色々みんな事情があったり?
そこは開けた場所だった。
僕達が立って通れるくらいには広い、“宝の持ち腐れモグラ”のダンジョンの道を更に奥まで行くと広間のような場所に出る。
僕達の周り浮かんでいた光が、ふわっと周りに広がる。
大きな部屋だ。天井も高いのを見ると、先ほど歩いていたダンジョン自体が緩やかな傾斜が付けられており、地中に潜っていたのかもしれない。
このモグラダンジョンは蟻の巣のように広がっていて、その一か所にこういった場所があり、
「宝ものが積みあがりすぎて眩しい……」
僕は呟いた。
目の前に積みあがる黄金色の物が沢山。
四角い金塊やら、金貨、ネックレスなどの宝飾品から杖、防具、剣――宝石などが付けられた美しい物なので、宝剣という飾りなのだろう――など、めまいがするような宝ものの数々だ。
よく物語やゲームなのでそういったシーンをイラストで見る事はあったけれど、実際にこうやって見ると壮観だ。
「これ、全部打ったら幾らくらいになるんだろう、凄い……」
そんな僕達の前で、先ほどの猫の人形がミィと小さな声で啼いてぽてっと横に倒れる。
役目が終わったので動かなくなったらしい。
僕はここまで案内してありがとうと思いながらその人形を拾い上げて、大事にしまう。
そしてここからだけれど、この宝の山からある物を探さないといけない。
今回の依頼は、それが目的だったはずなのだ。
特に力の強い魔道具なので、そういった気配がするはずである。
主人公達はそれをたどって二回目にここに来ているのだ。
そして一生懸命この宝の山を掘っていたのだ。
あれはとても大変そうだったけれど、実際に僕が見ていても、
「どうしよう、この中から探さないといけないんだけれど……」
「何をだ?」
「……都合が良さそうな魔道具?」
とりあえずぼかしてみた。
何でその依頼主がそれが欲しいと知っているんだと、クロヴィスに聞かれたら困るからだ。
一応僕はこの世界にやってきて、“男”に迫られてここに逃げてきたことになっているらしい。
よくよく考えると、何だそれという気がしないでもない。
どうして男が男にモテるんだとか、それなら女の子にもてたい気がした。
そんな真剣に考えている僕にクロヴィスが、
「どうしたんだ、突然考えこんで」
「クロヴィス……どうして僕は男にモテるの?」
まじめに聞いた質問のつもりだった。
僕は、だが。
それにクロヴィスは、ため息を付いた。
「……陽斗は自分をよく分かっていないようだ。だが、これ以上言っても無駄そうだから言わないでおいてやろう。俺は優しいからな」
「むか! 何だそれ!」
「さて、それで、これからこの宝の山から探していくのか。とりあえずは魔力の有りそうなものをかたっぱしから集めていく感じでいいか?」
それに頷き僕たちはその宝物の中から探し始める。
宝箱のようなものを見つけたけれど、そういったものの中には特に入っていないはずなのだ。
目的のものは、白い石の周りに金色の細工がされた、ブローチだ。
でも大きさはそこにある大きめの金貨が三枚くらいの大きさで、ブローチとしては大きいけれど、
「この山が大きすぎて、くっ、こんなに宝物をためやがって」
この“宝の持ち腐れモグラ”は、実は結構強い魔物だ。
故に戦闘はできるだけ避ける方向に行くため、戦闘になりそうだったものは金貨などを投げてそちらに気を取られている内に逃げるのが定石である。
確か今回の依頼は、間違えて貴重な物を投げてしまっていたがために、それを探しだそうという依頼だった気がする。
そう思いながら僕は、沢山の宝の山に絶望しながら、魔力のあるものを取り出しつつ、目的のブローチを探し始める。
そこで、大きな足音がしたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
現れたのは二つの巨体。
