つまりそれは、個性なのでした
森にやってきた僕は、真っ先に警戒するように周りを見回した。
草が生い茂っている藪はあるが、それでも僕は細かく観察する。
次に木の枝などにそういったものは乗っていないか、幹に巻き付いていないかを僕はつぶさに確認し、ようやく安堵の息を洩らした。
「よし、この辺りには触手がいなさそうだ」
「……触手なんて、陽斗の力があればどうにでもなるような気がするけれどな」
嘆息するように、ライが言うのを聞きながら僕は、目をかっと開いて、
「そんなに触手が甘い物だと思うなよ! 奴らは、そう奴らは何時だって僕の服を溶かして、肌を這いまわって僕を散々喘がせるんだ!」
「……陽斗の魔力は、魔物達にとってよっぽど甘くて美味しいんだね」
「! 僕のせいなの!」
「うん、普通はそこまで魔物にされないし。あ、そういえば前に来た時に聞いたけれど、ここって“触手”の巣があるんだっけ」
何故か詳しいライに僕は警戒する。
まさかクロヴィスの様に僕の触手をけしかける気なのだろうか。
そう僕は警戒していると、
「場所は分かる?」
「い、行かないからね!」
「場所さえ教えてもらえれば自分で行くから良いよ」
「……え?」
僕は今、不思議な言葉を聞いた気がした。
この黒髪の美少年は、何を血迷ったのかと僕は思ってライを見上げると、ライは目を瞬かせて、
「ああそうか、陽斗は“人間”だったっけ。うん、“人間”にしか見えないよね。だから触手に襲われるんだ」
「? どういう意味?」
「僕は魔物の血が混ざっているから、同じ魔物なんだ。だから、服も溶かされないし、魔力を貰うついでに全身マッサージをしてもらえてすごく気持ちが良いんだよ」
「そ、そんな……」
あのねちょねちょでいやらしい触手が、魔物側ではマッサージ機で、とても気持ちが良いらしい。
なんて羨ましいんだ、そう僕が思っているとライが、
「クロヴィスはその触手の巣穴の場所を知ってるかな?」
「そこの細い道をまっすぐ行けばいい。ついでにこの駄目猫も連れて行け」
そう言って僕の肩に乗ってぐてーとしていた猫のタマの首根っこを掴む。
それに猫のタマが、
「にゃー、僕は触手は嫌いなのですにゃー、にゃにゃー」
「だそうですので無理かもしれませんね。でも今日は戦闘の様子をちょっと見ていたいので、黙ってついていく事にします」
微笑むライに、クロヴィスが不機嫌な感じになる。
邪魔が増えたといったような感じだ。
そう思っている所で、討伐対象のネズミの様な魔物が現れたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
異常発生したらしいネズミの魔物を倒した僕。
時々クロヴィスは手伝ってくれたが、ほとんどが僕一人で倒した。
「クロヴィス、僕はもう疲れたから次はクロヴィス一人で頑張って……」
「あと二匹だ。頑張ろうな」
微笑むクロヴィスは暗に、これまで通り僕が主導の戦闘をさせる気のようだった。
嘆きながら次々と倒していく僕。
それにライとタマ、リリスがおおー、と歓声を上げる。
歓声を上げるだけで手伝ってくれない。
何でも僕を強くするのに協力するらしい。
なので僕はクロヴィスとの共同作業という、僕ばかりが戦う羽目に。
「もうちょっと甘やかしてくれてもいいじゃん」
「甘やかす? いいぞ、その代り何を要求してやろうか」
「うう……引き籠ってやる、こんな所に居られるか! って、うわぁあああ、また、触手がぁああ」
意地悪なクロヴィスに僕は言い返していると、そこで緑色の蔓っぽい触手に足を掴まれる。
そして、ようやくちょっとは仕事をする気になったタマが、その蔓を切ってくれた。
僕は思わず猫のタマを抱きしめる。
「ありがとー、僕にはタマだけだけだよー」
「にゃーん」
どこか誇らしげなタマ。
それにクロヴィスは深々と嘆息してから、
「あの程度の弱い魔物に捕まってどうするんだ」
「だ、だって……」
「まったく、仕方がないからもう少し戦闘慣れしないとな」
その時のクロヴィスの頬笑みに、僕は絶望を感じる。
そうこうしている内に、僕達は目的の花畑についたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
