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◆03 青い服の変人魔法使い

 低すぎない、テノールよりもアルトに近い声。

 良い声なのだけれど、不審と非難が込められている。

 “何者か?”より、“何でいるの?”と聞かれた気がした。


 電車に跳ねられ、異世界トリップして、美人な魔法使いに会い、ただ今私は不審がられています。


 それはそうだ。私だって、ひとけの無い森から出てきた人に突然会ったら――誰って聞くだろうか……?

 相手の反応に、私は戸惑いつつ警戒されたままなのは困るので、正直に答えた。


「えと、はじめまして。私は時宮満と言います。色々あって、私はこことは違う世界から来たみたいなんです。元の世界に帰りたいのですが、帰る方法を知りませんか?」


 言ってから気が付いた。


 おそらく電車に跳ねられただろう私は、元の世界では一体どうなっているのだろう?

 読みふけったトリップものでは、精神だけが来るタイプと体ごと来るタイプに二分した。

 前者だった場合、無事帰れたとしても私の体は無事じゃない。帰った途端背中に羽をはやした方々に迎えられる。自分のスプラッターを拝めるかもしれない。

 後者は無傷で生還できるわけだが、また同じ所に帰された場合、タイミングが悪ければ本当に電車に轢かれてしまう。こればかりは、神様を呪うしかない。

 冗談ではないが、帰ってみないと分からないことなので、私は考えないことに決めた。

 

 それに、異世界で通じるだろうか?

 自分と相手の格好などから、明らかに文明の差がわかる。目の前の魔法使いもそんな私を訝しんでいるのかも知れない。下手に言い繕う事は出来ないだろう。

 内心冷や汗を掻く私の話を、聞いているのかいないのか、魔法使いは首を左右にかしげだした。


 「うーん……おかしいなあ」


 確かに、見知らぬ人にこんな事言われたら、相手を頭おかしいんじゃないかと思うだろう。私としては事実を述べただけだけれども。

 でも魔法使いは、私に対して言った訳じゃないようだった。

 この反応に、私は違和感と不安を覚える。


「あの-、日本なんて知りませんよね? 東京とか、アメリカとか。地球はわかりますか?」

「うーん」


 あらぬ方向を見上げて唸る魔法使いに、私は落胆した。この人、話聞いてない。

 そして、私を置き去りにして、魔法使いは独り言を言い出した。悪態付いたり、意味不明なことをつぶやいている。

 腕を組んであらぬ方向をキョロキョロ見渡す魔法使いは、私の事を完全無視だ。

 質問しておいて、私の自己紹介や話は聞いていない。会話が出来ていない。そもそも始まってすら居なかった。


 何だろうこの人……変だ。

 言葉のドッチボールをした結果、私の仲での魔法使いの第一印象は、早くも崩れ去った。

 くねくねと首をかしげる様に、冷たい印象やら寂しげやら思った自分を後悔する。幸せじゃなくて厄介事を運んできそうだ。


「あー! まあいいや、めんどくさい!」


 一つ手を叩き、突然叫んだ魔法使いは、何この人……としらけた私の腕を掴んだ。そっと、フェードアウトしようとしていたのに。


「色々と面倒だし、とりあえず今からあそこに連れて行くよ。追々考えるからしばらくそこで過ごして貰おうかな」

「はい!? 人のこと面倒って……連れて行くって、私の意志無視ですか!?」

「うん。そういうわけだから、大人しくついてきてよ」

「!?」


 帰る方法知ってるのかと聞く私を無視し、ずるずると腕を引っ張る強引な魔法使い。向かう先は、さっき魔法使いが眺めていた方向だ。

 抵抗しても止まらない歩みから、魔法使いは私が何を言っても連れて行く気は変わらないのだろう。

 ちょっと待てやコラーと、踏ん張ってはみたが、細いながらに力は男性の物で、逆らうことは難しかった。

 しかも足が長い。背も高く、体格差があるのにひっぱられて、倒れそうだった。


「わ、わかったから! 腕を放してください。ちょっと、こ、転け、る!」

「あー、ごめんごめん」


 そう言うと、魔法使いは素直に手を離してくれた。進む歩調は変わらずに。

 慌てて後を追いかける。

 此処に置いて行かれても、見知らぬ世界ではどうしようもない。第一に衣食住は確保しなければ。生きられなければ帰れない。

 花畑を抜けて、坂を下る。魔法使いが言ったあそことは、下に見える赤い屋根の大きな家だった。


「っで、私は名乗りましたが、あなたこそ誰?」


 小走りでついていく。

 細身で高身長、顔も良しと見た目は完璧なのに、知り合って早々中身が残念な予感がする。

 いわゆる残念なイケメンに、私は敬語を忘れていくことにした。


「僕? 僕はアルバート。悪い魔法使いさ」

「……え?」


 ここは普通にうなずいて良いものなのかと困惑する私に、魔法使いは薄ら笑いを浮かべる。

 この人と一緒にいるのは危険かもしれないと思うも、寂しげな薄ら笑いに恐怖は感じず、逃げる気は起きなかった。




***




 目的地に着くまでの少しの間、魔法使いことアルと話をした。

 アルバートと魔法使いの名を呼ぼうとしたら、噛みそうになったので、短くしてアルと呼ぶことにした。こんな奴二文字で十分だ。

 驚かれたが、特に嫌がられた訳ではないので、アルで通すことにした。


 日本という国に住んでいて、誰かに押され、()かれそうになったと説明したが、興味無いと、一刀両断。

 それよりも、今から行く先では大人しくして、ただ傍観していれば良いからと、一方的に言われた。


 ……考えるとか言ってたけど、大丈夫だろうか?

 話すほどに最初の印象とかけ離れていき、“変わった人”から“悪い意味での変人”となった。……どうも頼りない。

 質問しても、まだ何やら考えているのか、返事もない。


 殆どのトリップ物語は、召喚に魔法使いが関わってたじゃないか。だからきっと、と無理矢理納得しようとする自分が居た。



 ……すぐには帰れる気がしません。

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