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1942シチリア海峡海戦8

 目の前で繰り広げられている空中戦に、ビスレーリ中尉は呆れればいいのか、それとも驚けばいいのか、それが分からずにただ困惑していた。ただし、思考が停止していわけでは無かった。

 むしろ、困惑は脳裏の一部を占めているだけで、操縦桿とスロットルレバー、左右のラダーペダルの上にそれぞれ置かれたビスレーリ中尉の両手足は、これまでの訓練と実戦経験から導き出された最適な動作を繰り返しながら、愛機に鋭い接敵機動をとらせていた。


 ビスレーリ中尉が困惑するのも無理はなかった。眼前で空中戦を繰り広げている片方の機体は、かつて自分や今も編隊僚機を組むロンギ少尉が乗り込んでいた水上戦闘機アストーレだったからだ。

 アストーレと戦っている方の機体も、北アフリカ戦線への派遣が長くなっていたビスレーリ中尉にとって、馴染み深くなってしまった日本陸軍の二式複座戦闘機だった。

 だが、どちらも何度も見たことのある機種ではあったが、両機の組み合わせが交戦しているところは一度も見たことがなかった。というよりも、かつての愛機であるアストーレを最後に見たのはずいぶんと昔の事のような気がしていた。



 ビスレーリ中尉達が所属していた当時の海軍独立戦闘飛行群は、捜索や弾着観測を任務とする水上偵察機を装備するそれまでの艦隊所属の航空隊とは異なり、純粋な防空戦闘を行う戦闘機を洋上で運用するための防空戦闘部隊だった。

 艦隊航空隊から譲り受けた旧式の水上戦闘艇などの間に合わせの装備で発足した独立戦闘飛行群が、初めて装備した新型機が、レッジアーネ社が開発したRe.2000Pアストーレだった。

 ただし、アストーレの機体は最初から水上戦闘機として設計されていたわけではなく、元々は不採用に終わった空軍用の試作戦闘機であったRe.2000ファルコを、水上機型として改設計された機体だった。

 原形であるファルコは、空軍の次期主力戦闘機としては不採用に終わったものの、その性能は制式採用されたマッキMC.200サエッタ、フィアットG.50に優るとも劣らないものであり、概ね世界各国の航空部隊に配備されていた一線級戦闘機の性能に匹敵するものだと言えた。

 水上機仕様とすることで、フロートなどの余計な装備がついたから、原型機よりも飛行性能は低下してはいたが、それでも、アストーレの性能は当時としては決して悪いものではなかった。

 少なくとも独立戦闘飛行群の搭乗員や整備員達はそう考えていたし、幾度かの実戦でもその真価を発揮して見せていた。


 ただし、それは二年前の制式採用時の話だった。そのころの独立戦闘飛行群の戦闘でアストーレが相手取った機体は、英国海軍に所属する単発複座のフルマー艦上戦闘機や、ソードフィッシュ、アルバコアといった複葉の艦上攻撃機だった。

 英国海軍が開戦当時に配備していたこれらの機体の性能は、当時の目でみても他国の艦載機や陸上機と比べて大きく劣っており、水上機というハンデを背負っていたアストーレでも対抗することは難しくなかったのだ。

 つまり水上機であるアストーレが活躍できたのは、あくまでも相手も旧式化した低性能機であったからにすぎなかったのだ。


 だがそのような危うい均衡は、英国海軍の空母に日本製の零式戦闘機が搭載され始めたことで、あっさりと崩壊していた。英国海軍航空隊仕様の零式戦闘機はマートレットⅠと呼称されていたが、英国仕様への改装は少々の艤装品を変更した程度で、機体構造そのものは、日本海軍でも採用されたばかりの零式戦闘機の初期型と同等であったらしい。

 この零式戦闘機の初期型は、すでに一昨年の英国本土の航空戦で確認されていたが、当時は艦載機とは考えられていなかったようだ。義勇航空隊として英国空軍指揮下にあった日本海軍機は、空母からではなく、英国本土の陸上基地から運用されていたし、何よりも、艦載戦闘機が陸上から運用する機体と同等の性能を有するとは考えられなかったからだ。



