兄と可愛い妹と友人。
「俺の妹の話をしよう」
「いきなりお前は何を言っているんだ」
とある高校の昼休み、俺は友人に向かって真面目な表情で話を切り出した。友人がとても困ったような表情をしているが、今回に限って、譲る気も引く気も全くせぬわ!
「は? 妹がたまらなくかわいいからに決まってるからじゃないか。昴って男っぽい名前だけど、最高に愛らしいんだぞ!」
「おまわりさんコイツです。……まあ、今日に限って残念なことに僕には予定がない。仕方ないからお前の話を聞いてやる」
では、妹の事を話す前に、少しだけ俺と妹について説明しよう。俺は梓、この高校に通っているいたって普通な高校生だ。好きなもの・好きな人は妹である昴。無論恋愛感情を抱くような変態ではないが、兄として妹にはこれ以上にない愛情を注いでいるという自負はある。
「僕にはその独白の時点でアウトな気がするんだけどな……」
地の文を読むな。
まあ、いい。俺の妹である昴は小学校中学年になったばかりだ。
「この前俺が部屋で勉強していたらさ、風呂上がりらしい昴が部屋に入ってきて、ドライヤーと櫛を出しながら『梳かして』って言ってきたんだぞ!? 髪を梳かしているうちに後ろから優しく抱きしめたくなったじゃねえかこんちくしょうがぁ!」
「もろ踏み外しかけてるじゃないか!? って言うかお前の妹、兄に髪梳かしてもらってるのかよ!」
「悪いか! 昴は髪を梳かしてもらうためにわざわざ俺の部屋に来る事があるんだ。風呂上がりで体が淡い朱に染まっていたり髪からシャンプーの香りがするんだよ! 俺じゃ無かったら道を踏み外しているだろ!」
「お前も十分大概だよ! お前そんなんだから『顔は悪くないのに残念すぎる男子』って言われるんだよ!」
酷い話である。まあ、俺も自分が残念な男子である事は認めるが。後、顔は悪くないって……お世辞じゃないのか?
「そう言えば、たまに俺が家に帰ってくると、鍵をかけてたはずなのに妹が俺の部屋で入り浸っていたりするんだが……何でだろうか?」
「知らねえよ! お前の妹も十分にブラコンじゃねえか! 普通兄の部屋になんて気持ち悪がってはいらねえぞ!」
問題ない、俺の部屋に如何わしい物など何一つないからな。妹に変なものを見せられるか!
「その愛情が怖いわ!」
「だから人の感情を勝手に読むな! そんな妹だけど、この前二人でデパートに遊びに行ったとき、ふと目を放すと妹がいつの間にかいなくなっているんだよ。無論、すぐに見つけることができたわけだが……」
「すぐ見つけられると堂々と言えるお前がすごいわ……」
もう叫ぶ気も起きないようで、ぐったりと友人が呟いた。
「それでな、昴が俺に気付くやいなや、一目散に逃げ出したんだわ。何度かストーカーに間違われながら追いかけて、休憩所で立ち止まったんだよ。で、息を荒げながら上目づかいで『これ、……あげりゅ』って噛みながらも、俺にお揃いの簪を渡してくれたんだよ……! 可愛すぎるだろ……!」
がばっと机から立ち上がり、妹への愛を叫ぶ俺。周りの人は突然のシャウトにびくっとしていた。……おい、気持ちは分かるが引くな。悲しくなる。
「お前な……、いつかお前の妹も兄離れするんだぞ? いつか、『兄貴、きもい』とか言われて自殺とかするなよ……?」
「え、昴に冷たくされるのって、なんかゾクゾクしねぇ?」
「おい」
作ったキャラが一発ネタにするにはあまりにもったいないので小説の主人公にしてみました。
少しの間楽しんでいただければ幸いです。