その花畑は森の一角にあった。
木々が生い茂る中、唐突に開けた場所にやってくる。
空から降ってくる太陽の光が、先ほどよりも熱く感じられる。
その光の下で、薄い紫色の五角形の花が咲き乱れている。
また、花々の間に細い小川が幾筋も流れていた。
タマも嬉しそうにその花の香りをかいだり、前足でツンツンしている。
けれどそれよりも、
「凄くいい香り。僕も自分用に幾らか貰っていこう」
「そうだね、僕も貰って行こう。確かこの匂いの香水、買うと高いんだ」
ライがそういうのを聞いて、そういえば香水にすると高く売れたから、ゲーム内ではそこそこ作ったなと思いだす。
初めの方はお金に余裕がないので、色々効率よく物を作ったり色々した。
必要な教科書やらアイテムやら、どれを優先的に購入するかなど、真剣に考えたものだ。
それが今は余裕があるから、好きに出来るけれど、やっぱり少しずつためて行かないとと思う。
今後どれだけ必要になるか分からないし、節約もしていかないとと僕は思う。
更に付け加えるなら、この花はとても香りが良く、香水も人気が高い。
「この香水、安く売ったら女の子にもてるだろうか……」
「陽斗……そんなに女の子に飢えていたなんて。また女装する?」
「何で僕が女の子役をしなくちゃならないんだ!」
「だって可愛いし」
また可愛いと言われてしまい僕は心の中で涙した。
ライはそんな事を言いながら気楽そうに、花を摘んでいる。
そこで僕はクロヴィスがぼんやり立っているのに気づいた。
「クロヴィス、どうしたの?」
「いや、魔物がいるからここの花を摘む依頼は意外に大変だったはずだが……今はいないみたいだな」
「え、主みたいのがいるの?」
「ああ、確か大きな蛇の魔物で、戦って勝つと、渋々縄張りに入れて花を摘ませてくれるらしい。だが、ここには“いない”みたいだな」
「そうなんだ……留守中にこれて、僕はついているかも」
そういえばここの森にいる蜂達とも、戦って勝利して蜂の巣を分けてもらった記憶がある。
この腕試し的な感じはなんだろうなと思っているとそこで、ふわふわ飛んでくる蜂達に気付いた。
どうやらここの花畑の花の蜜を集めているのだろう。
ただあの大きさだと、きちんと花を受粉させているのだろうかという疑問を持ったが、異世界の不思議な事情で出来るのだろうと僕は割り切った。
そこで僕は気づく。
「あれ、今、この花畑から花の蜜を集めていたよね? 蜂達」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「って事は、今の時期はここくらいしか花がないのなら、ここの花の香りのする蜂蜜が今は採れるんじゃん!」
ゲーム内では、どんなものでも蜂蜜だったけれど、ここはそんない世界ならば……この花の蜂蜜が手に入る。
それならばぜひ、ちょっとだけ手に入れてみたい。
あとで挑戦させてもらおう、僕はそう決めた。
それをクロヴィスに伝えると、クロヴィスが苦笑して、
「陽斗は食い意地が張っているな」
「う、べ、別にそんな事はないよ。誰だって美味しい物は好きだし……クロヴィスはだって、美味しいって僕の料理を食べているじゃないか」
ここのところずっと僕がよく作っているけれど、その度にクロヴィスは美味しいと言ってくれていたのだ。
そのためにも材料は美味しい物が良いに決まっているし、そういったものを選んで美味しくなるように作っているのだ。
なのにその言い方は酷いと僕が思っているとクロヴィスが笑って、
「そうだな、陽斗の作ったものだから何でも美味しいな」
「そうだよ! 僕だって僕なりに工夫をしているんだから……でも、美味しいって食べてもらえるのは嬉しいかな」
「……そうだな、陽斗がそう思うならそれでいい」
クロヴィスがそう言って含みのある様に笑う。
何だか引っかかる言い方だと思っているとそこで、ドシンと大きな音がした。
気付けば白くて大きな蛇が、花畑に現れる。
今更ながら僕は、雑談せずに花を摘んでさっさと逃げれば良かったと僕は思った。
だがすでに時は遅く、