 地中海の戦闘で初めて艦載戦闘機としての姿を表した零式戦闘機は、初期型の時点で20ミリ級という大口径の機関砲を有しており、比較的頑丈な機体構造を持っていたはずのファルコ、アストーレを一撃で撃破することが可能だった。

 そのうえ日本軍機らしく、格闘戦性能にも優れていたから、フロートのお陰で鈍足なアストーレが敵う相手ではなかった。

 ビスレーリ中尉は、それでも去年のマダパン岬沖海戦では、アストーレを駆って零式戦闘機を撃墜していたが、おそらくあの戦果は日本製の機体にまだ英国軍の搭乗員が慣熟していなかったか、未熟だったためだろう。

 機体性能で言えばアストーレが零式戦闘機に敵うとはとても思えなかった。

 これは、決して根拠が無いわけではなかった。ビスレーリ中尉は、マダパン岬沖海戦後に正式に参戦してきた日本軍の戦闘機とも幾度も交戦したが、彼らは陸海軍共に手練の搭乗員ばかりの強敵だった。


 しかも、この一年の間に、日本軍の戦闘機は新型機や改良型が次々と出現していた。零式戦闘機も、先のマルタ島沖海戦頃から、大口径の空冷エンジンを搭載した新型が確認されていた。

 エンジン出力の向上だけではなく、搭載機関銃砲も強化されているらしく、日本艦隊を攻撃した攻撃機の編隊は、これまでよりも遠距離から零式戦闘機が射撃を開始していたと報告していたから、戦闘時に撮影された写真の解析結果から見ても、より長砲身、大口径化していることは間違いなかった。

 もちろん、新型機を投入しているのは日本海軍だけではなく、日本陸軍や英国軍の機体も次々と強化されていた。


 マダパン岬沖海戦後に、母艦を失った独立戦闘飛行群は、北アフリカ戦線に抽出されていた。もしも独立戦闘飛行群が北アフリカ戦線への派遣を前提として行われた機種転換を実施せずに、アストーレ装備のままでであったのならば、今頃ビスレーリ中尉も、ロンギ少尉もアフリカの土に還っていたはずだ。

 艦隊航空参謀などという似合わない職から、再び独立戦闘飛行群に返り咲いていた群司令、あの水上機を知り尽くした男ならばもしかすると別かもしれなかったが。



 ビスレーリ中尉は、思わずため息を付きながらも、素早く愛機をアストーレを追撃するのに夢中になっている二機編隊の二式複座戦闘機の死角へと潜り込ませていた。

 ロールスロイスのマーリンエンジンらしい大出力水冷エンジンを備えた二式複座戦闘機タイプ2は、大重量のエンジンが重心線から大きくずれた主翼に装備されているから、双発戦闘機の例に漏れずにロール率は悪いようだったが、2基のエンジンによる総出力は機体規模に比べても大きく、速力は高かった。

 しかし、ビスレーリ中尉とロンギ少尉の二機編隊は、二式複座戦闘機の後下方から、突き上げるようにしながら接近していった。二式複座戦闘機の搭乗員が、ビスレーリ中尉達に気がついたのは、死界となる後方から急上昇した機体が斜め上方に遷移して、射撃を開始する直前だった。

 接近角度のせいか視界に入ってしまった中尉達の機体に、後席の偵察員が気がついたのか、あるいは周辺を飛行する両機からの警告があったのかもしれない。

 アストーレを追いかけていた二式複座戦闘機の飛行姿勢が唐突に変化していた。それまでの安定していた姿勢が崩れて、一瞬左右にふらつきながら、急旋回を開始しようとしていたようだ。同時に後席から突き出された旋回機銃がビスレーリ中尉達の編隊を指向しようとしていた。


 だが、二式複座戦闘機が、急接近するビスレーリ中尉達に対して、完全に迎撃態勢に入るよりも早く、中尉は発砲を開始していた。発射モード選択ボタンは、斉射に合わせていたから、3門の20ミリ機関砲と2門の12.7ミリ機銃が同時に火を吹いていた。

