良い夢を……たぶん、みれない
そんなこんなで僕は、クロヴィスと共に歩きだす。
目的は、フィオレ達と合流する事だけれど、
「この道も崩れて行き止まりか。……吹き飛ばして道を作るか?」
クロヴィスのその言葉に僕は、以前のゲーム内でこの遺跡にやってきた時の事を思い出す。
ゲーム内では端にその階層のマップと何処にいるのかが表示されていたので迷う事はなかったけれど、残念ながら今はそういったものはない。
ただ、ここは敵を倒した後のアイテムがとても美味しいので、数回潜った記憶がある。
だからうろ覚えだけれどその地図は頭の中に入っており、どの道が古い遺跡なので崩れて塞がれているのかを僕は記憶していた。
それがこの世界と同一かは分からないけれど、確認のためにここに来てみたのだ。
そして実際に崩れ落ちた壁を見て僕は、それを確信する。
だが、そんな僕の隣でクロヴィスが、ここの崩れた壁を、剣を使った魔法で吹き飛ばそうとしている。
僕は慌てて、
「クロヴィス、ここを吹き飛ばしてこの道が崩れるよりは、他の道を行こうよ。きっとフィオレ達もそうだろうし」
「……そうだな」
剣をしまうクロヴィスに僕はほっとしながらも、確か途中で吹き飛ばさないといけない場所があったと思いだす。
そこは確か風の通るのに気づいてそれで、という理由だったはずだ。
場所も覚えているのでそちらに向かえばいい。
ただフィオレとの合流を優先するならば、と僕は考えて……思い出した。
「そうだ、別れた時用のイベントアイテムがあった!」
「イベントアイテム?」
クロヴィスが聞き返してきたので、僕は『専門用語です!』と誤魔化してから、魔法道具を取り出した。
人形関係の魔法道具で、この犬の人形に、会いたい人物の持っていたものをかがせるとそれに向かって走っていくのだ。
だがそこで僕は気づいた。
「フィオレやタマの身に着けていたり持っていたものが何もない、どうしよう」
今の手持ちのアイテムには、そういったものは何もない。
このままではこのアイテムは使えないので地道に探していくしかなくなる。
きっとフィオレ達も移動しているだろうから、行き違いになるかもしれない。
どうしようと僕が悩んでいるとそこでクロヴィスが、
「あっちには杖の妖精のリリスがいるだろう?」
「あ! そうだった!」
そこで僕は自分の持っている杖がリリスの本体だと思いだす。
クロヴィスに指摘されるまで、全く気付いていなかった。
だから早速犬の人形に僕の杖の匂いをかがせる。
それに犬が小さく、わんと鳴いて走り出す。
小さな小型犬というか子犬サイズなので、走っていくその姿も可愛い。
こういう子犬も可愛いなと思いながら、フィオレの所まで案内してくれると良いなと思いつつ僕は、その犬の形をした人形のアイテムを追いかけたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
途中、魔物と遭遇したりする。が、
「ほら、行って来い、陽斗」
「う、うぎゃああ、クロヴィスが手伝ってくれてもいいのに! この……“炎の円環 ( ファイアー・リング)”」
輪っかになった炎が三つほど杖から飛び出して、現れたネズミに蝙蝠の羽が生えた魔物に絡みつき燃やして滅する。
大分魔物が現れても、焦ることなく魔法が使えるようになっている気がする。
だが油断は禁物だ、だってそれが命取りになるかもしれないのだから!
そこまで考えた僕はある事に気付いた。
つまり、僕は今、戦闘にとても慣れてきているわけで……そこで。
「ふむ、大分、陽斗も戦闘に慣れてきたな。このまま敵を見つけるや否や、喜んで倒しに行くくらいの戦闘狂になれば、一人前の魔法使いだな」
「いやいやいや、それ、多分、魔法使いじゃないと僕は思います」
「そうか? 今まで俺が出会った魔法使いは、魔物を見つけるや否や歓喜の雄たけびを上げながら倒しに行っていたぞ? アイテムを寄こせー、と叫んだりしながら」
「……多分クロヴィスがであった魔法使いが特殊だったのだと思う。フィオレはそこまでじゃないし」
「いや、フィオレにもそういう傾向はあるぞ」
「……いやいや、そこまででは……」
「それにまだフィオレは、厳密な意味での魔法使いではないからな。陽斗もそうだが」
そう言われて僕は、確かに魔法使いには分類されるけれど、まだ厳密な意味では“魔法使い”ではないと気付く。
その“魔法使い”になる為に今は頑張っている設定なはずなのだ。
だがそこである危機的な事実について僕は気づいた。
「もしかして僕が本当に“魔法使い”になると、そんな風になっちゃうってことかな?」
「そうじゃないのか? ……まあ、ウィルワードみたいな変な魔法使いもいるからな……一概にそうとは言えないか」
「そうなんだ、じゃあ僕は、ウィルワードさんみたいになるように頑張ればいいのかな」
何処となく温厚そうなあの、ちょっと抜けている魔法使いを思い出す。
ゲーム内でも優しそうな人物だったし、あんな風になるなら良いなと僕は思った。
