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◆25 名前が覚えられない悪魔

 本格的に迷子になりました。


 魔女が現れてから、小鬼の歌を聴きいたり気を取られている内に自分がどこを通ったのか分からなくなってしまった。これでは元来た道もわからない。

闇雲に歩くのもまずいだろうと、困っていると木の上に青い光が二つ灯った。

 火の玉だ。今度は本物の化け物かもしれない。


「ひっ」

「君って奴は、こんなところで何をしているの」


 落ち着いた声に、恐る恐る近づいてみれば木の上にいたのは灰色の猫だった。


「……何だアルか。びっくりした」

「その割に悪魔と会ったっていうのに平然としてるね」

「あ、さっきの小鬼って悪魔だったんだ」

「わかってて来たわけじゃなかったのか……」


 どうしよう、名前を歌っていたけど忘れてしまった。ヘンゼルに呪いをかけた悪魔だった可能性もあったのに、ぼやける頭が憎い。

眠気を飛ばそうと頭を振る私に、アルはため息をつくと、細長い尾を横に振る。


「あっちだよ。アリスが君を待っている。早く行くと良い」

「あ、ありがとう」


 やけに静かなアルに、私は何かあるんじゃないかと怯えながらも礼を言ってその場を去った。後ろに二度目のため息を聞きながら。




「どこに行っちゃってたのミチル! 心配したんだから!」


 アルの指し示した方向に歩くとすぐにお菓子の小屋が見えた。

外で待っていてくれたアリスは私を見つけるなり抱きしめてきた。頭の上に、腰に手を当てたリンクが立っている。

はぐれた時間は、そんなに長い時間ではなかったけれど、心配をかけてしまって申し訳ない。


「もうアリスと一緒に材料集め終わっているから、早く作りなさいよ」

「心配かけてごめんね、ありがとう」

「手伝うよ、何すればいい?」

「そうだなあ、材料を洗って貰っても良い?」

「うん。ほらリンクもやろう?」

「……アリスの誘いなら。あんたを手伝うわけじゃないから」


 二人は小屋の中に入っていく。入れ替わるようにしてグリムおばあさんが出てきた。


「遅かったの、腹が減ったわい」

「すみません、道に迷ってしまって。すぐに作ります。……そういえばこの小屋は食べられないのですか?」


 ずっと気になっていた。香りはしないが、見た目、手触り共にお菓子のそれだ。非常食? 


「食べられるぞ? 死んでも良いならのう……。これには毒が仕込んである。腹を空かした兄妹が食べてしまうかもしれないからな。くくく、お主の料理、楽しみにしているぞよ」


 第一印象はどこへやら、グリムおばあさんはにんまりと笑う。リンゴの話同様冗談なのかそうなのかわかりづらい。物語みたく、いろんな意味で甘くはない。寝ぼけて壁を食べるなんて事は無いようにしよう。

 引きつる私の顔を見て、グリムおばあさんはすぐに笑みをひっこめた。


「ところでお主、良くないものに憑かれているな」

「……良くないもの?」


 リンクにも言われたことだ。

私にも思い当たる節がある……魔女だ。素晴らしい助言をくれる彼女だが、禍々しいと感じるから。


「気をつけよ。決して奴に飲み込まれてはならんぞ」


 それだけ言って、おばあさんは杖をついて中へ戻っていった。




***




「それではお世話になりました」

「うむ、また料理を作りに来ておくれ。アップルパイとやらのも」


「おばあちゃん、元気でね」

「世話になったわ」

「お主達とはまた会う気がするのう。困ったときは訪ねておいで」


 赤いずきんの中から覗く顔は好好爺然としていて、気難しい雰囲気は一切無くなっていた。

昨夜はある材料で、素朴な料理を作った。簡単な物ばかりだったが、やはりグリムおばあさんにとって初めての物ばかりらしく新鮮だと気に入ってもらえた。

 アップルパイも作ったが、夜の内に全て食べ終え、今朝また作っが食べきってしまうほど好物になったらしい。食べ過ぎだと諌めなくてはならなかった。


 お菓子の家に住む赤いずきんの老婆に見送られ、私たちは悪魔の住む岩穴へと歩み始めた。




 数刻後。

明るく陽気な森は進む事に暗く、陰気になっていき、枯れ木も目立ち始めた。気味の悪い花々が咲き乱れ、コウモリが飛び交う。厚い雲も出てきて、太陽の光が遮られ、昼なのに薄暗い。

ダークメルヘンといった感じか。いかにも邪悪な者が住んでいそうだ。

 更に進むとグリムおばあさんが言っていた岩穴にたどり着いた。そんなに深くは無さそうだ。焚き火があるのか、赤い光りが見える。


「不気味なところに来ちゃったね。この奥にヘンゼルに呪いをかけた悪魔がいるのかな」

「多分……」

「アリス、あたし怖いよ」


 肩を寄せて進む私とアリス。

リンクはアリスの服の隙間にくるまって、何気に私の腕を押してアリスから離そうとしていたりする。アリスは気づかず、私はツボ押しして貰っている気分だった。


 そんな密かな攻防をしつつ、炎が見えるところまで来ると、昨日見た小鬼――悪魔が居るのが分かった。悪魔も私たちに気が付いて、立ち上がる。手には大きな手鏡が握られていた。


「人間がこのおれさまに何の用だ?」

「王子の呪いを解いて貰いに来たのよ」


 長い銀髪を炎に煌めかしてアリスは悪魔に言った。悪魔の視線がアリスの揺れる髪を追うように不自然に動いた。


「いーやーだーねー。何でおれさまがあの不細工王子の呪いを解かなくちゃならないんだ」


 歯並びの悪い口を開けて、悪魔は舌を出した。あの美男子のヘンゼルに酷い暴言だ。不細工なのは悪魔の方。アリスも同じ事思った様で息を荒げた。 


「ブスなのはあなたの方でしょう? ヘンゼルはあなたのせいですごく悩んで苦しんでいるのに」

「うるさいな! 格好いいと持てはやされるあいつが悪いんだ」

「何それ、ただの言いがかりじゃない。嫉妬? みっともないねあんた」

「糞虫はだあってろっ」

「まっ!!」


 虫と言われたリンクは顔を真っ赤にして、声も出ないほど憤慨した。目に涙が盛り上がり、零れる前にアリスの服の中に隠れてしまう。


「酷いこと言うのね」

「悔しかったらおれさまの名前を当ててみな。悪魔は真名を知られると力を失うんだぜ? ま、お前らが高貴な俺様の名前を知る由も無いよなあ」


 昨夜悪魔が鏡をのぞき込みながら歌っていた歌を思い出す。

魔女に導かれて聞いた名前。それがこの悪魔の真名に違いない。……長すぎて覚えていられないって!

段々と文章が荒くなってしまっていないかと冷や冷やしてます。気を引き締めねば! と自分を叱咤中です;

こんな拙い文ですが、見て頂いてありがとうございます<(_ _)>

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