 死角から急接近していたものだから、発砲を開始した時には、かなりの距離に近づいていた。搭乗員の顔を見分けられるような近さだったから、外れるような距離では無かった。

 計5門の機関銃砲から放たれた銃弾は、機体前方のある一点で収束するように調整されていたが、発射された銃弾は、収束する早く、標的の二式複座戦闘機の広い範囲に着弾していた。

 送り込まれた初弾の着弾点は右主力のエンジンと胴体をつなぐ内翼部分だった。急速に移動する相対距離に呼応するように、次々と放たれる銃弾の着弾点は、内翼の翼外板と構造材を大きく吹き飛ばしながら、胴体へと急速に移動していた。そして後部席と前部席の中間あたりの主胴体を貫きながら、反対側への内翼に着弾したところで、ビスレーリ中尉は射撃を停止していた。


 射撃を終えたビスレーリ中尉達の編隊は、二式複座戦闘機の編隊との衝突を避けるようにすり抜けながら、ゆっくりと旋回していた。だが、二式複座戦闘機編隊と接触する可能性はもうなくなっていた。ビスレーリ中尉が射撃した編隊長機は、がくりと機首を下げると、未だ回転を続けるエンジンに引っ張られるようにして急降下を開始していた。

 おそらく射弾が前部席の操縦員を殺傷していたのだろう。これまでの戦闘で撃墜された機体の調査結果などから、二式複座戦闘機の操縦席周辺には装甲板が搭載されていることが判明しているが、その装甲も12.7ミリ機銃弾に対応する程度だというから、20ミリ機関砲の集中射撃にはとても耐えられなかったはずだ。

 後部席の偵察員は慌てて脱出しようとしているようだが、それよりも早く、機関銃砲弾の集中した着弾によって強度が低下していた二式複座戦闘機の胴体中央部と内翼は、急降下によって発生する応力に耐え切れずに、一気に破断していた。

 エンジンがしがみつくようにして残っている両主翼と、搭乗員達を載せたままの胴体に三分割された二式複座戦闘機編隊の長機は、構造材をばらまきながら海面へと落ちていった。


 新たな愛機の大火力がもたらした結果に、ビスレーリ中尉は、半ば唖然としながらも、周囲を見渡していた。ビスレーリ中尉達が攻撃した編隊の二番機には、ロンギ少尉があたっていたが、そちらは撃墜には至らなかったようだ。

 ただし命中弾は間違いなくあったらしく、慌てふためいた様子で、片舷のエンジンから僅かに白煙を引きながら対空を退避する機体の姿が見えた。水冷エンジンの冷却機構にでも着弾したのかもしれなかった。

 ―――撃墜1、撃破1といったところか

 同数でかかった初撃の成果としては申し分なかった。ビスレーリ中尉は、思わず笑みを見せていた。同時に機種転換したばかりの新型機の性能に感謝していた。



 部隊編成当初の、中古の用廃機だった旧式戦闘飛行艇を除けば、独立戦闘飛行群の三代目の装備機となっていたのは、生産が開始されたばかりのRe.2005サジタリオだった。

 Re2005サジタリオは、Re.2000Pアストーレに続いて装備されたRe.2001アリエテと同じく、レッジアーネ社でロンギ主任技師が中心となって設計開発された機体だった。

 二代目のアリエテは、実質上アストーレの母体となったRe.2000ファルコの空冷エンジンを水冷エンジンに換装しただけといっただけの機体だったが、サジタリオは、機体構造から水冷エンジンを搭載するために設計を見なおしたロンギ技師の自信作、であるらしい。

 搭載する水冷エンジン自体も、アリエテが搭載していたアルファ・ロメオRA1000RC41から、ドイツから輸入されたDB605に変更されて三百馬力は出力が向上していた。

 この大出力エンジンと機体構造の徹底的な再設計によって、サジタリオは海面上でも二式複座戦闘機を上回る速力を発揮していた。

 おそらく水冷エンジン二基を搭載して最高速度が600キロ毎時を有に超える二式複座戦闘機が相手では、アストーレどころか、二代目の装備機となったアリエテでも追いつくことは到底出来なかっただろう。


