ!」
「……そんな夢も見ていないし寝言なんて言っていないから、関係ない。それに僕は喧嘩したわけじゃない、僕が許せなくなって怒っただけだ!」
それが喧嘩なんじゃないかなと僕は思いはしたけれど、機嫌が悪くなったフィオレが料理をつくろうとしはじめたのでそれを食い止めながら、ライに、
「ライ、フィオレを止めるのを手伝ってよ!」
「……陽斗が、僕が喘いでいたなんていうから悪いんだ。ふん、手伝ってやるものか」
「だって本当に喘いでいたじゃないか! くぅう、もうあの花は寝室に飾らないんだから!」
僕は涙目で叫びながら、なんとかフィオレをその場から遠ざけて料理をし始める。
そこで僕は、機嫌良さそうに降りてくるクロヴィスに気づいた。
「クロヴィス、何だか嬉しそうだね」
「ああ、いい夢を見れたからな」
「そうなんだ。でも夢って覚えているんだね、クロヴィスは。僕は何だかすごい夢を見た気がするけれど、全然思い出せなくて」
「ははは、陽斗は間抜けだな」
「誰が間抜けだ! ……でも今は覚えておかなくても良かったのかも。というか僕に好きな人がいないのに、変な夢を見せられたのはやっぱり、フィオレとライが僕の両隣で喘いでいたからだ! ……え?」
そこでクロヴィスが僕を抱きしめた。
突然の行動に、僕は何かを思い出しかけるけれど、それはモヤモヤとしてよく思い出せない。
ただ何となく気持ちいな……と僕が思っているとそこで、
「うわーん、陽斗、助けて~」
「待つのにゃ~、にゃん!」
僕は顔に抱きついていたリリスのその状況に気づいて、リリスを追いかけて走ってきたタマを抱き上げて、
「ほら、タマ。リリスをいじめちゃ駄目でしょう、ほ~ら、ごろごろ」
「にゃにゃ~、にゃにゃ」
僕は抱き上げてタマの喉を撫ぜてやる。
タマが幸せそうな鳴き声を上げる。
それを聞きながら僕は、クロヴィスが先ほどとは打って変わって機嫌が悪そうなのに気づく。
何でだろうなと思っているとそこで、
「それで陽斗、今日は俺と二人だけで依頼を受けるぞ」
「で、でも、そうしたらフィオレが料理を作っちゃう!」
「ベッドに縛り付けておけ。あの花の香をかがせておけば、痴話喧嘩した恋人と夢の中で会えるだろうし」
フィオレがあんなやつ恋人じゃないんだからな! と叫んでいたけれど、適当に僕は聞き流しつつライに、
「そうだ、これはいい機会だ。あの花の香のする部屋で眠るとどうなるのか、試してみないかね」
「へ~、面白いね。この僕が喘いでいたなんてそんなはずはないだろうけれど、フィオレに確認してもらうのがいいかな」
「そうだろうそうだろう、くくく」
「でももしも僕達が喘いでいなかったら、陽斗にはどうしてもらおうかな」
「ケーキを一人一ホールでいかがでしょう!」
何かを条件に出される前に、僕は提案してみた。
それにライは瞳を瞬かせてから微笑み、
「いいよ、僕はチーズケーキがいいな」
「く、自分が勝利できるつもりでいやがる、だが、勝利するのは僕なんだからね! ……さて朝食を作ろうっと」
それにフィオレが手伝うと言い出したので、お皿を並べる準備のお手伝いだけを僕はしてもらったのだった。
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食事を終えた僕達は、自信満々のフィオレとライに見送られて、戦闘の依頼に向かった。