毛むくじゃらのその二匹の目は赤く、僕達を睨みつけている。
それはそうだろう。
彼らが大事にしている宝の山に、見知らぬ人間がごそごそしているのだから。
とはいえ、ゲーム内では一匹しかいなかったのだが、ここでは二匹だ。
しかもこのモグラは戦闘能力が高い。
クロヴィスが剣を構えるのが見えたので、僕は慌ててそれを止める。
「駄目だよクロヴィス! 捕縛の依頼じゃん!」
「殺さない程度に無力化すればいいだろう?」
「うーんそれはそうなんだけれど、さっきの魔法道具、実は二つほどあって」
「……今の陽斗の能力だと、このモグラは危険すぎるか、っと!」
そこでモグラが腕をふるい風の攻撃をしてくる。
白く孤を描くような鋭い風の刃が幾つも発せられる。
それはモグラの手についた鍵爪の様な部分を振りあげるたびに幾つもの風の刃が出来るのだ。
ちなみにこの魔法を使う爪は生え換わりの時期があり、その時期に回収できると貴重な魔法道具の材料や装飾品になる。
特にあの黒い爪の美しさは、“夜の宝石”とも言われる代物だ。
それは置いておくとして、その風の刃攻撃と共に俊敏な動きで、モグラはクロヴィスに襲いかかる。
やってきたモグラのその爪で攻撃されたクロヴィスは、それを剣で受け止めるかと思いきや、その爪を剣で切り裂いた。
ゲーム内ではとても硬くてけンでは切れない設定だったようなと思いつつも、爪を切られたモグラは悲鳴を上げる。
その油断している瞬間を僕は見逃さなかった。
「クロヴィス、下がって、喰らえ! “ゴムっぽい投げ網”」
「ふぎゃ? みぎゃああああ」
悲鳴を上げるモグラはその縄に、無事な方の爪で切り裂こうとするが、ゴムのように伸びて引きちぎれない。
それどころか攻撃が跳ね返されて、モグラは倒れてしまう。
そしてそんなモグラはなす術もなく捕縛されてしまう。
じたばたするモグラに、よしっ、一匹は上手く行ったぞ、あともう一匹はと思った所で……僕は背後に何か気配を感じる。
しまったと思ったのは、自分の背後にもふもふの毛が押し付けられた時だった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
背後に毛の柔らかさと温かさを感じるが、その前に僕の目の前にある黒い爪に委縮してしまう。
油断していた。
そもそもこのモグラは動きが早いのに、片方を捕まえて安心して、もう片方に気付かなかった僕が愚かだった。
「陽斗から手を放せ」
「みぃぎぎ」
クロヴィスが僕を捕まえているモグラに言う。
それにモグラは楽しそうに嗤うような声をあげる。
けれどそんなモグラにクロヴィスは、僕はいつも聞いているものとは全く違うような冷たい声で、
「もう一度言う、陽斗を放せ。次はないぞ?」
「みぃぎぎ」
再びモグラは馬鹿にしたように嗤う。
それにクロヴィスは剣を僕の前で鞘にしまう。そして、
「お前は必要ない」
クロヴィスが、まっすぐにモグラを見据えてそう告げたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そのクロヴィスの声に嫌な予感をした僕は、モグラを見上げた。
「僕を放した方が良いよ、クロヴィスがとても怒っている」
「みぃぎぎ」
「いやいやいや、そんな風に調子にのっていると、酷い目に合うよ?」
それにモグラが、ミギミギミギと楽しそうに話す。
だがその声を聞いた途端、その時クロヴィスの隣で捕まえられていたモグラが反応した。
「みぎぃいいいい」
「み、みぎみ、みぎ」
「みきぃいいい、みぎっ、みぎぃいいいい」
何やら捕らえられたモグラがすごく怒っている。
そしてそのすぐ傍にいたクロヴィスが……何とも言えない顔をしていた。
先ほどまではとても怒ったような顔をしていたのに、今は、何処となく、うわぁ……と言った雰囲気である。
しかもその捕らえられたモグラは、クロヴィスに何やら話しかけている。
