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第二の危険なフラグをへし折りました

 と、いうわけで、いってらっしゃーいと手を振るライに家のお留守番を頼んで歩きだす僕達。

 そういえば今日は何処に行くのか聞いていなかったと僕は思い出して、


「クロヴィス、今日は何処に行くの?」

「……ウィルワードの住居周辺で、スライム狩りだ。陽斗、逃げようとするな」


 さっと家に引き返そうとした僕の襟首をクロヴィスが掴んだ。

 けれどその程度で諦めきれず、僕はじたばたしながらクロヴィスの手から何とか逃げようて家に帰ろうとする。

 だが今度は右腕までもフィオレに掴まれてしまう。

 しかもフィオレはそんな僕を見て深々と溜息をついて、


「全く、陽斗は魔法使いとしての自覚が足りない」

「う、うぐっ、で、でもスライムじゃないか!」

「あんな雑魚に怯えてどうする」

「服が溶かされるじゃないか!」


 それを聞いたフィオレが、再び深々と溜息をついた。


「……やられる前にあいつらを倒せばいいだろう」

「あ、あれは何処からともなくやってきて、僕の服を溶かすんだ! 雑魚なんて言えない、凶悪な魔物なんだ!」

「……仕方がない。この僕が直々に、スライムと戦ってやる。そのやり方を見て陽斗は覚える様に」

「! ありがとうフィオレ、これでもしかして僕、服が溶かされなくなるかも!?」


 僕は新たな希望を手にして、フィオレの手を握る。

 自信ありげなフィオレ。

 そしてクロヴィスは……機嫌悪そうというよりは複雑な顔をしているが、そこで先ほどぴょんととび跳ねて僕の肩に乗っかったタマが、


「ここで僕が予言する、フィオレはスライムに服を溶かされるのにゃー、にゃにゃ!」

「この駄目猫が……そんな風に僕を馬鹿にしていられるのも今のうちだからな。べ、別に陽斗が友達だから、やり方を教えてあげようなんて思っていないんだからな!」


 そういいながらフィオレは、タマの顎の下を撫ぜて、気持ちよかろう、気持ちよかろうと生意気なタマを鳴かせている。

 ただこれを見ていると、普通にタマと会話しているのに、フィオレは何の疑問も感じていないんだなと僕は思う。

 本当にこのタマという猫は一体何なんだろうという疑問が僕の中に湧いてくるけれど、危害を加えてくるわけでもないし、まだ詮索してもしょうがないなと思いながら、僕はフィオレに、


「じゃあ、スライムの倒し方を教えてね、フィオレ」

「任せておけ!」


 そんな自信たっぷりなフィオレ。

 そして道中もフィオレが張りきっているので、僕はあまり戦わずに済んだのはとても良かったと思う。

 あとは、憎き宿敵、服を溶かすスライム達を退治していけばいいのだ。


 これで完全に勝てる、余裕たっぷりと僕が思っていた。その時までは。

 だが怪しいキノコが胞子を飛ばし、その胞子が煌めくじめじめとしたその森の中で、先頭を歩いていたフィオレは真っ先にスライムに襲いかかられた。

 それはもう、抵抗するまでもなく。


「や、やめ、這うな、服の中に入ってくるな、やめっ、服溶かすな、やぁあああん、らめぇええ」


 余裕たっぷりだったフィオレは、スライムに魔法を使う前に襲われて、服を溶かされる。

 しかも魔力を吸われているのは確かだけれど、フィオレ自体が敏感らしくプルプル震えて抵抗できないようだ。

 仕方がないので、僕がそのスライムを倒しました。


 クロヴィスはやる気が無さそうだったのと、タマは傍にあるキノコを叩いて、胞子を出して遊んでいたので。

 そのスライムを倒した後フィオレが絶望的な表情で呟いていた。


「そういえばスライムは、いつもアンジェロが倒していたきがする……」

「アンジェロは、フィオレを守ってくれていたんだよ、気付かない所でね。いい仲間じゃん」

「……」


 そんな僕の言葉にフィオレが沈黙した。

 だがそんな風に感傷に浸っている暇もなく、そこで新たにスライムが2匹ほど現れたのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 ちなみに、服を溶かされていたフィオレは、そのために戦闘が続けられない。