だがクロヴィスは違うようで、僕の肩を掴んで、
「陽斗、それだけはやめておけ」
「え? でも優秀な魔法使いなんでしょう?」
それを聞いたクロヴィスが、深々と嘆息してから、
「優秀だが、斜め上方向過ぎてあまり関わり合いたくない。むしろああいう風になるな」
「! クロヴィスが弱っている! つまりウィルワードさんみたいになれば、クロヴィスに僕は勝てる! そして戦闘をせずに引きこもれる! ……んんっ」
そこで僕はクロヴィスにキスされた。
とてもいい事に気付いたと喜んでいた僕に、クロヴィスはキスをする。
何が悲しくて男であるクロヴィスとキスしているんだ僕はと思っている内に唇が放されて、何処か怒った様なクロヴィスに、
「ウィルワードのようになったら、陽斗がいやな目に合わせるからな」
「! 何で!」
「……いい事を教えてやろう。陽斗は触手やスライムが苦手だったな」
突然違う話しを振ってくるクロヴィスに僕は、当然じゃないかと思いつつ周りを見回した。
どうやらこの遺跡にそういったものはいないようだった。
良かったと僕が安堵していると、
「今回のスライムの異常発生は、恐らくウィルワードが関わっている」
「まさか! スライムが増えやすくなる薬を撒いたとか?」
何で人間の魔法使いが、魔物の増える薬の作り方を知っているんだと思って、僕はそこで気付いた。
あの塔の主は“深淵の魔族”と関わりがあるらしいという設定があったはず。
あれっと僕が思っているとそこでクロヴィスが、
「大方、邪魔だからと森にそういった増えやすくなる効果の薬を捨てたんだろう。きちんと処理をしないで」
「……不法投棄」
「何時もそうだ。その手伝いに俺はあいつといると駆り出される。少しは迷惑を考えろと言いたい」
「! クロヴィスがおされている! よし、僕もあんな風になれるように頑張……りませんのでよろしくお願いします」
「……いい子だ」
そう、怖いくらいの笑顔で僕を見たクロヴィスに、怯えた僕は素直に頷いたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そんなこんなで記憶にあるゲーム内のマップを参考に、僕は進んで行く。
とはいうもののこの犬の道具に頼りっきりの状態ではあるけれど。
何故って、僕がフィオレ達と早く会いたいからだ。
だって、次から次へと魔物が出てくるのである。
クロヴィスも手伝ってくれているが、それでも僕が主導のままだ。
だから攻めてタマくらいは味方に欲しいなと僕が思うのは当然だと思う。
それにまた石板を見つけてしまったのだ。
あれのイベントは主人公キャラの秘密の血筋が影響して、最後はクロヴィスと対戦する為にある装置を起動させるのに必要な道具なのだ。
実はあのラスボス戦でも、ゲーム内ではクロヴィスは力が抑えられた状態だった。
人間や“深淵の魔族”が秘密裏に作りあげていた装置を開く鍵がその石板なのだ。
ただ途中、というか段々とクロヴィスに対する脅威を忘れて、それよりも日々の生活と権力闘争を主として行うようになってしまったり、“深淵の魔族”と人間とが決別(一部では関わり合いがある)状態になってしまったりなどの歴史的な背景もあって、その装置は使わなくなってしまったのだ。
そして歴史の闇の中に消えていったはず。
ただこの世界はゲームに似ているだけで、少し違うので設定も違うのかもしれない。
ちなみにこの石板は伝説の神々の片鱗と呼ばれる石板に描かれた絵と言われているが、絵画ほどに彩り豊かなものではなく、真ん中に赤と青の石がついた白い歯車と黒い歯車の絵が描かれているだけだ。
その歯車も、白く大きな歯車とそれよりも一回り小さい黒い歯車がかみ合っているだけの物だ。
そんな簡素な石板が何故、伝説の神々の片鱗と呼ばれているのか。
まずこの歯車の白い物はこの世界の神を指し、黒い方が魔王を示すという。
そして“深淵の魔族”にとって魔王は、“神”に近い物であるらしい。
また、この歯車は“運命を回す歯車”という意味を持っているそうだ。
ただそれがどうして二つ、相反する者が描かれているかといえば、二つ揃わなければ運命が回らないから、らしい。
これらが設定にあったはずで、それを知らず知らずに主人公が集めて……という話だった。
けれど、その本体は海の向こうの博物館にあり、ここに転がっているのはレプリカのはずなのに、奇妙な魔力を感じる。
不安を感じるものの、集めtるしかないのは僕がこの世界の人間でないからだ。
ヒントになるならばという気持ちで僕は集めている。
いずれ“深淵の魔族”達とも接触する事になるかもしれないなと思って、その時にタマの正体は分かるかもしれないなとそこまでぼんやり考えた所で僕は、崩れた壁が塞ぐ道に辿り着く。
使った人形の犬が、わんわんと二回叫んで子手っと転がる。
ありがとうと小さく呟いて大事に人形を僕はしまってから、崩れた壁の様子を見る。
土砂も入り込んでいるが、確かこの辺だったかなと思ってみると、風が吹き出してくる場所に気付く。
そこで声が聞こえた。
