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フラグは回避された?

 そんなこんなで結局クロヴィスは、部屋で眠るのを止めた。

 理由は僕がこれから依頼された石鹸を作成するからだ。

 つまり、石鹸の依頼をこなしてギルドに届けて、それから戦闘だそうだ。


「しくしくしくしく」

「さあ、早く作れ。日が暮れる前に家に帰りたいだろう?」

「……今日はもう戦闘したから良いじゃん」


 あんなに沢山何回も敵と戦ったのだ。

 僕はとても頑張ったと思う。

 だから、考え直して欲しいと僕は思ってじっとクロヴィスを見つめた。


 するとクロヴィスの顔が僕に近づいてきて、僕の唇と重なった。

 温かい唇が僕の唇に触れているという感覚に、僕は、何故!? としか思えなかった。

 そんな固まっている僕からクロヴィスの唇が離れて行って、クロヴィスが真っ青になっている僕を見て意地悪く笑い、


「ごちそうさま」

「な、な、何でキスするんだ!」

「俺の方を物欲しそうに見ていたから。悪いか?」

「悪いに決まっている! 僕は、戦闘したくないと念じながら見ていたのに!」

「そうか、可哀想にな。それで早く依頼の品を作れ」


 全然、可哀想と思っていない口調で僕にクロヴィスはいう。

 それに涙目になりながらも、僕は石鹸を作る事にした。

 まずは材料を並べて行く。


「確か、“モノクロ岩塩”が一杯あったよね。あと油。“壁づたいの実”という蔓性の木の実から採った油があって、それを鍋に入れて……雷の魔法と水で……あ、そうだ。香りを付けた方が良いよね。“紫の穂花”を使って」


 これを鍋に入れてセットして、後は、自動的に四角く切り分けた石鹸が出来るのだ。

 “モノクロ岩塩”はその名の通り、黒と白が交互に重なった、ミルフィーユというお菓子の様な層状の塩だ。

 形は立方体のようになっていて、この近くの山である、モノクロソリッド山ででとれるらしい。


 ゲーム内では購入していたのでその山に僕は行った事はないが、何でも岩塩が四角く削り出されているので、四角いぼこぼこした山になっているらしい。

 また塩自体はこの前行った港町の近くでも塩田があって、そこでは、“白雪の花塩”と呼ばれる高級な塩が採れる。

 あまりにも高くてもったいないので、僕はこの石鹸には使用しないが。


 そして油はとても良く繁殖するつる植物の実からとった油である。

 匂いがあまりない油で、石鹸の香りは今回はラベンダーの様な形をしたとても香りのよい花、“紫の穂花”を使用した。

 依頼でもそう書いてあったし。


 そんなこんなで、それらの材料を鍋に放り込んで、雷の魔法を使って石鹸を作っていく。

 薬品の危険がないのもゲームの良い所だよなと僕は思う。そこで、


「僕も何か手伝おうか? 泊まってばかりでは……」

「あの黒い生物を増殖されると困るので、フィオレはそこに座ってライの相手をしていてくれると嬉しいです」


 そこでライが椅子に座ったまま僕達に手を振る。が、


「ああなるのは食べ物だけだ。それも普通に焼いただけとかなら大丈夫なんだ! ……どうしてそんな目で僕を見る!」

「あの黒い生物を捕まえるのは大変だったので、大人しく客人でいて下さい。お願いします」

「う、うう……反論できない」

「それに早くアンジェロさんと、仲直りを……」

「あいつの話はするな!」


 フィオレはまだご立腹のようです。

 仕方がないのでまたもお留守番(クロヴィスに、今日は陽斗と二人っきりだと言われてしまった)していてもらい、僕は石鹸を持ってギルドに向かったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 ギルドにて、石鹸を納品した僕。

 お金を貰って、ポイントも確認して、よしと僕は頷いた。


「このままお家に帰ろう! ……ぐえ」


 そこで何者かに僕は、服の襟首を掴まれた。

 僕は必死になってその人物から逃げようとするが力が強くて逃げられない!