 なので嫌だけれど僕が相手をする……のも嫌だったので、


「クロヴィス、あの赤と緑色っぽい透明な粘性のある液体の魔物をお任せしたいんだけれど」

「スライムくらい、自分一人で倒せるようになれ」

「で、でもあいつら僕を見た瞬間けケダモノの様に襲いかかってきて服を溶かしに来るじゃないか!」

「あー、陽斗は愛されているな、スライムに」

「そんな物に愛されてたまるか! クロヴィスだってスライムに服を溶かされてみれば、絶対に僕の気持ちが分かるはずだ!」

「……俺の場合は、スライムが自分から逃げて行くから、よく分からないな」

「なん、だと……」


 クロヴィスの衝撃発言に僕は目を大きく見開く。

 だってそれって、クロヴィスは今まで僕みたいに襲われて服を溶かされた事がないとういう事に他ならない。

 その衝撃の事実に僕は、


「ク、クロヴィスばっかりずるい! 何時だってクロヴィスばかりいい思いをしてる!」

「……言わない方が良かったか。それで、早く倒してこい。捕まってアレな目にあったら助けてやるから」

「こ、この……いいだろう、一味違った僕を見せてやるんだからな!」


 と、涙目で僕はクロヴィスに告げて戦闘を開始する。

 とりあえずは防御の結界……風系の魔法で壁を作る。

 そんな僕の隣をかけて行く影が一つ。


「にゃーん、良いおもちゃが手に入ったぞ~」


 タマが真っ先に赤いほうのスライムに接近する。

 よし、このまま一匹はタマに相手をしていてもらおうと僕は決めた。

 そのタマがスライムをぺちんぺちん猫パンチで叩いて遊んでいるのに興味がいったのか、リリスがふわふわ飛んでいって……スライムに襲われた。


「な、何で僕が……僕はただの妖精です、だから放して下さい、やらぁあああ」


 リリスが悲鳴をあげてじたばたしている。

 そんなリリスを見てタマは、耳をぴくぴく動かしながら、


「リリスがスライムに襲われてても、可愛いにゃー。ぺろぺろ」

「ちょっと、僕を舐めてどうするんですか!? 陽斗、助けてぇええ」

「ごめん、今ちょっと無理」


 薄情者とリリスが叫んでいるが僕だって必死なのだ。

 まずはこの防壁を突破される前に、簡単な雷の魔法を使おうと決める。

 このスライムは水系の魔物なので、電気系の魔法がとても良く効いたはずだ。


 選択画面を呼び出して、どれにしようかと決めて触れる。

 掲げた杖の先に小さな魔法陣が浮かび上がり、バチバチと白い光を放ちながら電気が貯まっていき、そして、


「“天使の雷 ( エンジェル・サンダ―)”」


 その言葉と共に防御の結界が壊れて、一筋の雷が飛んでいく。

 それが緑色のスライムに当り、瞬時に倒されて、緑色のガラスの破片のようなものになる。

 スライムの魔力の結晶の欠片である。


 実は用途はあまりない。

 でも依頼の証明にはなるので、それを一つ拾い上げて、それからタマに、


「タマー、次に行くから、早くそれを倒しちゃって」

「にゃーん」


 タマが鳴いて返事をする。

 すでにもぞもぞされて服を溶かされたリリスがぐったりしていたりする。

 そうしてタマはスライムを倒して、二匹ほどスライムを倒したあかしを僕は手に入れたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 そんなこんなで、スライムを退治しに頑張った僕。

 しかし、このスライムの量は、


「この前来た時はこんなんじゃなかったのに、何でこんなにスライムがいるんだろう」


 以前あの、地下に封じられていたらしい塔に向かった時は、こんなにスライムはいなかった。

 なのにすでに僕は二回、フィオレは回着替える羽目になっている。

 油断しているから、それだけを聞いたならあそう答える人もいると思う。だが、


「何で警戒しているのに、僕の死角を狙ったかのような場所から襲ってくるんだ!」

「それだけ、陽斗の魔力がスライムには美味しそうなんじゃないのか?」

「そんな!」


 クロヴィスが適当な推測を僕にぶつけてくる。

 そんなスライム好みの魔力であってたまるかとか、そうなってくると僕が触手に襲われるのも実は彼らにとって僕の魔力が美味しそうに見えたんじゃないのかとか、悶々と悩んで僕は気づいた。

 そういえば石切り場で僕がフィオレと一緒に攫われて、現在フィオレがスライムにも襲われている。


 つまり、僕と同時にフィオレもそのスライム達に美味しそうに見えているのだ。

 ならばと僕は考えて、


「フィオレ」

「何だ?」

「僕より先に歩いて、スライムの囮になってくれないかな」

「……」

「絶対助けるから、ね?」


 そうすればフィオレが襲われている所で僕が助ければ良いだけなのだ。

 僕はクロヴィスみたいにじっと観察したりなんかしないのだ!