「おい、駄目猫、勝手に走るな!」
「にゃーん、僕は強いので大丈夫ですにゃー、にゃあ!」
「きちんと前を見て走れ! だからこんな行き止まりにぶつかるんだ!」
どうやら丁度この壁の向こうにフィオレ達が来ているらしい。
そしてこちらからあちらの声が聞こえるという事は、こちらの声もあちらに届くことを意味するので、
「フィオレ、無事だったんだ!」
「陽斗? クロヴィスと一緒か?」
「うん、そうです」
「ではここの壁を吹き飛ばすから、下がっているように!」
待って下さい、もっといい方法がありますと僕が言い返そうとするとそこで、僕はクロヴィスに襟首を掴まれてそのまま下がらせられて……同時に、轟音と共に、こちらに土が吹き飛んでいく。
クロヴィスのはった防御の結界と、壁際にクロヴィスが庇うようにしてくれていたので僕は安全だったのだけれど……大きく穴を開けた壁。
その土ぼこりが舞うのが止むと、笑った得意げなフィオレの姿が見える。
やっぱりこの魔法使いも、戦闘狂なんだと僕は思ったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
ようやく僕達はフィオレに会えた。
ただ血の気が多すぎるようなそんな雰囲気に僕はびくっとしてしまうがそこで、
「陽斗~! 会いたかった~」
「にゃーん」
妖精のリリスと、猫のタマが僕に抱きついてくる。
何故かタマはネコ耳な人型になっていたがそれはいいとして。
「みんな無事だったんだ、良かった」
「そちらも、そうみたいだな。まあ、クロヴィスがいるから大丈夫そうだけれど……こっちは今回この駄目猫のおかげで助かった」
「そうなんだ、タマ、偉いね」
「にゃーん」
そんな得意げなタマの頭を僕は撫ぜる。
猫耳がピコピコ動いているのが、物凄く触りたい衝動にかられるけれど、必死で僕は我慢した。
さて、そんな僕達だけれど、このまま外に出ようと提案した僕だけれど、そこでフィオレが、
「陽斗、この遺跡はあまり人が来ていなさそうだ。偶然にもこんな素晴らしい場所に出たならやる事は一つだろう!」
「え? でも出口を探して脱出した方が……それから装備を整えた方がいいのでは?」
「常に何事も対処しておけるように装備をしておくものだ! 魔法使いならば!」
「いえいえ、まずは自分の身の安全の確保からです!」
「ふん、そうやって戦闘からまた逃げるのか? 陽斗は」
「いえ、そういうわけではなくてですね、まずは安全を……」
そこで僕の肩をクロヴィスが叩いた。
なのでそちらの方を向くと、人差し指がたてられていて、その指に頬がぶにっと当たる。
「陽斗は単純だな」
笑うクロヴィスに僕は半眼で、
「こんな事をするためにわざわざ僕の肩を叩いたのか」
「いや、面白そうだったからな」
「この……」
「とはいえ、今回は俺も戻るのに賛成だ。実はこのスライム狩りの依頼は今日が締め切りだったから、あまり遅くなっても困る。特にここは地上から離れているから……時計はもっているか?」
それに僕は首を振り、フィオレも横に首を振る。
どうやら全員、今日はもっていないようだった。
それを見たクロヴィスが小さく笑い、
「だからここに入ってどれくらい経ったのか分からない以上、早めに出た方が良い。それに夜になると魔物の動きも活発になるから、視界が悪い上にスライムに徹底的に襲われるという悪循環に……」
「ふむ、それでは仕方がない、戻ろう!」
フィオレが真っ先に声をあげた。
今回のスライムを倒す依頼で、色々懲りたらしい。
けれどこれでもう家に帰れるんだと僕が喜んでいるとそこでフィオレが、
「それでどうやって出口を探す?」
「あ、それは……」
とても良いアイテムがありますと言おうとした所で、タマが、
「出口はこっちにゃ」
「あ、タマ!」
そう言ってタマが走りだすので僕達はそれを追いかけていく。
フィオレは猫だからそういった出口の匂いが分かるのかと呟いていたけれど、本当にそうなのだろうかと僕は疑問を持つ。
もしかしてタマはこの遺跡に来た事があったり、知っていたのでは、と思ってしまう。
けれどそれを聞く勇気は僕にはまだ無くて、タマに案内されるまま出口に向かう。
ただこの時僕はある事を一つ忘れていた。
そしてそれを思い出すのはそれと遭遇した時、つまり、
「がぁあああああああるるる」
出口である場所、外の光が見えてきたと思ったその時、それは獣の咆哮の様なものをあげて僕達の前に姿を現したのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
現れたのは、ライオンに白い翼を生やした化けものだった。
その魔物を見て、僕は思い出した。
確かこの遺跡は出口の所にこんな魔物がいて、戦闘しなければならなくなるのだと。
風と水に、地面を操る感じの攻撃をしてくる……そんな魔物だった。
遺跡内での魔物との戦闘で疲弊しかけた所でこの魔物に当たり、ゲーム内では酷い目にあった。