 そこでその人物が僕に嗤いながら、


「俺から逃げられると思っていたのか? さあ、行くぞ」

「さ、さっきギルドで新しい依頼を受けていたはずなのに、何でそんなに早く手続きが終わるんだ」

「今してもらっている最中だが、陽斗が逃げようとしているのがばればれだったからな」

「そんなに僕の今後の予定を埋めるのが楽しいのか!」

「……大丈夫だ。追加した依頼はこれから行く場所の依頼だ」

「それなら一緒に過ごせるね。それでどんな依頼なの?」


 僕は依頼内容を聞きながら、クロヴィスの隙を探す。

 だがそんな物は何処にもなかった。

 代わりにクロヴィスが僕の耳元で、


「今回は、モグラの捕縛の依頼も受けた」

「……モグラって、土の中で穴を掘る?」

「そうだ。その中でも“宝の持ち腐れモグラ”というモグラがいるが……」

「確か、光りものが好きだったんだよね」

「そうだ、何だ知っているんじゃないか。それから財宝の幾つかを取り返す、そんな依頼だ」

「依頼人は?」

「……匿名になっているな」


 クロヴィスのその話を聞きながら、僕は知っているあるイベントを思い出す。

 そんなに大した事のないイベントだったけれど、その依頼の人物は……。

 やっぱりあの馬車は見間違いじゃなかったのだ。


 物語が前後しているけれど、確実に僕はその場所に向かう事になる。

 そしてその場所には石板がある。

 あれを集めると、あの場所の封印が解けちゃったりするんだよなと思って、そのイベントは必須なのかと思う。


 しかもそれ、最終に近い場所で起こる話で、その後にやってくるのが……。

 僕は無言でクロヴィスを見上げた。

 のけぞるような格好だけれど、そのクロヴィスは何時ものように意地悪く笑っている。


 今は大人しそうだけれど、最終局面であんな事になってしまうなんて。

 ブルっと僕が震えると、そこでクロヴィスの顔が僕に迫り、唇が重ねられる。

 何故、僕はそう思った。


 それはすぐに放されて、クロヴィスが微笑み、


「ちなみに、その周辺の魔物もそこそこ倒す依頼が、もう一つの依頼だ」

「……う、うう。仕方がない、それで確か行き先は“クラフの森”だっけ?」

「そうだ」

「……折角だから近くにある炭酸の泉から、炭酸水を汲んでこよう。シロップに混ぜても、料理に使ってもいいし」


 そう思えば僕ももう少し頑張れる気がする。

 美味しい物を手に入れるためだ。

 そうだ、クレープなんかも焼いていいかも。


 お食事系のクレープも美味しいしなと、自然と笑みがこぼれる。

 そんな僕にクロヴィスが、


「陽斗は食い意地が張っているな」

「! いいじゃん、美味しい物が好きなだけだ!」

「そうだな、“美味しい”から仕方がないな」


 クロヴィスがそう面白そうに笑う。

 何だか馬鹿にされている気がする、そう僕は思って怒りながら歩いて行って、そこで……何で素直に戦闘に向かってしまったんだろうと気付いたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 気付いた所で後には戻れない。

 そんな道中にて、僕は魔物に遭遇していた。

 羽の生えた、円錐上の魔物で、精霊のなりそこないのようだ。


 あともう少しで精霊になるのかもしれない。

 けれどだからといってやられるわけにはいかない。

 仕方がないので、ただの杖(それでも装備できる物の中では強い物)を振るう。


 魔法を使うたびに、杖の先端についた丸い青い石と、その石を嵌めこむように作られたつる植物のモチーフから伸びる黒い金属の鎖の先についた、小さな青い石、その二つの石の中で黄色い光が小さな文字を描くようにくるくると回り輝く。

