表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/46

◆20 王子の探し人は②

「油断していたらこれよ、ミチル。魔法使いは危険だってわかったでしょう? あなたもあなたよ。何でわざわざ奴の怒りを買う真似をするの!」


 甲高い声でわめく魔女が鬱陶しく思えた。


「本当に酷い魔法使いでしょう? わたし達が築き上げたものを一瞬で灰にしたのよ。魔法使いが憎くないの? ミチル」


 憎い……のだろうか? 

酷いとは思う。アリスの家をあんなにして。アリスの幸せを願っていたんじゃ? 私の知っている物語通りなのかと思えば、展開は違っているし。一体彼は何がしたいのだろうか? よくわからない。


 でも、憎くはない。


 アルはアリスの家を燃やしたく無かったのだと思ってしまう。


「……そう。なぜ?」


 多分、彼の瞳を見ちゃったからだ。最初会ったときからずっと、アルの瞳には悲しみがある。


「後悔するわよミチル」


 魔女の低い声が反響しながら遠ざかっていった。




 ドアのノックに目を覚ました。隣にはアリス。昼頃なのか、外からの陽射しが眩しかった。昨日二人で話したままに眠ってしまったらしい。

そっとアリスの腕から抜け出して軽く身なりを整える。ドアを開けると、そこには宿屋の主人が居た。無表情に立つその姿に軽く驚いて眠気が吹っ飛んだ。


「おはようございます」

「ああ……おはようございます」

「お二人にお客様がいらっしゃっているのですが、どうなさいますか?」


……私たち二人に? 昨日の火事は町で噂になるには十分に大きかった。私たちが家を失ったことは町中に広まってるだろう。路頭に迷った私たちにつけ込もうとする悪徳商人とかだったらご遠慮願いたい。


「どういった人ですか?」

「お城からの使いの方です」


 真っ先に頭に浮かんだのはヘンゼルの顔だった。そしてアルの怒った顔。




***




「どうしてよミチル! 何でわたしだけ行かせようとするの!」

「私煌びやかなところはちょっと苦手って言うか……。でも、アリスは行きなよ。今生の別れってわけじゃないし、会おうと思えばいつでも会えるのだから」

「あのー」

「そうよアリス。お城で暮らせるのよ! こんなのと一緒じゃ笑われちゃうかも。行きたくないって言ってるしさっ! ほっときなって」

「リンクは黙ってて!!」


「……」


 アリスの怒声に私とリンク、使いの人まで黙る。美人が怒ったら怖い。

それに、こんなのってちょっと傷つくじゃないかリンク……。


 思っていたとおり、王子――ヘンゼルからの使いの人だった。曰く、私たちが家を失ったと噂で聞いたヘンゼルが、私たちをお城に招きたいそうだ。一先ずの宿として使っても良いし、部屋は余っているからと住み込んでも良いとか。ちょっと話しただけなのに、何て親切な人だろう。外見だけじゃなく、中身も王子様そのものだ。


 慌ててアリスを起こし、今に至る。

ちなみにリンクは昨日からずっとアリスにくっついていた。そのアリスが私にくっついていたからか、疲れが残っているからか、一言も話してはいないけれど。


「酷いよミチル! 昨日一緒に頑張ろうって言ったばかりじゃない!」

「……うん」

「なのに、何で?」

「えっと」


 説明しずらい。使いの人が来たと聞いてからずっとアルの顔がちらついているのだ。家を燃やしたくらいだ。次は何をしてくるか。

 怒った美少女は怖いが、怒った魔法使いも恐い。私だけじゃなくて他にも危険が及ぶから尚更だ。


「あのー。申し訳ないのですが、門限がありまして。また後日お伺いさせてもらうことになるのですが、よろしいでしょうか?」


 むっとしているアリスと、困っている私の間に入ったのは使いの人。無表情ながら、彼も私同様困っているのがわかる。気づけば真上にあった太陽が傾いていた。

 いけない。今夜泊まるお金はぎりぎり一人分には足りない位で、二人は泊まる事が出来ない。できれば今日中に何か職でも見つけられればと考えては居たけれど、このままでは二人して野宿決定だ。覚悟はしていたが、せっかくのおいしい話にアリスだけでものせたいと思う。


「嫌だからね」

「そこをなんとか! 一人しか泊まれるお金が無いしさ」

「……ぎりぎりでしょ? 足りない分はつけて貰うとか、働こうとか考えてるんでしょ?」

「うっ」


 私の考えていることがアリスに読まれている。返答に困る私に次いで追い打ちがかかった。


「やあ、ミチルとアリス。遅かったから迎えに来たよ」


 その声の主に、使いの人は深々と頭を下げて出迎えた。きらめく金髪を風に揺らして現れたのは、この国の王子であるヘンゼルだ。笑顔が眩しすぎる。多分今の私の頬は赤く染まるも、引きつっているだろう。

 アリスはヘンゼルを見て顔をしかめてから、ひらめいたかのように目を開いた。


「ヘンゼル! 丁度良いところに来たわ! ミチルがお城には行かないって聞かないの」

「えっ、そうなのかい? どうしてなんだいミチル? 何か気に入らないことでもあるの? あるなら改善するし、融通も利かせられるけど……」


 ヘンゼルに、アリスは良い感情を持っていないと感じていたのに。


「王子、もうお時間です」


 さっき来たばかりだと言うのに、ヘンゼルの側付きである兵士が言った。


「とりあえず今夜位、泊まってはどうだい? それも駄目?」


私の左手をそっと握り、悲しそうに眉を寄せるヘンゼルに申し訳なさが募ってしまう。しかも手! 


「今日泊まるお金もあるか無いかなんでしょ」

「それは大変じゃないか。是非ぼくの城へ来なよ」

「えーと、えっと」


 アリスが私の右腕を抱きしめる。二人に手を取られて、困惑して視線を迷わせるとリンクと目が合った。リンクは私にべーっと舌を出してそっぽを向いてしまう。

 兵士は時間がないと私たちをせかすばかりで。



 これじゃあ……。

アリスと距離を取るなんて、無理だ。

ヘンゼルと関わらないなんて、できそうもない。


私から距離を縮めたり、関わろうとした訳じゃない。むしろ努力した方だ。そう自分に言い訳して、私は二人に囚人さながら連行された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