すぐ近くで一度記録をしておいたので、一度負けてもそこからだったし事前にああいったものが出てくると攻略本をその時はもっていたので、その知識から装備を強化したのである。
ただこれは全てゲーム内の話だ。
ここはゲームに似た、ゲームと差異のある異世界。
そこでこの魔物に負けてしまったならどうなるんだろう。
記録する装置も記録できる場所の様なものも何もない。
負けた記録をリセットしてもう一度なんてできない。
だから今の最善を尽くさないとと思いながら僕は、なんの魔法が効いたのかを思い出して、選択画面を自身の目の前に表示させる。
現れたものの中から氷属性の魔法を選んでいく。
確かこの魔物は強かったので、強めの魔法を……と僕が選んでいるとその横でフィオレが早々に呪文を唱えて、
「氷結の礫 ( アイス・コア)」
その呟きと共に、氷の塊がキラキラと輝きながら無数に現れてその魔物に攻撃を加えていく。
結構効いているようだ。
そんな中でタマもその自慢の猫パンチで吹き飛ばしかけていたり、クロヴィスも切りつけている。
それにこの魔物は攻撃できないようだ。
圧倒的ではないか、我が軍は的な言葉が頭に浮かんで、もしかして僕、何もしなくてもいいんじゃないかと思う。
ここまでの総攻撃だと、僕が何もしなくても魔物が倒せる。
よし、それで行こう! 僕は後ろで皆を応援していよう……そう思って背を向けて後ろに下がろうとした所で僕は何者かに襟首を掴まれた。
そろりと振り返ると、クロヴィスが笑っている。
「逃げようとするな、陽斗」
「だ、だって僕がいなくても大丈夫そうじゃん」
「そんな情けない事を言って……フィオレ、一撃でも良いから陽斗の分を残しておいてくれ」
「分かった。陽斗には再教育が必要そうだからな」
フィオレまでそんな事を言う。
そして魔物の前まで連れてこられた僕は、クロヴィスに、
「ほら、戦え」
「……くうっ、逃げられると思ったのに……悠久の氷獄」
僕は技を選択する。
リリスまでもがあきれ顔だったけれど、魔法を使えば援護をしてくれているらしい。
魔物の急所になりそうな場所を探知して、そこに魔法を補正してくれる。
そして魔法陣が浮かび上がり僕は杖を掲げ、呪文を唱える。
耳をつんざくような乾いた音がして、目の前の魔物もろとも、周辺が凍りつく。
それを見て僕は……やりすぎたと思ったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そんなこんなで凍りづけにした時点でその魔物は倒されたらしいのだけれど、
「陽斗も大分本気を出すようになった……のか?」
フィオレはその氷漬けになった魔物を見つつ呟いた。
だがそんなフィオレにクロヴィスが、
「陽斗は魔法の制御が上手く出来ていないだけだ。以前も巨大な炎の塊を飛ばしたからな」
「……まさか以前港町の方で、炎の精霊がお怒りだの何だのと噂の炎の塊はまさか……」
「ここ最近なら、陽斗だろうな」
フィオレがくるりと僕の方を見た。
その表情は無表情だったが、まっすぐに僕を見つめている。
そして僕の目の前までフィオレは歩いてきて僕の手を握り、
「容赦ない魔法攻撃、それこそ真の魔法使いだ!」
「ええ! ち、違う、僕はただ……」
「相手の出方が分からない以上、叩き粒追うとすれば全力を尽くす! 当然だな。僕はすぐに魔力の節約を考えてしまうが、やはり思いっきりも大切だな!」
「フィオレ……僕はただ単に魔力の調節が上手く出来ないんだ。だから魔法で選んで……」
「そういえば先ほどの魔法、秘されし魔法と呼ばれる、禁書一歩手前の高度な魔法では? さすがは陽斗、僕よりも上の成績だっただけのことはあるな」
そうだったんですか……そんな初めて知った事実に僕は、目を泳がせる。
そしてとりあえずはこのレベルのものはあまり使わないほうがいいなと僕は思う。
だって下手すると禁断の魔法を使っている、という事でなんというか、エロくない意味でのR18展開になりかねないのだから。
R18ならエロい方の意味がいいのです。
できれば可愛い女の子とイチャイチャしたかった。
いや、希望は捨てるべきではない、きっとこれから女の子との素敵なイベントも有るはず……そう僕は、そうやって自分を慰める。
そこでクロヴィスが剣を使い氷ごと魔物にとどめを刺す。
後には白い鳥の羽のようなアイテムと、魔力の結晶のような石が転がる。
それを拾ってからフィオレに、
「これ、どうやって山分けしようか」
そう聞くとクロヴィスはいらないと答え、タマは猫じゃらしが欲しいと答え(お猫様の暗黙の要求でしたので、後ほど購入させられました)、フィオレは、
「そうだな魔力結晶の方にしようか」
「じゃあ僕は羽をもらうね」
と言って白い羽を取る。
この羽根を使うと、空を飛べる箒のアイテムが作れるのだ。
但しもうすでに僕は持っているが、この材料自体が貴重なので、フィオレという証人がいるので疑われずに済む。
こうして僕達はこの遺跡を後にしたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