 その光は青い石の中なので弱まると緑色になって、その青色の石には青と黄色、緑の三色の輝きがう浮かぶ。

 威力もさることながら、この華やかな魔法少女の持っていそうな杖が主人公たちみたいな可愛い女の子が振るのはとても目の保養でした。


 それが何でこんな可愛い杖を僕が振らなければならないんだ。

 涙しつつも目の前の魔物を倒していく。

 だいぶ慣れてきたので、ここにいる魔物達を倒すために瞬時にどんな魔法が良いかと思いついて、それを使うのだ。


 ゲーム内で何度も戦ったせいで、弱点の属性やら何やらを記憶してしまっているのである。

 繰り返し学習するのは記憶にとどめやすいという実例なのかもしれない。

 さて、そう思って倒すとすぐ傍に現れたもう一匹をクロヴィスが倒す。


 一撃で真っ二つにして倒してしまうが、クロヴィスにとっては大した事のない相手だったようだ。

 ゲーム内で仲間だった時はそこまでではなかったけれど、ラスボスのクロヴィスはそれはそれはもう、強くてもう……。

 ゲームではあるあるなのだが、敵キャラだったキャラが仲間になるとそこまで強くなくなるという謎の法則に似たものを感じる。


 類似のあるあるでは、敵の持っていた危険な武器を使えるようになると、何故かそこまで強くないという……あの、がっかり感のあるあれだ。

 とはいえ、この世界でのクロヴィスは、何というかこう……現実的な意味でラスボスじみた強さがあるような気がする。

 なんとなくだけれど。


 そこでクロヴィスが僕を見て、


「陽斗も諦めて戦闘するようになったな。このまま戦闘と聞けば自分から飛び込んで行くようになるかもしれないな」

「そんな物になってたまるか! うう、本当は戦闘なんて嫌なのに」

「別に倒せる相手を怖がってどうするんだ?」


 酷く不思議そうに僕はクロヴィスに聞かれて、


「だって、死にたくないし。命は一つしかないんだもん、当然だよ」

「……そうだな。だが、戦闘で強くなれば女の子にモテるぞ」

「……そんな物がなくても、モテる方法だってあるもん」

「だが俺が魔物を倒すと、女の子にもてたぞ? 男にもだが」


 クロヴィスが僕にそんな事を言う。

 僕は思った。

 それはただ単に……。


「美形だからモテているだけなんじゃ」

「? 敵を倒すと、キャーって。強い男は素敵ですねって言われたが」

「美形が強かったら更にモテて当然じゃないか! なんだその、ただしイケメンに限るみたいな話は……許せん。やっぱり僕は、戦闘能力が上がってもモテる気がしない。普通に女の子との接点を増やすために町に向かってナンパしに行くんだ!」

「……それが上手くいきそうになったら邪魔してやる」

「! なんで!」

「陽斗は俺の“物”だから」


 クロヴィスは僕に笑いながらそう告げる。

 けれどその瞳は、ぞっとするような冷たさと本気が秘められているような気がした。

 ただ気になったのは、


「誰が“物”だ。僕はクロヴィスの所有物じゃない!」

「へぇ、じゃあここでお別れだ。一人で頑張って帰ってこい」

「! 帰りに魔物にあっても一人で戦闘……はっ、ここで魔物よけの道具を……クロヴィス、何で剣を構えるんだ」

「ん? もちろん陽斗が怠けないようにそのアイテムを壊すためだが?」

「う、うう……ぐす。僕はクロヴィスの所有物で良いから、一緒に来てよ」


 流石に一人の戦闘は嫌なのだ。

 そう僕がお願いすると、クロヴィスがまあ良いだろうと偉そうに僕に言ったのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 そんなこんなで魔物を倒しながら進んで行く僕達。