だが、先ほどから延々と、みぎみぎとしか鳴いているように聞こえない。
そこでクロヴィスがその捕まったモグラに、
「そうか、分かった。その代わり後で一緒に来てもらう、何、命の保証はする」
「みぎぃいい」
「……良い心がけだ。陽斗にも見習わせたい」
僕に見習わせたいとか、そもそも、モグラとどうしてクロヴィスは話せるんだとか色々突っ込みをしたかった。
けれどそんな思いを抱いている間に、クロヴィスはあっさりその網を解いてしまう。
同時に網を解かれたモグラが、思いっきり僕達の方にかけよってきて、ぴょんととび跳ねたかと思うと、
「みぃいいい、みぎぃいいいい」
そのまま飛び蹴りを僕を捕まえているモグラに喰らわした。
そのモグラは、大きな声をあげながら倒れて動かなくなる。
「みぃぎぃみみ」
「陽斗、捕まえて連れて行ってくれだそうだ。ちなみにこのモグラ子さん(仮)(メス)の恋人がそのモグラだそうで、陽斗を捕まえている時に、この人間はいい匂いがするからこのまま恋人にしちゃおうかなっと言っていた」
「……どうして僕がこのモグラなんかに」
「みぎみぎ」
「何だかいい匂いがするそうだ。更に付け加えるなら、そのモグラ(オス)は浮気癖があるらしい」
「へ、へぇ」
「みみぎぎぎ」
「子供も三人もいるのにいつまでも独身気分でふざけるんじゃないわよ、ちょっとお灸をすえてやる、だそうだ」
「こ、子持ち……」
「みみみぎぎぎ」
「“深淵の魔族”と取引して、ミルクなどを買うにはこういったキラキラがないと困るから襲ったけれど、少しくらいなら持って行ってもいいわよ、だそうだ」
「……“深淵の魔族”にそんな流通網が……というか、ただ集めているだけなんじゃと思っていたのにまさかそんな理由があるなんて」
そもそもこの“宝の持ち腐れモグラ”って実は、凄く知能が高いんじゃないかと僕は今更気付き、そういえば魔力が強いほど知能を持ちやすくなるというので、つまり、
「もしかして僕達の言語も喋れたりしますか?」
「ええ、もちろんですわ。ただ魔物が人間の言葉を話すと、気持ち悪いと言って攻撃が酷くなるので」
そう、モグラ子さん(仮)(メス)は、流暢に人間の使う言語で僕に答えたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
気を失ったモグラのオスの方に、“ゴムっぽい投げ網”を使い拘束した僕。
それはまあ、良いのだけれど。
「ぱぱー」
「ぱぱー、どうしたの?」
「ぱぱを返せ―」
小さな子供モグラに僕達は襲われました。
物凄い罪悪感に襲われながらも、“ゴムっぽい投げ網”を使って拘束し、手伝ってもらうだけだからと説得をして、どうにかなった。
そしてその次だけれど、
「うう、この宝の山から何を探せばいいんだ。……諦めて少しずつやっていくか」
そう思って僕は探していく。
途中僕は石板を見つけて、何故ここに!? と思ったのは置いておくとして。
あの、あたかも僕が行くであろう場所に石板があるというか事前に設定してある気がして仕方がないのだ。
この世界に連れてこられた僕だけれど、一体何を望まれてこの世界で“主人公”を演じさせられているのか。
ふつふつとわきあがる不安は、目の前の金貨など、宝の山の前にすぐに消えた。
探しても探しても終わらない。
「うう、ブローチ、何処にあるんだよぅ」
このままこの宝にちょっとだけ埋まってみようかと僕は考えてしまう。
それも気持ちが良さそうだ、そう僕が現実逃避しながらも、場所を変えようと立ち上がる。
そして歩きだした所でそれはあった。
「何だかこの宝箱、変な感じがする。何だろう、上手く言えないけれど、凄く凄く変」
僕はその小さな宝箱を持ちあげながら、鍵がついていないのを確認して力を加える。
ぱかっと開いたそれの中には、白い石のはめ込まれたブローチとそして、