猫じゃらしを購入し(この世界の猫じゃらしは、とても大きくて長持ちする)、タマをそれで遊んでやりながら帰路につく。
だが、僕は自分の家の扉を開いた瞬間、凍りついた。
「んんっ」
目の前で、ライが以前あった王子様に濃厚なキスをされていた。
家の前に馬車が止まっていたので嫌な予感がしていたのだけれど、まさかそんな生々しい男同士のキスシーンを見せつけられるとは思わなかった。
だがそこで、ライがそのキスしている王子様フェンリルの頬を平手打ちする。と、
「痛いな……。ようやく会えたというのに」
「……僕は会いたくありませんでした。後この家の主達が驚いているので離れて……このまま帰ってください」
「しかたがないね、また日をあらためて来るとしよう」
そう言ってフェンリルは僕に挨拶をして馬車に乗り込み去っていく。
何が起こったんだろうとかどういう関係なんだろうかと聞くに聞けない雰囲気のライに僕が声をかけれずに行くと……僕はライに睨まれ、
「……陽斗、ストレスが溜まったから、何処かに戦闘に行かない? 僕も手伝うから」
「え、えっと、でも……」
「でないと、陽斗を襲う」
「! ……わ、分かりました」
そのライの不機嫌そうな様子に怖くなった僕は、つい頷いてしまったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
不機嫌なライに誘われて、僕は戦闘に連れていかれた。が、
「ここで消え失せろ!」
真っ先にライが現れた魔物を倒してしまう。
ライは水系の魔法が得意らしく、片っ端から氷漬けにするわ、氷の矢で貫くわ、氷の塊で押しつぶすわ……他にもやりたい放題だった。
明らかに苛立っている、そんな様子のライ。
これではとてもではないが、あの王子様との関係も聞けない。
僕だって空気が読めるのだから!
だがこうやって今現在僕は、何もすることがない。
やってきたのは草原のような場所で、少し離れた場所に森が見える。
そこに“宝石蜜蜂”の巣や、触手の巣がある森だ。
けれど僕達はそこにはいかず、その手前の草原を散策していた。
この草原は、見晴らしはいのだけれど地面からもこっと精霊の様な魔物が現れる。
精霊の様な魔物が出る辺りを踏むと、土の中から出てくるような感じだ
だが出来る限り戦闘をしたくない僕は、ライの後を大人しく踏んで進んで行く。
その精霊の様な魔物が現れた場所は、同じ場所である場合、しばらくそこからは出ないらしい。
なのでこうやってライの後を歩いていく限り僕は襲われずに済んでいた。
ただ……こうなってくるとただ歩いているというだけで、僕は何もすることがない。
楽しいお散歩といっても、こんな何が出てくるか分からない場所では気楽になれない。
更に付け加えるなら、
「……お昼、僕、食べていない」
「僕もだ、お腹が空いたな」
僕の呟きにフィオレは頷く。
ちなみに猫のタマは、窓際で日向ぼっこをしながら眠るんだと、リリスを連れていってしまった。
もちろん杖を咥えて。
「うわーん、陽斗、助けて~」
「美味しいおやつと一緒にゃ~ん」
「違う~、ぁあああああ」
相変わらず二人は仲良しだなと思いながら、仕方がないので僕は別の杖を取り出すと、ぴょんぴょんはねながら僕の方にリリスの本体である杖とリリスがやってきて、
「陽斗の浮気者! 僕というもの(杖)があるのに、そんなみすぼらしい杖に浮気して……って、ふぎゃああ」
「はむはむ。にゃ~。やっぱり甘くて美味しいにゃ~、ぺろぺろ」
「や~、舐めないでぇ、ぁああああ」
といったように言いながら、リリスはタマから逃走した。
とりあえず留守番していてもらおうと思って僕は二匹? を置いていった。
それを思い出した後は、やはり今度はお腹がすいてきて僕はあるものを思い出す。
「あ、前に焼いておいたクッキーがあるかも。チョコチップと、普通のバタークッキー」
「あ、食べたいな」
「僕も欲しい」
ライも振り返ってそういったので、クッキーを渡す。
最後にクロヴィスにも渡すと、大きなクッキーだったのに一口で食べてしまった。
「……もう少し味わって食べてくれてもいいじゃん」
「陽斗の食べ物は美味しいからな。すぐに食べたくなる。……きっと陽斗も美味しいだろうな」
「え?」
「性的な意味で」
「……もしや僕、クロヴィスに体を狙われている!? ……フィオレ、何でそんな半眼で僕を見るんだ」
「いや……まあ、陽斗はそのままでいいと思う」
うんうんと頷くフィオレに僕は、
「どういう意味ですか! あれ、クロヴィス、何処に行くの?」
「いや、この調子だと俺は必要なさそうだから、俺は帰ってもいいか?」
「だ、だったら僕も……」
「陽斗は戦闘に慣れないとな」
「く、こ、この……逃がすものかぁあああああ」
そう僕は叫んで僕は、クロヴィスの腕を抱え込むようにして、ライの後ろを歩いていったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