 とりあえず僕は倒しながら、“宝の持ち腐れモグラ”を探していく。

 多分何処かにそのモグラの掘ったらしい土や穴があると思うのだ。


 ゲーム内では道のすぐ傍にそういった穴を見つけたけれど、僕達は人が良く通っているので踏み固められたような土の道を歩いて森の中に入るけれど、一度も遭遇しない。

 明るい森で、木漏れ日が気持ちい。

 途中にちょっとした泉があると看板があったので、そこで僕達は休憩する。


「うわー、湧水、美味しい。クロヴィスは飲まないの?」

「喉が渇いていないからな」

「そうなんだ。でも美味しいな。少し汲んで持って帰ろう」


 後でコーヒーなんかを入れるのに使っても良いよなー、とわくわくしながら僕は水を組む。

 そこで地響きがする。

 ドシンドシンと大きな物が歩くようなそんな音だ。


 何が来たんだろうと音のした方を警戒しながら杖を構える僕。

 クロヴィスも僕の隣で、剣の柄に手をかけている。

 そしてその音の下方向からうっすらと僕の背よりも高い、楕円形の様な物が見える。


 それが更に近づくにつれて僕は気づいた。

 その茶色い毛並みに赤い瞳、あれは、


「“宝の持ち腐れモグラ”だ! 確か捕縛だったよね。網のアイテムは確か……これだ! “ゴムっぽい投げ網”」


 ゴムのように伸び縮みして投げると勝手に敵に向かっていき、しかも縮まってその物体を捕縛するのだ。

 これを使えば一発で終わりだと僕は思った。

 思ったのだ。


 だが泉のすぐそばというかすぐ傍の石の上にいた僕は、泉の水で濡れた滑りやすい部分に足を延ばしてしまい、そこで滑って転んでしまう。

 おかげでちょうど持っていた網が僕の真上に飛んで行って、視界全体に広がったかと思うと……。


「うぎゃああああ」


 網が僕に絡まりました。

 僕は敵じゃないのに、というかターゲットが僕達から逃げて行くのを、僕は目撃する。


「全く陽斗は何をやっているんだ」

「やりたくてやっているわけじゃ……クロヴィス、この網を切ってよ」

「陽斗が傷つくと困るから無理だな」


 僕を心配してくれたらしく、クロヴィスはそういう。

 そこで、網に触れて、


「それでこの網の魔法はどうやって解除するんだ?」

「確か外から中に手を入れて、紐を引っ張ると外れたと思う」

「分かった。それでその紐は?」

「僕の位置からは分からないよ」

「仕方がない、色々な場所から手を入れる事になるが、諦めろよ?」


 諦めろよと言ったクロヴィスの声がやけに楽しそうだった気がして僕は、恐る恐る見上げる。

 クロヴィスは笑っていた。

 意地悪そうな目で。

 待って、と言おうとした僕は、そこで肌を這うクロヴィスの手を感じたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 もぞっと首の辺りに、クロヴィスの手が触れる。

 首筋を動くそれがくすぐったくて、


「ぎゃははははは」

「……これはこれで面白いか?」

「あははっ、はあっ、それよりっ、あはっ、早く見つけてっ」


 けれどそう僕が言っているのに首の辺りばかりしばらくもぞもぞしてから、クロヴィスは手を引き、


「ここにはどうやらなかったようだな。では次に行こうか」

「あはっ、はあはあはあ……ふえっ、やぁあああ」


 そこで今度は僕の方のあたりに手が伸びる。

 服の上からもぞもぞと……けれど網で身動きが出来なくてクロヴィスの手に抵抗できない。

 そこで手が引き抜かれた。


「……ここには無かったみたいだな。次に行くか」

「わ、わざとだ。絶対にクロヴィスはわざとやってる!」

「それで?」

「そ、そろそろ本当に真面目にやってよ!」

「仕方がないな。どうせ陽斗の視界内にないなら、背後にあるだろ」


 気付いていたならもっと早くやってよ! 僕はそう思う。

 そこで背中をクロヴィスの手が滑る。

 服の上だから何ともない、そう僕が思っているとその手が僕のお尻の辺りに伸びてきて、


「ふぎゃあ、やだ、お尻触るな! 揉むなぁ!」

「そうはいっても、この下あたりにあるかもしれないというかありそうなんだから、ほら、少し前に転がれ」

「う、うう……これでどう?」


 何とか手前に倒れた僕。

 そこで更に下の方にクロヴィスの手がのびて行き……そこで、網が僕の体から解けた。

 ようやく解けたと思って、球状になったそのアイテムを手に取りながら、


「はあ、とりあえずありがとう。クロヴィスのおかげで助かったよ」

「そうだな、感謝しろ」


 嗤うクロヴィスを僕はじと目で見た。だって、


「よくも散々僕の体を弄んでくれたな」

「解放したからいいだろう? これがもし一人だったら……」

「く、くう……どうしてクロヴィスはそんなに意地悪なんだ」

「さあ、どうしてだろうな。それで、この後どうするんだ? あのモグラは逃げたぞ?」


 そう言われてそちらの方向を見ると、あのモグラの姿は何処にもない。

 逃げられたのだとすぐに分かるけれど、


「でも、ここの水を飲みに来ていたし、あのモグラがここに現れたって事は、ここの近くの何処かにモグラのダンジョンへの入口があるはずなんだ。その何処かに宝ものを隠しているはずで、多分その依頼主はモグラを捕まえてその宝を取り戻したいんだと思う」

