はじまる
レトール王立魔導学院。
魔導大国レトール王国が設立した学び舎では、将来を有望された見習い魔導士達が日夜修練に励んでいた。
レクの月、蒼の週。
その日、学院の生徒である私、マレウス・ルードは衝撃の只中に居た。
学園一の攻撃魔法の使い手、ベルゲルが死んだ。
死因は不明。
「な、なんだ?何が起こったんだ?」
目の前で起こる不条理に私は完全に混乱していた。
事の発端は10分ほど前に遡る。
講堂と図書館を繋ぐ回廊を歩きながら私は思索に耽っていた。
新しい魔導式の構築を楽しむ私を、怒気を含んだダミ声が現実に引き戻した。
「どけぇ!どきやがれ!!」
後ろから走ってくる巨漢、ベルゲル・ベルティーンの姿を見て戦慄した。
私はどちらかと云うとイジメられっ子だ。
対するベルゲルは典型的なイジメっ子。
私にとって、非常に嫌な相手であった。
反射的に道を空ける。
「殺してやる!殺してやる!」
すれ違いざまに聴こえた呟きに背筋が凍った。
【無惨】のベルゲル。
当代一の攻撃魔法の才能を持ち、将来は王国軍の将官と言われている。
【無惨】の称号は彼が得意とする攻撃が、集団戦を得意とし個人に対し使用するとそれは酷い結果を招くからだ。
そんな人間が誰かを殺すと言うのだ。
未遂に終わったとしても相当な被害が出る。
「どけぇ!邪魔だ!!」
私の思考は再びダミ声に邪魔された。