僕は、クロヴィス腕に抱きつくようにしてその場を歩いていた。
もちろんクロヴィスが逃げないようにである。
僕ばかりが大変な思いをするなんて、嫌だからだ。
けれど、クロヴィスは何処となく嬉しそうである。
何でだろうと思っているとそこで、蜥蜴の様な魔物が現れる。が、
「げし、ぼこっ……次に行くぞ」
食べかけのクッキーを片手に、ライが一撃に葬り去る。
そんな感じなので、僕の出る幕がない。
かといって、帰ったりも出来ないので僕は非常に困った。
どうしようかなと僕が思いながら僕ははっと気付いた。
「フィオレ!」
「何だ?」
「今日のお昼、何が食べたい?」
「……そうだな、“うねうねホウレン草とミギー豚ベーコンのキッシュ”かな。ほら、最近町の入り口近くにできた新しい店の」
「……たしか、蒼い看板の?」
「そうそう、そこで売っている揚げドーナツも美味しいらしいよ? 何でも、ただの砂糖が振ってある物と、シナモンが入った物、チョコレートがかけられた物があるそうだ」
「お、美味しそう……」
「しかもそのお店で売っているポテトをあげた物には、ディップが一つついてきて、それが日替わりの物とその他にも……」
「二人とも、そんなに楽しそうにお昼の話をするな」
そこでライが僕達にそう告げる。
なので僕はフィオレと顔を見合わせて、こくりと頷いて、
「そういえばそのすぐ傍にある、スープのお店も人気があるみたいだっただ。以前歩いていたら人が行列をしているのを見たから」
「! そういえばあそこ、何時も並んでいたな。確か、好きな焼きたてパンがセットになっていたはず。スープも日替わりで三種あって、毎日食べても飽きないように工夫をしているとか」
「そうなんだ、そこもいいな。あ、でもその隣には、手作りピザとバイキングがセットになったランチをやっているお店があったよね」
「ああ! あそこは美味しかった。ピザも5種類くらいあって、僕が食べたのは、トマトソースの基本のピザだな。やはりシンプルだからこそ実力が出る。凄く美味しかったな……」
「いいな、バイキングはどんなものがあったの?」
「サラダ類も数種類あったし、デザートだって、ケーキからゼリー、フルーツまで何でも食べ放題だった。だからすごくお値段の割にお得だったかな~、ちらっ」
「へ~、美味しそう、僕もそういった所に行きたいな~。ちらっ」
僕はフィオレと一緒に、ライを見た。
もう何匹も魔物を倒したし、そろそろ気分が晴れていないかなというのと、ライもお腹が空いていないのかなと思ったので。
そんな僕達をライは無言で見つめてから、
「……分かった。僕もお腹が空いたし、食事に行く」
「「わーい」」
僕とフィオレは、片手を打ち合わせて喜びの声をあげた。
けれどそこで、ぼこりと地面が盛り上がり、何かが顔を出す。
それは巨大な蜥蜴で、僕達をじっと見つめている。
これはライの手に余るかなと思って僕は、魔法を使おうとするけれど、そこでライが、
「ラ~~~~~~♪」
歌った。
こんな状況で何をやっているんですかと僕は思っていると、そこで……大きな蜥蜴の頬が赤くなった。
そんな大きな蜥蜴にライは、
「今日は見逃してくれると嬉しいな」
「……コクリ」
大きな蜥蜴が頷き、そのまま土の中に戻っていく。
もしかしたなら、ライは魅了の声を使って、魔物を操ったのかもしれないと僕は思ったけれど、フィオレがそばにいて、フィオレは何も言わないので僕は何も言わない。
そんな僕達にライは振り返り、
「さて、帰って、飯を食べようか」
そう僕達に、楽しそうに微笑んだのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
こうして街に戻ってきた僕達。
食事の時間をほんの少しずらしていた、正確には遅かったので行列は出来ていなかったけれど。
「お昼休みに入っちゃったみたいだね」
僕達はバイキングのお店にやってきて、お昼休みとかかげられた看板を見てそう呟く。
もうちょっと早ければ良かったなと思いつつ、他の店に向かう僕達。
けれどそこも休みで、どうにかちょっと長めにお昼をやっているお店を見つけてそこに入り込む。
ただ、もうお昼の時間も遅かったせいか、ランチメニューが幾つも売り切れていた。
残っていたのは二つ。
「ランチプレートAにしようかな。デザートに、“太陽の欠片のサクランボ”で作ったジュレが出てくる。あと好きなジャム……コンフィチュール? を選ぶらしい」
ジャムらしきものに何故か、コンフィチュールとふり仮名が振られている。
発音がおしゃれな感じなのでそうやって同じものを売り出す戦略……あるあると僕は思いながらも、風リンゴとシナモンの様な物が混ざったジャムに決める。
そこでフィオレとライが、
「僕はこの、酸味の強いキールの果実の物にしようかな。あ、ランチプレートはBかな」
「うーん、僕はランチプレートA、ジャムはこれかな」
「皆決まったんだ。クロヴィスはどれにする?」
それに、すでにメニューを見ていないクロヴィスに僕は聞くと、Bだと答える。
