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◆16 お城と王子様と0時の鐘と

未成年の飲酒の描写がありますが、断じて勧めているものではありません<(_ _)>

絵画にして残したくなるほど綺麗だった。

 白のドレスを揺らし、上品に踊るお姫さま。そのお姫さまを支える、白の正装をした王子様。揃えたようにピッタリ、似合いの二人だ。


 アリスと王子の踊りを思い出して、私は熱いため息をついた。

場内で配っていたのはシャンパンだった。お酒だと気づいたのは飲み干した後。一杯だけとはいえ、未成年の私にはきつすぎた。

間違って飲んでしまったとはいえ、やっぱりちゃんと成人して度をわきまえてから飲むものだ……。


 結局アリスと私、二人して壁際に避難したが目立ってしまい、酔って暑くなったのもあってバルコニーから外へ出た。中庭につながっているらしく、丁度良いところに噴水があったので、そこに座る。満月だから、外でも明るかった。その月を綺麗な蝶が横切っていった。


「せっかくの舞踏会なのに、ごめんね」

「ううん、良いの。ミチルと二人、お城に来られただけで満足。お水もらってくるね」

「うん、ありがと」


 アリスが酔い覚ましに水を取ってきてくれるらしい。酔った私を見たアリスが心配して、帰ることになったのだ。楽しみにしていたアリスに申し訳ない。

 見送ったアリスの姿が歪む。

 動いたら急に回ってきた気がする。ほてった顔に夜風が気持ちいい。上着を脱ぎたい衝動に駆られるが、残る理性でやめておいた。


 お城からはまだ音楽が流れていた。だけど、もうすぐ終わる。

その音をかき消すように、風が吹いて、一人取り残された気分になる。あの賑やかな所は別の世界で、私は異世界人。違うのだと感じて。


 私がいなければ、アリスは虐められたままで。でもリンクの魔法で舞踏会へ行けて、王子様に見初められる。

 そういう筋書き(・・・)だったんだ。アルはそれを知っていた。私が、それを邪魔しちゃってる。

 アルの怒った顔。遠目だからマシだったけど、正直怖かった。私が邪魔なら早く元の世界に返してくれればいいのに。


 所詮、アリスはこの世界の主人公で、私とは違う世界の人なのだ。




 ……いつもアリスが傍にいたからか、久々に独りきりになって感傷に浸ってしまった。


「ミチル、お水貰ってきたよ」

「ここにいらしたんですか」


水の入ったグラスを持ってアリスが戻ってきた。隣に王子を連れて。

立ち上がって、アリスからグラスを受け取る。アリスは、どこか不満そうだ。


 王子は私たちを探していたようだ。舞踏会はもう良いのだろうか? 


「酔いは大丈夫ですか?」

「あ、はい。少し醒めました」


 酔った火照りとは別に、顔が熱くなる。


「少しお話ししませんか?」


 遠慮がちに、王子が言った。星色の髪が夜風に揺れる。


 まだまだ舞踏会は終わらないようだ。




***




 気楽に話がしたいと王子、――ヘンゼルは名乗った。敬語も要らない、呼び捨てで構わないと言うけれど、使わないようにするのも逆に難しかったりする。やっぱり王子様なのだし、高貴な雰囲気に気圧される。


 ヘンゼルはレシピについて聞いてきた。お城でも同じ物が食べたいのだそうだ。アリスには反対されたけど、秘伝って訳でもないので簡単な物から話していった。私の一般的な料理知識でこの世界の食事が発展するなら喜ばしいことだ。


 熱心に聞くものだから、そんなに料理を気に入ってもらえたのだろうか。隣に座るアリスからはずっと黒い空気を感じるのだけど。……何で私はアリスとヘンゼルに挟まれる形で座ってるのだろう。


 私の方からはこれ幸いと、魔法使いのことについて聞いてみた。


「話したことは無いんだ。すごく無愛想で、話しかけづらいのもあってね。今日は舞踏会に来てたみたいだけど」

「もしかして、青い服に、灰色の髪の人?」

「そうだよ。あの人、顔出していたの? 珍しいな……」


 見間違いとかでは無かった。随分受けた印象が違ったけど、アルだ。アルという人物を、誰も知らないって本人が言っていたけど、嘘じゃないか?


「アルバートって名前とかじゃ?」

「いいや。というより名前は知らないんだ。誰も知らないんじゃないかな」

「……そうなんだ」


 とにかく無口で冷たい人らしい。さっき見た印象そのまんまで……私の知っているアルとは違う。落胆する私に、ヘンゼルは不思議そうな顔をした。

 

「どうして魔法使いのことが知りたいんだい?」



 ヘンゼルの疑問に、すかさずアリスが私が他国から来た人で、帰る手がかりを探していると口添えする。棘のある言い方に聞こえたのは気のせいだろうか。


「そっか、大変なんだね。ぼくが出来ることなら協力するよ。でも、方法が見つかるまではこの国でゆっくりしてほしいな。何なら、ここにずっと住んだって良いんだ」


願うような瞳に、顔の熱が上がる。まだ酔いが残ってるのか、前によろけそうになったのを堪える。


「大丈夫かい?」


 王子が私の手を取ろうとした――のだろう時、重々しい鐘が鳴り響いた。


 0時の鐘だ。


 はっとヘンゼルの表情が変わり、焦って立ち上がる。


「ごめん。ちょっと用事を思い出したから、失礼するよ」


早口に言って、立ち上がる。言うが否や、文字通り逃げるように、去っていった。

 残されたアリスと私はしばし呆然とする。


 あれ?


 0時の鐘は魔法が解ける合図。

私もアリスもドレスはちゃんと着ている。リンクの魔法が解けた訳じゃない。そういえばガラスの靴は出てこなかった。


 ヘンゼルの座っていた所には白いハンカチ。忘れ物だ。

 

「わたし、これ返しに行ってくるっ!」


裾を踏みそうになってつんのめる私より先に、アリスはハンカチを手に走っていった。さすがに貴族として育てられただけあって、ドレスの足捌きが見事だ。


 全部が全部童話通りの世界じゃないのは分かっていたけど、この展開は予想できなかった。




 どうして王子が逃げるの!?

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