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◆23 呪いを解く方法は

『____』


 ある晩、月が綺麗な夜に少女は狼の遠吠えを聞きます。


気になって声をたどると、そこには王子がいました。

 実は、王子には夜中の0時から朝日が出るまで狼になってしまう呪いがかけられていたのでした。王子の呪いを解きたい一心で少女が妖精に相談すると、グリムという魔女なら知っていると言います。


 すぐにグリムに会いに行くと、王子の呪いは悪魔によるもので、悪魔の真名を言って退治すれば解けるというものでした。


 森を歩いているとき運良く悪魔が謳っているのをこっそり聞いた少女は、悪魔に会いに行きその名を言います。

けれど、違うと笑われ唄ったのはわざとだと馬鹿にされました。これでは王子の呪いを解くことはできません。

 どうしても呪いを解いてほしいと少女が言えば、悪魔は少女の美しい髪と引き替えにならと言いました。少女は躊躇することなく悪魔に髪を渡しました。

その迷いのない行動に悪魔は驚き、胸を打たれたと約束通りに呪いを解いてくれました。


 森へ行った少女を心配していた王子は、帰ってきた髪の短くなった少女に驚きました。自分の呪いを解くために切ったと言うではありませんか。

 身を挺してまで自分のために行動してくれた少女に、王子は愛しさが募り、よりいっそう二人の仲は深まったのでした。




***




 薄暗い廊下に立つアリスの顔色は悪い。


「大丈夫アリス? 狼はどうなったの?」

「ヘンゼルに会ったよ。……話があるって。ミチルに夜食を作って持ってきて欲しいって」


 アリスの顔を見ればわかる。狼はヘンゼルで、アリスは見て知ってしまったんだ。


「ミチル、わたしどうしたら」

「夜食作るの手伝ってアリス。ヘンゼルの話を一緒に聞きに行こう?」




 忍び込んだ調理場で作ったサンドウィッチ片手に、静かに戸を叩く。中からヘンゼルの声が聞こえた。

月は真上をとうに過ぎて、遠い山の向こうに沈んでいた。眠そうにアリスは目をこする。


「こんばんは、ミチル。それにアリス。さっきはびっくりさせちゃって悪かったね。それはサンドウィッチ、だったかな? こんな夜遅くにありがとう、二人とも」


 ヘンゼルに机を挟んだ向かいの長いすを勧められ、アリスと並んで座る。王子の部屋とあって、私の部屋よりも倍広い。置いてある物も繊細で品があり、部屋の持ち主をそのまま写しだしていた。


「失礼ですけど、あたしも居ますから!」


 ひょいっとアリスの背中から緑のお団子頭が飛び出した。


「……きみは……?」

「リンクって言うの。わたしの昔からの友達。妖精よ」

「そうか、それは失礼した。二人から話は聞いたかい? 怖がらしてしまって申し訳ない」

「本当よっ! 食べられちゃわないか気が気じゃなかったわっ」


 リンクは怒りながら、さりげなく手にしたサンドウィッチにかぶりついた。

アリスはお茶を入れる。ヘンゼルが狼、噂の化け物と知ってからアリスの彼に対する剣のある態度は潜んでいた。

 お茶が入り終わってから、ヘンゼルは話を切り出した。


「二人だから話すよ。父上や側近達だけは知ってる事なんだけど、ぼくには呪いがかけられているんだ。民を不安にはさせられないから秘密にしている」


 その呪いは、夜中の0時から夜が明けるまで狼になってしまうというものだった。特に、満月の前日後日に呪いが酷くなる。


「満月の日は理性を失いそうになるんだ。ぼくがぼくじゃなくなるみたいで……。必死に抗う結果、叫びとして遠吠えをしてしまう」


 苦しそうに頭を抱えるヘンゼル。ずっと苦しみを隠していたのか。

そこに白馬の王子様然とした穏やかさは無く、普段は見せない憔悴した姿があった。私はそれに既視感を覚え、焦る自分をごまかそうとお茶を飲む。ひどく苦く感じた。


「どうしてぼくが呪われたのか全くわからないんだ。ある日突然狼に変身するようになってしまった……」

「呪いを解く方法は?」


 心配そうなアリスの言葉に、ヘンゼルは自嘲気味に笑ってうなだれる。


「わからない。ただ、この呪いは日に日に悪化してる。最近は一瞬だけど、意識が飛ぶことが増えてきたんだ。いつかぼくは完全な獣と化してしまうかもしれない」

「そんな……」


 空気が重く、暗くなる。

 呪い……解けるとしたら魔法使い? でも、アルは私にも要求したとおり、今度も傍観するだろう。手を貸してくれはしない。魔女に聞けば何か助言をもらえるだろうか?

