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◆06 放っておけない美少女との出会い②

※ほんのりとガールズラブ?的な表現ありです。

「……おいしい」


 野菜スープを飲んだアリスがつぶやいた。

 私は胸をなで下ろす。


「実はね、こっそり塩をひとつまみ入れたの。口に合って良かった」

「それだけ!? 本当に? あ、お肉もやわらかい。これにも塩を?」

「さすがに干し肉だから、何もしてないけど……焼き加減かな?」

「焼き方かあ。ミチルは料理の天才だね! こんなにご飯がおいしいの初めてだよ」


 金の瞳を輝かせてはしゃぐアリスに、思わず頬がゆるむ。抱きしめたくなってしまう可愛さだ。



 しばらく夕食を楽しんだところで、私は話を切り出した。


「アリス、ご飯をごちそうになった上で申し訳ないのだけど、今晩だけでも此処に泊めてもらえない? 実は私この国の外から来たんだ。だけど道に迷って、人にあって……」


 その人に、国に帰れるよう手配して貰えた。しばらくの間は、町一番のこの屋敷なら泊めてくれるだろうと言われて来たと説明した。異世界から来たことは伏せて。

 アルに話して後悔したからだ。理解してもらえるか――そもそもアルは聞いていなかったが――自信がない。怪しまれでもしたら、最悪この町で、屋根のある場所では寝られなくなってしまうかも知れないのだ。考えたくはないけれど、捕まることもありえる。


 アリスの知人かと思い、私を案内してくれた人の名を聞けば、アリスは知らないと首をひねった。


「……アルバート? 初めて聞く名前だなあ」

「知らないの? 向こうはアリスのことよく知っていたみたいだったけど」


 もしやストーカー? こんな美少女なら居てもおかしくない。

 私の鞄を取ったのと良い、変質者だったのかも。今度あの魔法使いを見つけたら問いただそう。


「その人のことはよくわからないけど、ミチルをここに連れてきたのは意味があるのかも。何かの縁だし、大したおもてなしは出来ないけど、泊まって行きなよ」

「良いの? そんなあっさり……」

「うん、全然良いよ! 行く宛が無いなら一泊とかじゃなくて、一緒に暮らそう?」


 快すぎるほどに、アリスは私に提案する。そこへ、カツンと靴音が響いた。


「アリス、そこにいるのは誰です? 勝手に家に連れ込み、物を食べさせるなど。その上、住まわせるとは誰の許可を得て言っているんですか?」


 怒気を含んだ女性の声。

 そうだった。義姉だけではなく、継母も居るのだった。

 階段から下りてきたのは、きっちり編み込まれた白髪交じりの茶髪に、痩けた頬を持つ中年の女性だった。

 険しい顔で椅子に座るアリスの側に立ち、私を指さす。つり上がった目と口調からして、意地悪そうな継母だ。


「か、彼女はミチルと言います。訳あって行く宛が無いそうです」

「だから見知らぬ怪しい者を泊めると? 住まわせる? 言語道断です! 穀潰しは一人で十分。そこのあなた、今すぐここから出て行きなさい!」

「ま、待ってくださいお義母様! 今日の夕食は彼女が作ったものなんです! お食べになってみてください!」


 出て行けと怒鳴る継母に、アリスは慌てて台所へ向かい、スープの入った皿を手に戻ってくる。それを継母に差し出した。

 緊張する空気に、私は動くにも動けなかった。


「怠けたいからと、こんな怪しい者に夕食を作らせたのですか?」

「怠けた訳ではありません。彼女は料理が上手なんです。一口だけでも口にしてみてください!」


 アリスの必死の懇願に、継母は訝しげならも一口スープを飲むと無言になった。

 

 沈黙が重い。

 この家で暮らしているのはアリスだけではないのだと、浅慮な自分を私は悔いた。迷惑な事を言って、アリスの立場を悪くしてしまったのだ。

 もういいからと呟いて、私が席を立とうとすると、継母はさっきの怒気はどこへやら静かに言った。


「……良いでしょう、好きにしなさい。ただし、食事はこのミチルとやらに作らせること。掃除もやらせること。部屋もあなたと共同にし、これまで以上に働くことが条件です。彼女には仕事か何かで、食事代ぐらいは払って貰いますから」


 手の平を返した継母の多い条件に、アリスは私を見る。


 そりゃあ、無賃で厄介になろうなんて思っていなかった。それに、アリスの助けにもなれるだろう。

 条件は多いが、一晩限りではなく、住み着いても良いという。私にとっては見知らぬ土地での衣食住が揃うのだから、願ったり叶ったりだ。

 私は力強くアリスに頷き、継母に頭を下げた。


「ありがとうございます。しばらくの間ご厄介になります」

「ふん。アリス、さっさと食事を済ませてわたくしの夕食を用意なさい。お皿に盛るだけならあなたも十分に出来るでしょう」

「は、はい!」


 継母は苛ただしげに足を踏みならし、部屋へ戻っていった。


「……私のせいで、色々ごめんアリス。少しの間、お世話になります」


 今度はアリスに向き直り、私は深々と頭を下げた。


「ううん、いつものことだから気にしないで。それより、あのお義母様を黙らせるなんてすごいよ!」


 お義母様は基本的に文句しか言わないからと、アリスは苦笑した。


「それにね、少しじゃなくてずっと一緒に居てほしいな。……本当はね、ミチルが追い出されたら、わたしも付いていくつもりだったんだ」

「ええ!?」

「お父様が死んじゃってから、わたしはあの二人に虐められて生きてきた。でもわたしにはお父様が残した此処しか無くて。罵られるのは日常茶飯事だったし、水をかけられることもよくあった。……助けて貰ったの、ミチルが初めてなんだ」


 悲しそうに眉根を寄せるアリスの笑顔に、私はしんみりとした。

 追い出されたら、美少女との駆け落ちがエンドが待っていたとは、想像しておいしいとか思ってしまった自分が恨めしい。もしそんなことになれば、私はアリスに多大な迷惑を掛けることになってしまうだろう。ただでさえ苦労しているアリスに、そんな事はしたくない。


 あの物語が現実なると、こうも残酷な物なのかと私は考えさせられた。

 どの話にも主人公が居て、様々な苦難を乗り越えていくけれど、弱い私にはできない。主人公になれないだろう。

 虐められても健気に生きる少女を目の当たりにして、そう思った。

 アリスは私と違って芯がある。

 

「私で良ければ、何度でも助けるよ」

「うん、ありがとう!」


 そこで、何か思い出したらしく、私の目を見てアリスはぽつりと言った。


「だから。わたしの気持ち、冗談じゃないからね」


 ぱっと笑ったアリスは、背後に花々が見えるんじゃないかってくらい可愛いかったけれど、言葉の裏に執念のようなものを感じて、私の口はひきつったのだった。

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