リリスがあまりにもタマから逃げたがっていたので、今日はタマはお留守番である。
にゃ~にゃ~、鳴いて抗議してくるお猫様だが、今回ばかりは僕も断腸の思いで振り切った。
そしてリリスは、しばらくゆっくりしま~すと言って、杖の中に消えてしまう。
今回は戦闘以外は気楽に休んでもらおうと思って僕は進んでいくと、木に巻き付いているツルから、枝分かれするように垂れ下がっている宝石のような小さな直方体。
幾つもの色があるが、それぞれ味の違うキャンディーのような果物、それが
「“砂糖菓子の実”だ! 少し貰っていこう。……色々な味がついてる。クロヴィスはどれがいい?」
「そうだな……陽斗の髪と同じその黒いものにしようか」
「チョコレート味だね。僕はこのピンク色のイチゴ味っと」
そう思って僕は黒い果実をクロヴィスに渡す。
ただ今の言葉にちょっと僕は思うところがあって、
「何で僕の髪の色と同じ色?」
「今目の前にあったからな。これでいいやと」
そんな適当な理由で決められたのが何となく僕は腹ただしい。
けれどどうしてこんな腹ただしい気持ちになるのかが分からない。
そこで僕の目の前に、蜘蛛のような形をした魔物が現れる。
黒と黄色の禍々しい色彩で、蜘蛛らしく糸を吐いてくる。
それを避けながら僕は杖を振りかざし、
「“憤怒の炎 ”」
選択画面から、炎系の魔法を選択する。
虫系の魔物は炎系の魔法が弱い。
なので杖を振りかざし炎を噴射する。
それほど強い魔物ではないので、この一撃で倒せたと思った僕だけれど、吹き出した炎が当たった時に生じた煙からぬっとその蜘蛛が現れる。
油断していた僕は動けない。
そんな僕は唐突に横に引っ張られて目の前に銀色の線がかすめていくのを見た。
ぎゃああっという、蜘蛛の魔物の断末魔が聞こえて、後には糸を束ねたようなものが残る。
蜘蛛の吐き出した糸で、強度が強くやわらかな糸がアイテムとして手に入る。
これで布を作ると強い布が出来る。
但し、何故かゲーム中ではこの布のままでは売れるものの、ドレスとロープ、魚の疑似餌しか作れなかったが。
ただこの布で作ったドレスは、色々なデザインがあってとても綺麗だったのでそれはそれでいい気がする。
とはいえこういった魔物を倒さないと手に入らないアイテムなのでそれはそれで貴重だよねと回収する。
そこで僕はふと気付いた。
「そういえばクロヴィス、今日はどこまで行く予定なのかな?」
「ああ、あそこの山を登って、水の湧き出る山頂まで行ってそこの水辺に現れた水鳥の巨大な魔物を倒すだけのお仕事だ」
「……あの山?」
僕が指さしたのは、少し離れた場所にある山で、それほど高くはなさそうだけれど、
「日帰りできるかな?」
「いざとなればあの、山頂からこぼれ落ちる水に乗って流されるように帰ってもいいかもな」
「! あそこの山頂から流れている水は、高い場所から落ちているから途中で霧になって消えちゃうって知っているもん! そこに流れている川はもっと下から湧き出ているはずだ!」
そういったシーンのイラストで、主人公が滝の下から見上げている物があったから知っている。
けれどそうやって言い返す僕にクロヴィスは、
「随分と詳しいな、陽斗」
「ぎくっ、え、えっと以前、話している人がいたので聞いたから……」
「へ~、俺よりもその名も知らぬ人間のほうを信じるのか」