そしてすぐ様注文した。
店内は人がまばらだったので、すぐに料理が運ばれてくる。
こんな時間まで何も食べれなかった僕達は、とてもお腹がすいていたのですぐ様それを全て食べ上げてしまう。
鶏肉のソテーや、粉チーズの様な物がかかったサラダ、パエリアの様な物などが一皿に綺麗に盛られていて、目で見ていても綺麗だなという物ではあったけれど、それよりも食欲の方が勝ってしまったのだ。
けれど、それでも一番食べるのが早かったのはクロヴィスだった。
夢中で僕は食べていたはずなのに、よーしデザートだと思っていたら、クロヴィスはすでに全てを食べ終わっていた。
何だか悔しくてじっとクロヴィスを見ていると、
「どうしたんだ? 陽斗」
「クロヴィスが食べるのが早いから、ずるいと思っただけだ」
「そうか、それはつまり、そのデザートを俺に食べて欲しいという事か?」
「わ、渡さないからな! ぱくっ」
慌てて僕はジュレを一口で食べてしまう。
とろりと口の中で溶けるジュレに、果肉が舌の上で踊る。
凄く美味しいデザートだった。
幸せだなと僕が顔をほころばせているとそんな僕を見て、クロヴィスが、
「陽斗は幸せそうな顔をするな」
「うん、だってすごく美味しいし。幸せだよ」
「……ここにこれて良かったか?」
「うん、ここの料理は美味しいからまた来たいかも」
「そうか……良かった」
クロヴィスが、何か含みがあるように言う。
けれど僕は何でだろうと不思議に思っただけでそれ以上追及しない。
他の二人も特にその会話に疑問を持っていなさそうなので、僕の気のせいかと思う。
そんなこんなで僕達は自分の家にようやく戻ってきたのだけれど……。
家に戻ってきた僕は、いきなりリリスに抱きつかれ、
「も、もうこんな風になるくらいなら、陽斗を襲ってや……うにゃああ、らめぇえええ」
リリスが喘いだ。
周りを見回すと、部屋の奥の方でぶるぶる震える杖を押さえつけて、タマが何かやっている。
そんなタマから杖を取り返して、タマにあまり好きな子を苛めちゃいけないよと僕がタマに言うと、
「にゃーん」
そう、タマはとても良い笑顔で僕に鳴いたのだった。
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さて、そんなこんなでアンジェロが持ってきたアップルパイを切り分けて、それと一緒にお茶を頂く。
折角なので別の甘いデザート? の様なものを小さな入れ物に入れて用意してみた。
ずばり、この前の“星語りの花”から集めた香りの良い蜂蜜に、ハーブやナッツを入れた蜂蜜漬けである。
黄金色のナッツが沈んだ蜂蜜の小瓶から、僕がいた現実世界にあったような様々なナッツを取り出す。
特に僕がお気に入りなのは、マカデミアナッツ!
世界で一番固い殻に覆われたナッツだけれど、こちらの世界では“岩石ナッツ”と呼ばれていて、取りだすのがとても大変だ。
けれどそのナッツは、旨みがぎっしり詰まった芳醇なもので、そして割るのが大変なのでお値段も高い。
でもいいのだ、美味しのだから。
ただこれは作ってから1日程度しかまだ経っていないのが僕には気にかかる。
現実世界では一週間置いても、蜂蜜を絡めたようにしかならず、一ヶ月置くとナッツに少し蜂蜜が入り込んで、ぐんと甘くて美味しくなる。
どうだろうと思って、作った人の特権、“味見”をする。
凄く美味しい、程よくナッツに蜂蜜が染みている。
これは紅茶にもヨーグルトにもパンにも合いそう、そう機嫌良く僕は小皿にナッツを移して持っていく。
それを全員に渡してから、今度は貰ったアップルパイを切る。
網目状に付けられたパイの下には、黄金色のシナモンと蜂蜜、バターの香りがする柔らかくてジューシーなリンゴがぎっしりと詰まっている。
美味しそうなアップルパイだなと思いながら切り分けて全員の前に置き、紅茶を配る。
タマの分も。
リリスには、ナッツとハーブの香りが移った蜂蜜を、妖精用の小さなカップに入れて渡すと、
「わー、凄くいい香りがする。花の香りとそれにハーブも……美味しい!」
「良かった、気にいってもらえて」
「よし、やっぱり陽斗は僕のお嫁さんに……うにゃ~!」
そこでリリスが悲鳴をあげた。
見るとすぐ傍でタマがまた杖を舐めている。しかも、
「なんだかいい花の香りがするにゃ~、ぺろぺろ」
「もしかしてリリスが食べた味に、この杖はなるのかな?」
「ふえええっ、もう、冷静に言っていないでっ、助けてぇえええ」
悲鳴を上げるリリスに僕は、慌ててタマじゃら杖を取り上げて、
「タマ、ナッツはここにあるでしょう?」
「……にゃーん、仕方がないのでこれで我慢するにゃ」
そうタマはナッツやアップルパイを食べて、嬉しそうだ。
ちなみに今、タマは人型になっているが誰も気づいていないようだ。
やっぱりこのタマは……そう僕が思っていると、そこでフィオレが、
「このナッツの蜂蜜漬け、凄く美味しい。後でレシピを教えてくれ。……以前、売っている物を購入していたが、ここには売っていないからな。それにこの微かな香りが良い」