「……依頼にはそこまで書いていないのによく知っているな、陽斗」

「ぎくっ、それはその……そう、以前そんな依頼があったから多分そうかなって」


 僕は慌ててごまかした。

 ここで異世界の人間だとクロヴィスにばれ、そのまま、仲間のいないラスボス戦に持ち込まれたら困るのだ。

 だから僕はそう言い訳したのだけれど、


「陽斗は嘘をつくのが下手だな」

「う、うう……」

「だが優しい俺は聞かないだやる。優しいだろう?」

「……うん」


 素直に頷くと、良い子だというように頭を撫ぜられる。

 僕は子供じゃないと言い返したかったけれど僕は我慢した。

 そして、それから……僕達は、あのモグラのいる方に歩いていき、


「ちょ、ちょっと待って、うわぁあああああ」


 地面に近い場所に掘られていたらしい場所で、そのモグラのダンジョンに僕とクロヴィスは落ちてしまったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 “宝の持ち腐れモグラ”を追いかけて森の中に入ってすぐ、僕は踏みしめた地面が崩れ落ちる。


「ちょ、ちょっと待って、うわぁあああああ」

「陽斗!」


 悲鳴を上げる僕の腕を掴んだクロヴィスも、同じようにその穴に落ちてしまう。

 周りに土の欠片が舞い、暗い壁が視界広がって、地上の光がどんどん遠くなる。

 ふわりとした奇妙な浮遊感は、僕が穴に落ちているから。


 この穴どれくらいの深さなんだろう、そう思っていると僕は誰かに抱きとめられた。

 その手はクロヴィスで、お姫様だっこの形だ。


「た、助かった、ありがとう、クロヴィス」

「お礼をういう前に、すぐに魔法を使えるように訓練しろ。俺がいなかったら死んでいたかもしれないぞ?」

「だ、だから戦闘の依頼は危険なので止めて家に引きこもろうかと」

「よし、今度はそういった緊急での対応を仕込んでやる。嬉しいだろう?」

「つまり?」

「最適な依頼を探してきてやる。俺は優しいだろう?」


 僕はクロヴィスを恐る恐る見上げる。

 地上の光が真上になっているとはいえ、濃い影になってクロヴィスの表情は見えない。

 けれどきっとまた意地悪く笑っているんだろうなと僕は思いながら、


「……何でそこまでするんだ」

「魔法使いは、戦闘狂なものだろう?」

「ま、魔法使いだっていろいろな人間がいるんです! もう降ろして下さい」

「よーし、このまま連れて行ってやろうか」

「やめてぇえええ」


 何が楽しくて男である僕が男にお姫様だっこされて移動しないといけないのだ。

 もはや絶望しか感じない。

 それでどうにか降ろしてもらった僕は、地面を踏みしめながら、魔法を使う。


「“妖精の(フェアリー・ランプ) ”」


 魔法を選択るる画面を開き、触れて、魔法を使う。

 僕の足元に光の円陣がくるくると回りながら現れて、杖の青色の石の中で黄色く輝く文字が躍る。

 同時にそれを横にかけて振ると、黄色く輝く球状の灯りがシャボン玉のように広がる。


 今回は小さめの灯りを沢山周りに振りまく事にしたのだ。

 その灯りで周辺は明るく照らされるが、周りは土の壁だ。

 耳をすましてみるけれど、遠くの方で風のざわめきが聞こえるだけだ。


「と、言うわけで隠している財宝を真っ先に探しに行きます。そのための魔法道具“猫に小判人形”。この人形は自動的に、宝のある場所に向かっていく魔法道具です。ただ宝ものには大抵魔法が封じ込められているので、それを察知して走っていく道具で……これはさすがに良いよね?」