「“ローレライの涙”を加工したブローチも入っている」
そんなイベントだったかな、と思いながらも同じ箱に入っているのならと僕は思って、それを取り出し、他にも幾つかの魔法のかかった装飾品を貰い、クロヴィスにも声をかけ、集めたものを回収する。
ギルドの落とし物コーナーに置いておけば、元の持ち主が見つかるかもしれない。
もちろん石板は、僕が個人的にもらっておくが。
そして集めた装飾品類をモグラ子さん(仮)(メス)に見せて、
「これらを頂いて言って良いですか?」
「あら、それだけでいいの?」
「はい、多分これで大丈夫かと」
「そう、では、これをよろしくお願いします」
それに頷いて、僕はこの縄に、運ぶ用の杖の端をくくりつける。
空を飛ぶ時に使う杖で、魔法をためる球状の宝石部分から白い羽が生えて、こうやってものを浮かばせて運んだりできるのだ。
その浮かせる高さは奥がどの程度魔力を注ぐかで決まるらしく、地上から十センチくらいと心で願うとそれくらいに浮き上がる。
そして帰りは、モグラ子さん(仮)(メス)に案内してもらって出口までやってきて、
「クロヴィス僕に捕まって。上まで魔法で上がるから」
「……そうだな」
そう言ってクロヴィスは僕を抱きしめる。
これは違うだろうと思いつつも、仕方がないのでそれから地上に浮かびあがる。
その場所は初めに来た場所と違っていて、代わりに、
「ここ、炭酸の泉が出る所だ! 少し汲んでくるね!」
僕はその泉で水を汲み、後でここに連れてこようと決めて町に戻ったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
町に戻った僕達は、早速ギルドに向かう。
あの森周辺の魔物退治とそして。
「これが“宝の持ち腐れモグラ”です」
「そうか、では……」
「ただこのモグラ、子供がいたり色々していまして、気の毒に思ったので依頼主に直接会って、渡して、それから事がすんだら森に返してあげたいのです」
「いや、それは……」
ギルドのおじさんは悩んでいるようだった。
それはそうだろう、と僕が思っているとそこで、馬車がギルドの前に止まる。
豪奢なそれに乗る人物を僕は知っている。
ドアが開かれ、現れた人物はクロヴィスより少し背が低いが、一般的な範囲内では高い部類だ。
薄水色の色素の薄い髪に、緑色の瞳。
海の向こう側の国の王子、フェンリルだ。
彼は微笑みながら僕達に近づいてきて、
「おや、君達が依頼を受けてくれたのかな?」
「は、はい、あの……」
「ああ、私は……フェンリルだ。フェンリルさんで構わない」
お忍びで来ているので当然かなと僕は思いながらそのフェンリルに、
「じつはこの“宝の持ち腐れモグラ”、子供がいまして後で森に返したいのです」
「なるほど。ただ私にも事情があるのだ。今回間違えて宝箱をそのモグラに投げてしまったのだが、実はそれが大事なものでね。だからこのモグラには、色々と聞かなくてはいけなくてね」
「えっと、その宝箱というのはこれでしょうか」
僕はいそいそとそれを取り出した。
確かこの中に入っているブローチが、母親から頂いた大事なものだそうで、これを持っている事で見に起こる危険から守ってくれる、いわば防御の魔法道具のはずだった。
それを取られてしまい、慌てて依頼してきたという話だった気がする。
ただブローチだけで、宝箱丸ごとではなかった。
今フェンリルは、宝箱を取り戻したいと言っていたのだ。
その奇妙な違いに気付きながら様子を見ているとそこで、
「そうだ! その宝箱だ! どうしてそれが分かったのかな?」
「いえ、たまたま宝物が一杯ある所に来たので、魔力を感じるものを幾つか。後でギルドの落とし物箱に入れておこうかと」
無くして探している人もいるだろうしと僕は思ったのだ。
丁度いい、このブローチが目的だと知っていたというカモフラージュになるなとも思いはしたが、役に立つならそれで良いなと僕は思ったのだ。