 サジタリオは飛行性能だけではなく、これまでのイタリア軍戦闘機とは一線を画する重兵装も特徴の一つだった。

 独立戦闘飛行群がアストーレを装備していた時期は、12.7ミリ機銃二丁という弱兵装で接敵しても中々敵機を撃墜できずに、悔しさのあまり歯噛みしたものだが、その後継となったアリエテでも、機銃装備はアストーレやファルコと同じ12.7ミリ2丁に、7.9ミリが2丁加わっただけだったから、大して変わりは感じられなかった。

 最近の敵機はいずれも12.7ミリ弾程度に対する防弾装備を備えていたから、7.9ミリ弾では至近距離から急所でも狙わない限りは、景気づけの花火にしかならなかったからだ。


 レッジアーネ社が開発した戦闘機にかぎらず、同時期のイタリア戦闘機は同程度の兵装しか装備していなかったから、世界標準から見ても劣っていたと言わざるを得なかった。

 これに対して、サジタリオや同世代のドイツ製、あるいはそのライセンス生産の水冷エンジンを搭載した第二世代機は、一気に他国製の戦闘機に追いつくように一転して重兵装になっていた。

 サジタリオの場合は、ほとんど効果のなくなっていた7.9ミリ機銃が全廃され、その代わりに20ミリ機関砲が3丁も追加されて、合計で20ミリ3丁、12.7ミリ2丁という重装備になっていた。

 20ミリ機関砲は、両翼に一丁ずつと、中空構造となった水冷エンジンのプロペラシャフト内から発射されるモーターカノン式のものが一丁装備されていた。

 これだけの火力があれば、防弾装甲を有した最新鋭機でも一撃で屠ることが出来るはずだった。



 ただし、独立戦闘飛行群の搭乗員達が、アリエテが大してアストーレと代わり映えをしなかったように感じたのは、性能というよりも、機体構造が慣れ親しんだアストーレやその原型となったファルコとほとんど変化していなかったからかもしれない。

 あるいは、独立戦闘飛行群にアストーレに代わって配備されたアリエテが、将来の正規航空母艦建造時に使用されるはずの艦上戦闘機型だったから、搭乗員達が過剰な期待をしてしまったためかもしれなかった。


 最近では母艦となる航空機搭載艦の手当がつかないものだから、独立戦闘飛行群は組織が拡大されながらも陸上機地に展開して海軍の要地防衛などにあたっていたが、本来の独立戦闘飛行群の任務は、航空母艦に配備されて、敵機から艦隊を防衛する洋上防空任務のはずだった。

 だが、母艦であるファルコが、マタパン岬沖海戦で撃沈されてから、それの代わりとなる正規空母の建造が進んでいるという噂だけはあったが、独立戦闘飛行群が母艦航空隊に再編成されることはなかった。

 それどころか、激戦の続く北アフリカ戦線に抽出されて陸上で防空任務につかされる始末だった。

 その間に、新たな母艦航空隊が編成はされていたようだが、重巡洋艦を改装した母艦に搭載されるのが旧式化したアストーレでは、やはり大した変化は感じられなかった。


 過酷な環境下で連日出撃して消耗していったビスレーリ中尉達は、精神的にも追い詰められていったが、それが一転したのが新型機の配備だった。しかも、空軍でもまだ数の揃わない最新鋭の大出力エンジンを搭載した機体だったから、その期待は大きかった。

 配備されてまだ間もないから、搭乗員達は皆、機体自体にようやくなれてきた頃で、その詳細な性能も把握していなかったが、初陣からこの調子ならばこのサジタリオには期待できそうだった。

 ビスレーリ中尉は、水冷エンジンに最適化したサジタリオの機体には余裕が無いから、母艦搭載機としての機能が省かれていることには意識して忘れようとしながら、そう考えていた。

 それはイタリア海軍が正規空母の建造を諦めたとも考えられるからだった。さらに、サジタリオにはそれ以上に致命的な点があった。独立戦闘飛行群向けに制式採用されたはずのサジタリオだったが、その生産数はかつてのアストーレ並に少なかったのだ。


 生産されたばかりのサジタリオに搭載されているエンジンは、イタリア国内でライセンス生産されたものではなく、ドイツのダイムラー・ベンツ社で生産されて輸入されたものだった。