 これは素敵な案だと僕は思う。が、


「……だったら陽斗が囮になってくれてもいいだろう? 何で僕がしないといけないんだ?」

「だ、だって僕スライムに襲われるの嫌だし。フィオレはスライムが僕みたいに怖くないみたいだから、多少襲われても平気なのかなと」

「! そんなわけない! あの冷たくてぶよぶよした物に体を這われて感じる所ばかりに吸いついて……魔力を吸いやすい場所は感じやすい場所とはいえ、あれはない!」


 やはり魔力を吸いやすい場所が、僕達の体で特に感じやすい場所であったらしい。

 そこでフィオレが僕を見て、


「陽斗、怠けようとしているな?」

「え、いえ、そういうわけでは……」

「だから僕を囮にしようと言い出したのか?」

「い、いえ、だって、フィオレのほうがすぐに次々スライムに臆すること無く戦ったりできているし」

「別にちょっと感じさせられるくらいじゃないか」

「だ、だったらスライムが怖くないフィオレが囮になってくれてもいいじゃん!」

「そういうわけではないんだ! そもそもスライム程度の雑魚に怯えるなど魔法使いの風上にも置けない。やはり陽斗には囮になってもらってそれで……」


 などとフィオレが言い出した所で、少し離れた場所にいたクロヴィスが呆れたように僕達に、


「おい、そっちに大きなスライムが行ったぞ」

「「え`」」


 そこでベチャッと僕達に向かって木の上からダイブしてくるスライムを目撃して、そして、


「やらぁあああんんっ」

「ぁああっ、やめ、だめぇええ」


 と、僕とフィオレは二人して喘ぐ羽目になり、そんな僕達はクロヴィスにすぐに助けだされた。

 そのあまりにも直ぐな様子に僕はクロヴィスに、


「フィオレと一緒だったらすぐに助けてくれるんだな?」

「……フィオレが陽斗に変な気を起こしたら困るからな」

「でも、すぐに助けてくれた……これはもう、フィオレと一緒に戦闘の依頼を受けるしか無い!」


 そんな前向きな僕に、クロヴィスの機嫌が悪くなったのはいいとしてそこで、


「にゃーん、こっちこっち」

「ちょ、タマ!」


 そこでタマが再び何処かに走って行ってしまう。

 そしてその場所が何処なのか僕は見当がついてしまったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 そのタマが向かっていったそこには、“偶然”に遭遇するはずの物だ。

 とはいえ、ゲーム内では重要なイベントではある。

 つまりあの、石板が存在している場所だ。


 何だか本当に主人公としての道を歩かされている気がして、嫌な気持ちになる。

 やはり町に戻って、家に引きこもりながら可愛い女の子とのイベントを模索すべきではないのか?

