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◆13 招待状が届いた先に

 書きだしてみれば、舞踏会へ行くのにドレス以外にも必要な物がたくさん出てきた。

靴や装飾品。アリスには必要最低限の物しか与えられなかったらしく、化粧品もいる。全部そろえるとなると、貯金のほぼ全額が必要だ。

 店じまいの後。一応と簡単につけている帳簿と睨めっこをしながら私は嘆く。

 もう一人分、どうしたものか。


 あの物語ではどうだったっけ? 優しい魔法使いが現れて服から馬車まで一式出してくれていた。一銭もかからずに。


魔法使いと言えば、ふとアルが頭に浮かんだ。アルが手を貸してくれるとは想像できない。

 そういえば、“悪い”魔法使いってどういう事なんだろう?


「せめてアリスの分だけでも用意できればなぁ」

「じゃあミチルはどうするの?」


 考え事が口に出ていたようだ。店内の掃除を終えたアリスが机の帳簿をのぞき込む。


「……ドレスじゃなくてもお城に行くことって出来ないかな?」

「えー、そんなの聞いたこと無いよ。折角なんだしドレス着ていこう」

「そうできたら良いんだけど、二人分のドレスを買えそうにないんだ。だからアリスだけでもって思って」

「そんなあ」


 何とかしたいのは山々でも、無い袖は振れない。二人して困り果ててしまった。


「毎日のプリンが食べられるなら、アリスのドレス何とかしてあげても良いけど?」


 音もなく机に降りてきたのは、お団子頭の妖精だ。


「リンク、本当!? お願い! ミチルのもどうにかできない?」

「……アリスの頼みなら……ついでだけど」

「やったー! リンク、ありがとう。大好き!」


 嬉々とするアリスに、リンクは腕を組んで私に顎をしゃくる。

毎日……かあ。

それぐらいなら仕込みの片手間で何とかなりそうだ。……そっか、リンクは魔法が使えると言っていたっけ。忘れていた。

 ドレス費用も浮くし、願ったり叶ったり。思わぬ所に救世主だ。


「ありがとう、リンク。すごく助かる」

「毎日欠かさずプリンをあたしに献上すること! あんたのためじゃなくてアリスのためなんだから。そこ勘違いしないでよね。あんたのこと、信用してるわけじゃないんだから」


 時々お店に来るリンクだが、私との関係はずっと平行線のままだ。嫌われている……。

 じゃあ早速と、プリンを作ろうとすれば今日から? とリンクに驚かれた。夕食も一緒にと勧めればむっとして、いつもの暖炉上に飛び立つ。そして私を一瞥してまたそっぽを向いてしまった。

 料理を食べてくれるくらいには警戒されてないみたいだけど、ちょっと寂しい。


「良いみたいだよ? 多分ね、照れてるんじゃないかな」


 こっそりとアリスが私に教えてくれた。ちょっとは打ち解けて来てるのだろうか。よし、今夜はオムライスにしよう。

気分が浮上した私は、その勢いで五人分の夕食作りに取りかかり、危うくブラウニーを作り忘れるところだった。




***




「あなたも舞踏会に行くのね。その調子よ、魔法使いの邪魔をしてやるの。ふふふ」


 邪魔するつもりは無いのだけれど、アルの忠告を無視したから同じことか。


「あら、無意識? 故意じゃないのね」


 残念と、赤い弧が上を向く。

この世界に来てから、ほぼ毎日魔女の夢を見る。魔女は私に様々な助言をし、日に日にその姿を明瞭にしていく。

黒いローブドレスを来ているのに、浮き出る線は骨の形。顔はうねる白髪でよくは見えないが、裂けたような赤い唇が印象的だ。見た目と反対にその声は艶めいていた。

 その姿や、何もかも見透かした助言に恐怖を感じるものの私にはこの夢から逃れるすべはない。恐いけれど、悪夢ではないし、危害を加えられた事もない。むしろ助けてくれる魔女に、私はいつしか好意を持った。化け物に近い姿も見慣れてきた。

毎回アルに対して警告をしてくるのも、聞き慣れてきたものだ。


「そうだわ、ミチル。ドレスをあの小妖精に用意させるのですってね。良い案だけれど、ドレスに合う上着を別に用意なさい」


 季節は夏だし、あんまり入り用には思えないけど……会場に着くまでに羽織る物と言うこと?


「違うわ。まあ、着ないで王子を魅了しちゃっても良いんだけど。あなたに体調を崩されちゃ私が困るのよ。しっかりした上着よ。わかったわね?」


 どういうこと? 魅了って??

深まる疑問を胸に、魔女の姿がぼやけていく。

 またかと不満に思う。魔女はこうしなさいとは言うけれど、その理由は教えてくれないのだ。




 目の前に、美少女の顔。健やかな寝顔だ。華奢な腕は、私の腰にまわっている。

いつか心臓発作で死ぬんじゃないか。私が。……浮いたお金でベット買おう。今日買おう。


朝一番に、そう思った。

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