 助けたいと、何かせずにはいられない。まだ手があるなら……。


「ひょれはら、うぉりのまひょひひへば……ごくん、良いんじゃない?」


 体と同じ大きさのサンドウィッチを食べ終えてリンクは言った。あっけらかんとした物言いに、重い空気が霧散する。

 あの質量がその体のどこに消えたのか。それより、前半何て言ったんだ。


「森の魔女? それって前に話していた、迷いの森のグリムおばあさんのこと?」


リンクの言葉を正しく理解したアリスがお茶を一口飲みつつ聞く。ヘンゼルが顔を上げた。


「そうそう。あの人なら多分知ってるわ」


 得意げにリンクは胸を張る。


「森の……、どの辺りにその方は居るんだい? よし、夜が明け次第兵を使いに出すよ。案内をお願い出来ないだろうか?」

「ダメダメ!」


 希望に目を輝かせたヘンゼルを遮るリンク。その手は次のサンドウィッチを掴んでいる。


「グリムばあさんはとっても気難しい人で、気に入られないと相手もしてもらえないらしいわ。色々条件があるの。大勢で訪ねるのはもっての他よ。それに、あたしアリスから離れるつもりは無いから案内はしないわよ」

「そうか……」


 とりつく島もないリンクの言葉に、捨てられた子犬のようにヘンゼルはしょぼくれた。そうしたら彼の使いか、ヘンゼル自身が行くことになる。けれど、リンクは案内しないと言う……。

 いつもヘンゼルは忙しそうにしているし、公には秘密にしているのだから、暇を作るのも大変だろう。それなら。


「ヘンゼル、私がアリスとリンク三人で行ってくるよ。良いかな、アリス?」

「勿論よミチル。リンク、案内お願い!」

「……アリスが行くなら……仕方ないわね」


 アリスが一緒なら、リンクも付いてきてくれる。リンクが居れば、安心だ。

 グリムが居る場所まで半日くらいかかるという。思っていたより城から近いところにあるものだ。

馬車を借りられればもっと早くに着くと、私は簡単に考えた。


「いいのかい? ミチル。ぼく自身の問題なのに巻き込むなんて悪いよ」

「ううん、良いんだ。ヘンゼルには助けて貰ったし。働く場所も作ってくれたんだから感謝してる。これくらいさせて欲しい」

「……ありがとう」


 瞳を潤ませたヘンゼルに、カップごと手を握られた。

それを見たアリスが、ヘンゼルにサンドウィッチを勧める。今度はおいしいと、爽やかスマイルをヘンゼルに貰った。この笑顔プライスレス。元気が出てきたようで良かった。

 頬を染めた私を余所にアリスはつまらなさそうにサンドウィッチをつまむ。やっぱりアリスはヘンゼルのことを好きでは無いみたいだ。


「ちなみにリンク。グリムばあさんに会う条件って何があるの?」

「アリスのために教えてあげるわ。あたしも会ったこともないから聞いた話だけど、礼儀正しく優しい人であることとか、赤いずきんを被っていて、決して貶してはいけないとか」


 赤いずきん? おばあさんなのに? と突っ込んでは駄目と言うことか。


「あと、必ずおばあさんの好物を手土産に持って行かなきゃいけないそうよ」


 手土産……お見舞いに行くときに母親から持たされたという篭には何が入っていたっけ?


「もしかして、葡萄酒……とか?」

「あら、ミチルのくせによく分かったね」

「えー、わたしお花かと思ったよ。お花を貰って喜ばない人はいないから」

「逆よアリス。お花は逆に病人扱いかって怒るらしいわ。ほーんと、捻くれたばあさんよね」

「……捻くれてる」


 自分から会いに行くって言ったけど、ちょっと後悔してきました。

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