おこる
一夜が明けた。
あれから私とセイレンは5人に話を聞いて回った。
その後、現場に戻ってセイレンの調べ物の手伝いをした。
気がつけば深夜になっておりその上精神が昂ぶっていた私は結局眠ることが出来なかった。
欠伸をかみ殺しながら先ほどセイレンが指定した場所へと赴く。
小脇に抱えた荷物はこちらもセイレンに頼まれて用意したものだ。
天才に「頼まれる」という事に、少し満足感に浸る私を待っていたのは保安官の仏頂面だ。
いや、保安官だけでなくゴットンやミエーといった生徒や教授も何人かいた。
遠くのほうでは既に何人かの野次馬が集まっていた。
「全員揃いましたか。」
私を見てセイレンが呟くと保安官が不機嫌そうに声を出した。
「で、朝っぱらから人を呼び出した挙句に雑用まで押し付けたんだ。犯人の1人や2人、教えてくれるんだろうな?」
「それは無理です」
「なに!?」
あっさりとしたセイレンの言葉に、凄みを効かせて保安官が歯を剥いた。
「2日あれば解決できると吐かしたのは誰だ!俺たちを集めたのは分かりませんでしたと謝る為か?!」
今にも殴りかかりそうな保安官に、しかしセイレンは動じることは無かった。
「結論を言いますと、ベルゲルが死んだのはあくまで事故であり、事件ではありません。まぁ致命的な原因は…メリドさん、あなたにぶつかった事が原因だ。」
そう言ってセイレンが指差した先に居たのはあの時、ベルゲルとぶつかったあの女子生徒だ。
「待って。ベルゲルは心臓が破裂してたんでしょ?人にぶつかって、それも大男ベルゲルが華奢なこの娘に当たったせいで死んだって、あなたはそう言うわけ?」
訳が分からないとミエーがこめかみを抑える。
いや、集められた一同が全員同じことを思ったはずだ。
「そうです。しかし別にメリドさんが犯人という訳ではない。先程も言った通り、ベルゲルの死は事故だ。だがこの事故が起きた背景には、たった1人の人間の汚い欲望が絡んでいる!」
いつもの淡々とした口調ではない。
強く糾弾するように言うとセイレンは魔法の試射試験で使われるダミー人形を取り出した。
「魔法とは、自然界に対し、人間の意識を反映させ望む結果を得る技術だ。しかし、魔法が確立され系統分けされ、広く一般に普及しても未だに使えぬ奇跡がある。それは《回復魔法》だ。ではなぜ《回復魔法》が未だに実用化されないのか?」
朗々と語り出したセイレンに一同は目を丸くした。
「なぜだと思いますか?」
急に話を振られた保安官はしかし不機嫌な顔で唸るだけだ。
「人間の意識があるからよ」
見かねたミエーが答えると、セイレンは満足気に頷き、口を開こうとした。
だが保安官の怒声の方が早かった。
「魔法の講義なんぞいらん!それに心臓を破裂させる魔法なんぞ無いんだろう?!それともやっぱりありましたとでも?」
「無い。無いからあなた達は問題を履き違えた!いいか、人間の心臓は脆い。このダミー人形には特別に仮想臓器が移植されている。ある一定の条件が揃えば心臓なんて簡単に破ける!!」
そう叫びセイレンは人形の胸を殴った。
何かが破裂する音が一同の耳にハッキリと聞こえた。