「うん、でもこの蜂蜜の影響もあるだろうから、後で幾つかあげるよ」
「ありがとう陽斗」
そこでライが、
「僕もその蜂蜜を分けてもらえるかな。それとレシピ教えて欲しい、美味しいから」
「うん、良いよ。じゃあ、あとでメモ書きしておくね」
そう言いながらも今度は、フィオレはアップルパイに口を付ける。
アンジェロが持ってきたものなので睨みつけて、一口。
「……僕の好きな味付けだ」
「そうなんだ、良かったね。アンジェロはフィオレが大事なんだね」
「……」
沈黙しながらも黙々とフィオレがパイを口にする。
それを見ながら僕達も口にする。
何となくそこで僕がクロヴィスの方を見ると、機嫌が悪そうに見える。
なのでじっと僕が見ていると、
「なんだ?」
「機嫌が悪そうだからどうしてかなと思って」
「別に……さて、この後はまた戦闘の依頼を探しに行くか」
「行かせて堪るものかぁああああ」
そこで、また新しい依頼を増やそうとしやがったクロヴィスの服を、僕は一生懸命握りしめる。
そんな僕を楽しそうにクロヴィスは見ていたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そしてどうにか僕はクロヴィスを引きとめた。
必死になって、クロヴィスの服を引っ張ったりして逃がさないようにした。
そしておやつの時間が終わった後、食器を片づけてから、
「さて、今日こそは、この“星語りの花”を飾って、良い夢を見るんだ」
そう僕は言うと、そこでクロヴィスは何か思いだしたかのように、
「俺の部屋にもそれを飾ってもらえるか?」
「いいけれど、クロヴィスにしては珍しいね」
「ああ、良い夢がが見れるらしいからな」
クロヴィスも夢なんて見るんだと僕は思っていると、フィオレが僕を見てクロヴィスを見て、ふむと頷いていた。
何を頷いているのかなと僕が思っているとそこでライが、楽しそうに僕に、
「“星語りの花”の香りは、心の中で気になっている相手がいると、その相手とのエッチな夢を見るらしいよ」
「へ~、そうなんだ。でもそんな相手がいない僕には、ただ良い夢が見えるだけなんでしょう?」
確かゲーム内ではそうだったはずだと僕が思っていると、そこでライはちらりとクロヴィスを見てから僕に、
「そうなんだ。でも少しでも、そう、無意識でも気になる相手がいたらそれが全部出てくるから、それは楽しみかな。明日の朝は、陽斗の本音トークで盛り上がろうか」
「何だそれ。そんなの僕は無いし。そもそもライはあの王子さ……いえ、何でもありません」
「賢明だね。次にあいつの名前を口にしたら……どうしようか。陽斗に着て欲しい女の子の服があるけれど、その日一日は僕の着せ替え人形になってもらおうかな」
「そ、そんな……って、タマにリリスは僕を半眼でじっと見てどうしたの?」
そこで見上げるように二人は僕を見ている。
ちなみにリリスは空中に浮かびながら僕を見上げている。
何で僕はこんな風な目で見られないといけないんだと僕が思っていると、
「僕が陽斗の一番の杖なのに……浮気者」
「僕が陽斗の一番のペットなのに……浮気者」
「あー、うん、そうだねでもエロい夢は見たくないし、二人は僕にとって一番の杖とペットだよ」
そう僕が言うと、抱きついてくるリリスとタマ。
懐かれるのは嫌じゃないんだよね、二人とも可愛いしと思っているとそこでフィオレが、
「僕は別の部屋で寝ようか。……夢にあいつが出てきても嫌だからな」
「ほう、そうかそうか、フィオレ」
「なんだ? 陽斗」
「フィオレ、本当は怖いんでしょう、アンジェロが夢の中に出てくるのが」
「べ、別に怖くないし。ただ夢に出てきたたら嫌だなって……」
「わーい、怖いんだ。フィオレ、怖いんだ―」
「だから怖くないと言っているだろう! いいだろう、そこまで言うなら一緒に寝てやる!」
そう答えた痺れを切らした様なフィオレに、僕は上手く行ったと思う。
どんな夢を見るにせよ、夢の中できっとフィオレはアンジェロに出会うだろう。
そうすれば、少しは懐かしくなって、何があったのかは分からないけれどアンジェロの元に戻る気になるかもしれない。
仲直りの切っ掛けになればいいなと思って、僕はそう思う。
思った所で、僕は新しい花瓶を一つ取り出して、“星語りの花”を一本、水を入れてからさしてクロヴィスに渡す。
「ああ、ありがとう、これでいい夢が見れそうだ」
「そうなんだ。クロヴィスには好きな人がいるんだ」
「もちろんだ」
そうクロヴィスが一瞬凄く優しい眼差しで僕を見た気がした。
でも僕のはずがなくて、そしてゲーム内では誰だったっけと思って、分からなくて、でも僕の胸がチクリと痛む。
けれど何で僕は自分がそんな感情を抱いたのか分からなくて、困惑してしまう。
とはいえ夢の中だからそれはその人の自由だと思って、それ以上は……色々な意味でもやもやとした嫌なものは残ったけれど、夕食をたべて、その日は昨日と同じように僕とライとフィオレで、一つのベッドで眠ったのだった。