そうクロヴィスに言われてしまう僕だが、そこでもしかしたならこの世界の地形はちょっと違うかもと思う。
なので僕は、
「ごめん、そうだよね、クロヴィスの方を信じ……」
「ちなみに今俺は嘘をついた。そちらのほうが正解だ」
笑うクロヴィスに僕は、僕の罪悪感を返せと僕は思いながらも、
「後でこの周辺の地図も買ってよく見ておこう。冒険ガイドみたいなものもあるはずだし」
僕が真剣に考えているとそこでクロヴィスが頷きながら、
「よし、陽斗が冒険に積極的になってきた。これはいい兆候だ」
「……まさかそれが狙いで?」
クロヴィスはあの家から僕を出さて戦闘をさせたがっていたから……そんな疑惑を持つ僕にクロヴィスはいい笑顔で、
「いや、陽斗をからかってみようと思っただけだ。最近他の二人と猫達とばかり話しているから」
「く、くぅ……そうやって僕を弄びやがって。このまま家に帰ってやるぅうう」
「ははは、逃げられると思うなよ。俺から、な」
襟首を掴まれた僕は、耳元で低い声でクロヴィスに囁かれて、僕は何故かぞくっと体に変なものが走る。
けれどすぐにクロヴィスは僕の耳から離れていき、
「さあ、行くぞ。ゆっくりしていると山の上で野宿だ。それともそうするか?」
その問いかけに僕は顔を左右に大きく降って、渋々歩き出したのだった。
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更に歩いていくと、気付けば随分と川沿いばかりを歩いている気がした。
所々に花畑や食べられる草や果実が実っている。
こっちの方もその内採取してこようと思う。
特にこの水際に生えている白い花は、山葵の様な香りがするらしい。
サラダにしても美味しいと書いてあったので、ちょっとだけもらっていこうとブチブチ摘んでおく。と、
「そうやって食べ物にばかり気を取られていると、野宿だぞ?」
「わ、分かってるよ! そんなに食べ物ばっかり……あ、あんな所に“森タケノコ”が! ……うう、そんな冷たい目で見なくてもいいじゃないか」
「別に野宿をしたいのなら俺は構わないが?」
「うぐ……クロヴィスだって食べているくせに。あ、そうだ、そろそろお昼にしない? 今日は色々いい物を持ってきたんだ!」
そこで僕の腕が掴まれてクロヴィスが歩いていってしまう。
何でも僕の相手をしていると本当に野宿になるからとの事らしい。
でもせっかくのお弁当と僕が呟くと、
「そうだな、この水が噴き出す所まで行ったら食事だ。それまでには幾つか戦闘もあるだろうしな」
「いやぁあああああ」
悲鳴を上げる僕の前に、兎の魔物が現れる。
名前はもこもこ兎。
ふわふわとして、僕の身長よりもちょっと低いくらいの兎だ。
確か倒すと謎の肉に……ではなく、兎の毛をくれたはずだ。
その毛を使って糸をつむいで布を織ると、真っ白で柔らかく保温性抜群の布が出来るのだ。
他にも布団に入れたり色々と用途があったりする。
しかも小さく丸まった状態で渡されるのだけれど、それをお湯に入れるともこもこと膨れ上がり、数百倍の大きさになるのである。
それがこの、もこもこ兎の名前の由来だ。
ただ、火炎攻撃の場合その毛を出す前に、それが燃えてしまったりするのでこの魔法は使えない。
だから杖を振りあげて僕は風系の魔法を選択しようとして、そのまま僕は兎にのしかかられた!
