であう
回廊を走るベルゲルの正面に1年の制服を着た女子が立ちすくんでいた。
「どけぇ!」
「っ!」
乱雑に押し退けられた女子は、ベルゲルの左肩にぶつかり倒れた。
信じられないのはその後だ。
押し退けたベルゲル自身も倒れたのだ。
倒れた後、何の反応もないベルゲルに恐る恐る近づいた生徒が驚愕の声を挙げた。
私も興味本位でそれを見た。
そして後悔した。
断末魔だった。
カッ、と見開いた目は壮絶な凄みを帯びたまま濁り、苦悶に歪んだ唇からは大量の血が溢れていた。
死んでいるには明らかだった。
そして、今に至る。
校内に瞬く間に広がった噂は現場に野次馬を呼び、保安官の到着を遅らせた。
現場検証には2人の保安官と8人の教授。
そして倒れるのを目撃し生徒19人が参加した。
「別に病気持ちとかじゃないんだろ?」
教授達に確認をとる保安官が盛大に溜息を吐いた。
「まぁ病気よりも呪いか?」
通信符に何やらボヤキ、再び盛大に溜息を吐く。
「解剖の結果だが、奴さん、心臓が破裂していたらしい」
心臓の破裂?
どう考えても尋常な死に方では無い。
保安官の言葉を聞き、あちこちでざわめきが起こった。
「こいつは俺の私見だが、こういう殺し方は魔導士の専売特許なんじゃないか?」
教授達を睨むように見る保安官に反論したのは、しかしどの教授でもなかった。
「それは無理です。現在、『相手の臓器をピンポイントで破壊する』なんて魔法は存在しません。」
「誰だ?お前は?」
「通りすがりの学生です。」
保安官にそう答えた男子生徒は、学院でも特に有名な生徒だった。
「セイレン・イルク・ドミナス!ここで何をしてい?君には『特殊環境下における進化の考察』のレポートを命じていたはずだが。」
教授の1人が嫌味ったらしくセイレンに尋ねた。
特殊環境下における進化の考察。別名懲罰の書。
全992109ページにおよび、そのうえ書かれた年代が古いため言葉、書かれている地名など現代との相違点が多く、正しく読むだけでも19年はかかると噂だ。
この本のレポートは在学中には絶対に終わらない。
即ち、「二度と学校に来るな」という意味だ。
「終わりました。」
しかし、セイレンはあっさりとそう言った。
「終わった?馬鹿な!あの本の…」
嘲笑う教授に分厚い冊子を押し付けると、セイレンは保安官に向き直った。
「脱線してすみません。」
他の人間とはどこか違う。
そういった空気を醸し出し、セイレン立っていた。
私がセイレン・イルク・ドミナスと初めて接点を持った瞬間であった。