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◆14 白薔薇と赤薔薇のお姫さまと女王様

「後は頼みましたよ。くれぐれも戸締まりはしっかりして頂戴ね」

「あなたたちがいくら着飾ったところでその見窄らしさは変わらないから。身の程を知ることね」

「ああ、時間がないわ。早く行きましょう」


 今日は舞踏会当日。

 準備のために、継母と義姉は家を出て行った。髪型から化粧までやってくれる専門店へ行くためだ。自分たちで出来るのだろうが、お店の利益半分で継母の懐は暖まっているらしい。


二人と入れ違うようにお客さんが入ってくる。舞踏会へ行く前の腹ごしらえと言ったところだろう。

開始は日没後。少しでもお金がいるので、午前中はお店を開けることにした。慌ただしい一日の始まりだ。




***




 日が傾いた頃、アリスと私はお城へ行く準備を進める。


「ミチル-、戸締まり終わったよー」


 アリスは朝からご機嫌だ。

 浮いたお金で馬車の予約をしたし、一応魔女の助言通り長袖の黒い上着を用意した。店の戸締まりも大丈夫だ。


 自身と同じ大きさの器を空け、リンクは満足そうに息をついた。

一体どこにプリンが入ったのか謎な体で伸びをしてから暖炉の上に立ち上がる。


「後はその格好ね。……あんたはついでなんだから」

「うんうん、わかってるから」


 何度言われたか分からない言葉に、私は苦笑した。


「リンク、これで良いよね?」


 アリスのその手には、赤と白の薔薇が一本ずつあった。この家の庭に生えていたものだ。先程姿がないと思っていたら庭に行っていたのか。


「何に使うの?」

「リンクの魔法にはね、依り代が要るの。主にお花なんだけど」


依りしろが必要なのは童話と一緒なのかと納得する。カボチャが馬車にとか。

棘は抜いてあるからと、アリスは二本ある内の赤薔薇を私に手渡してきた。


「じゃ、はじめるから。まずはアリスね」


 アリスの前にリンクはふわりと飛ぶ。嬉しそうなアリスに、リンクも微笑むとその手にある白薔薇にそっと口づけた。


 暖かな光がアリスを包み、白薔薇が伸びてそれに優しく絡みついた。まさしく魔法だ。その光景に感動する。

光が強くなり、まぶしさで瞬けば――刹那にアリスは美しいお姫さまに変わっていた。


「どうかな? ……ミチル」


 純白の布地に細かなレース。複雑な模様の金の刺繍が施された、どこまでも繊細なドレスだ。そこに、絹であろう白の長手袋。端にも細かな刺繍がある。

全体的にふんわりとしていて、アリスの可憐さを引き立てていた。ウェディングドレスと違って華美だが、その穢れの無さは一緒。

 綺麗に結い上げられた銀髪は、真珠の髪飾りでとめられている。同じ真珠の首飾りの上は、控えめに化粧を施された整った顔。

 地が良いだけに、少しのほお紅と桃色の口紅だけで完璧としか言い様がないほどに可愛く、美しかった。


「……スッゴク……カワイイ」


 思わず出た言葉は棒読みになってしまった。

 リンクのセンスに脱帽だ。やばい、可愛すぎてアリス相手に動悸が止まらない。不整脈かも。


「次、あんたよ」

「あ、う、うん」


アリスに見惚れていた私は、リンクの気怠げな声に我に返った。慌ててアリスから視線を外す。気まずくて、目が泳いでしまった。

 向き直った私に、リンクは目の前に来て私の持つ赤薔薇を叩いた。扱いの差を気にするまもなく、視界が光で一杯になる。瞼を閉じて、開けば光りも薔薇も消えていた。手には、赤の長手袋。成功したようだ。

 自分では自身がどうなったのか分からないのがもどかしい。初めて着るドレス。化粧も遊びでしかやったことがない。平凡な容姿の私では、背伸びした様に見えるのではと怖くなった。


「アリス、私変じゃないよね?」


 気を取り直して、横にいるアリスを見る。


 ……アリスは、顔をリンゴみたいに真っ赤にして惚けていた。

小さな鼻から一筋の鼻血が垂れるのを見て、私は慌てて近くにあった布巾を押し当てる。ドレスに落ちたら大変だ!


「大丈夫アリス!?? 顔赤いし、熱がある? もしかして風邪?!」


 あんなに舞踏会を楽しみにしていたのに。だからといって無理はさせられない。どうしようと悩み始めた私にアリスは顔を赤くしたまま首を振った。


「ち、違うの……風邪じゃなくて……大丈夫だから」

「本当に? 無理してない?」

「うん。……ごめんね、すぐ止まると思うから。ドレス、……似合ってるんだけど、……その、すごく色っぽくて……胸とか」


湯気が出そうなほど顔を赤くしたアリスは、鼻血を止めようと私に背を向けた。

 ……胸?

 アリスの反応に驚いてすぐに気が付かなかったけど、指摘された瞬間肌寒さを感じた。物理的な物と、精神的な物で。


「……リンク、これって」


 いくら私の事が嫌いだからってこれは酷い。


「悪いけど……もうこれ以上は無理だから。着られる服なだけ感謝してよね」


 のろのろと暖炉の上に降り立ち、泥のようにリンクは横になる。いつものリンクらしくない。

消耗しているリンクを見て、悪意が無い事はわかった。これが限界なんだ。


 リンクが出した私のドレスは、深紅の布地に黒い刺繍。細かなレース。滑らかな布地だが、足にまとわりつくようなスカート部分。


 そして、上はへそまでざっくりと開いたスリット。肩紐はない。

 かろうじて開いている前は黒い紐で編み上げられて閉じてはいる物の、隙間からはバッチリ素肌が見える。紐が解けでもしたら服の意味が無くなる。


 衝撃なのは、ささやかな胸が上げ底されて谷間を作っていることだ。そのために胸回りはきつく締め付けられていて、苦しい。コルセットってこんな感じだろうか。にしても、偽乳にもほどがある。

 首には皮のチョーカー。肩までの髪は、アリス同様結い上げられ石の飾りがついていた。肩も出ていて涼しいことこの上ない。

 普段の私では間違っても着ない部類の衣服。付属でムチとかあったら完璧に女王様だ。泣きたい。


代えのドレスがあるわけでもなく、出発の時間が迫っていた。アリスの鼻血も止まったようで、視線のやり場に戸惑っていた。公害でごめんなさい。

 容姿に自信があったら見られる姿かもしれないが、平均的だと自負する私に鏡で確認する勇気は無かった。


 ただ一つの救いは、上着があることだ。

アリス→清楚、お姫さま系

主人公→派手、ボンテージ系?

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