「わしが留守の間にこのような客人が来ていたとはな。摘まれてしまったが、このままただで帰すわけにもいかないな」
「え? いえ、そのまま帰して頂きたいです」
「……何という怠け癖、その腐った根性を叩き直してやる。行くぞ!」
同時に、その蛇の口の当たりに炎が揺らめいたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
この花畑の主である蛇は、緑と黒のまだら模様の蛇だった。
赤い瞳にチロチロと獲物狙うかのように舌が蠢いている。
かと思えば口から少し炎を吐いている辺り、この世界の魔物の自由さが伺える。
そんな蛇の魔物が僕に真っ先に狙いを定めたようだ。
何処となくにやりと笑い、僕に向かって炎を吐く。
僕は即座に杖を振るう。
乾いた音を立てて、目の前に現れた透明な氷の壁に亀裂が入る。
それを見て僕はリリスに、
「リリス、もうちょっと強力な壁でお願い! 僕が攻撃の呪文を使うまで耐えれるようなやつ!」
「はーい、それじゃあこの壁の、×3でいかがでしょうか~っと」
妖精のリリスがえいっと両手を振りおろすと、その氷の壁が更に分厚くなる。
それを確認するまでもなく僕は、呪文を選択する。
ふわっと現れた透明なゲームの魔法選択画面を起動して、呪文を選択する。
ゲーム内では、この魔物にこの花畑で出会った事はない。
ただ今思い出したけれど、ここには怖い魔物の主が住んでいるんだよ~、といった話があった気がする。
怖いね~と会話している女の子主人公や、女の子だったフィオレはとても可愛かったんだよね……そう僕は一瞬現実逃避しそうになったが、そういうわけにもいかずに魔法を選択する。
この魔物はもう少し後の方で出てくる結構強い魔物で、弱点は雷系の魔法だった。
だから僕はその呪文を選択する。
「“螺旋の霹靂(へリックス・サンダ―)”……っと」
触れると小さくその表示が点滅し、消滅する。
同時に僕の足元に金色に輝く魔法陣が広がる。
揺らめくように動き、輝くそれを見ながら僕は目の前の蛇を見つめる。
防御用の氷の盾は、まだまだ余裕がありそうだけれど、そこで炎が収束するのが見える。
“今”だ。
「リリス!」
「はーいっと」
同時に氷の盾が消失する。
僕は杖を掲げ、高らかに叫んだ!
「“螺旋の霹靂(へリックス・サンダ―)”」
杖の石の部分から帯状にくるくると回転する光が高速で流れる。
リボンの様な光の帯であるそれは、宙を飛んでいき、その蛇に絡みつくようにぐるりと円を作る。
それからすぐにその光の帯は金色の輝きを増して、小さな光の粒を周囲に振りまいたかと思うと、小さな稲妻が幾つも放たれて、
「ぎゅがわわわわわわ」
蛇が変な声をあげ、その魔法が終わる頃には、その蛇はぐったりとしているのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
蛇は、これだけの力がある相手だったとは……と言っていた。
そして花を持ちかえってもいいと僕に告げる。
同時に、そこで猫のタマとローレライのライに気付いて目を瞬かせていたりしたのに……僕は深く考えないようにした。
そうしてその花畑を後にした僕達だけれど、
「タマ、そろそろお手伝いしてくれてもいいよね?」
「にゃん? でもあの蛇のおじさんは、陽斗の教育で夢中だったらしいし、お手伝いしない方が攻撃にはよかったんじゃないかな?」
「うう……じゃあ触手に襲われた時は、助けてね」
「にゃーん」
クロヴィスに頼むとしばらく僕が喘いでいるのを観察してからになるので、タマにお願いした。
でもそれはクロヴィスは気に入らないようだったけれど。
そして道中で再び触手に襲われた僕だけれど、
「やぁあああんっ、やだっ、触手が……タマって……蝶々を追いかけていないで助け……」
タマは自分のすぐ傍に飛ぶ蝶をお追いかけ回していて、僕のことなど眼中にありませんでした。
なので僕はクロヴィスにお願いすると、
「……もう少し喘いでから、助けてやるよ」
「クロヴィスの意地悪ぅううう」
しゅるりと太ももに絡みついた蔓が、僕の肌の感じる部分を這う。
と言うかなんでただ肌にはわれて魔力を吸われているだけなのにこんな風になるんだと僕は思う。