ほんの少し嘘を混ぜて話す僕。
そしてそれを話すとこのフェンリルは、
「つまり僕のこの宝箱は、落とし物箱に入れられてしまう所だったと?」
「はい」
「……そうか、僕の宝ものが落とし物……何だかおかしくなってしまったよ」
そう愉快そうに笑いだすフェンリルだがそこで彼は、
「面白いね、君は。名前は?」
「陽斗です。今魔法使いになる為に頑張っています」
「そうなのか。そして……有名な剣士が君と一緒にいる様に見えるのだが」
「きっとその通りなのでしょう」
「……クロヴィス。遠目で見た事があっただけだが……君の仲間なのかい?」
「はい、そうです」
そう告げるとフェンリルはちょっと考え込むように黙ってから、
「君は意外に将来性があるのかもね。もしかしたならこちらに泊まっている間に、君の家に依頼をお願いしに行くかもしれないけれど、いいかな」
「ぜひそうして下さい! 危険な戦闘は嫌です!」
フェンリル皇子が沈黙した。
次にフェンリルはクロヴィスを見て、それにクロヴィスが、
「だから陽斗には俺が必要なんだ」
そう肩をすくめやがったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
それでこのモグラは、僕達が持っていって良いですかと僕が聞いた所、
「うん、構わないよ。私が取り戻したかった宝物はこれだからね」
「ではこのモグラは元の場所に返してきます」
そこで、何故か僕の目の前でフェンリルは宝箱を開き始めた。
何でだろうと思っていると、
「中身も特に変化はなし。まったく、君は無欲だね」
「? あ、なるほど」
「……この白い宝石は、母からもらったものでね。私に怪我がないようにとくれたのだ」
「そうなのですか」
流石に、ゲームですでに知っています等と言えなかった。
そんなフェンリルはその白い石を僕に見せる様にして手にしながら、次に別の物を取り出した。
「“ローレライの涙”のブローチですね」
「知っているのか? 貴重品であったはずなのだが」
「偶然、手に入れる事が出来まして」
「そうなのかい? だがこの石、美しいと思わないかい?」
「はい」
「しかもローレライというのはとても美しい魔物だ。そんな魔物の流す涙は、それはそれは神聖で美しい物に見えるだろうね」
「見た事があるのですが?」
「玉ねぎをみじん切りにして泣いている所をね。それでも美しいと思ったかな」
僕はこんな時どんな顔をしていいのか分からなかった。
困ったように愛想笑いを浮かべる僕にフェンリルは、
「というのは冗談で、昔ここに近い港町で、月の綺麗な夜に涙を流す、美しい男性のローレライに出会った事がある……そしてこれはその時もらった、“ローレライの涙”で、私はずっと彼に恋をしていて探し回っている……という話の方が本当に聞こえるかな?」
「! 嘘なんですか……」
「はは。ただ、港町では未だにローレライが住んでいるという噂があるらしい。君はそんなローレライでありそうな知り合いはいないかな? 君は、本物の“ローレライの涙”を知っているようだし」
そう言ってフェンリルは探るように僕を見る。
その瞳の鋭さに僕は怖くなって固まってしまう。と、
「あまり陽斗を怖がらせないでください。フェンリル様?」
あえて様づけでフェンリルの名前を呼ぶ。
それにフェンリルは目を瞬かせて、気付いたように頷きクロヴィスを見て頷く。
「では、この辺で私は帰る事にするよ。……そこの剣士に脅かされてしまったからね」
「いえ、普通にお呼びしただけです」
「陽斗の騎士は、少しからかうのもいけない事であるらしい。では、その内訪ねるのでよろしく」
そう言って去っていくフェンリルを見ながら僕ははっと気付いた。
「な、何でまた男と接点が出来ているんだ?」
「……天然ジゴロなんだろう。男を落とす才能が陽斗にはあるのかもしれない」