 僕はクロヴィスを見上げると、クロヴィスは黙ってから、


「怠けるわけではなさそうだから良いだろう」

「わーい」


 というわけでその人形を使う。

 実はこのモグラのダンジョンは、好き勝手に穴が掘られるのでとても入り組んでいる。

 なのでこういったアイテムがないとはいっても辿り着くのが至難の業なのだ。


 しかもこの人形は、安全そうな道を選んで案内してくれるすぐれものなのだ。

 イベントアイテムの一つで旅の人形遣いという怪しい魔法使いに教わるアイテムなのだ。

 しかもその人形遣いは、この人形も含めてとても高度な魔法使いであったことが後に判明するが、結局はそれ以降出会うことはなかったはずだ。と、


「だがその人形、よく、ウィルワードが作っていたものに似ているな」

「……え?」

「人形系の魔法道具も面白がって大量に作っていたぞ? 確か、こんなのも」

「……ちなみにそのウィルワードは外を出歩く時変装していましたか?」

「そうだな、包帯巻いて仮面をかぶって、大きな帽子とローブを着て、極めて怪しい風体だったな」


 それを聞きながら僕は思う。

 もしかしてゲームで倒したあの竜は、主人公達がもともとイベントアイテムを教えてくれたやさしくて優れた魔法使いで……。

 そんな裏設定知らない、というかここはゲームの世界じゃないよな、似ているだけだよなと思う。


 でもそういえば、イベントを進めていく途中にあったイラストというかスチルでは、その塔を攻略した後にちらっと主人公の成長を見守るような位置で書き込まれていたはず。

 なのでこの世界とゲームの差異の一つなのかもしない。

 そう思って僕が安堵していると、


「それで、陽斗はウィルワードに教えてもらったのか?」

「い、いえ、又聞きで教えてもらっただけです、はい!」

「……まあいい、行くぞ。早く使え」


 クロヴィスにそう言われて僕は、その“猫に小判人形”を使ったのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 タタタタと走る人形を追いかける僕。

 猫の人形が軽やかに走っては、立ち止まって待ってくれる。

 けれど近づくとまた走り出してまた待ってくれる。


「やっぱり猫は可愛いな。うん、可愛い」

「陽斗は猫が好きなのか?」

「うん、猫は可愛いよね。お猫様な感じが……はっ!」


 そこで僕は警戒するようにクロヴィスを見た。

 理由は単純で身の危険を感じたからだ。

 そして明りに照らされたクロヴィスは、僕に微笑み、


「陽斗、陽斗は猫になってみたいと思わないか?」

「……特には」

「そうか。俺専用の“猫”にしようかと思ったが、残念だな」

「クロヴィス専用の猫って、どんな何でしょう」

「可愛がってやるぞ? そうだな、溺愛してやる。……どうだ?」


 楽しそうな声だし、それはとっても楽そうなのだけれど……。

 クロヴィスってゲーム内ではラスボスなんだよね。

 それで、ラスボスに猫として可愛がりたいと僕は言われていると。


「危険な匂いしかしない?」

「なんだ感づいたのか」


 楽しそうにクロヴィスが僕に告げる。

 そこで僕はそのクロヴィスの意図に気付いた。


「ま、まさかそれで僕が怠ける方を選んだ瞬間大量の戦闘の依頼が?」


 このクロヴィスは戦闘をさせたがっている。

 つまり今のは……罠だ。

 きっとそれを選んだ瞬間に僕は、とんでもない目に合わされるのだ。


 良かった、僕はぎりぎりの所で大丈夫だった。

 そう僕が胸をなでおろしていると、クロヴィスが苦笑して、


「陽斗が日頃、俺のことをどう思っているのか分かったよ。……いや、陽斗の事だから……ちなみにどう思っているんだ?」

「うーん、仲間でもあり、僕の事を、心をなくした戦闘機械にする、とか?」


 後半部分はあまりにも戦闘ばかりさせるので、試しにいってみただけだ。

 けれどそれを言った瞬間クロヴィスの表情が凍りつく。

 そのまますっと表情が消えて、僕を見下ろす。


 クロヴィスは恐ろしく整った顔をしている。

 その髪は黄金とも言えるような輝きを持ち、瞳は蒼く深い空の色。

 その瞳を見ていると、“空虚”な天上の“空”へと落ちていくような、そんな感覚に陥る。


 雲ひとつない蒼天を見上げて、とても大きな“何か”に恐れを抱くような感覚。

 雄大な自然にある種の畏怖を覚えるような、自分の矮小さを思わせられるような……。

 凍りついてる僕だけれど、そこで深々とクロヴィスはため息を付いた。


「戦闘機械にするつもりはないな」

「あ、あたりまえだよ、冗談だし。……本気にした? ごめん、気を悪くさせちゃったかも」

「いや、そういえば俺は随分と戦闘もぬるい物ばかりだったから少しキツメにした方がいいかなと、ここで考えを改めさせられた」

「会話が成り立っていないような気が……」

「すぐ“甘え”ようとする陽斗にはもう少しハードな展開が必要かもと思っただけだ」

「ひ、必要ないです! も、もうやだぁああああ」


 そう僕は叫んでその場から駆け出す。

 そして猫の人形を追いかけた僕達は、ようやくある場所にやってきたのだった。


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