「やめっ、やぁああっ、ぺろぺろするな、やだぁああ」
「あー、そういえば、今の時期このもこもこ兎は特に発情して、種族関係なくそういった意味で襲いかかるんだが……」
「のほほんとした口調で解説してくれなくていいから助けてぇええ」
「仕方がない、ほらっ」
そこでクロヴィスが剣を薙ぐと、自身の毛でそれを防いでしまった兎が何かを落として逃げていく。
白い毛糸が丸まったような物体。
これが兎の毛である。
「それは陽斗にやる。たいしたお金にはならないからな、材料としては使えるだろう?」
「う、うん、ありがとう……」
時々クロヴィスは妙に僕に優しい事がある。
そもそもこうやって一緒にいてくれるのも、クロヴィスの好意でしかない。
それとも何か裏があったりするのだろうか。
僕がふと不安に駆られてクロヴィスを見上げるとクロヴィスは笑い、
「今回は助けたが次の敵は一人で倒せよ?」
「う、うぐ……分かった」
そしてお昼を食べるための水の噴き出す場所に行く頃までに僕は、10匹以上の魔物を仕留めたのだった。
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もうすでにへとへとになりかけていた僕は、ようやく川の源流であるらしい場所にやってくる。
水しぶきが飛び散り、空からは霧の様な物が舞い降りている。
その水の噴き出した後は小さな滝になっており、その裏にはここからは見えないが洞窟になっている。
一応イベント用の場所なのだけれど今日は行かないようでほっとした。
そこでふと誰かの視線を感じるけれど、周りを見回しても特に何もない。
敵のいる様子もないし人影も見当たらない。
「よし、お昼だ! 今日は燻製の物を一杯作ってきたんだ、クロヴィスも食べよう!」
「陽斗は本当に食い意地が張っているな」
「……く、そんな余裕も今のうちだ。今日は幾つも美味しい物を持ってきたんだから!」
そう僕は言いながら、僕はサンドイッチを取り出した。
ゆでた卵サンドである。
しかもそれを殻をむいて、燻製にしてからマヨネーズ等とあえて、サンドイッチにしたのだ。
早速口にほうばると、かすかに燻製の香りがして美味しい。
それと一緒に、燻製になったナッツやクリームチーズを取り出す。
どちらも事前に作っておいたので、香りが素材に馴染んでいる。
一晩置いて冷めたほうが、燻製の香りをより楽しめる感じがする。と、
「へー、美味しいな」
「でしょう! というわけではい、お茶」
クロヴィスにお茶を渡す。
そんなこんなで、温かい日差しの中、僕達は昼食を終えたのだった。
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楽しい昼食が終了した。
折角なのでいくらか吹き出したばかりの水を採取する。
後でこの水を使ってコーヒーか紅茶でも淹れようと僕は思ったのだ。
山頂でそういった飲み物を飲むのも最高だろうなと。
頂上にある水溜りは、“毒”が混じっているわけではないけれど、飲むには少しきつい水だから。
なので水をここで汲んで持っていく。と、
「陽斗、早くしろ。でないと本当に野宿になるぞ?」
「わ、分かってるよ」
そしてここからが、山道だった。
周りに木々が生い茂り、その山道に向かって青い空を覆い隠すように茂っている。
けれど歩き続けていると、段々と木々が低くなってきて、やがてぱっと視界が開ける。
森林限界だ。
低木や高山植物が生い茂るその場所にやってきた僕は……すでに疲れ果てていた。
「はあはあはあはあ、途中に“満月環熊”とか色々な魔物が……しかもここまで来るのすごく大変だったし。でもここまできたし後はそんなに危険な物はでてこないよね。折角だから、高山植物とか材料になりそうな物を……ぐえっ」
僕はそこで襟首をクロヴィスに掴まれた。
僕が涙目でクロヴィスを見上げると、
「いい加減脱線するな。依頼の相手を倒したら浮きなだけ散策すればいいだろう」
「で、でもここよりもっと上は、植物も生えない石だらけの場所だし……あ、でもその石も利用価値はあるんだけれど……」