 ただし、その輸入ルートは正規のものではなかったらしい。正確なことは分からないが、イタリア王国の皇太子であるウンベルト・マリーア海軍中将が、かつての航空機操縦の教師であった独立戦闘飛行群司令からの頼みで、個人的なツテを利用して輸入されたものであるという噂だった。

 もしかすると、ドイツの牛耳るナチス党の上層部が、ファシスト嫌いであるはずのウンベルト皇太子に恩を売るために輸出を許可したのかもしれなかった。

 だから、サジタリオを生産するために絶対に必要な大出力水冷エンジンの数には限りがあるから、自然とその生産数も限られてきていた。実質上は独立戦闘飛行群の専用機といっても過言ではなく、搭乗員達の中には、サジタリオを皇太子殿下からの贈り物といってありがたがるものもいるほどだった。



 生産数も少なく、制式化されたばかりのサジタリオだったが、その卓越した性能は本物だった。

 それにイタリア空軍機と違って、独立戦闘飛行群の搭乗員達は、簡単ながら洋上での航法も訓練されていたから、二式複座戦闘機や本命の攻撃隊であるボーファイターの搭乗員達にとって、洋上でのサジタリオの出現は心理的にも奇襲となっている様だった。

 初撃から何度か敵機への襲撃を繰り返しながらも、熟練した海軍航空隊搭乗員であるビスレーリ中尉は、上空から戦場の様子を把握していた。


 イタリア海軍の輸送船団を攻撃しようとしていた日英両国の二国籍で編成された航空隊に比べて、新たに戦闘に加入した独立戦闘飛行群は、数では劣っていたが、機体性能では優っている上に、奇襲効果もあったから、優位に戦闘を繰り広げていた。

 アストーレ隊を救援するために二式複座戦闘機を相手取ったビスレーリ中尉達の分隊は、相手が逃げ腰となっていた事もあって戦闘を切り上げようとしているところだった。

 這々の体で脱出を図る二式複座戦闘機の数からして、ビスレーリ中尉以外の独立戦闘飛行群の搭乗達の中にも撃墜数を稼いだものがいるようだった。


 船団を直接攻撃していたボーファイターを攻撃していた本隊の方は、ビスレーリ中尉はそれほど不安も抱かなかった。そちらを率いているのは、尾翼を赤く染めた専用機に乗り込んだ独立戦闘飛行群司令だったからだ。

 あの親父ならば、二式複座戦闘機にも劣る爆装した鈍重なボーファイターなど軽く捻っているはずだ。


 戦闘空域から離脱する二式複座戦闘機の部隊を確認してから、ビスレーリ中尉は船団の方に目を向けたが、結果は予想通りだった。

 船団に強引に攻撃を仕掛けたボーファイターもあったようだが、火災が起きたり、船体を傾がせるような大損害を被った輸送船や護衛艦は無いようだった。逃走に成功したボーファイターの数も、二式複座戦闘機に比べて少なかったし、上空を飛ぶサジタリオらしき単発機の数も全く減っている様子はなかった。

 ビスレーリ中尉は、新たな搭乗機の初陣が勝利で終わった頃に思わず安堵の溜息をつきながら、本体と合流しようと10機ほどの分隊の僚機を集合させようとしていた。


 ビスレーリ中尉の安堵をあざ笑うかのように、唐突に船団の外側を航行していた一隻のタンカーらしい輸送船の舷側に水柱が発生したのは、分隊とアストーレ隊がどうにか集結して、本体に合流しようとして船団上空に移動し始めた時だった。

 船体中央部付近で発生した巨大な水柱は、中々消えなかった。その水柱に隠されて、輸送船の姿はよく見えなかったが、船体が奇妙な方向を向いていることは上空からでもすぐにわかっていた。

 そして、水柱が収まった時、被弾した船体中央部をへし折られた輸送船は、早くも前後に船体を分割しながら、海中に没しようとしていた。


 ビスレーリ中尉は、唖然とした表情で、その光景を見守るしか無かった。

ボルツァーノ級航空重巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cabolzano.html

レッジアーネ Re2000、Re2000Pの設定は下記アドレスで公開中です

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/re2000.html

二式複座戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/2tf.html

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