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◆17 魔法使いが怒れば

0時の鐘は舞踏会の終わりを告げる物でもあった。城からの音楽は鳴り止み、辺りは静かになった。


 ヘンゼルとアリスがあっという間にいなくなり、私も後を追うつもりでふらつきながらも立ち上がる。酔いもあって、機敏には動けない。


「邪魔するなって言ったじゃないか」

「なっ!」


 立ち上がったすぐ傍に、アルがいた。突然現れた麗人に、私はのけぞった。ちょっと近すぎる。

驚く私に構わず、アルは腕を組んでため息をついた。前に見た事ある仕草だ。


「来るなって言ったはずだけど。また余計なことをしてくれる」

「……それについては申し訳ないと思ってる、ごめんなさい」


 怒っている。睨み付けるように目を細めるアル。私は蛇に睨まれた変える状態で、動けなくなってしまった。


「ふーん、そう。だけどそんなの着てさ、あわよくばアリスを出し抜いて王子を魅了するつもりだったんじゃないの。王子だけじゃなくて他の人達も虜にしようとか思ってなかった?」


 鼻で笑うアルに、私は羞恥と怒りでカッとなった。出来るなら今すぐ脱ぎたいほどなのだ。人の気も知らないで! 

そういえば魔女が魅了とかよく分からないこと言っていたけど、そんなつもりは毛頭無かった。

 確かにヘンゼルは格好いい。もろに私の好みだけど、それは恋愛感情ではなく憧れに近い。彼とどうこうなろうとは微塵も考えつかなかった。

 

「馬鹿言わないでよ。これでも、平々凡々な私の容姿で勝負できると思うほど、自惚れてない。それにこのドレスは私の趣味じゃない。間違っても似合ってるとは思ってないし、着たくて着た訳じゃない! 言いたいことはそれだけ? アルの言うことを無視しちゃってるのは悪いと思ってるけど、私は自分の思う通りにやらせてもらうから」


 夕方から今まで溜まりに溜まったストレスを一息にぶちまけた。悪いと言っている割に直そうとしていないのだから、謝ってないのはわかってる。八つ当たりなのは承知の上だ。

 話は終わりとばかりに、私はそっぽを向いてアリスを追いかけようとした。


「待てっ」


 私の行動を止めようとアルが手を伸ばす。何、と振り向けば、その指に黒い紐が引っかかって解けていくところが見えた。


「!? ちょ、え、やっ……!!?」


すぐさま両手で胸元を押さえる。だが足はこの場から離れようとしていたところで。酔いが完全に醒めてなかったのもあって、反応が遅れてしまった。視界がぶれる。

 後ろは噴水だ。


 見開いた青い瞳が見えたと思えば、大きな水音と共に泡にかき消された。思っていたより、水深がかなりある。ドレスが水を吸って鉛のように体にまとわりついた。

 うそ、こんなに動けないなんて。

混乱した私は肺の空気を全て吐き出し、水を大量に飲んでしまった。苦しさに、更に恐慌状態に陥ってまた水を飲んでしまう。

 これ、やばい……溺れちゃってる。意識が沈みそうになるのを必死で堪えて手を伸ばす。


 それを骨張った大きな手が掴んだ。


「!!――っは、かはっ」

「馬鹿じゃないか! 何やってるんだ!!」


 水から引き上げられ、地面に下ろされる。


 誰のせいだと思ってるんだ!

 私の抗議は、水を吐こうとする肺のために声にならなかった。

何かに肺が圧迫されている。苦しい。口は酸素を求めて魚のように動くのに、息を吸えない。


アルが何か言って、私を抱き上げた。


 視界が暗くなっていく。どうしよう、助けて。


 今度こそ意識が沈む直前、するりと何かが解かれて楽になった……。




***




 短い間だったと思うけど、私は意識を失っていたようだ。


「ミチルっ!? 大丈夫? 何があったの!?」

「……アリス……」


 飲んだ水全て吐き出せたのか、あんなに苦しかったのが嘘のように無くなっていた。アルの姿は無い。代わりにアリスが心配そうに私を覗き込んでいた。


「ちょっと転けて、噴水に落ちちゃっただけ。もう大丈夫」


 起き上がろうとしたら、いつ脱がしたのか、かけてあった私の上着がずれて胸元が露わになった。黒い紐は無い。服を止めていたものが無くなれば、どうなるか。

数秒思考停止。遠くで、ご開帳と言うお坊さんの声が聞こえた。


……考えるのは後にしよう。

 私は上着を抱えるようにして立ち上がった。


「アリスは? ハンカチ、渡せた?」

「それが何故か森の方へ走って行っちゃって、追いつけなかった。しかも、途中にリンクが倒れていたの」


 アリスの手にはぐったりしたリンクが横たわっていた。あの時見えた蝶ってもしかしてリンクだったのだろうか。こっそり付いてきたのかもしれない。

気温が下がったのか、冷たい風がふいた。高いところにあった満月も降りてきている。


「っくしゅん」

「本当に大丈夫? 毛布とか貸りて来ようか?」

「ううん。それより早く帰りたいかも」


 色々あって精神的に疲れていた。早く休みたい。

 私はよろよろとアリスに支えられてお城を後にする。




ストレスの多い舞踏会だった。羞恥的な意味で。

 何が一番かって、半裸を見られたことだ。私の人生史上の一番ね!


 いくらアリスに頼まれたって、金輪際こんな服は着ないと心に誓いました。

ご開帳って……発想が親父だ……

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