それにしばらく喘いでから、ようやく僕はクロヴィスに助け出されて、どうしてすぐ助けてくれないんだと僕がクロヴィスに言うと、
「あの程度の魔物くらい自分であしらえるようにしろ」
と、嘆息されてしまったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そんな僕は、森の中の道を歩きながら、再び魔物との戦闘になる。
鼠っぽい物や、時折、精霊の一種である鉱石を思わせるような立方体の敵も現れる。
そんな精霊を倒していた僕達だけれどそこでライがその精霊の破片を拾い上げて、陽に透かしながら見て、
「そういえば、ずっと昔はこういった精霊の様な魔物はあまりいなかったって知っている?」
「? そうなんだ。じゃあ何でこんなに増えたんだろう」
「そうだね、そもそも精霊は力のある石などがなるでしょう? 魔力の結晶のね」
「そんな話があったようななかったような」
攻略本には、そのあたりの説明はさらっと書かれていただけで、ゲーム内でも特に伏線などはなかった。
きっと予算の都合だろうと邪推したまま忘れた僕だけれど、この世界では何か意味があるのだろうか。
意味があったなら……どうなってしまうのだろう。
僕がこんな場所にいる意味も、そういったものに関連していたりするのだろうか。
そんな不安を感じていると僕にライが、
「石って、ものによっては一定の方向に割れて行ったりするでしょう? そういった岩に特に魔力が集まりやすくて、だから大昔の精霊な魔物は、今みたいに色々な形がなかったらしいんだ」
「そうなんだ。それでどうしてこんなに色々な形があるの?」
「“深淵の魔族”が作ったらしいよ、この魔物達を、理由があって沢山……ね」
「どうして?」
「さあ、僕も知らないや。ただ……その昔、人間達が、この世界の神を崇める司祭達と一緒に、その神を崇めるのを止めた頃に一致するらしいよ?」
「? そうなんだ」
「何でも横暴な神に嫌気がさして、という話だけれど……もう、神なんて無くてもいい、魔法だってあるし、自分達でどうにでもなると思ったのかもね」
ライは笑って話しているけれど、僕の事を探るように見ている。
彼は僕に一体何を望んでいるのだろう、そう僕が思っていると、そこで僕はクロヴィスに後ろから抱きしめられた。
何でいきなり、と僕が思っていると、そこでふっと僕の意識が消える。
それはすぐになおったけれど、ライがそこはかとなく蒼白で、
「そ、それで、陽斗は次にどこに行く気かな?」
「ライ、顔が蒼いけれど……」
「気のせいだよ。それよりも早く」
よくよく見るとタマの様子もリリスの様子もなんだかおかしい。
正確には、クロヴィスを睨みつけているようなそんな感じだ。
けれど僕の後ろでクロヴィスは、
「ほら、陽斗、早くと言われているのだから早くした方が良いんじゃないか? また触手に襲われるぞ?」
「! それは嫌だから、急ぐ!」
後ろで小さく笑うクロヴィスに僕はそう答えて、再び歩きだしたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
クロヴィスが抱きしめると同時に、陽斗の瞳が何も映していない、夜の海のような静かで恐ろしく虚ろなものに変わる。
それを見て、警戒するようにリリスが飛びまわり、タマがクロヴィスを見て唸る。
そんな二人を見てもクロヴィスはただただ冷たく笑っているだけだった。
そしてライも、やはりそうなのかと思いながらも、
「陽斗がお気に入りだから、伝えたくないと?」
「別に。陽斗は俺のそばにいれば良い、そう思っているだけだ。だが、邪魔するなら“排除”するぞ?」
排除と告げたその言葉が、言葉だけで自分がかき消えてしまうようなそんな気持ちにライなる。
見事に気配を隠しているクロヴィスに、ライは乾いた笑いを浮かべるしかない。
気まぐれだと言われている存在がいて、それに執着しているのは、こちら側の“切り札”のはずだった。
けれど状況は、自分達に都合の悪い方に働いているようだとライは思う。
だってあまりにも、このクロヴィスはこの陽斗を気に入っているようだから。
かといってそれ以上何かを聞きだしたりするだけの気力もライは無くて、口をつぐむ。