「そうかそうか。じゃあ先にその依頼の敵を倒してから探そうな。というやりは……よく知っているな。ここの山について」
「き、聞いただけだもん。そ、それに他にもこんな山があるし」
「へぇ、何処だ?」
「そ、それは……」
僕は焦る。
だってそんな山、ここ以外に僕はゲームの中でも知らない。
ど、どうしようかなと僕は思いながら、
「“ふ、フジ山”」
「フジ山? そんな山が陽斗の知っている所にあるのか?」
「う、うん……」
つい適当に、日本で一番高い山を行ってしまった僕。
そもそもこの世界の山じゃない。
もう少し何か考えられなかったのか僕は……と思っていると。
「元をただせば魔力なんだからそこから作ったらどうだ?」
「そんなに簡単だったら、苦労はしないと思われ」
そんなシステムゲーム内に組み込まれてないし。
でももしやそれに似た異世界なのでそんな素敵機能があったりするのだろうかと僕が思っていると、クロヴィスが意地悪く笑った。
「そうだろうな。魔力から直接この世界の物を作る力は、まだこの世界の人間達は持っていない力だからな。各々が植物なりなんなりに作り替えた物を人間は利用するしかない状態だから、当然だな」
「何でわざわざそんな意地悪を言うんだ」
「ん? そうだな、兎を罠にかけたらどうすると思う?」
そう今度はクロヴィスが僕に関係ない事を聞いてくる。
今の話に何の関係があるんだと僕はむっとしながら、
「兎は、食べるために取るんだと思う」
「だろうな」
「その質問の意味は?」
「言ってみただけだ」
僕はまたしてもクロヴィスにからかわれたと頬を膨らます。
そんな僕を意味深にクロヴィスは笑いながら、僕を山頂まで連れていったのだった。
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見事に石だらけなのに、その中で山頂から水が噴きあがっている。
透明で綺麗な水なのだけれど、魔力濃度が濃くて飲むと体にさまざまな変調をきたす。
例えば猫耳が生えたりとか、兎耳が生えたりとか、犬耳が生えたりとか、体が変に疼く媚薬効果があったりとか……。
その日その日の湧きでる水の魔力濃度が変化し、それの影響による物だった。
ちなみにゲーム内では汲みだすたびに水の性質が変わっていたが。
それはさておき、そこに鎮座する水鳥。
ただ鳥といってもいいのか分からないくらい大きい巨鳥である。
名前は“ドミドミ鳥”。
僕の身長の三倍くらいある。
もはやこれは怪獣といってもいいのではないだろうか。
そこでその鳥は、白と茶、赤の入り混じった翼を大きく伸ばして、
「くえぇええええええ」
「うわぁあああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
僕は大きな声で鳥に威嚇されて即座に謝ってしまう。
そんな僕にクロヴィスが、
「謝っている暇があるなら魔法を使え、ほら! 飛ぶぞ!」
再び僕を威嚇した鳥が空高く舞い上がる。
そのまま特攻攻撃を仕掛けてくるのを僕は知っている。
そのダメージが結構、冗談にならないくらいに高い事も。
だから僕は防御の結界を張る。
風の力の高い“ドミドミ鳥”なので、僕も同じ風の魔法の結界を張る。
同じ属性の魔法同士がぶつかり合えば、強い方が勝利するのが道理!
「“風の盾”」
「ぐぎゃあああああ」
そこで体当たりしてきた“ドミドミ鳥”が僕の作りあげたその壁にぶつかる。
自分の全ての力をかけて突っ込んできた反動が、その鳥に直接戻ったせいなのか悲鳴を上げてずるりと僕の目の前に落ちてくる。
そしてそのまま光に包まれて、ふっと消えて変えて大量の羽毛が……。
「あ、あれ、倒したのかな?」
「そうみたいだな。証明用に幾つか持って、ギルドに後は向かえばいいな」
「う、うん……随分とあっけないね」
「それだけ陽斗が強くなったんだろう。さて、それでどうする? ゆっくり採取していくか?」
そう僕は言われて、どうしようかと迷ってから……。