 よし、今度こそそうしよう、そう僕は決心してから走っていったタマを追いかけて行く。


 そういえばリリスがいないなと思いながら、杖は僕の手元にあるから大丈夫だろうと僕はすぐに思考を切り替える。

 そして、やってきた先には小さな石作りの建物がある。

 古い衣装の石の建物だが、これは実の所入口にしか過ぎない。


 古い遺跡なので、人々に忘れ去られ、森にのまれた謎の遺跡なのだ。

 それに関するもっと詳しい説明は、今は置いておくとして、そんな遺跡の前にタマがいる。

 口にはぐったりしたリリスを咥えている。


 それを器用に自分の背に乗せながらタマは、地面を自分の前足で叩いて、


「ここ掘れ、にゃんにゃん」

「……何かが間違っている気がしたけれど、タマ、そこは掘れないよ?」

「掘るんだにゃん」


 再度タマはその地面を叩く。

 仕方がない、お猫様の言う通りと、僕は小さなスコップを取り出した。

 これも魔法の品で、土がプリンの様に柔らかくすくえるのである。


 それを取り出して掘っていくと何かが出てきた。

 石板の破片だ。

 何故こんな場所にと僕が思っていると、それを見たフィオレが、


「“深淵の鍵を歌う石板”じゃないか。だがあれは海の向こうの博物館に飾られていたはず?」

「じゃあ違うんじゃないかな」


 そう僕はフィオレに答えた。

 正確にはそうであって欲しいという僕の気持ちだ。

 けれどフィオレがじっと石板を見て、


「だが、魔力は感じる。……危険だからあまり触れない方が良いんじゃないのか?」


 僕に忠告してくれている。

 けれどこれを集めておいた方が、もしかしたら元の世界に戻るとっかかりになるかもしれないと思った僕は、


「何も知らない一般の人が拾うよりは、僕が持っていた方が対処できると思うし」

「……素晴らしい。それでこそ魔法使いだ」


 そう告げるとフィオレが感動したように呟いた。

 どうしよう、意外に簡単に誤魔化せてしまったと僕は思いながらその石板をしまい、


「さて、帰ろうか」


 僕はその遺跡にはいるイベントフラグを折ろうとした。

 けれど、そこで僕の襟首が何者かに掴まれる。

 振り返るとそこにはクロヴィスが立っていて、


「何を逃げようとしているんだ? 陽斗」

「だ、だってこんな未知の遺跡なんて……」

「誰にも荒らされていないからこそいい物があるかもしれない。いくぞ」

「いやぁあああああっ」


 僕は逃走をしようとしたけれど、そのままクロヴィスに遺跡の中に連れ込まれてしまう。

 そんな僕を追うようにフィオレやタマ達が追いかけてくるけれど、そこで。


「あれ?」


 暗い遺跡の中で地面が青く輝く。

 それが魔法陣だと僕は気づいた所で……僕とクロヴィスは、何処かへと飛ばされてしまったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 僕は完全に忘れていた。

 ここは確かに古い遺跡だけれど、ある一定のパーティでやってくると別の場所にランダムで転送されてしまうのだ。

 青白い魔法陣がきらきらと光る中僕は、失敗したと思った。


 そしてふっと世界が暗闇に包まれたかと思えば、すぐに明るい場所にやってくる。

 そこは魔法の明かりに照らされた特別な場所のようだった。

 ゲーム内では確か、何もない、簡素な部屋に飛ばされたような気がする。


 そういった場所からゲーム内では散策を始めたのだけれど、いきなり僕達が飛ばされたのは、数多くの彫刻に彩られ、繊細な絵画が壁面に描かれた場所だった。

 神話も含めた数々の話しが絵で表されている。

 文字を読めない人が分かる様に、絵で示されている。


 その中には時折、クロヴィスに似た人物が描かれているが、良くあるその当時の流行を取り入れたものというか、抽象的な絵であるためにクロヴィスか描かれていても良く分からない。

 そしてどうして僕が分かるかといえば、ラスボス戦辺りで説明されたからだ。

 もちろんゲームの最中では、この辺りのイラストが拡大されて、主人公キャラが『これって何だろう……』みたいに疑問を持つシーンが提示されている。


 その時点で重要な伏線なのだろうなと分かるけれど、気付いた時点でいきなりここでラスボス戦になりそうな空気を読んだ僕は、特に気にも留めないようなふりをして周りを見回す。