そんなライを鼻で笑うクロヴィスはすぐに自分が抱きしめる陽斗を見て、愛おしそうに微笑む。
「……一目で気に入った。珍しくお前達も役に立つ、そう思った。だから、もう少し考える事にした。それだけだ」
その言葉はとても短いけれど、ライ達にとっては“奇跡”に近い物だった。
陽斗はクロヴィスが“選んだ”者なのだ。
けれどきっとその危うさは陽斗には気づかせてはならない、まだ。
きっとこのクロヴィスは、今の状況をとても気に入っている。
何も知らない陽斗と一緒に話したりするこの状況を。
変化がいつ訪れるのかは分からないが。
だからライは、クロヴィスの言葉に震える声で頷いたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そんなこんなで僕は蜜蜂と戦って、勝利した。
倒された蜜蜂が、下の方から採っていってくれというのだけれど、何となくそのあたりの花の香りが違う気がして、
「“星語りの花”から採った蜂蜜が良いのですが……」
「あー、うちはまだあの花畑から集めていないな」
「え、そうなんですか?」
「ああ、花が咲き始めたのはつい最近だから……まあ、頑張って探すんだな。それでうちの蜂の巣はどうする?」
「……少しだけ頂いていってもよろしいでしょうか」
「おうよ! 俺達自慢の蜂蜜が採れるぞ!」
との事で戦った蜂から、蜂の巣を貰う。
実際にこの前採ってきたばかりの蜂蜜はとても美味しかったので、今回も手に入って嬉しい。
けれどここでその蜂蜜が手に入らないとすると、
「他の蜂の巣を探すかな」
僕が呟くと、他の全員が驚愕したような顔で僕を見た。
何でだろうと思っているとクロヴィスが、
「……本当に陽斗は食い意地が張っているな」
「……何が言いたいんだ」
「いや、戦うのは嫌だ、引き籠るんだと言っていた陽斗がついに戦闘狂になったと思うと、俺の教育のかいがあったなと思っただけだ」
「ち、違う! 僕はただ美味しい物が食べたいだけだ!」
「……ここまでこうだとは思わなかった。よし、これからは食べ物が採れる所を戦闘場所に選んでやる。そうすれば陽斗も素直に戦闘するだろうし」
「止めてぇええええ」
悲鳴を上げる僕。
そしてそれから、触手に襲われそうになりながら、蜂の巣を探す事五つ。
「や、やった、“星語りの花”から採った蜂蜜を手に入れたぞ……」
その頃にはもう日が暮れかけていて、慌てて町に帰る僕達。
帰りに、“ベクトル牛”の生クリームという、物理的な牛のような生クリームを購入していった。
そして僕は、ようやく帰ってこれたと背伸びをしてから家の鍵を開ける。
開いた中では、フィオレが茫然としたように椅子に座っていた。
そして、周りには這いまわる黒い物体の数々。
ああ、やはりと僕は思いながら、
「フィオレ」
「びくっ」
名前を呼んだだけでびくついているのを見る限り自覚しているのだろう。
でも何でこんなに料理をするのだろうと僕は思いながらも僕はクロヴィスに、
「明日も戦闘に連れて行く気なんだよね?」
「もちろん、そうだ」
「だったらフィオレも連れていって良いかな? こんな黒くてガサガサしたの、量産されても困るし」
そんな話をしている間も、その黒い物体は天井まで走り回る。
その内空を飛ぶんじゃないかという不安を感じながらも僕は、
「フィオレ、明日は一緒に行こう、戦闘に。そして手伝って!」
「だ、だけど僕は……」
「頼むからこんな変なもの量産しないで。お願いだから」
「で、でも次は……」
「アンジェロさんに報告しますか?」
にっこりほほ笑みながら、僕がそう告げると、フィオレが小さく呻いて、渋々といったように頷く。
その代わりにライにお留守番していてもらう事にしたのはいいとして。
それから僕達は、その黒い物体の捕縛して、食事を作って食べたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
次の日の朝食は、蜂蜜を使ったパン、ソーセージ、サラダ、トマトのような何かスープ。
そこに昨日買っておいた“ベクトル牛”の生クリームを加工して作った、サワークリームを少量落とす。