クロヴィスが恐ろしい事を言うので僕は、とんでもないと答えたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そして再び森に行って、モグラを返す。
紐を探す僕に対して、クロヴィスはすぐさまそれを見つけて解除する。
手際のよいクロヴィスだが、それを見ながら僕は、
「何で僕の時は、あんなに手間取ったの?」
逃げて行くモグラに手を振りながら僕がそう告げるとクロヴィスが、にやっと意地悪く笑った。
それだけで僕は気づいてしまった。
そう、クロヴィスは初めから、もっと早くに……。
「さて、もう暗くなら帰ろうか」
「う、うぐ、クロヴィス、覚えてろぉぉおお」
そう叫んで僕は駆け出して、魔物と遭遇して、八つ当たりも兼ねて魔法で倒していったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そんなこんなで落ち着く我が家に戻ってきた僕。
だが再び玄関のドアを引いた瞬間目撃された、悪夢、再び。
「……謎の黒い物体がは追いまわる家(第二陣)」
僕は茫然とそれを見ながら呟いた。
よく見ると、ローレライのライは、もう知るかというように椅子に座ってふてくされていて、猫のタマはその黒い生物を追うのに飽きたのか、リリスの杖を舐めて、リリスがらめ~と啼いている。
そんな中で元凶と言えるフィオレが、その黒い生物を必死になって捕縛していた。
一人で。
そこでフィオレは戻ってきた僕に気付いたらしく、晴れやかな笑みで、
「あ、お帰り、陽斗。えーと、ごめん、失敗しちゃった」
「何故作った」
「いや、こう、ほら……次はきっと大丈夫だって思ったんだ」
「……すでに二回駄目だったので、もう諦めて下さい。料理関係は僕が作ります」
「も、もう一度チャンスを……」
「アンジェロに言い付けてやる」
フィオレは沈黙しました。
そしてこの混沌とした中に僕は入ってから、杖をぺろぺろして、リリスをびくびくさせているタマに、
「タマ、あの黒いの捕まえるのを手伝って!」
「うにゃ~。多すぎて捕まえるの面倒臭くなってきたにゃ~」
「手伝ってよ、それとライも」
「「は~い」」
二人して気のない返事をして、黒い謎の物体の捕獲を手伝ってくれる。
そしてすぐ傍に転がっている、ようやく解放されて、はあはあと息も荒げにとろけそうになっているリリスを拾い上げて、
「リリス、大丈夫?」
「はあはあ……助けてくれてありがとう。そっちの二人は全然助けてくれないし、やっぱり僕には陽斗だけだよ~」
そう言って抱きついてくる妖精のリリス。
タマはちょっとやりすぎだから後でお説教だなと思いながらつを見ると、杖全体がたまに舐められた跡がある。
これは……と僕が思っていると、
「ちょっと僕(杖本体)はシャワーを浴びてきます」
「うん、その方が良いと思う」
そう言って、リリスの本体である杖が、ぴょんぴょん飛んでいく。
それを見送ってから最後にクロヴィスに、
「この黒い物体を捕まえるのを手伝って。そうしたら夕食にしよう」
それに仕方がないとクロヴィスは頷いたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
どうにか全ての黒くてがさがさする物体を捕まえて処理をした僕は、夕食を作っていた。
本日は、そば粉のガレット……お食事系のクレープの様なものである。
この世界には“三日ソバ”という物がある。
そのそばは、撒いて三日ほどで収穫できるらしい(設定を見た時、どんなインスタントだよ、と僕は思った)。
その傍を粉にした物で、ガレットというお食事系のクレープが出来るのだ。
個人的には、卵ハムチーズ、塩コショウバジルで味付けをして、レタスも入れるのが好きだ。
この世界にも似たようなものがあるので、それらを次々と焼いていく。