「その前にクロヴィス、ここでお茶をしていこうよ。眺めもいいしね。さっき途中で水を汲んできたから、美味しいお茶とコーヒーが飲めるよ?」
「陽斗は本当に食べる事が好きだな」
「む、そういうとクロヴィスの分は作らないよ?」
「はは、俺はコーヒーが良い」
「分かった、じゃあ早速作るね」
と言って僕は、外で使える調理セットを取り出す。
とはいえお湯を沸かすだけでいいので結構楽だ。
用意をしてお湯が湧く間ある事を思い出したので、すぐ傍の怪鳥のいた泉に杖を漬ける。
すると魔石の部分からしゅるしゅるとリリスが幸せそうな顔で出てきて、
「気持ちが良い~、生き返るぅ~」
「確か杖をつけると魔力が強化されたり色々付随効果もupした気がしたら。気持ちが良い?」
「うん、ふわぁああ」
とても気持ち良さそうなのでしばらくリリスはゆっくりさせる事にした。
ちなみにクロヴィスは今周辺を見てくると言ってここにはいない。
コーヒーが出来るまでには帰ってくると言っていた。
早く帰ってこないかな、と僕は思いながら周りの景色を堪能してぼんやりしていたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
クロヴィスは気まぐれに、散歩をしていた……ふりをしていた。
もちろん目的はある。
「それで、何時までそこに隠れてみているつもりだ?」
「……」
「陽斗に、ずっとお前が付けていた事を付けていた事を教えてやってもいいが、どうする?」
そこで舌打ちする音がして、ふっと何かが現れる。
黒いローブを着た、“深淵の魔族”。
けれどその瞳は睨みつけるようにクロヴィスを見ている。
それをクロヴィスは嘲笑じみた笑みを浮かべながら、
「この前、城で会った魔族か。同族に襲われた間抜けな、な」
「……お前への敵意があの方にも伝わってしまっただけの事」
「さあ、どうだろうな? 案外自分が猫だと自覚しただけかもしれないぞ?」
クロヴィスがかる愚痴を叩くが、その“深淵の魔族”は沈黙する。
うっすらと額に汗が見えたりするが、そこでこほんと咳払いをして、その魔族は再びクロヴィスを睨みつけ、
「なぜあの、陽斗様の傍にお前がいる」
「お前とは失礼だな。だが俺は今、気分が良い。答えてやろう」
高慢に言ってのけるクロヴィスだが、それに魔族は沈黙する。
機嫌を損ねて放すのを止められても困るからだ。
そんな様子を鼻で笑いクロヴィスが、
「逆に考えてみろ。俺の許し無く、この世界にお前達は都合のいい人間を呼べると思っていたのか?」
「! それは……」
「俺が陽斗を気に入った。だから陽斗の傍に俺がいる。それだけだ」
「……お前が何かに執着するとは思わなかった」
「そうだな、俺も思わなかった」
そこでクロヴィスは、時々、陽斗に見せる様な優しげな笑みを浮かべた。
それを見て魔族は息を飲む。
まさかこのクロヴィスがそんな顔をする事が出来るなど思ってもいなかったから。
何時も高慢で苛立つようなそんな憎い相手で、そんな表情であざ笑うかのように“深淵の魔族”を見ていたから。
そういった意味でももしかしたなら、陽斗は“深淵の魔族”にとって、否、この世界にとって……そう思っているとそこで、クロヴィスが何かに気付いたように目を瞬かせた。
「……よくよく見れば、お前は、あのウィルワードと一緒にいた事がなかったか?」
「……珍しく覚えていますね。我々“深淵の魔族”等、そういった存在と認識してしかいなかったと思いましたが」
「陽斗に関する事と、面倒なあれに関する事は覚えている」
「つまり、ウィルワードの言っていたクロヴィスが友人だという戯言は本当だったと?」
「……さあどうかな」
「もっとも、お前は友人だと思っているはずがないと私は思っていたが……」
「友人というよりは、迷惑をかけられていた知人なだけだ」
クロヴィスが微妙そうな顔をして告げる。
その答えを聞いた“深淵の魔族”はしばらくクロヴィスを見て、
「……まさかお前が迷惑をかけられる事なんて無いだろう」
「何度も巻き込まれたからな」
「……お前は巻き込まれても無視をしているだろう。我々の事など、どうでもいいのだから」
