まかせる
「さっきそんな魔法は存在しないといったな?」
「はい」
高圧的な保安官に対し、セイレンは微動だにしない。
「一介の学生になぜそんなことが明言できる?」
「正確には今回のような殺し方が出来る、魔法という事になりますが。こういう現象は《呪術》に分類されますが、《呪術》の欠点として呪いを受けた相手には必ず紋と言われる痣が浮かび上がります。保安官殿も一度や二度ならご覧になった事があるのでは?」
セイレンの言葉に保安官は苦々しげに頷いた。
「それが無い以上、《呪術》による攻撃ではない。そしてこの殺し方が出来るのは《呪術》しか無いなら、これができる魔法は無い。」
当たり前だと言わんばかりのセイレンに後ろで黙っていた副保安官が言葉をぶつけた。
「お前の知らない新しい《呪術》かもしれん。暗殺者が独自に改良した《呪術》かもしれん。お前の推理は自身の知識という狭い了見で出した答えだろう?」
「戦場が長いならご存知のはず。世の中に本当の意味で画期的な技術など無い事が。」
「なっ!?」
言ってもいない自身の経歴を看過され、副保安官が絶句した。
確かにゴツイ男だが、どうして長く戦地に居たなど分かるのだろうか?
「1つの技術が確立された時点でそれを用いたあらゆる可能性は示唆されている。それに気付かないでいる愚かしさをつまらない御託で誤魔化すのは愚の骨頂。たかが暗殺者が自力でどうにか出来るなら、3世紀前の大賢者がとっくにそうしている!」
唖然とする周りを差し置いて、セイレンは1人憤然とした様子で熱弁を奮った。
「とりあえず、筋は通っている。」
保安官がそう言って鼻を鳴らした。
「何がしたい」
「僕に任せて下されば、2日で解決しますよ。」
馬鹿げた発言だ。
普通はこんな人間のいう事など聞かない。
それがどういう訳か保安官は踵を返した。
「2日だ。もし捕まらなかったらお前が犯人だ。」
脅すように言って、保安官は立ち去ってしまった。