ほんの少し入れるだけでまろやかな酸味と旨みが抜群に増すのだ。
そしてこのサワークリームはチーズケーキを作るのに使ってもいいのだけれど、かんばって脂肪分を分離させると、発酵バターになるのだ。
その発酵バターに塩を加えたりしてパンにぬると独特の風味がしてとても美味しいのだ。
またこのサワークリームがあまり醗酵していないけれど固まった状態の物に、ジャムほど煮詰めないで作ったイチゴソースをかけてもおいしい。
ただ面倒臭い時には泡立てた生クリームとヨーグルトを混ぜただけでもさっぱりとしたヨーグルトクリームになる。
ちなみに、これはカスタードクリームと合わせると、とても合うのでお勧めだ。
話はそれたけれど、他にも、机の上にイチゴジャムなどを出しておく。
手作りイチゴジャムは、一応自動では作れるのだけれどこれは僕のお手製だ。
自作すると砂糖が少なく出来る。
その分日持ちしないけれど、イチゴの風味がとても味わえるのだ。
さて、そんな美味しい朝食を沢山作った僕は、もう一つ楽しみなのがあって、それの入った小瓶を取り出す。
中には黄金色の液体がはいっている。そう、これは、
「じゃーん、“星語りの花”からとった蜂蜜です! とりあえずリリス用に、先に小さなカップに入れておいたよ!」
「わーい、ありがとう~陽斗。愛してるぅ~」
「ふ、男に愛してるなんて言われても嬉しくないんんだからね! フィオレの真似でした!」
「ちょっと待て、陽斗、何だそれは、僕はそんな感じじゃない! というか聞いているのか!」
「聞いてません! というわけでさっそくパンに塗ります! ……わー、花の香りがする」
これは間違いなく、“星語りの花”の香りだと思って幸せを感じながらその蜂蜜の瓶(実は5つある)それを、ライとクロヴィス、フィオレに渡す。
そこでフィオレが半眼で僕を見た。
「花の香って……そこに飾ってある花の香なんじゃないのか?」
「ふふふ、そう思うならば、その蜂蜜の瓶を開けて匂いを嗅いでみるが良い!」
「……陽斗が調子に乗っている。こういう時って何かあったりしそうだね」
「……例えば?」
「触手とか?」
僕はパンに蜂蜜とバターを塗ったものをタマに渡しながら、周りを見回した。
この家は僕という魔法使いの家で、あんな魔物がいるはずがない。
けれど不安で仕方がなかった僕は、周りを全て確認してから、
「この家の中にいるはずがないじゃないか」
「ふん、そんなにあんな弱い魔物が嫌なのか」
「この前は一緒に捕まったくせに」
それにフィオレは顔に朱を走らせて、、
「陽斗が襲われるような、貧弱な蔓の魔物ではなかったからしかたがないだろう! ……そもそもどうして変な所で弱いんだ、陽斗は!」
「個性なんです! これは全部個性のせいなんです!」
「個性って言えば全部許されると思うな! というか、そもそもこの花、何でここにおいているんだ? 確か寝室に持って行こうって僕は陽斗が花瓶に入れているのを見たぞ」
「……忘れちゃったんだよ。昨日は忙しくて。……今日はこれを寝室に持って行くからいいじゃん」
そんな風にフィオレにいい返した所で、ある人物がここに訪れたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
やってきたのは、アンジェロだった。
声を聞いた瞬間、フィオレは階段を上がって別の部屋に逃げてしまった。
まだ顔を合わしたくはないようだ。
仕方がないので僕が相手をすることに。
「こんにちは、アンジェロ。今フィオレは逃げましたがどうしますか? 必要なら引っ張ってきますが」
「いえ、もしよろしければ、陽斗達の家で預かって頂けませんか? ちょっとこちらもゴタゴタしていまして」
「はあ……それは大丈夫ですが、ただその、あの黒くて動く物体を作るのをやめさせる方法ってありませんか?」
「そうですね……陽斗達にフィオレが好意を持っている限り無理でしょうね」
実はフィオレが持っている好意があれを産んだらしい。
なんという奇跡と僕は現実逃避していると、アンジェロがフィオレを預かるお礼として、アップルパイのはいった紙袋を渡して去っていったのだった。