けれどその魔族の言葉にクロヴィスは沈黙する。
その表情は何処か、驚いているように魔族には見えた。
だがこのクロヴィスがそんな顔をするなんて思わなかった魔族は、見間違えだとそれを否定して、
「その内、陽斗には我々の方に来て頂きます。その時には、彼は、貴方の敵になるでしょう」
「どうだろうな。そんなにお前達に都合よく事が運ぶと思うのか?」
「……運んでみせます」
「そうか、それでウィルワードには会っていかないのか?」
そのクロヴィスのからかうようなその言葉に、その魔族は答えずにその場を立ち去ったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
意外に時間がかかっているクロヴィスを待ちながら僕は、頂上周辺の砂を集めていく。
これも爆弾なり、銃なりに必要な火薬の材料になる。
「周りに水があるのにそういった性質があるのはちょっと不思議だよね」
海の傍でとった砂もそうだったけれど、水の近くでとれるのが元の世界の感覚では違和感がある。
雨が多い地域では水に溶けて流れていってしまうから。
ちなみにこの砂にも魔法的な意味で、炎の力が強かったりと、威力が採れた場所で変わる。
その時点で異世界だなと感じる。
似ているようで違う世界。
けれど世界の構造自体はシンプルな気がする。
あんな材料を放り込むだけで出来あがってしまうオーブンや機械なんて、僕達の世界にはなかった。
構造が単純だから、あんなに簡単に物が出来上がってしまうのだろうか?
それとも僕がそう思っているだけで、
「僕達の世界よりも技術が進んでいるのかな?」
魔法という選択肢がある分、僕達が思い描く世界とは違う進化をしているのかもしれない。
考えれば考えるほどこの世界は僕のいた世界と違う。
幾つもの顔を持つ物質は、この世界ではもっと少ない顔しか知る範囲では僕には見せない。
そう思いながら傍にあった別の白い砂を採取する。
“月光の砂”と呼ばれるアイテムだ。
僕達の世界で言うなれば、二酸化ケイ素……水晶が主な成分の砂。
これを溶かすとガラスが作れる。
それはこの世界でも同じで、材料の一つだ。
他にも天然ガラスである黒曜石、昔は矢じりにも使われていたらしいそれは、この世界では“虹の黒曜石”といった名で、水の中から採取される。
確か水草が花を咲かせた後の種がそれだったはずだ。
そこで僕は気づく。
「この世界にある物は、僕の知っている知識によって表現されているように、僕が聞こえたり見えたりしているだけなのかも」
異なる世界ならば異なる言語を話していてもおかしくはない。
なのに意思の疎通が出来るというのは、そういった可能性がある。
それともこの世界は本当にゲームの世界なのだろうか。
悩んでいるとそこでお湯が湧く。
よし、お湯を入れようと思ってから、僕はコーヒー粉末にお湯を注いでいく。
芳しいコーヒーの香りを楽しみながら僕は、ふと、奇妙な思いに駆られる。
「僕は今、“何に”不安を感じていたんだっけ?」
そもそもその前に一体何を考えていたのだろうと思いながらコーヒーを淹れていると、僕の頭を何者かががしっと掴んだ。
「放せー、放せー」
「……何かに悩んでいるようだったから、試しに掴んでみたがどうだ?」
「むがぁああ、どうしてクロヴィスはこんな意地悪なんだ!」
「陽斗の反応が面白いからだろうな。そしてコーヒーを寄こせ」
「その前に頭を掴むのを止めてよ!」
「仕方がない、代わりに撫ぜてやる」
そうクロヴィスが言って、僕の頭を撫ぜてくれる。
その温かさに僕は、心地よくなってしまい、不安も無くなってしまう。
何でだろうなと僕がクロヴィスを見上げる様にじっと見つめると、クロヴィスの顔が近づいてきて僕の唇に触れた。
何故キスをされているんだ、僕。
そう思っている唇が放されて、
「それでコーヒーを寄こせ」
「! わ、分かってる!」
キスされたけれどなんてこともない様に僕はクロヴィスに言われて、もやもやしながら僕はコーヒーをカップに注いだのだった。
とりあえずここまで転載。続きはその内に




