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◆07 物語にはつきものな

ほんのり?ガールズラブ要素有り

「気をつけなさいと言ったじゃない。何もされなかったから良いものの、青い鳥……いいえ、あの魔法使いは危険なのよ」


 ああ、忘れていた。本音を言うと、ただの夢だと思ったから特に考えていなかった。

 漂うがままのクラゲみたいな感覚でも、今回は意識がちゃんとある。これは、いつもの夢とは違うのか。

 

「そう、これは夢であって夢じゃないの。良い? わたしが力を得るまで、あの男の思惑通りにしてはいけないわ」


 力?

 これは夢なのか、前会ったときと同様ぼんやりとしか魔女だという女性を認識できない。何となく前よりはハッキリしたが。

 魔女は白い髪に、黒い服。ボロボロのそれで包むのは細すぎる体だ。


「わたしが力を得れば、具現化できるの。あなたの夢の中ではなく、実体としてわたしは存在することが叶う。そうしたらあなたの事をもっと助けることが出来るわ。そのためには、魔法使いの狙いを阻止する必要があるのよ」


 魔女はアルのことを危険だから警戒しろと言うけれど、あの変人に警戒心を抱けない自分が居る。――どうしても寂しげな姿が忘れられない。


「仕方のない子ね。今はそう思えても、いずれわかる時が来るでしょう。まずは……そうね、アリスって子。あの子、使えるわ。あなたは意地悪な二人からアリスを守ってあげなさい」


 使うつもりはないけれど、言われなくても彼女を守るつもりだ。


「その心意気よ。手始めに、掃除をするとき、特に床とか暖炉ね。バケツを蹴られないようにしなさい。そうね……石でも入れた偽物を用意しなさい。あと料理に関してだけど、あなたの思うとおりに調理すると良いわ。食材も全く同じものだから。ただ、食べる習慣が無かったり、使い道が違ってたりするけど」


料理はこの世界で武器になるでしょうと、更にぼやけた視界の中で魔女の赤い口が弧を描いた。




***




 登ったばかりの朝日が眩しい。

 鳥がさえずっている。

 そして隣に、銀髪の美少女。


朝ちゅんという奴だ。


 銀色の長い睫は自然とカールしている。ビューラーいらずで、大きい瞳をもっと大きく見せられるとは羨ましい。腰まである髪も、縮毛いらずだろう。柔らかくて、癖の一つもついてない。


 何とかアリスの家に居候させて貰うことが出来た。

 今いるのはアリスの部屋、彼女のベット。

シングルサイズのベッドに二人寝るとなると、いくらアリスが小柄とはいえ体が密着するのは当然で、しかも相手は将来有望すぎる美少女だ。そんな彼女に抱きつかれては平常心を保てない。

アリスは良いと言ったけれど、早急にもう一つベッドを買わなければ。そのためにはお金が必要だ。



「ん……おはようミチル」

「おはようアリス」


 何でこんなに可憐なのか。寝起きのアリスに胸が跳ねる私。って言えるほど無いんですけどね!

私にはそっち系は皆無だ。目覚めそうで恐々としてるけど。


誰か、この何とも言えないやるせなさに同情してくれないだろうか……。



 二人して身支度を済ませる。謝罪の言葉と共に貸してくれたのは、アリスが着ているのと同じ、継ぎ接ぎだらけのワンピースだ。貸してくれるだけ嬉しい。

いつまでも借りるわけにはいかないし、アリスの分も兼ねて新しい服も手に入れたい。

 顔を洗い、アリスに手伝って貰って継母の条件通り朝食を作る。

蒸し野菜に、パン、シチューを用意すれば、野菜を蒸す事に驚かれた。焼く、煮る以外しないとか。


 食材は、魔女の言っていたとおり元の世界と同じだった。だけど使い方は大きく異なる。

 例えば卵。鶏を飼ってはいたけれど、全て食肉用で卵は食用ではなく捨てていた。

小麦粉も、水で練って焼いただけのパン以外の使い方もしていなかった。

 これだけでも大きく料理の幅が広がるのに、この世界の料理人は何をしているのだろう?



 昨夜と同じく私が作った料理を食べて感激するアリス。その笑顔に、私も嬉しくなる。


「こんなにおいしいのに、それを知らない人が居るなんて勿体ないなあ。もっとたくさんの人に食べて貰いたいよ」

「ありがと。あんまり褒められると調子に乗りそうだよ……他にも色々出来そうだから、楽しみにしてて。いっぱい作るから」


 私はおだてられると弱いタイプだ。照れてしまう。


「料理、掃除と何とかなりそうだけど……条件の仕事がなあ。アリス、どこか良いところ知らない?」


 仕事を紹介してもらえればと思ったけれど、自分で探せと継母に言われた。こうなったからには何でもやるつもりだけれど、求人があるかが問題だ。


「ごめんね、知らないの。近くの街で人手を探してるなんて聞いたこと無いかも」

「そっか……訪ね回るしか無さそうだね」


 二人で悩む。この後掃除をし、昼食を作ってから出かけようかと考える。


「どうせならミチルの料理が活かせるような仕事なら良いのに――」


 アリスが小さくつぶやいた。



***




 私とアリス、二人の食事の片付けをする。その間に継母や義姉は朝食を取り、次いでその片付けもする。どうやら私がここに居候する事を義姉に話していたらしく、非難の声が聞こえた。


 継母は靴の新調に出かけ、義姉は私の姿を見るなり部屋へ戻っていった。ちなみに昨夜食料庫に確認したときには義姉の姿は無かった。実は、怪我させてしまったんじゃないかと少し心配だったが、大丈夫な様子で安心する。



 次に家の掃除を始める。

アリスに掃除用具一式を出して貰い、雑巾を手にした私は唖然とした。


「ア、アリス……これでいつも掃除をしていたの?」

「うん。でも拭いても拭いても汚れが落ちないんだよね」


 ダヨね-……そりゃそうだ。雑巾は見たこともないくらい黒かった。染みついた色ではなく、埃などが固まって表面にくっついている。もはや布に見えない。


「他に、雑巾は?」

「無いよ? 後はわたしの服から作っていかないと」

「そ、それは良いや。じゃあ……まず雑巾を……洗おうか」


 雑巾洗うの? と驚くアリス。

 最初は拭けていただろうが、ここまでになった頃には汚れで汚れを拭いていたんだろう。却って汚れを塗り広げていたのではと、乾いた笑いが出た。

長らく更新停滞してすみません。読んでくださりありがとうございます。<(_ _)>

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