また、魚の切り身も帰ってくる途中で買ってきたので、この世界にある味噌の様なものを搾って作った醤油とバター、塩で焼いた物も一緒に出す。
他にはもともと作ったままこの世界に引き継ぎ? されていた果物“もこもこモモ”を蜂蜜に付けた物があったので、先ほど組んできた炭酸でそのシロップを割って飲み物として出す。
皆、喜んでくれたのが嬉しい夕食。
タマもお魚だと喜んでいる。こうして今日は食器洗いを全部してくれるとフィオレが言うのでお任せして僕達は、各々の部屋に向かったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
フィオレがいない内にと思って僕は、部屋でライにこっそり話す事にした。
「あのね、今日依頼を受けたのだけれど、その人がローレライの知り合いがいるのかとか聞いてきて、ちょっと危険な気がしたからライに伝えておくね」
「……まさか薄い水色の髪だったりする?」
ライがものすごく嫌そうに呟いた。
愛想が良い魔物だったはずだけれど、こんな風な嫌な顔をするのは珍しいなと僕は思いつつも、
「うん、それで、緑いの瞳の、フェンリルという……」
「……僕の事は話していないね?」
「も、もちろんだよ」
「そう、それならいい。……ここまでわざわざ逃げてきたのに何でいるんだ」
ぼそりと呟いたライの様子に、僕は、
「知り合いだったんだ」
「……まあ、そうだね。でも絶対に僕の事は秘密だから。それは約束して欲しい。でないと……」
「でないと?」
そこでライはちょっとだけ黙ってから、嗤う。
「何処かに連れて行かれてしまうかもしれないよ?」
「なんか怖い事を言いやがりましたよ! え、何処に僕連れて行かれちゃうの!?」
「はは、というわけで僕の機嫌は損ねないようにね。フィオレも来た事だし」
ライがそういうと、丁度僕の部屋をフィオレは開いたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そんなこんなで部屋で僕達は色々話していた。
「それで今日は、“宝の持ち腐れモグラ”を捕縛したのですが……そこで、フェンリルという貴族らしき人に会いまして」
その名前に聞き覚えが合ったらしく、フィオレが、
「フェンリルは、海の向こうにある、“リーフェ国”の王子様の名前に似ているね。たしかその国の博物館には、伝説の品の数々が置かれ、封じられていると言われている」
「封じられている?」
「危険なものが多いから……陽斗、常識」
「う、うぐっ、でもそんな国の王子様がどうしてここに?」
「港町は、あちらの大陸と行き来がしやすいからね。帆船に風魔法を使うものが未だに主流だけれど、空を飛ぶ魔法使い達なら半日もかからずここまで来れるし、最近では“すくりゅー”というものが開発されて、風ではなく炎の魔法などで移動できる最新の船もあるから、それほど時間はかからない」
「そうなんだ。海の向こうにいってみたいかも」
ゲーム上では設定だけだったけれど、もし行けるのならば行って見たいと僕は思う。
そんな僕にフィオレが、
「そういえば陽斗はここから更に東の方にある、ディアナ魔法学園の出身だったな。どんな所だったんだ?」
僕はフィオレに聞かれて、どうしようと思ってしまう。
確かにこのゲームのシリーズには、魔法学園物もあったが、その学園ではない。
どうしようと僕が困っているとそこでライが、
「そろそろ眠りたい。静かにしてもらえないかな。今日は黒いものを追いかけるのでとても大変だったんだ」
ライの言葉にフィオレが小さく呻く。
けれど次こそは成功すると言っていたので、僕は、もう止めて、というかアンジェロに報告してやるというとフィオレは怒ったように口をつぐむ。
そしてそんな僕も昼間の二度に渡る戦闘に疲れて、その日は泥のように眠ってしまったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