 ここの部屋は“特別”な部屋なので、敵の魔物は出てこない。

 そんなわけで気楽に周りを眺められる僕だけれど、ゲーム画面では綺麗なグラフィックだと思っていたけれど、


「実際にこの目で見ると凄い……この鳥のような彫刻も、本当に生きて動いているみたい。うわー……」

「陽斗、下手に触るな。何が起こるか分からないぞ?」

「う、うん……でも古いのに、“綺麗”な遺跡だね」


 周りを見回しながら僕はそう呟く。

 こうやって直に見ると、芸術品といったものを間近で見たような感覚になる。

 現実にそうなのだろう。


 確かここはゲーム内では、昔、“古い王国”のあった場所で、ここは王の間だったはずだ。

 その種族が何処に行ってしまったかといえば、ゲーム内では謎だったけれど、その内知る事になるあの、謎の種族が住まう天空の国の人達だ。

 もっとより人間からは遠く安全な場所を求めて旅立った結果、彼らは安住の地を見つけたのだ。


 話を戻すとして、そんなわけでここは“深淵の魔族”と関わりが深い。

 それによい、彼らの武器やアイテムもここでは手に入ったはずだ。

 この王の間には特に重要なアイテムがあって、それは王の玉座の上に乗っているはずだったけれど……。


 遠目で見ても、そのアイテムはなさそうだ。

 魔力を凄く使うのだけれど、瀕死の人間すらも元気になるまで蘇らせられるアイテムで、特にゲーム内の主人公の魔力は膨大だったので幾らでも回復できた。

 しかも広範囲に及ぶので、集団回復に便利なアイテムなのだが……。


「そもそも僕、すでに持っているんじゃないかな」

「何がだ? 陽斗」

「え? うんん、凄いアイテムがありそうだけれど、僕、色々持っているから僕の持っていないアイテムがあるかなって」

「なるほど。……きっとあるだろうから散策をしようか」


 ここであると答えると、僕が戦闘に行くだろうと踏んだのだろうクロヴィスがそう答える。

 そしてクロヴィスと部屋を探しまわる。

 王の間なので防御が高いので魔物が入ってこれないから、遭遇戦にならずに散策できる。


 そこで再び僕は石板の欠片を手に入れたのはいいとして。


「廃墟だから、特に良いアイテムはなさそうだね」

「そうだな」

「次の部屋に行こうよ、クロヴィス。……クロヴィス?」


 そこでクロヴィスは壁面に描かれた絵を見ている。

 そこにはクロヴィスらしき人々と、それを祭る人々が描かれている。

 何を思ったのかその絵をじっと見ているクロヴィス。


 無表情なその横顔はどこか寂しげだ。

 だから、寂しくないように僕はクロヴィスの手を握る。


「大丈夫? クロヴィス?」


 自然に出てしまった行動だけれど、それにクロヴィスは大きく目を見開いて僕を見て、そして、


「……陽斗は、この世界を気に入っているか?」


 そう僕に問いかけたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 突然のクロヴィスの問いかけに僕は、首をかしげた。

 ここではどちらを答えるのが正解だろう。

 ゲーム内の設定から考えると……嫌いと言ったらそれはそれで、ラスボス戦になりそうだ。


 現在ここには僕とクロヴィスのみ。

 一緒に来ていたフィオレと猫のタマ、そして杖の妖精のリリスが……いない。

 恐らくはあちらに飛ばされていたのだろう、気絶していたしと僕が思いつつも、彼らの助けがあったとしてこのクロヴィスに勝てるだろうかと自問してみる。


 答えは否だ。

 そもそも大量の回復薬やら装備やらで防御力、攻撃力を高めて、しかも経験値をためて強くなっているのだ。

 それで何とかゲームには勝てた。


 けれど今の状況では勝てる見込みがほぼないだろう。

 だから嫌いと答える選択肢は無い。

 では好きといった場合どうなるだろう。


 そもそもこの世界の住人ではない僕がここに連れてこられた。

 なのにこの世界が好きだといったなら……その“何者”かに、では永遠にこの世界に住むがよい、みたいな展開になる可能性だってある。

 となると僕が答えるべき答えは、


「もう少しこの世界の事を知らないと無理かな」


 秘技、第三の選択しという名の先送り!

 頑張れ、未来の自分!

 けれど僕が手を握ったクロヴィスは、僕を見て驚いたように目を瞬かせて、すぐにおかしそうに笑った。


「ははは、陽斗らしい答えだな」

「なんだその、陽斗らしい答えって」


 馬鹿にされたような気がして僕はクロヴィスに言い返すと、握った手を逆に握り返されて、そのままクロヴィスに抱き寄せられる。

 どうしたんだろうと僕が思っていると、そのままクロヴィスは僕の体を抱きしめて、僕の耳元で、


「それはつまり、陽斗はこの世界が気に入っている、そういうことだろう?」

「……別に気に入らないわけではないよ。友達だっているし、クロヴィスだっているし」


 フィオレやライもいるし、飼い猫のタマに、妖精のリリスもいる。

 ここで出会ったばかりの人達……僕にとってはそうだけれど、リリスは違うっぽい? けれど、それでも好意的な感情があるのは確かだ。

 それに何だかんだでクロヴィスは僕のことを気にしてくれているし、守ろうとしてくれている。


 時々迷惑な気もするけれど、その厚意は純粋に僕は嬉しい。

 そう思いながら僕がそう答えるとクロヴィスは少し黙ってから僕の耳元で、


「陽斗にとっては、俺は、他の人達と同じなのか」

「うん、なんで聞くのか分からないよ?」

「……ふうっ」

「うぎゃああああ」


 そこで耳にふうっと息を吹きかけられて、僕は悲鳴を上げた。

 突然の意地悪な行為に、ようやく僕から体を放したクロヴィスを睨みつけて僕は、


「な、何するんだ、いきなり!」

「いや、何となくイラッとしたから」

「だからってこんなことする必要ないじゃん! この……クロヴィスなんてもう知らない!」


 怒って僕は走りだす。

 そこで僕は見つけてしまった。

 すぐ側の柱の陰に転がる、ゲーム内では玉座に乗っていたはずの、3つのハートが重なったような彫刻を。


 どうしよう、これを拾っておこうか迷う僕。

 そこでクロヴィスが覗きこんできて、


「何だ魔法道具か?」

「う、うん……一応拾っておくね」


 重要なアイテムが二つになった気がしたけれど、そこは深く考えないようにしようと思って僕はそのアイテムを閉まったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 陽斗がさりげなく危険なフラグを回避している頃。