次の日は、いつものように朝を迎えたが、朝からフィオレが、
「では、泊めて頂いているお礼に、僕が朝食を……」
「……これ以上あの黒い物体を作り続けるなら僕も容赦はしません」
「……なんだと?」
といった台所の防衛という、人知れぬ激戦があったわけだが、それは置いておくとして。
今日も今日とてクロヴィスが戦闘の依頼を受けてきたので、連れて行かれそうになる。
今回の依頼は、僕が一番初めに連れて行かれた森らしい。
そこに最近繁殖したネズミの魔物を10匹倒し、倒した後に残る小さな赤いビー玉の様な魔力の結晶を持って行ってギルドに渡す依頼らしい。
せっかくなので、ギルドによって別の依頼もないか見に行こう、そんな話になる。
それほど大変そうな戦闘ではなさそうだったので、僕は渋々うなずいた。
また、今日は、タマとリリスを連れて行っていいかと聞くと、
「……仕方がない、譲歩してやる」
との事で、タマとリリス(杖)を連れて行く事になった。
なので二人と一緒に行こうかという話しになっていると、そんな僕の肩をライが掴んだ。
何処となくげっそりとした顔になっているが、そこでライは、
「……僕はもう、あの怪生物を作るのを止められない。だから一緒に連れて行って欲しい」
「いやいや、ライがいないとフィオレ一人になっちゃうし」
そうなるとまたあの黒くてガサガサする生き物?が大量に……。
けれどそんな言葉に、フィオレは、
「失礼な! べ、別に止める者がいなくても、僕は我慢できる」
「……本当だな?」
「男に二言はない! 僕を信じてくれ!」
フィオレが言いきった。
そんなフィオレに僕は、ふと気になった事を聞いてみる。
「フィオレは、アンジェロと一緒に住んでいた時、料理を手伝おうとしなかったの?」
「……手伝えなかったんだ。そもそも手伝う気になれないような目に遭わされる」
虚ろな瞳でフィオレが呟いた。
あまり根掘り葉掘り聞かない方が良さそうな話だったので、僕はそれ以上突っ込まず、今日はフィオレに留守を任せたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
ギルドに寄ると、丁度いい依頼……ポイントや依頼料は少ないけれど、それでもついでに行えるのならお得な依頼があった。
その依頼は、ある花を摘んでくる依頼だった。
“星語りの花”という、五角形のお星様の様な小さな花が集まった、紫色の紫陽花に似た花を採取してくるのである。
この花は香りが良く、その香りを抽出して高級な香水の原料になるという。
そのまま飾っても、その花の香りでその部屋で眠ると良い夢が見れるらしい。
なので後でベッドのすぐ傍の花瓶に飾っておこうと僕は決める。
しかもこの花は食べられたりする。
砂糖漬けのクリスタルフラワーにしたりして、楽しむのだ。
他にも使い道のある花だったりするのだがそれはいいとして。
「タマ、僕の肩に乗らないでよ、重いよ」
「にゃーん、だってここにいた方が楽なんだもん」
「だったら僕も陽斗のもう片方の肩に座ろうっと」
杖の妖精のリリスまでもう片方の肩に乗りやがりました。
僕も猫か、妖精になりたい、そう僕が嘆いていると後ろの方でクロヴィスとライの話声がする。
「機嫌が悪そうですね」
「……そうだとしたら、家に戻るか?」
「……それだけは勘弁して下さい。ああ見えてフィオレは頑固なんです。邪魔はしないので連れて行って下さい」
「では、戦闘はずっと見ているだけにしろ。陽斗のためにならないから」
「はい、分かりました」
ライの躊躇ない答えに僕は、そんなと悲鳴を上げる。が、
「それでは俺と陽斗の二人で頑張ろうな。そこの杖と猫は手を出すなよ」
「はーい」
「にゃーん」
嬉しそうに僕の両肩に乗っていたペットと妖精が声をあげたのだった。