 フィオレは怒っていた。


「全く、陽斗は。魔法使いとあろうものが、あんな罠に引っ掛かって何処かに飛ばされるとは」

「僕達も人の事は言えないかも、にゃーん」

「……しかもこの、駄目猫と一緒だし」

「フィオレとは一緒にしないでください、フィオレとは僕は違うのです」

「何がだ! まったく、初め何もない部屋に飛ばされた時はどうしようかと思った。まあ、この駄目猫が“偶然”猫パンチをした場所が鍵だったようですぐに開いたが」

「……だから、フィオレは魔法使いとしてまだまだなのにゃー」

「何だとこの駄目猫」


 怒ったように言い返してくるフィオレに、タマはやれやれと思う。

 ここは、“深淵の魔族”所縁の、古い古い遺跡なのだ。

 だからタマはどうすればここからでれるのかも分かっているし、この遺跡の動かし方も多少は分かる。


 なので閉じ込められたと、仕方がない、壁を壊すかと魔法を放とうとした短絡的なフィオレをしり目に、ある壁を三回叩き、ここが一番魔力を通しやすいなと思った場所で魔力を込めて、


「にゃーん」


 と鳴いたのだ。

 魔力と共に、“深淵の魔族”であり“貴族”という特別な血統の魔力によって扉を開いたのだ。

 そもそも古い遺跡なのにそうやってフィオレが衝撃を与えればますます狂ってしまい、そこから出られなくなってしまうかもしれないのにと、タマはこの思いっきりのいい魔法使いを、所詮人間だなと見下した。

 そんなタマの心の中など全く気づかずフィオレは、


「さて、行こうか。でも……一人でなくてよかった。例え猫でもね」

「……こんなふうに普段はツンデレなのにたまに素直な感じなのは憎めないので、見捨てられないのですにゃ―」

「おい、駄目猫。今僕のことをツンデレといったか」

「気のせいです、にゃー」


 適当に流したタマだけれど、そこで背に乗せていた妖精のリリスがやけに大人しいと気づく。

 なので背中に器用に手を伸ばしたタマが、


「リリス、どうしたんですかにゃ?」

「……タマは本当に猫なのかな」

「にゃーん」


 それにタマは、猫のように鳴いた。

 実際に猫ではあるけれど、所謂 (いわゆる)、ただの愛玩動物である“猫”とはタマは違う。

 けれど……気づくはずがないのだ。


 だったタマは、そういった認識になるように、人間も含めたその他全ての意識を“操作”しているのだから。

 時折人型に戻っても誰も気にしないのはそのせいだ。

 それを考えるとあの“陽斗”は素晴らしいとタマは思っている。


 ただ、どういうわけかタマが人型をとってもそういうものだと認識しているようだ。

 この世界では“当たり前”の知識、常識というものが陽斗には欠如している。

 それが陽斗の“異質”さに起因しているのかもしれないと思ったが……この前聞()い(・)て(・)納得した。


 同時に気づいていたあの、クロヴィスという奇妙な男の存在が何なのかもタマは知った。

 とはいえ“陽斗”が気に入っていたタマだけれど最近もう1つ気になっている生き物がいる。

 それがこの妖精のリリスだ。


 甘くて美味しいし感度もいいし可愛いし、陽斗の次に好きだとタマは思う。

 それにきっと魔法の力も含めて、このフィオレよりもリリスが上だよなとタマは思うのだ。

 だってタマの異常に気づいているからだ。


 ただ、フィオレは今後の伸びしろに期待かもしれない。

 過保護な従者から離れれば少しは成長するのかも、にゃーんとタマは思って鳴く。

 そんなタマにフィオレがリリスに、


「これはただの駄目猫だ。だって獣人だからな」

「にゃ?」

「……冗談だ」


 笑うフィオレにタマは目を瞬かせる。

 今のはリリスに言った言葉だけれど、その瞳はタマを見つめていた気がする。

 突然過ぎて驚いたとタマは思うけれど、フィオレは相変わらずの様子だ。

 侮れない相手なのかも、陽斗と仲良くなるだけのことはあるかとタマは思って、フィオレとともに歩き始めたのだった。


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